47:ディアブロ教団
【橋の街ストンブリッジ】に着いて二日目、俺たち六人はまず街中の探索から行った。
さすがに今では拾えるアイテムで有用なものはほとんどない。消費アイテムは溜まる一方だ。ポーションや解毒薬なんかほとんど使わないしな。エリザがいるし。
それでもなるべく拾おうとしてしまうのはやりこみ勢の悲しい性である。
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・MPポーション ・器用の実 ・運の実
・職人の腕輪:DEX上昇
・封蝋された手紙 ・倉庫の鍵
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しいて言えばこんなところか。
手紙と鍵はサブクエ用アイテムだ。後日依頼人に届けよう。
並行して色々な店を回り、インベントリ内の在庫を売りつつ、掘り出し物があれば買うという形だ。
【砂鼠団】【穴倉の蝙蝠】の装備や雑貨などは結局【ダンブレッド】で売ることもなかったし、それ以降も【悪徳商人の邸宅】や【灰狼団】のアジトから回収した諸々がある。
【ストンブリッジ】が交易都市で商会や商店が多いからこそ捌ける量だな。
おそらく店によって買い取り価格は変わるだろうが、俺としては売れれば(処分できれば)それでいい。
色々な店に小出しするようなかたちで何とか売り尽くした。もちろん家具などはインベントリのままだが。
掘り出し物としてはフライヤ用の軽装で良さげなものがあったので、それだけ購入しておいた。
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鎖蜥蜴革の上装、下装
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ゲーム内の【ストンブリッジ】では売っていなかった品だ。
中盤の中~後半まで使えそうな防具。少なくともイーステッド武国まではこれでいけるだろう。
ちなみに武具屋から整備された武器を受け取ってある。フゥガの装備は六日目に受け取る予定だ。
二日目はそんな感じで街探索に費やした。
三日目からは街の外で狩りを行う。
サブクエの依頼人が欲しがっているドロップアイテムが第一、冒険者ギルドの依頼が第二という考えではいるのだが、納品数さえ意識しておけば熟すのは何の問題もない。
元から大量に狩るつもりだしな。
レベル上げ、スキル熟練度上げをしなければいけないし、採取ポイントを巡りながらひたすら狩り続けるといったいつものスタイルで行うことになる。必然的にドロップアイテムも集まるということだ。
三日目から五日目まではそうして狩りに費やした。
毎日夕方には冒険者ギルドに寄って依頼を確認、即座に完了とやっていた。
「フゥガさん、カリンさん、ネフィリアさんはBランクに上げておきます」
「おお。それはこないだのクイーンアントの件も含めて?」
「いえ、それはまだ査定中です。単純に今までの査定にこちらのギルドで熟した依頼の数を足した格好ですね」
「了解です」
「おそらく一週間くらいで結果は出ると思いますので、もし【ストンブリッジ】を離れるようでしたら最寄りの冒険者ギルドでご確認下さい」
一週間後か。おそらく【湖畔の街マグルリーチ】で確認する感じになるかな。
だがクイーンアントの功績が査定に反映されてもランクアップされるかどうかは微妙だな。
俺、エリザ、フライヤがランクアップするにはまだ足りないと思う。
特にフライヤなんかBからAになるわけだしな。相当な功績が必要だろう。
五日目の夜、俺たちは外套に身を包んで街に出た。
目指すは街の南東、貧民街にあるとある一軒家だ。
ただの空き家に見えるが実際は【ディアボロ教団】という邪教の【ストンブリッジ】支部となっている。そこを潰すのが目的だ。
クエスト名【恋人の様子がおかしいの】。
いくつかのサブクエを熟した後で発生するチェーンクエストだ。依頼人は街中のとある女性。
恋人の男性が夜な夜などこかに出掛けている。様子もおかしい。家に不気味な悪魔像があってそれも怖い。
そんな感じで調査依頼を受けるわけだが、行きつく先がこの【ディアボロ教団】なわけだ。
リッツエルデ王国で起きるメインストーリーやサブクエストの数々。それは三つの大きなイベントに集約される。
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① 魔法学院イベント
② 賢者イベント
③ ディアボロ教団イベント
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他にももちろん様々なサブクエはあるが、いくつかのサブクエやメインストーリーのクエストなどはこれらに関連するものだ。
まずは王都にある魔法学院で起きるイベント。これがリッツエルデ王国のメインストーリーと言えるもの。
学院内で起きる事件を解決しようと奔走することになり、結果としてディアボロ教団イベントへと派生する。
また、学院で入手できる『賢者の手記』も賢者イベントに必要。
魔法学院イベントがリッツエルデ王国の根幹となっているわけだな。これをしないと始まらないと。
ちなみに【ストンブリッジ】にいる準ユニークのザクレイを仲間にすると学院に入る手間が省ける。
普通に入ろうと思うとあれこれお使い的なサブクエが必要なのだ。
それを端折るためだけにザクレイを仲間にするのもどうかと思うが、一応そうした役割をもった準ユニークということだな。
次に賢者イベントだが、これは俺たちがリッツエルデ王国で目的としているイベントだ。
【ストンブリッジ】を出たら【湖畔の街マグルリーチ】へと行き、【賢者マーグリッドの遺跡】を訪れるつもり。
つまり俺は魔法学院イベントをすっとばして賢者イベントをやってしまおうと考えているわけだ。現実世界となった今ならそれも可能だと考えている。
最後にディアボロ教団イベント。リッツエルデ王国に蔓延しつつある悪魔崇拝の邪教がこのディアボロ教団という。
王国各地に根を張り信者を増やしている最中といったところ。
色々な街のチェーンクエストの最終地点がディアボロ教団に繋がっていたりする。魔法学院イベントも結論を言えば「犯人は教団関係者でした」となるので、結局はディアボロ教団イベントに続くわけだ。
ディアボロ教団のリッツエルデ本部は王都の近くにあるが、正確に言えば本部は魔族領にある。
言うまでもなく魔族が関わっているわけだな。魔族は悪魔崇拝らしい。
別に人間を悪魔崇拝に改宗させることが目的ではなく、洗脳することで人間界に混乱をもたらすのが主目的なのだ。
で、教団本部に乗り込むと待っているのが【魔嵐公アシュトルーデ】。魔王軍六魔将の一人である。
ここで斃せばアシュトルーデは最終決戦に出てこない。
ラスボス弱体化イベントを熟す意味でもディアボロ教団イベントは熟したほうがいい、ということである。
「しかし俺たちは不運なことに【王都ローゼル】でアシュトルーデに遭遇してしまったからな。すでに未来は色々と変わっている」
「ではその本部とやらにアシュトルーデはいないと?」
「少なくとも今から王都に行ったところでいないだろうな。まぁヤツが使った<リターン>の宝玉が『ディアボロ教団本部に帰還するスキル』だとするといるかもしれないが……さすがに不自然だろう」
仮に魔法学院イベントを進め、ディアボロ教団イベントを熟しても、そこのボスとしてアシュトルーデはいないのではないかと考えている。
魔族領に帰ったとすれば今の時期にリッツエルデ王国にいるわけがないしな。
それこそ数ヶ月単位で時間を置けばいるのかもしれないが、今から王都へ行ったところでいない可能性のほうが高い。
【王都ローゼル】の王都騒乱イベントも実際に事が起きる前に対処した。
つまり俺たちの歩みはメインストーリーの想定よりも早いのだ。
だからこそディアボロ教団イベントもゲームより進行が遅い――悪魔崇拝の蔓延はそこまで広がっていない状態なのではないかと考えている。
まぁメインストーリーのほうが主人公(俺)に帳尻を合わせてきたり、時間的都合を無視してイベントは発生するのかもしれないが、普通に考えれば俺たちの進行はゲームより早いだろう。
従って「ディアボロ教団は存在するし、王国に被害も出始めてはいるが、そこまで広まっていない」「教団本部にはまだアシュトルーデが到着していない」と俺は見ている。
希望的観測かもしれないけどな。
だからと言って最終決戦が先延ばしになる保障などないし、なるべく急いで準備するつもではあるのだが。
それにここでアシュトルーデを斃さないと最終決戦で登場してしまうというデメリットもある。
リッツエルデ王国にいない前提だから半ば諦めているところでもあるのだが、もし諸国を巡ってまだ時間的余裕がありそうならもう一度リッツエルデに来るのもいいだろう。そこでアシュトルーデを斃せれば万々歳だ。
「ではこれから向かう支部とやらにも、まだ信者がいない可能性もあるのですか?」
「だな。まぁ見てみての様子だ。もし黒いローブのヤツがいたら人間であっても幹部クラスだから、そいつらだけは斃す」
「他の信者がいる可能性も?」
「いるかもな。だけど一般人の信者がもしいれば放置するつもりだ。洗脳されているだけの状態だろうし」
「その信者を治す方法はあるのでしょうか」
「分からん。幹部を斃せば治るのか、それともエリザが<オールキュア>をすれば治るのか。最悪、時間経過が必要とかもありうる」
「なるほど。そこはもう色々と試すしかないな」
そんな話をしながら俺たちは貧民街に辿り着いた。
スラムと言えるほど汚らしくはない。【交易都市デュッセル】や【王都ローゼル】よりもよほどちゃんとした街並みだ。
街の規模もあるのだろうが【橋の街ストンブリッジ】は交易都市と観光地を兼ねているからな。それも理由の一つかもしれない。
とは言え長屋や木造の家々が所狭しと並んでいるのは間違いない。
俺の足はその中の一軒、何の目印もなくただ扉が開かれているだけの家の前で立ち止まった。
信者は自由に入れるということなのだろう。集会だか説法だかも夜に行われているらしいしな。
ならば好きに入らせてもらおうと、俺たちはその家に乗り込んだ。
「おや? あなたがたは新規のご利用者ですか? どうぞこち――がはっ!」
小さな家の中には一人の男がいた。
家の奥には下り階段も見える。その先が教会チックになっているはずだ。
入口で出迎えた男は信者を階段下へと誘導する、受付のような担当らしい。
……が、黒いローブを着ている時点で一般人ではない。速攻で斃してインベントリに入れる。
俺の<エネミーサーチ>は階下に六人の反応があることを察知していた。
それを後続のみんなに小声で伝え、静かに階段を下りて行った。
地下へと下りるとそこは地上の小さな家とは不釣り合いな広々とした空間になっていた。地下のアジトのお約束みたいな感じだな。
しかしその雰囲気は静かで怪しい。
蝋燭の光だけが灯る暗い教会は、不気味で禍々しい空間と化している。善良な一般人が見ればすぐに逃げ出すだろう。
ベンチのような長い椅子が並ぶ先、正面には教壇のような場所があり、壁際には立派な悪魔像がある。これがディアボロだろう。
その前には三人の黒ローブの男が並び、俺たちを待っていた。
上階で起きた異常に気付いた様子もなく「どうぞこちらに」と座るよう強いてくる。
椅子に座っている信者はいない。どうやら俺たちが最初に来た信者のようだ。
集会だか説法だかが始まるのはもう少し遅い時間なのか? だとすれば深夜に行われていることになる。まぁ邪教っぽいと言えばその通りなのだが。
部屋の隅には扉が見えた。その先に三人の気配がある。その内一人はポデルであってほしい。
残りの二人も一般人であるわけがない。おそらく扉の先にも幹部がいるのだろう。
とりあえず操られたような信者がいないというだけでも僥倖だ。面倒が減るしな。
ゲームだと【恋人の様子がおかしいの】というサブクエは一応バトル系のイベントではあるのだが、別に強敵と戦うというわけではない。
黒ローブを着た幹部の人間が五人と、それを率いる魔族の男が戦う相手だ。
人数は合っている。上階にいた一人と、目の前にいる三人、それと奥にいる一人が人間で、もう一人が魔族だろう。
捕らえられているはずのポデルを入れれば計七人。気配の数とも合致する。
教団幹部の人間はどれも弱いんだよな。チェーンクエストのサブクエだから一応Lv20程度には設定されているが、元が普通の一般人なので非常に弱い。
もしかしたら元冒険者とかも混じっているのかもしれないが、それでも弱い。速攻で戦闘は終わる。
というわけで俺たちも速攻で終わらせた。
三人が油断しきっているところに六人全員のふいうちアタック。それで斃せないわけがない。
そのまま奥の扉を開けようと進むわけだが、さすがに奥の連中も異変に気付いたらしい。
まずは人間の男が出てきて騒ぎ、続いて魔族の男がやっと姿を現した。
やはり日頃から姿を見せずに動いていたのだろう。全員斃してやっと出てきたくらいだから相当腰が重い。
見た目も重そうな体型だ。ローブを被っているものの、肌は紫で明らかに魔族だと分かる。
「なんだ貴様らは。私の配下たちをどこにやった」
「アシュトルーデ様からの命でな。ストンブリッジ支部はもういらないとさ」
「なんだと!?」
ちょっとカマをかけてみた。これで魔族の動向が探れれば上等だ。
「俺たちは本部から来たんだが、アシュトルーデ様からは何か聞いてないのか?」
「……嘘だな。通達ならば人間を寄越す意味がない。貴様ら、教団員ではなかろう」
速攻でバレたか。さすがに不審すぎたらしい。
つまり普段、連絡をとるのに人間は使っていないということか。
何らかの通信手段があるのかもしれないな。あとで探ってみよう。
「教団員じゃなかったらどうなるんだ?」
「生かして帰すわけがなかろう! 今ここで死ぬが良い!」
「お前にできるわけないだろう? 【奔渦のドズルガンデ】」
「私の名を!? 尚更生かしてはおけん! 死ねい!」
そうして戦いは始まった。
【奔渦のドズルガンデ】は【這宴のフルアデス】と同じく【魔嵐公アシュトルーデ】の配下である。
水魔法を得意とする魔族で、ディアボロ教団では司祭のようなポジションにいる。
中盤に発生するチェーンクエストのボスなので一応Lv47だ。
そう聞くと優秀そうな魔族に感じるが、実際のところかなり弱い。
もともとアシュトルーデ自身が六魔将の中では戦闘特化ではないし、その配下も搦め手を使って騒ぎを起こすような連中しかいない。フルアデスもそうだったけどな。
王都の近くにある本部だったらそこそこ強いヤツもいるのだが、【ストンブリッジ】支部に左遷されているようなヤツだ。能力は推して知るべしである。
見るからに動きづらそうな体型で、攻撃は水魔法に頼り切り。
それは分かっていたのでフゥガには【ダンブレッド】の悪徳商人宅で手に入れた『魔防の盾』を装備させている。
物理防御はたかが知れているが、魔法防御に特化した盾だ。
フゥガが<ハイタウント>でヘイトをとり、五人が集中砲火すればそれだけで事足りる。
戦闘時間、約二分。
六対一でよく粘ったほうではないだろうか。ドズルガンデは終始慌てた様子のまま断末魔を上げる暇もなく斃れ伏せた。
みんなを見ても息切らしている様子はない。それを確認しながら俺はその遺体をインベントリにしまった。
まずは確認をしなければならない。扉の先に残る一人の気配を。




