43:リッツエルデ王国へ
翌日は休日気分で【ダンブレッドの街】を散策する。……と見せかけてアイテム拾いが主目的だ。
俺が拾い集めている一方で女子組はウィンドウショッピングしつつ、良さげな装備を探したり、旨そうな食べ物があれば買ってインベントリにしまう。
途中に街中の依頼人がいればついでに渡して報酬を受け取ったりもした。
まぁそっちは街の外の魔物を狩ってから本格的に回るつもりだが。ドロップアイテムの納品があるし。
その日はそのまま宿に戻って休んだ。本当に休日みたいな街散策の日だったな。こういう日も必要だろう。
翌日、俺たちは街の外に出た。採取ポイントを巡りつつ魔物を狩りまくる。
【ダンブレッドの街】は南側が城壁で遮られているので、エリアとしては他の街の半分程度になる。
少し離れれば多少は強い魔物が出たりもするんだけどな。それこそ【アディエラ山林】みたいに。あそこまで稼ぎに適した場所はなかなかないけど。
それでも街中のサブクエと冒険者ギルドの依頼を熟すためには街周辺で狩ったほうがいい。
一日目は街の東、二日目は街の西という感じで回った。
夕方には依頼人とギルドに納品して報酬をもらうという感じだ。
特にこれといった報酬はないのだが、強いて言えばこんなところかな。
=====
力の実、敏捷の実、MPポーション
蒼光石の指輪:睡眠無効、バフ料理など
=====
レベルも12程度にはなった。やはりLv1からの成長は早い。
言っても【ダンブレッド】周辺は雑魚とは言え中盤相当だからな。【ベレッサ】周辺とは訳が違う。
装備もちゃんとしているし、スキルも使いたい放題だから、いきなりLv10~20離れた魔物が出てきてもどうにかできるんだよな。エリザの回復がある時点で負ける要素などない。
そんなわけで戦える準備も整ったと判断し、夜には満を持して悪徳商人の所に乗り込む。
いつもなら相手は闇組織とかだからひっそりと裏町を目指すのだが、今回の相手は街有数の商人だ。
結構大きな商会の商会長で、小さな店が逆らえないのをいいことに色々と悪事を働いているらしい。
クエスト名【私たちの店を救って!】。
依頼人はとある商店の奥さん。夫婦で経営している店だが、どんな店なのかはゲームで知ることもない。
とにかく悪徳商人のせいで店が潰されそうになっているらしく助けを求めてくる。
で、その悪徳商人を斃せと。物騒な世界だなぁ、相変わらず。大量殺人している俺が言うのも何だが。
店は大通りの一等地にあるのだが邸宅は少し離れたところにある。
街の中でも高級住宅地にあたる、庭付きの一戸建てだ。
しかも悪事をしている自覚があるのか、警備兵代わりに用心棒のチンピラを雇っている。
「だから邸宅に乗り込むとLv40の冒険者崩れ五人と戦うことになると思うんだが、問題は使用人がいるだろうってとこだな」
「【フランデル】の侯爵別荘の時と同じ悩みだな」
「いるでしょうねぇ。大商人が自分で家事とかやるわけないですよ」
「家族とかはどうなのでしょう」
「分からん。俺の未来予知だといないはずだが、いてもおかしくないとは思っている」
ゲームだと正面から普通に乗り込んで、屋敷の中には用心棒五人と悪徳商人しかいない。
でも現実世界となった今、そんなわけないだろうとも思っている。
使用人はいるだろうし、家族がいてもおかしくはないのだ。だからどうしたものかと悩ましい。
家族や使用人は殺したくない。用心棒と悪徳商人だけで十分だ。
それにしたって闇組織とかの犯罪者ではなく一般人だからな。限りなく黒に近いグレーだろうけど。どうしても殺したいというわけではないのだ。
それでも「ヤらなきゃ」となっているのは「サブクエだしな」という理由一点のみである。
とりあえず六人で邸宅のそばまでは行ったが、そこからはまず俺だけで斥候を行った。
俺の<エネミーサーチLv8>ならば道路からでも屋敷内の気配は察知できる。その上で忍び込んで窓から覗きこんで確認もしてみた。
そうして探ってみた結果――
「使用人も家族もいないな。もしかしたら家から働きに来ているタイプの使用人かもしれん」
「ラッキーじゃないか。じゃあ例の商人と用心棒だけか?」
「ただ商人の寝室に三人の気配がある。どうやら女を二人侍らせて寝ているようだな」
「うわぁ……どうするです?」
「多分娼婦だろうけど殺しはしない。口止めしつつとっとと逃がして、それから全て回収しよう」
「回収するはするんだな。強盗殺人に他ならないと思うが」
「フライヤ様、これは悪人の討伐です。ジェイル様の判断に従いましょう」
「俺も思うところはあるが割り切ろう。どちらにせよ明日の朝一には越境だ。騒ぎになる前に国を出るぞ」
さすがに指名手配されそうだが、屋敷の中から悪事の証拠が挙がれば、それをまた衛兵の詰め所にでも置いてくるつもりである。
もしかしたら商人のほうが悪人だと分かれば、お咎めなしになるかもしれない。淡い期待だが。
ただ指名手配されたとしても多分【ダンブレッド】に来ることはないんだよな。
イーステッド武国から(時間があれば)ヴェナト海王国かボイルーツ共和国に行きたいと思っているので、そこから聖王国に行くためにシュトローゼル王国に入るとしても西側にある国境の街を使うことになる。
王国全土で指名手配となればそれでも危険かもしれないが……大丈夫そうだけどなぁ、何となく。
というわけで正面から堂々と乗り込んでみた。
「!? な、なにもんだてめえら!!」
「賊か!? 玄関から!?」
用心棒たちも完全に油断していた。おそらく夜番として起きていたのだろうが、一階のロビーで五人で酒を飲んでいたのだ。
まぁこんなところに乗り込んで来るヤツなんていないのだろう。俺たちが初めての侵入者じゃないだろうか。そう思えるくらいだらけきっていた。
用心棒は慌てて立ち上がり剣を握ったが、どう見ても俺たちのほうが戦える状態にある。
元々レベル差があって警戒していた相手だ。こちらに油断などないし、楽に斃せるならそれに越したことはない。
フゥガ、フライヤは一番近場のヤツに突っ込み、ネフィリアは杖を構えたヤツを狙い撃ちにした。
ほとんどふいうちだ。酒に溺れ、何の気構えもできていない相手にいきなりスキルを放つ。そんなのレベル差があろうが関係ない。ただ一方的に斃すだけだ。
「拍子抜けだな。わざわざレベルを上げるまでもなかったかもしれん」
「幸運だっただけだろ。さっさと二階に行こう。まずは商人を斃さないとな」
「了解」
寝室の位置も分かっている。普通に廊下を歩き、普通に扉を開けるだけだ。
「ひぃっ!!」
ベッドから身を乗り出して小さな悲鳴を上げたのは商人の両隣にいる女だった。
素っ裸の上半身をシーツで隠すようにして怯えていた。
当の商人は寝たままだ。下の階で戦闘が起こったというのによく寝ていられるな。相当ハッスルしたのかもしれん。
俺は短剣の切っ先を女に向けたまま告げる。
「さっさと出ていけ。お前らに用はない」
「は、はいっ!」
「余計なことを口にするなよ? お前らの顔も覚えたからな?」
「は、はいっ!!」
慌てて逃げていく女たち。素っ裸でとりあえず荷物だけ抱えて部屋を出ていく様を俺はじっくり見たい気持ちを抑え(後ろからの視線が痛いので)図太すぎる神経で寝続ける商人を見る。
いかにも悪人面で肥満体型の男が幸せそうな顔をして眠っていた。
俺は何とも言えない感情を抱えつつ、さっさとやってしまうかと首筋目がけてスキルを打ち込んだ。この方がまだマシだろう。
それからは分別を先延ばしにしてとにかく回収だ。
みんなには悪事を働いている証拠となりうる書類関係を探してもらっている。
どうやらこの世界の後ろ暗いことをしている連中は本棚の後ろに隠し部屋を持っていることが多いらしい。
この商人も類に漏れずその口だったようで、隠し部屋の中にあったお宝は真っ先に回収した。
現金や宝石なども多かったが、何点か装備品もあった。
元々あると分かっていたものではあるが、ゲームでは隠し部屋などなかったし、実際に見てみれば宝の量も多い。そこはラッキーだな。
=====
白波甲の剣、斬岩の短剣、紅牢狼の槍、魔防の盾
=====
使えそうなのは剣くらいだったので、白波甲の剣はフライヤの黒曜石の剣と交換だな。他は今の装備のほうが上だ。
どこかで売るか死蔵させておくかだな。
屋敷の雑貨や調度品なども売りたいがリッツエルデ王国に行ってからになるだろう。
今夜の襲撃はさすがに騒ぎになるだろうし、明日一番で関所を抜けてしまいたい。
そんなわけでその日は衛兵宿舎に<ハイド>で寄り道しつつ、宿で休み、朝一で宿を出ると、俺たちはそのまま関所を抜けたのだ。
俺たちと同じように朝から越境する人は多くいた。
関所を抜ければすぐリッツエルデ王国の【ツールアンテの街】になるんだけどな。朝からここで商売し始めたい商人が多いということだろう。
【ダンブレッドの街】と【ツールアンテの街】はほとんど隣接している。
間に城壁があり、国境には川が流れているのだが、徒歩十分もかからない隣町といった感じだ。
それぞれの城壁から跳ね橋が下ろされ、行き来できるようになっているわけだ。
どちらかの国の事情で国交を閉ざしたとしても跳ね橋を上げればいいわけだな。協力的なのか非協力的なのかよく分からない仕組みだ。
とにもかくにも俺たちはやっとのことでシュトローゼル王国を抜け、リッツエルデ王国へと入った。
リッツエルデ王国は形状で言うと、千葉県の東側に埼玉県がくっついたような形をしている。
埼玉県の部分の北側が【モルデリア大森林】となっており、その中に【エルフの隠れ里】がある。
埼玉県の部分を東に抜けると【イーステッド武国】だな。
ちなみにリッツエルデ王国の【王都エルデガルド】は千葉県の部分の中央付近にあるが、行くかどうかは微妙なところだ。
俺たちが行きたいのは【モルデリア大森林】側なのでちょっと順路を外れてしまうし、リッツエルデ王国で行かなければいけない所もあるのだが、そこまで南下する必要はない。
だから王都に行く必要性をそこまで感じていない、というところだ。
もちろん行けば様々なイベントやお宝、ダンジョンや稼ぎ場など色々とあるのは分かっているのだが……時間も読めないしな。今は【エルフの隠れ里】と【イーステッド武国】を優先したいと考えている。
少しリッツエルデ王国の説明をしよう。
リッツエルデ王国は国土の半分以上が海と接しているため、海洋業が盛んだ。しかし海洋業と言えばお隣の【ヴェナト海王国】に軍配が上がるので、そこまで秀でているという感じはしない。
代わりに平野部が多く、大河の支流もいくつか流れて肥沃な土地が広がっているので、農業はどこよりも盛んだ。
また、魔法が強いというのも特徴。
【王都エルデガルド】には魔法学院があり、研究や魔法使いの育成に力を入れている。
周辺国で言うと、エイリーン聖王国は当然、回復職の育成がメインだし、マスケード帝国は軍事力という意味で騎士や魔法使いを平均的に育てている印象。
ボイルーツ共和国は獣人国家だから前衛や斥候が多い。イーステッド武国は言うまでもなく近接物理と斥候だ。
シュトローゼル王国とヴェナト海王国はどちらかと言えば商業に力を入れているイメージだな。商人ルートだとどちらかに店を持つ場合が多い。
そんな感じで国によって特色があるわけだが、なぜそんな風に分かれているかと言うと、約二千年前に起こった【人魔大戦】の影響があるからだ。
【人魔大戦】とはその名のとおり人間界と魔族界の戦争を指す。世界規模の大戦だな。
結果は人間側の勝利で、それによって魔族は北の大地に押し込められた――というのがこの世界の歴史としてメインストーリーで語られている。
人間側の勝利を支えたのは【六英傑】と言われる英雄パーティーだった。
その中の一人が【賢者マーグリッド】。
人魔大戦を終えたマーグリッドは故郷であるリッツエルデ王国に身を寄せ、余生を過ごしたという。
リッツエルデ王国はマーグリッドを称え、それ以降「賢者を輩出した魔法大国」として名を馳せるようになる。
同じように六英傑と所縁のある国は、彼らを称えると同時に、力を入れる方向性を示したわけだ。
武国ならアタッカー、帝国は騎士、聖王国は回復職と、「この職業なら他国に劣るわけにはいかない」というような指針を決めたわけだな。
俺がリッツエルデ王国で最も行きたい場所はイベント盛りだくさんの王都ではない。
英傑の遺産が眠る場所――【賢者マーグリッドの遺跡】だ。
そこは絶対に立ち寄らなくてはいけない。まずはカリンの装備から固めてみようか。




