39:深緑の地下園
冒険者ルートの【王都ローゼル】で仲間になる可能性があるのは四人。
ユニークが二人と準ユニークが二人いる。その情報は五人にも共有済みだ。
一人目がジーグ・オルバーナ。【ソーサラー】の爺さんだ。
宮廷魔導士をすでに引退している貴族で好々爺といった感じ。
『王都騒乱』後、英雄化した主人公パーティーに同行させてくれと言って来る。老後の遊び感覚だな。
二人目がシーシャ。【ランサー】の男でCランク冒険者だ。
こいつも『王都騒乱』後に冒険者ギルドで接触してくる。
イケメンで陽気な性格。女性プレイヤーから絶大な人気を誇り、腐女子の間ではシーシャ×カールのイラストが大量に描かれていた。ちなみに俺はほとんど使っていない。
ここからが準ユニークで、三人目がユーリ。Dランク冒険者で小柄な女の子。しかし職業は【ナイト】で大盾を持っている。
騎士団本部の前に行くとランダムで出会えるのだが、会話すればすんなり仲間にできる。イベントも特にない。準ユニークなんてそんなものだ。
しかしカールの代わりにユーリをメイン盾に添えるプレイヤーもいた。能力より容姿だと。それもまたロリコンの鑑と言えるだろう。
四人目がミスティア。【アーチャー】の女で狩人として放浪の旅をしている。
サブクエスト【谷の蕾は咲いているか】の道中で接触し、その流れで加入させることができる。
基本的に山や森の中にいるはずなので王都にいるとは思えないが、一応警戒しておく。
そんな話はしてあったのだが――
「よお、お前ら見ねえ顔だな! 知ってるか? 王都に魔族が現れたってよ!」
刀を買った翌日のことだ。
俺たちは王都の外で採取ポイントを巡りつつ魔物を大量に狩っていた。
サブイベント用の納品物と、冒険者ギルドの依頼を熟し、ついでに熟練度稼ぎをしようという作戦だ。
で、夕方になって冒険者ギルドに戻ってきたらいきなり話しかけられた。
誰だと顔を見てみれば……シーシャだ。陽気なイケメンが見知らぬ俺に話しかけてきたのだ。
どれだけ陽キャなんだこいつは。世間話は見知った者同士でやってくれ。
内心でそんなことを思いつつも、相手は貴重なユニーク様だ。きちんと対応しなければ。
「ああ、なんか噂で聞いたな。王都で魔族とか怖いもんだよ」
「騎士団の本部に魔族の死体が投げ込まれたってさ! 誰が斃してくれたのかって今じゃ街中で話のタネだよ!」
「俺はカーマインっていう冒険者じゃないかって聞いたけどな」
「カーマイン? 誰だそいつは」
「いや俺たちもこないだ王都に来たばかりでよく知らないんだよ。アンタが知らなきゃ王都の冒険者じゃないのかもな」
「へぇ~、もしそうなら大したもんだな! 余所から来て王都を救うだなんてよ!」
王都のギルドでCランクにまでなっているシーシャでさえカーマインは知らない、と。
つまりカーマインは王国にいないわけだな。となると帝国あたりが怪しいが……。
とりあえずシーシャとはそんな世間話を終えて、俺たちは依頼票を見に向かった。
いくつか剥がして受付へ持っていけば依頼完了だ。
何にせよシーシャにカーマインの存在を認知させたのは僥倖だ。話もできない相手だと思ってたしな。なにせ『王都騒乱』自体が起きていないのだから。
翌日と翌々日も街の周辺で採取や狩りに費やした。
それをもって街中のサブイベントを熟していく。
◆
「困ったわ。あのスパイスがないと夕飯が作れないのに」
「ナッツターメリックならありますけど?」
「まあ! ありがとう! これであの人が好きな肉野菜炒めが作れるわ!」
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【あの人の好きな料理】クリア!
報酬:1,500mil、<クッキング>の書
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「ワンダーハリネズミって知ってるか? そいつの針はなんでも腰痛の治療に効くらしくて――」
「五本ありますけどいります?」
「なんと! それはありがたい! これで仕事にも復帰できるよ!」
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【治れ、俺の腰!】クリア!
報酬:1,200mil、ハイポーション五本
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「今度舞踏会に行くのに髪飾りを作りたいんざます。材料の羽根を探しているざますが」
「クロックバードの羽根を十枚ですね」
「んまあ! これでわたくしも舞踏会の華ざます! 褒美をとらせるざます!」
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【華やかな舞踏会のために】クリア!
報酬:2,200mil、紫水晶の指輪
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◆
「肉野菜炒めにナッツターメリックなんて使うのか?」
「それで<クッキング>の書をくれるほうがおかしいですよ」
「ワンダーハリネズミの針で治療などできないと思いますが」
「聖教会でもそのような治療は行っておりませんね」
「羽根を渡して紫水晶の指輪とかボロ儲けすぎだろ。アシュトルーデ対策にもってこいじゃねえか」
みんな色々と言いたいことはあるだろう。
しかしこんなもんなんだ、街中のサブイベントなんて。いちいち突っ込んでちゃ疲れるだけだぞ?
紫水晶の指輪は確かに破格だな。今は俺だけ装備しているが、誰かに渡しておいていざという時は付け替えてもらうほうがいいだろう。やっぱりエリザかな。回復役が操られるとか洒落にならないし。
ちなみに<クッキング>はネフィリアに覚えさせた。他四人は料理ができないらしいので。
「アイテムで覚えたスキルは無理して熟練度上げする必要ないからな? ステータスに残り続けるから」
「承知しました」
「エリザの<スピードアップ>も同じだけどそっちは戦闘で有用だからなるべく使ってくれ」
「はい、分かりました」
その日はそれで終わり。翌日、俺たちは王都近くにあるダンジョン【深緑の地下園】へと向かった。
王都から徒歩一日で行ける【深緑の地下園】は王都の若年冒険者御用達のダンジョンである。
総階層数も八階層とそれほど深くなく、推奨Lv22とCランク程度でも攻略しやすい。
Dランク以下でも低階層ならば普通に戦えるだろう。それくらい都合の良いダンジョンである。
ただメインストーリーを普通に進めていたプレイヤーでも【深緑の地下園】は「弱い」と感じるに違いない。
つまりはただの寄り道なのだ。レベル上げにも適しておらず、立ち寄る必要性のまったくないダンジョン。
ではなぜそんなものを、わざわざ王都のそばに作ったのか――答えはサブクエストのためである。
街中で受けられるサブクエストの中に三つほど、【深緑の地下園】に関連したものがある。それを熟すためのダンジョンということだな。
とは言え、王都ギルドに所属している低ランク冒険者にとっては非常に有用なダンジョンと言えるだろう。
王都の近くに難易度の高くないダンジョンがあるというのは、鍛えるためにも、金策するためにも都合が良い。
俺たちが【深緑の地下園】に着いた時、すでに夕方から夜になる時間帯だったが、入口にはいくつものテントが並び、ダンジョン探索を控えている様子が見てとれた。
やはり朝、王都を出てここに着き、明日からダンジョンに入るという考えなのだろう。
大人気だなぁと内心思いつつ、彼らとは少し離れた位置で俺たちもテントを張った。
隠れるようにしてインベントリから熱々の料理を出し、六人で食べる。屋台を巡って買い漁ったものだ。
「なんか周りの冒険者に申し訳なくなるな」
「ジェイルさんなしで生きていけなくなりますよ」
「俺自身、便利すぎると思っているから何とも言えない」
「それで探索の予定は?」
「八階層だから頑張れば一日で行けるかもしれないが、一応二日を予定している。熟練度上げを兼ねて狩りもしたいし、途中で拾いたいものもあるし。あとゴミ捨てもしないとな」
インベントリの中には【砂鼠団】と【穴倉の蝙蝠】の死体があるのだ。それをダンジョンで消しておきたい。
家具なども山のようにあるのでできるだけ捨てたいな。
それと気になっているのがサブクエストの一つで、【息子の形見を私のもとに】というものだが、内容は七階層にある遺品の剣を依頼人に渡すというものだ。
装備品なのでダンジョンに吸収され消えてしまうと思うのだが、現実世界となった今、どうなっているのか確認しておきたい。
もしあるのならサブクエスト特有の不思議パワーでその剣だけ消えずに残っているということである。どこまでゲーム準拠となっているか、はたして。
その日は夜警を一人ずつ勤め、翌朝から俺たちは【深緑の地下園】に突入した。
すでに同じように行動し始めているパーティーもいるようだ。それに混じって探索を始める。
以前にも言ったとおり、ダンジョンというのは石畳の通路と小部屋でできた迷路、というのは共通している。
しかし若干の個性や特性がダンジョンごとにあり、【深緑の地下園】で言えばその名の通り『緑』『自然』がテーマとなっている。
通路には苔や蔦、石畳の隙間から雑草が生えていたり、休憩所は全て芝生の生えた庭園の様相をしている。
地下なのに緑豊かなダンジョン。それが【深緑の地下園】である。
そんな中を俺たちは歩みを止めずに進んだ。脳内地図を駆使して。
俺たちより先に入ったパーティーはとっくに抜かしただろう。それほどの早さで攻略を進めた。
みんなには熟練度稼ぎを優先させている。【静水の晶岩洞】で入手した回復の泉はまだまだ在庫があるし、いくらでもスキルは使えるからな。
【深緑の地下園】には回復の泉がないので補充はできないが相当保つのは間違いない。
「ただレベル上げをしないといつまで経っても転職できないんだよな。熟練度ばかり稼いでも結局強くはなれないし。バランスが難しい」
今の俺は【スカウトLv45】。あとLv5でカンストだが、他のみんなはおそらくLv40前後だろう。後日聖教会で確認するつもりではあるが。
【深緑の地下園】でいくら戦っても経験値は微々たるものだろうし、どこかでレベル上げを行うべきだと考えている。
本当はその前に武器スキルをカンストさせておかないとスムーズに転職できないのだが、全員の成長方針を考えた時、「転職したあとも今の武器はそのまま使えそうだな」と思い直したわけだ。
もちろん多くの武器スキルが使えたほうが強いのは間違いないので、武器スキルと職業スキルを平行して使ってくれと言ってある。特にフゥガとフライヤだな。
俺はすでに短剣スキルを全てカンストさせ、今は投擲ばかり使っている。
フゥガも剣スキルを終えたので今はメイスだ。黒曜石の剣は予備武器として持たせている。
フライヤは大剣と直剣の二刀流で戦わせていたが刀を手に入れたから悩みどころなんだよな。せめて大剣スキルをカンストさせてから刀を使わせたいので今は死蔵させているが。
なので今はフライヤが一番戦闘機会が多いかな。優先して強化させたい。
そんなことを思いつつ最短距離ではなく途中の採取ポイントや宝箱を回るようにして俺たちは進んだ。
宝箱から手に入れたアイテムは普通のポーションとか消費アイテムだ。特に目ぼしいものはない。というかこのダンジョン自体、目ぼしいアイテムなどないと分かっている。図鑑を埋めるやりこみ勢くらいにしか価値はないだろう。
だから欲しいアイテムと言えばサブクエストの納品アイテムだけだ。
その為に採取ポイントを回り、狩りを続けている。
ちなみに霊草も採取しMPポーションを自作もしている。
回復の泉があるのに必要なのかと思われるかもしれないが、回復の泉だとみんなに渡しておくことができないし、戦闘中に飲むこともできないのだ。
だから彼女たちのマジックバッグの中には大量のMPポーションが入っている。
俺の<アルケミー>の熟練度上げにもなるしな。なるべく作っておいたほうがいいだろう。
そうこうしているうちに五階層に到着。ここの後半にある休憩所で一泊することになる。
俺たちが着いた時にはまだ誰もいなかったが、やはり俺たちの探索速度が早かったせいだろう。かなり回り道したつもりだったが、それでも俺たちのほうが早いということだ。
しばらく暇な時間を潰していると、徐々に冒険者パーティーがやってくるようになった。
疲れた様子でテントを張り、食事の準備をしている。この調子で八階層まで攻略するつもりなのだろうか。他人事ながら心配にもなった。
とは言え俺たちが他のパーティーに関与することなどない。
旨い食事をとり、呑気にお喋りして夜を過ごし、翌朝からは元気に出立した。
六階層以降も順調な探索は続き、問題の七階層に到着した。
順路から大きく外れた行き止まりに『形見の剣』が落ちているはずである。
さてどうなっているかと見に行ったわけだが――
「……あったわ。なんでまだ残ってるんだ?」
「先ほど死んだばかりなのではないか?」
「それにしちゃあ剣だけ残ってるってのも不自然ですよ」
「訳分からんな。とりあえずこの剣は持ち帰って依頼人の母親に渡そう」
現実世界となった今では理解不能なことが当たり前のように起こる。ゲームの力なのかダンジョンの力なのか分からないが、いちいち不思議パワーにケチをつけてちゃこの世界では生きられないんだな。改めてそう思った。
剣をインベントリに仕舞って、代わりに死体やら何やらを捨てておいた。
こんな端っこの行き止まりなんか早々誰も来ないだろうとゴミ捨て場にしたわけだ。
これで少しはインベントリも整理できたな。また増えるだろうけど。
そうして短時間で八階層に到着。
【深緑の地下園】は【エルダートレントLv25】がボスで【トレントLv19】が三体、【スネークヴァインLv18】が八体という編成。
トレントはほとんど動けず、近づく者に攻撃する感じ。周囲に蛇のような蔦の魔物がうろちょろしているという布陣だな。
「全く強くはないが耐久力だけはあるボスだ。MPを使い切るつもりでスキルを多く使ってくれ」
それだけ言えばもう終わりだ。
トレントを剪定するかの如く無駄にスキルを使って、無駄に戦闘を長引かせた。それほどの余裕があったということだ。
素材ドロップは多いが残念ながら俺たちに使えそうなものはない。レベルが違う。
宝箱も開けてみたが【魔永樹の短弓】ということで、これもまたネフィリアの弓のほうが強い。
まぁこんなもんだよな、【深緑の地下園】なんて。特にがっかりすることもなく、俺たちは転移魔法陣でダンジョンを出た。




