04:ベレッサのサブクエストをこなそう!
【AG】は多様性とやりこみ要素の塊である。
戦闘職も非戦闘職も自由に選べるし、それによってメインストーリーも変わってくる。
同じ職業に就いたとしても『信仰』が違えばステータスが変わるし育て方も異なる。ルートの進め方によってはストーリー・エンディングさえも変わるのだ。
数多くある職業には、それぞれ生活基盤とも言える施設がある。
【マーチャント】であれば商業ギルド、【クレリック】なら聖教会、【ナイト】なら騎士団などなど。
そこに登録することでクエストを受注できるほか、金策、訓練などもできるし、職業ごとの『イベント発生源』でもある。
メインストーリーを進むにせよ、サブストーリーを楽しむにせよ、登録し利用しない手はない。
では【スカウト】の場合、どのような施設があるか。
斥候職の需要はどこにでもあるので騎士団だろうが傭兵団だろうが登録自体はできる。
斥候職を優遇するという意味では暗殺者ギルドが一番数多くのクエストを受けられるのだが、同じ斥候職でも【スカウト】よりも【シーフ】や【アサシン】などのほうがイベントは多い。
【スカウト】として経験を積み、転職してから本格的にギルドを利用する、といった形になるだろう。
色々とある施設の中で一番の規模を誇るのが冒険者ギルドである。
どの街にもあるし、戦闘職なら誰でも登録・利用できるというのが利点だ。
専門的に尖っているわけではないから職業に適したイベント・クエストなどはほとんど起こらないが、単純にサブクエストを熟すだけならば事足りる。
なんとなく無難な感じもするしな。『メインストーリーから離れた一般人』を装いたい俺としては当たり前とも思える選択だった。
というか現実世界で暗殺者ギルドに行く気にはなれない。
成長し転職した結果、足を運ぶことになるかもしれないが、少なくとも今行ってもどうしようもない。怖い。
というわけで【ベレッサの街】中央付近にある冒険者ギルドまでやってきた。
外観や内装はゲームのとおりだ。ただ人が多いし結構うるさい。
ゲームだとクエストは受付に話しかければ一覧として見られたが、おそらく依頼ボードに貼られた依頼票を持っていく感じなのだろう。今も何人かの冒険者たちが依頼ボードの前で悩んでいる様子が窺えた。
細かく見て回りたい気持ちを抑え、まずは受付へ。三人並ぶ受付嬢の中で空いている人を選んだ。
「すいません、登録したいのですが」
「戦闘職への覚職はお済みですか?」
「はい、先ほど教会に行ってきました」
「ではこちらにご記入をお願いします」
名前、年齢、職業、出身地だけを記入する登録用紙だ。これもまたゲームにない要素。
出身地は悩んだがとりあえず主人公の村を書いておいた。【ベレッサの街】の近くにある小さな村だ。
……ゲームだと近かったのだが現実世界だとどれくらいかかるのだろうな。それも調べておかなくては。
登録を済ませるとカードを渡された。Fランク冒険者のカード。個人証明としても使えるそうだ。
それから色々と注意事項を伝えられる。
カードを紛失した場合とか、依頼を失敗した場合とか、色々と細かいルールがあるらしい。
新しい【AG】の知識である。聞き逃すまいと耳を傾けていた。
それから俺は冒険者ギルド内にある酒場へと向かう。
フードコートみたいな感じだな。食べ物や飲み物を酒場のカウンターに注文し、長机が並ぶ適当な場所で飲み食いする。
俺は安めの果実水だけ注文し、適当な場所に腰を下ろした。
時間の感覚がなかったから今まで分からなかったが、どうやら14時頃らしい。屋台で串焼き買って正解だったな。
そこから俺はひたすら観察を続けた。
依頼から帰ってくる冒険者たちの様子、依頼ボード周りの冒険者たちの様子、それらは今後の自分に活かせる。突飛な行動、目立つような真似はしたくない。先達を模範とすべきだ。
酒場でたむろしている冒険者たちの声もなるべく拾った。狩場の情報から情勢めいたことまで、今はとにかく情報が欲しい。
仕事の愚痴や他の冒険者の悪口も混ざっていたが、それすら必要な情報に思えた。
そうしていると色々と気付かされることがある。
まずは「おそらく誰もインベントリを持っていない」ということだ。
街を歩いている時から不可解に思っていた。背負子や籠を背負う人もいたし、リヤカーのようなものを引いている人も見かけたのだ。
依頼から帰ってくる冒険者たちもそう。若年層はパーティーの最低一人が籠を背負い、その中からドロップアイテムを買い取りに出している。
いかにも高ランクっぽい装備をした冒険者はマジックバッグを持っていた。ゲームにはもちろんそんなものはなかったが、声を拾ったから分かったものだ。
困った。つまり俺のインベントリは『主人公特典』ということになるし、目立たないためには今後誤魔化さなくてはいけないということだ。
とは言え新人冒険者の俺がマジックバッグを持っているというのもおかしい。
まさか年中籠を背負って活動するわけにもいかないし……父の形見のマジックバッグを持っています、とでも言っておくか? そうすれば適当にそれっぽい鞄を用意するだけでいい。
それと改めて金策の必要性を感じた。
ゲーム内では最初の所持金が【500mil】で、それすら少なく感じていたが、現実世界となった今は出費が増えている。
食事や装備以外の衣類は必要だし、宿だって「回復するためだけに泊まる」というわけにもいかない。毎日の寝床は必要だろう。
俺の感覚では【500mil】は五千円くらいだ。おそらく今日の宿代を払ったら明日から一文無しになる。
ジェイルくんは今までどうやって生活していたんだい?
おそらく教会の覚職にもお布施が必要だっただろうし、職業に就いたら即座に依頼を熟すつもりだったのだろうか。
なんという行き当たりばったりな人生設計。自分のことながら恐ろしく感じる。
観察を続けながら頭の中で「やるべきことリスト」を作成していたが、おかげで金策が最上位に躍り出た。
まぁ元から金策はするつもりではあったんだけどな。それにしたってこんなカツカツになる予定じゃなかったんだよ。
チュートリアルステージで拾ったエリクサーを売るという手もあるが……目立ちそうな気がする。
【ベレッサの街】では最高級回復薬の類なんか売ってないし、相応の【アルケミスト】がいるのかも不明だ。王都ならいそうだけどな。
近くの狩場やダンジョンで手に入るものでもない。脳内wikiによれば一番近くの入手場所は主人公の出身地である【フォーラス村】の更に奥、【ヴォンヘーデンの森】にある宝箱だ。パーティー平均レベルの推奨はLv40となっている危険地帯。
そんなところでしか取れないエリクサーを俺が持っているのも不自然だし、気軽に売っていいものでもないだろう。
やはりしばらくはインベントリで封印しておくべきだ。
素直に冒険者ギルドの依頼を受けるつもりはない。
Fランクの報酬など微々たるものだし、カツカツ生活が改善するわけもないからだ。
ランクが上がるまで継続すればマシになるかもしれないが……さすがにそんな悠長な真似はできない。やりこみプレイヤーとしての矜持に関わる。知識を総動員して金策に当たるべきだろう。
冒険者ギルドの依頼――サブクエスト――を受けるのはもう少し先だ。今は登録だけで十分。
(となれば……今夜から動き始めないとダメだな)
俺は脳内で計画を立てると、夕方頃に冒険者ギルドを出た。まずは宿の確保だ。
ゲームの時には宿屋など一軒しかなかったが、【ベレッサ】はそこそこ大きな街だ。当然のように何軒も宿屋がある。
新米冒険者だから立派な宿屋は無理だが、治安や清潔感を求めてしまい、結局は大通り沿いの宿を選んでしまった。
一泊・夕食付きで450mil。これで本当にスッカラカンだ。
ちなみにゲームの宿屋は一泊10mil×人数である。現実世界ではありえない値段設定ということなのだろうか。おのれ現実世界め、物価調整しやがって。
仮眠をとり、辺りが静まった真夜中、俺は動き出す。
外套を纏い<ハイド><ラビットイヤー><イーグルアイ>も適度に使用しつつ夜の街へと向かった。
◆
(ふぅ、ポーションゲット。……しかしやっぱり現実世界となると厳しいな。ゲームなら光ってるからすぐに分かるのに)
がさごそとゴミ捨て場から身を乗り出して、内心溜息を吐く。
ゲームであれば落ちているアイテムや採取ポイントもすぐに分かるよう光っているものだが、現実世界だとそうはいかない。
ゴミ捨て場から拾えるポーションも、探してやっと見つけたという感じだ。
とは言え、ゲームと同じようにアイテムが落ちているというのは俺にとって都合が良かった。ここのゴミだっていつか誰かが処分するのだろうしな。そういうのを無視してポーションが拾えたのだからラッキーと言えるだろう。
俺はまず街中で拾えるアイテムを出来るだけ入手しようと思った。
さすがに家の中に入って『勇者行為』はする気もないが、街中で拾うくらいはいいだろう。まぁ目立ちそうだから真夜中に動くしかないのだが。
とは言え【ベレッサ】は『はじまりの街』だ。落ちているアイテムなど初心者救済アイテムでしかない。
おまけに広い街中でも『ゲーム内で立ち入れる範囲』の情報しか知らず、それ以外を探索などできない。おそらく街の規模を考えれば探索範囲は全体の五~十分の一程度だろう。
それでもせっかく落ちているのだから拾わないという選択肢もない。出来る限りはやろうと俺は夜の街を駆け回った。
そうして手に入れたのは
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・現金1,200mil ・ポーション三本 ・解毒薬二本
・力の実 一個 ・月光草 五本 ・薬草 五本
・レザーシールド ・そよ風のスカーフ ・爆火石 一個
・金貸しの証文 ・絵描きの筆 ・思い出のペンダント
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以上だ。ちなみに月光草と薬草は錬金アイテム。
力の実はステータスのSTR値を3~5上げる効果だ。この中だと売値は高いほうだがさすがに自分で使うべきだろう。
スカーフはAGL上昇のアクセサリ。これも使わせてもらう。
盾は【スカウト】の戦闘スタイルと合っていないのだが装備できないこともない。一応確保しておく。
爆火石はちょっとした手榴弾のようなものだ。攻撃アイテムだな。
あと証文・筆・ペンダントはサブクエスト用のアイテムだ。教会で拾った指輪と同じだな。
これは明日にでも依頼人を探して、クエスト受注⇒速攻で完了! という感じでやろうと思う。
クエスト報酬なども含め、仮にアイテムを全て売れば4,000milくらいにはなるんじゃないかと思う……が、その程度では全然足りない。数日保たせるくらいならば売らずに持っておくべきだろう。特に薬系は。
街中を漁ってこの程度か、とげんなりもするが【ベレッサ】などこんなものだ。やらないよりマシだと割り切っておこう。
(本命はこの先の二か所だ)
俺は闇夜に紛れて街を行き、北東部奥地にある屋敷に辿り着いた。
塀に囲まれたそこは暗闇でも分かるほど寂れている。庭の草も伸び放題だ。
夜の暗さも相まって、まさしく幽霊屋敷と言えそうな雰囲気がある。
ここは後のサブクエストで訪れることになる場所だ。
クエスト名は【幽霊屋敷を調査せよ】というそのままのタイトル。
ゲームであれば現時点で発生するクエストではない。いわゆるチェーンクエストの一つで、【丈夫な絹糸を作りたいの!】という納品クエストから派生し、メインストーリーを進めた先で同じ依頼人から受けることができる。
本来なら屋敷の鍵を入手するために王都近くの盗賊団アジトに乗り込み、高レベルのNPCと連続バトルを行う必要がある。
そこで入手できるものの一つに【幽霊屋敷の鍵】があるわけだ。
おまけに幽霊屋敷も一筋縄ではいかない。
元々貴族の持ち家だったらしくセキュリティが厳しいのだ。扉を開けて入ったところで玄関ホールには多くの罠が設置されている。どれも即死級の罠だ。
これを無傷で突破しようと思ったら相応のスキルか、罠を発見・解除する道具が必要。ちなみに幽霊とのバトルはない。
最終的には書斎で【栄光の日記】というアイテムを手に入れ、それを依頼人に渡すことでクエストクリアとなる。
で、俺は今、その幽霊屋敷に来ているわけだ。現時点では入ることのできないはずの屋敷に潜入している。
塀を越えるのは訳ないし、鍵が掛かっているのは正門と玄関の扉だ。
罠も玄関ホールしかないと分かっている。
だったら一階のどこかの窓から潜入すればいいだろうと、そういうわけだ。現実世界となったが故の強引な手段である。
応接室のような場所から侵入した俺は、真っ暗な屋敷の中、記憶を頼りに物色し始めた。
内心でこれは『勇者行為』ではないと言い張っている。もはや誰の持ち物でもない屋敷は天然の宝物庫のようなものだ。ダンジョン探索と変わらない。……と誤魔化している。
応接室には調度品などもあった。ソファーや絵画はボロボロだからどうでもいいが、壺などが目に留まった。
ゲームではただのオブジェクトである。手にすることさえできない。
しかし今ならばインベントリに仕舞えるし、あわよくば売ることもできるだろう。まぁ足が付きそうなので【ベレッサ】で売ることはないと思うが。一応まとめて仕舞っておくことにする。
そうして適度に物色しつつ、本命はいくつかのお宝だ。
【幽霊屋敷を調査せよ】というクエストはその報酬よりも屋敷を探索することで手に入れられるお宝のほうに価値がある。
【栄光の日記】も一応は仕舞っておくが、はたしてクエストを受けるかどうかは微妙だ。なにせメインストーリーを進めないと受けられないクエストなのだから。俺はなるべくメインストーリーを進めない前提で考えている。
ということでクエストアイテムはついででしかない。それよりもお宝だ。
暗闇の中、四苦八苦して屋敷を探索し、いくつかの部屋を回った結果がこちら。
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・長栄樹の杖 ・闇紫のローブ ・耐呪の腕輪
・暗月の短剣 ・<ナイトビジョン>の書
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「ふははははは!!」
思わず高笑いも出る。あると分かっていても満足すぎる成果だった。
なにせゲームなら中盤でしか入手できないアイテムなのだから。
それが初日から手に入るという素晴らしさ。ああ、神よ、ありがとうございます。




