37:穴倉の蝙蝠を壊滅せよ
「これで貴女がたは隷属の枷から解かれました。これからの自由なる歩みを神の御許より祝福いたします」
「ありがとうございます、神官様」
王都探索にあたりまずは何からしようかと考えたが、さっさと奴隷解放をしてしまうことにした。
後に回しても彼女たちを焦らすだけだし、ならば先にやってしまおうということだ。
まぁ王都を出る時には<ディテクト>の宝玉でステータスを確認したいので、聖教会にはまた来ることになるのだが……まぁいいだろう。
その日はそれから王都中のアイテムを拾い集めるため、散策となる。
いつもは俺一人で夜に行っているのだが、今回は六人一緒だ。
彼女たちの言い分としては「若い冒険者の男が一人で漁っているから怪しまれるのだ。皆で歩いていればただの落とし物探しと見られるだろう」とのこと。
俺としては付き合わせて悪いなぁという感じなのだが、そこまで言われたら仕方ない。ほとんど王都を散歩するだけにはなるが、付き合ってもらうことにした。
成果としては【デュッセル】より若干多くの金銭や消費アイテムを手に入れることができたわけだが、貯蓄がある今となっては微々たるもの。
フライヤなどは「なにも小銭を拾うために歩き回ることもないだろうに」と言っていたが、やりこみ勢の俺としては拾わないほうが失礼というものである。新しい街に訪れれば探索するのが常識だ。
目ぼしいものはサブクエスト専用のアイテムと、下記二点ほど。
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献身の腕輪:HP+100
<スピードアップ>の書
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献身の腕輪はフゥガに渡し、豪傑の腕輪と交換させておく。盾役なら攻撃力よりHPだろう。
<スピードアップ>の書はすでに覚えているフライヤ以外なら誰でも有用なのだが、バフに特化させる意味でエリザに覚えさせた。
ちなみに王都の様子を見れば、騎士団が集団で駆け回っているのが散見された。明らかに緊急事態という感じだったが民には何のことだか分からない雰囲気。
つまりフルアデスの死体や書類を見つけてくれたってわけだな。
で、公表できずに走り回って情報を精査しているといったところか。
侯爵を罰するところまで早くにやってくれればいいのだけどな……どうなるかは分からない。全て国に丸投げしよう。
探索のついでに武具屋を巡って装備品探しもした。
もちろん王都全てを巡ることなどできないので、目についた店に入っただけだが。
とりあえず今の装備品よりも良さそうなものは買っておいた。金はあるからすぐにまた更新することになっても構わない。
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ジェイル:鋼の投刃 ⇒ 毒の投刃
フゥガ :銀棘のメイス ⇒ 白晶石のメイス
ネフィリア:魔樹の弓 ⇒ 豊霊樹の長弓
フライヤ:黒鋼の直剣 ⇒ 黒曜石の直剣
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こんなところかな。
あとはタリスマンとエリザ・フライヤの服が欲しい。目標としておこう。
それと刀が欲しかったので武具屋の店主に聞いてみた。
「親父さん、刀を探しているんだが王都のどこかに売ってないかな」
「刀はさすがにねえな。あるとすりゃオークションで出品されるか、裏町で珍品扱ってる道具屋があるから、そこならもしかすると……って感じだな」
「ちなみにその店はどこ?」
「教えるのはいいが裏町は悪い連中がうろついてて危険だぜ? それに仮に売ってても法外な値段になるだろうよ」
「とりあえず聞くだけ聞いておくよ」
当然だがゲーム内にそんな店は存在しない。だからこそ心躍るというものである。
色々と探索して時間も夕方近くになったため、その道具屋に行くのは後日とし、俺たちは宿に戻った。
数時間、仮眠をとったあと、俺たちは再び行動を始める。
もちろん目的は闇組織【穴倉の蝙蝠】を壊滅することなのだが、例によって六人で行動することになった。これもまた彼女たちが言い出したことだ。
やはり俺一人で行動するのは心配をかけてしまうらしい。
俺としてもそこまで危険なことではないと分かっているので(麻痺しているとも言う)一緒に行ってもらうことにした。
六人とも暗い外套を纏っている怪しい風貌である。ちなみに外套は他の闇組織からパクったものを流用させてもらっている。
王都の裏町というのは南東と南西の端のほうを指す。北に王城があるから離れている場所の治安が悪いということだな。
南東の裏町には暗殺者ギルドの王都本部があるのだが、俺たちが目指すのは南西の裏町。
ここにアジトを設けているのが【穴倉の蝙蝠】だ。
【穴倉の蝙蝠】はかなり手広く悪事を働いている闇組織だ。
とは言え騎士団の御膝元でやたらな真似はできない。【デュッセル】のように麻薬を扱ったりはしていないということだな。
闇奴隷とかは扱っているらしい。貴族に上客がいるということだろう。
暗殺などは基本的に専門外。それこそ暗殺者ギルドが近くにあるため遠慮して依頼を受けないようにしているのかもしれない。
あとはもうヤクザめいたことの延長だな。地上げとか金貸しとかチンピラをまとめたり。人数だけはめちゃくちゃ多い印象だ。
南西の裏町はそこに住む半数以上が【穴倉の蝙蝠】の構成員かそれに関わっている住人だ。
全てを斃すことなど不可能で、しかも【デュッセル】のようにトレードマークを付けているわけでもない。
だからもう誰かしら逃がすのは確定しているのだ。六人組の怪しげな集団も目撃情報多数だろう。
従ってあれこれ考える必要もなし。まっすぐアジトに乗り込んでさっさと殲滅するだけである。
クエスト名【穴倉の蝙蝠を壊滅せよ】。
そのままのタイトルだが、依頼人は王都に住む貴族である。
他の貴族が【穴倉の蝙蝠】を使って依頼人に嫌がらせした上で、邸宅に忍び込んで窃盗までやったらしい。
依頼人はそれを【穴倉の蝙蝠】の仕業だと判明まではできたそうだが、戦力的にどうにもできない。
だから『王都騒乱』で名声が爆上がりした主人公たちに依頼するわけだ。こんなの英雄に頼むんじゃない、と言いたくなる。
ちなみにこれはチェーンクエストではない。普通のサブクエスト扱いである。
つまり、メインストーリーを素直に進めていたプレイヤーにとっては【穴倉の蝙蝠】が初めて斃す闇組織となるのだ。
俺の場合は先に【夜霧の梟】と【青の竜爪】【白雷の虎】、さらに【砂鼠団】を殲滅したわけだが、どれも本来なら中盤に入ってから発生するチェーンクエストであり、順番的には【穴倉の蝙蝠】より後に殲滅するのが普通である。
もう何が言いたいか分かるだろう。
【穴倉の蝙蝠】は今まで斃した闇組織より弱いのだ。
だから五人を連れてきても問題ないかと楽観視しているわけである。
頭領は【穴倉のフィットチーネ】【アベンジャーLv35】。アジトで戦う構成員はほとんどLv20前後。幹部にLv28程度のヤツが数人いるだけである。
フゥガたちは五人だけでLv40の改造魔物三体を斃したんだぞ? 今さらこんな闇組織に負けるはずがない。
「――というわけだからまた俺が先行する感じで行く。おそらく【青の竜爪】の時より撃ち漏らしとか、逃げ出すヤツが多いと思うからそっちは任せる。特にネフィリアは索敵をしっかり頼むな」
「「「はい」」」
「アジトに入ってからは向こうの様子次第だけど、できれば外で見張りを立てたい。カリン、ネフィリア、エリザかな。近接組でアジトを殲滅する感じにしようか」
「「了解」」
またカリンに火魔法を撃ちこまれると困るしな。外で戦ってもらったほうがいいだろう。
そんな打ち合わせを小声でしつつ、俺たちは裏町へと足を踏み入れた。
裏町の雰囲気は【デュッセル】と変わらない。王都だから道が広いとか、もっとゴミゴミしているとかそんなことはない。大都市の裏町は本当の意味でスラムなのだ。
当然のようにまだ起きている人もいたし、道で寝ている人もいる。
六人の異様な集団はいかにも怪しく見えるので、チンピラと言えども逆にちょっかいかけられないように感じた。
「おう、てめえらどこのモンだ。まさかこの先に用があんのか?」
中には勇気あるチンピラもいる。アジトへ通すわけにはいかんと止めに来たわけだ。
まぁ特に何を話すわけでもない。<ナイトフォッグ>から<アサシンエッジ>で終了である。
霧が晴れればそこにはチンピラが消えているわけで浮浪者などはそれでまた狼狽えたりもするのだが、いちいち気にかけていられない。無視して俺たちは進んだ。
【穴倉の蝙蝠】のアジトは宿屋を二つか三つくっつけたような大きさだったが、裏町に馴染むように木造で古臭く見えた。
どうどうと入口から入ればそこは飲み屋の様相となっており、幾人かの目が一斉に集まる。
入るのは俺とフゥガ、フライヤだけだ。他三人は外で見張らせている。
そのまま殲滅を始めてもいいのだが頭領に逃げられると具合が悪い。そこで少しカマをかけてみた。
「フィットチーネはいるか? ズラタン男爵からの使いなんだが」
「ああん? ズラタン男爵だと?」
ズラタン男爵というのはサブクエストの依頼人が嫌がらせをされた相手だ。おそらくそいつが【穴倉の蝙蝠】を動かした、という前提で依頼が発生する。
ゲームの中でも曖昧なところで依頼を解決しても明確な答えは出てこない。
しかも今は依頼も受けていないし、本当にズラタン男爵が【穴倉の蝙蝠】と繋がっているかも分からない。
それでどんな反応をするかと言ってみたのだが――どうやら当たりだったらしい。チンピラの一人が大人しく頭領を呼んで来たのだ。
つまり本当に繋がっていたわけだな。依頼を受けずともイベントが進行しているということの証拠でもある。
少し経ってやってきたのは筋肉質の大男。顔の傷はいかにも悪者ですよと言っているようだ。
【穴倉の蝙蝠】頭領【穴倉のフィットチーネ】である。
「おう、なんだてめえらは、こんな夜に。ズラタン男爵がなんだって?」
「ああ、お前らをまとめて始末してくれってさ」
「!? てめえら、まさか暗殺者ギルドか!?」
そこからは乱戦の始まりだ。
俺の<ナイトフォッグ>から始まり、フゥガとフライヤも前に出る。俺はイの一番にフィットチーネを狙った。
店内は大騒ぎ。二階からもどんどんと構成員が集まってくる。
中には外へ逃げ出そうとしたヤツもいたらしいが、カリンの声が聞こえたのできっと斃してくれたのだろう。
この闇組織は本当に冒険者崩れが集まっただけのチンピラの集まりだ。レベルも大したことないし、技量に優れているわけでもない。
そんな連中に俺たちが遅れをとるわけがない。
しっかりと鍛え、スキルを多用する戦い方は、【穴倉の蝙蝠】の連中を圧倒していた。
【砂鼠団】の時より安定して戦えていたと思う。みんなが慣れた部分もあるとは思うが、淡々と処理していく様は頼もしくも思った。
数だけは多い【穴倉の蝙蝠】は、結局アジトの中だけでも五十人くらいはいただろう。
その全てを斃すのに二十分程度しか掛からなかった。
「おつかれー。じゃあみんなは入口で待機。俺は上を漁ってくるからネフィリアは外を警戒しておいてくれ」
「了解」
「死体も一度まとめて出しておくな。暇だったらはぎとりを頼む」
そういって俺はアジトの二階と三階を回り、あらゆるモノを回収していった。
フィットチーネの私室と思われる場所には鍵のついた扉があり、そこは部屋の中からしか入れないような一室になっているようだった。
おそらく宝物庫代わりの部屋だろうし、鍵はフィットチーネが持っているのだろう。
だが一階まで戻るのも面倒だったので、<スターバースト>で木製の扉をぶち壊した。
案の定、中には溜めこんでいた金や宝石、怪しげな書類の束や、調度品、装備品などもあった。
目ぼしいところで言えばこんな感じ。
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夜纏の外套:REG+8、<ハイドLv4>
白金の爪:STR+45
暗蛇革の道衣:VTL+12、AGL+13、REG+15
鬼角のチャクラム:STR+30
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外套は俺とネフィリアが装備しているものと同じだな。フライヤあたりに渡してもいい。
爪はフィットチーネが【アベンジャー】だからか拳士系の武器だな。これは死蔵。
道衣は軽装備だからフライヤが装備できるが調整が必要かもしれないから後で確認しておこう。
チャクラムは俺の投擲武器だな。毒の投刃を買ったばかりだが用途が違うので使い分けようと思う。
一階へ戻るとネフィリア以外ははぎとりに精を出しているところだった。
俺は改めて一階を回り、回収し終えてからみんなと合流する。
「作業途中で悪いけどさすがに今日は帰ろう。明日にでも王都の外で分別しないか?」
「構わんぞ。じゃあこのままインベントリに仕舞ってくれ」
「あいよ」
これで一応は終わりだな。あとは分別だけしておいて売れるかどうかは、また相談しての様子だ。
それと裏町の道具屋とやらにも行っておきたいな。非常に気になるし。
とりあえず明日のことはまたみんなと話し合って決めよう。




