36:ストーリー中盤の始まり
「ヒ、ヒヒッ! き、貴様ら、私の研究成果をよくも! サルどもの分際でこの【這宴のフルアデス】様に逆らおうなどと! かくなる上はこの身を魔物に変えてでも――」
「させるか、バカがっ!!」
「ぎゃああああ!!!」
ゲームとおなじような口上を述べても、ゲームと同じような面倒な思いはしたくない。
フルアデスは最期になると足掻くように、自らを実験体に改造して襲い掛かってくるのだ。
まぁ三体の魔物のほうがよほど強いのだが、わざわざ悪あがきさせるのも時間の無駄なので、さっさと退場願った。
フゥガたち五人は改造魔物三体相手に、かなり奮闘していた。
俺がアシュトルーデと相対している時間で、すでに二体を斃し、残りの一体を斃すだけ……というところだったのにアシュトルーデの<サイクロン>でめちゃくちゃにされたのだ。
俺はアシュトルーデを逃したことで驚きや悔しさ、後の不安など様々な感情が頭を巡っていたのだが「フルアデスまで逃がすわけにはいかん」と一気呵成に斃しきった。
<リターン>という未知のスキルは、名前そのままの効果であれば本拠地へと戻る転移魔法のようなものだろう。
そんな便利なものがあるならゲームで実装してくれよ、とも思ったのだが、山脈を越えて世界各国で魔族が暗躍している現状を考えれば、転移魔法の一つくらいあってもおかしくないか、とも思う。
ちなみにフルアデスを斃したあと、懐を探ったり、研究所を調べたりもしたが<リターン>の宝玉はなかった。
となるとアシュトルーデは六魔将だから持っていたのだろうし、それほど貴重なものなのだろうと一旦結論付けておく。
だいたい量産できるものなら最終決戦でわざわざ山脈を越えて南下してくる意味がないからな。みんなまとめて転移すればいいのだし。
量産できるようなものではなく、魔族領に帰還することに限定されるだとか、何かしらの制約があるものなのかもしれない。今は想像することしかできないが。
「それでジェイル、あの女魔族は話に聞いた六魔将とかいうヤツなのか?」
「ああ、フルアデスの上司で【魔嵐公アシュトルーデ】という。まさかこんなところにいるとは思ってなくて俺も驚いたんだが」
「すまなかった。私がジェイルの名を呼んでしまったせいでヤツにそれを知られたまま逃げられてしまった。申し訳ない」
「気にするな。逃がしたのは俺の責任だしな。<リターン>とかいうスキルなんて存在もしらなかったし」
「魔族の固有スキルですかね……何とも厄介なスキルがあったものです」
戦いが終わったあと、五人とはそんな会話をした。
予想外のことが重なって悪かったところもあるのだが、結果的には『王都騒乱』を未然に防げたのは間違いない。
フルアデスも斃せたし、一応の危機は去ったと見ていいだろう。
俺の存在を知ったアシュトルーデが何かしら仕掛けてくるかもしれないが……問題は俺たちがシュトローゼル王国を発ってから仕掛けてきた場合だな。
ゲーム準拠だとするとリッツエルデ王国で戦えるのかもしれないが、ここで関わってしまったことで大きくシナリオは変わるだろう。
ヤツが俺を標的とするならばこの王都を今度こそ『騒乱』させようとするのではないだろうか。『王都の冒険者』である俺を炙り出すために。
しかしその時俺は他国にいるだろう。アシュトルーデは俺たちの足取りを追うか? それほど固執する性格とも思えないが。
と、色々考えることはあるのだが、とりあえずはフルアデスの研究所を掃除するところから始める。
<サイクロン>によりめちゃくちゃにはなったのだが、ようは風で散乱しただけだからな。
資料やら雑貨やら道具やら、回収するものは多い。六人で分別しつつインベントリに放り込んだ。
研究所には奥に扉があり、そこは改造魔物の保管庫のようになっていた。
王都に放つ予定だったのだろう改造スライムが、巨大な水槽のようなものに押し込まれていた。水路に放ったのはごく一部だったということだな。
当然、みんなでせっせと斃す。ここぞとばかりにスキル熟練度上げを行った。
研究所を片付けたあとは地下水路を探索して放たれた改造魔物を斃していく。これもお掃除だ。
とは言え、ここまでの道のりで最奥周辺にしか存在しないと分かっている。地下水路全体で見ればせいぜい四~五分の一程度だ。
地図で当たりを付け、警邏のようにして見回っては斃していった。
ようやく地下水路を脱出できたのは、もう夕方になるかという時間帯だった。
入る時に崩した石煉瓦の壁を目立たないよう修正し(と言っても限界があるが)俺たちは宿へと戻った。
「じゃあ、ネフィリア、悪いけど代筆頼めるか?」
「かしこまりました」
みんなで話し合って色々と決めたのだが、俺はこれから騎士団本部にフルアデスの死体と手に入れた資料などを届けに行く。
と言っても訓練場となっている中庭に置いてくるだけだが。
そこに放置しただけでは騎士団が混乱するだけなので、手紙も一緒に置こうと思うのだ。匿名の手紙を。
俺はこの世界の文字を書くのが上手くないし(なぜか読めたり書けたりもするが、おそらくジェイルくんの肉体のせいだと思う)誰か書くのが上手い人はいないかと聞いて、結局はネフィリアに頼むことになった。さすがの年季である。
手紙の内容は、フルアデスの悪事についてだが、【レームル山】や地下水路で起こしたことの他、疑似スタンピードや暴徒を作ろうとしていたことも書く。もしかしたら王都周辺の魔物にはすでに狂乱の首輪が付けられているかもしれないからな。
それとデュイス・ワーデル侯爵や【砂鼠団】についてもだ。フルアデスと繋がりがあったのでそれも記す。
【フランデル】で手に入れた侯爵家別荘の資料や、【砂鼠団】のアジトで手に入れた書類も一緒に置いておく予定だ。
そうして長々と書いた手紙を書き上げるまでにかなりの時間を要し、深夜になってから俺は一人宿を抜けて出て行った。
夜遅くと言ってもやはり王都はそこそこ人の姿が見受けられる。
【デュッセル】のように派手に飲んでは騒いでいるというのは飲み屋街の一角でほぼ完結しているようだが、それでも大通りを歩く人や警邏をしている騎士団の姿は見てとれた。
俺は<ハイド>しながら王都北部を目指す。
王城は北部の中心にあり、その周りに貴族街があるという形だ。騎士団本部は王城に隣接するように建っている。
そこまで行くと、もう通りには警邏の姿しか見えなくなっているが、それでも用心して俺は騎士団本部へと急いだ。
俺はゲームで【ナイト】ルートも嗜んでいたので、騎士団本部には大変お世話になっていた。構造も熟知している。
正門から入って左に本部の建屋、右に中庭といった感じになっているので、侵入するのは訳ないのだ。訓練に重きを置いているからそういう構造なのだろう。
中庭には備品を置いておくような納屋があり、その近くにフルアデスの死体や資料をドーンと置いておくことにした。
目立つような、目立たないような中途半端な場所だ。できれば早めに発見して欲しい。
やることをやったあとは速攻で退散だ。俺は警邏の目を掻い潜りながら一目散に宿を目指した。
帰ったら案の定、みんなはまだ起きていた。律儀なやつらだ。
俺はまた明日改めて打ち合わせしようと言い、その日はそのまま眠ることにした。
翌朝、朝食を食べたあと、部屋で今後の予定を話し合う。
「フルアデスや侯爵の件は騎士団にお願いするしかないんだが、問題はアシュトルーデだな」
俺の名前を知られたことと、今後も何かしら仕掛けてくる可能性。
手紙にはアシュトルーデのことも書いておいた――容姿、能力、戦い方、性格まで細かに――が、実際攻め込まれたら騎士団に対抗できるものかは分からない。
まぁヤツが仕掛けて来るとすれば搦め手だろうけどな。<チャーム>を使って誰かを操るだとか、権力者に悪事を働かせるだとか。自らが前に出て戦うような手段はとらないだろう。
「だが俺たちが王国に残ってそれを対処するというのはありえない。仮に残ってもアシュトルーデが仕掛けるナニカを俺たちが知るのは、ヤツが仕掛けた後になるだろうし、どうしたって後手に回ることになる」
「今回のように事前に防ぐというのは無理なわけだな」
「それに対・魔王を考えても王国に留まっているわけにはいかない。むしろアシュトルーデを逃がしたから魔王軍の南下は早まる可能性もある。だからこそ俺たちは早めに各国を巡って強くならないといけない」
王国に留まりながら強くなるというのは限界がある。装備や職業の観点で。
だからこそ諸国行脚は必要だ。なるべく早く巡っておきたい気持ちがある。
アシュトルーデがすぐに何か仕掛けて来るというのは正直考えづらい。
おそらく一度魔族領に帰ったのだろうし、そこからすぐに王国に舞い戻って悪事を働く、となると急いだとしても相当な時間がかかると思われる。
というか魔族はエルフと同じく長命種族だからなのか、非常に悠長な性格なのだ。
だからフルアデスにしてものんびり研究してお遊びを続けていたのだろう。俺たちが間に合ったのはヤツがのんびりしていたせいというのもあるように思う。
ゲームでもアシュトルーデは「暇つぶし」という言葉をよく口にする。
つまり、いつでもヤツは時間を持て余しているのだ。それが日常であり、それが性格である。
そんなアシュトルーデが「急いで王国になにかしなきゃ」となるか? 俺はそんなことないと思う。だから何か仕掛けてくるにしても時間がかかるだろうと。
「じゃあ早めに王都を出るのか? 次はリッツエルデ王国に行くんだろ?」
「そうしたいんだが、王都でやることをやってからだな。出来れば王国が魔族に対してどう動くのか、侯爵の処遇なんかも聞けるようなら聞いておきたい。まぁ聞けずともこっちの用事が終われば出るつもりだが」
「魔族に対する警戒は増すでしょうね。できれば防備を固めて欲しいところですが」
「固めたところでどうにもできないのでは? ならば他国と連携して警戒に当たるほうが良いでしょう」
「聖王国は耳を貸すだろうが、他の国はどうだかな。王国と素直に連携するとは思えん。国同士の摩擦は当然あるのだし」
「打倒魔族ということで一丸となってくれればいいんですけどねぇ」
実際は、シナリオ中盤に入り、各国で魔族の暗躍が確認されることで嫌でも協力体制を布くこととなる。
それをもって聖王国での最終決戦に臨むわけだな。
まぁ国によっては「聖王国だけに手柄を独り占めさせるわけにはいかん」と手を貸す感じになると思うが。
「それでジェイル、王都でやるべきこととは何だ? 今までフルアデスに関しては詳しく聞いていたが、それ以外のことは何も聞いていないぞ」
「また街中の困ってる人に何かあげたり、探したりするです?」
「そうだな、俺の考えている王都の予定をまとめて教えておこう」
フルアデスを斃したことでストーリーの序盤は終了。ここからは中盤へと入る。
この中盤が非常に長いのだが、ストーリー分岐や選択肢が多いのも特徴だ。
RTA走者なんかはいきなり聖王国へ行ってそのまま最終決戦に挑むしな。俺は嫌だけど。
中盤のスタートとなるのがこの【王都ローゼル】。もちろん熟しておきたいサブクエストは多い。
時間の都合上、全てのサブクエをやろうとは考えていないが、最低限やれそうなものは熟しておきたい。
というわけでみんなに提示した予定がこちら。
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・街中のアイテム集め
・【穴倉の蝙蝠】の殲滅
・王都周辺の魔物狩り
・困っている人にアイテムをあげる
・武具屋を見て回る(弓・刀・投擲・メイス・タリスマン・防具を探す)
・ダンジョン【深緑の地下園】攻略
・ギルドで熟せる依頼があればそれも熟す
・三人の奴隷解放
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「絞ってもこんな感じかな」
「絞った中に当然のように闇組織殲滅があるんだが?」
「奴隷解放!? 私たちを解放するのですか!?」
「買ったばかりなのに早くねえか? いや、あたしが言うのもおかしいけどよ」
みんなからは色々な意見が出ているが一つずつ説明していこう。
まず闇組織【穴倉の蝙蝠】の壊滅だが、王都の裏社会は【デュッセル】ほど混沌としていないんだよな。これだけ広くて悪人も多そうなのに。
やはり騎士団の御膝元というのに加え、暗殺者ギルドの存在が大きいのだと思う。
暗殺者ギルドは言わば政府公認で裏社会を牛耳っているようなものだ。非合法には違いないのだが。
だからちんけな闇組織は王都に根を張れない。よほど頭と力がある闇組織なら暗殺者ギルドや大貴族と繋がることで勢力を伸ばせるだろうけどな。
【穴倉の蝙蝠】はそんな優秀な闇組織だ。
暗殺者ギルドでも受けられない汚い依頼を進んで受け、そうすることで自らの利用価値を知らしめた。だから国からも暗殺者ギルドからも潰されずに生き残っている。
とは言え【穴倉の蝙蝠】に苦しめられる人もいるわけで、そんな人からサブクエストを受けることになるんだよな。で、【穴倉の蝙蝠】を潰してくれと。無茶な依頼を聞くはめになる。
依頼を受けずに殲滅だけする予定なので例によって報酬はないが、アジトのお宝や物資は美味しい。
悪人退治には違いないので躊躇なくヤる予定である。
あとは街中のサブクエを熟しつつ、ギルドの依頼を熟すのと、できれば装備を見繕っておきたい。
俺たちの装備品はすでに中盤仕様のものもあるが、一部は序盤装備のままだ。そこを更新できればと思っている。
ゲーム知識にない掘り出し物を見つけられればそれが一番かな。特にフライヤの刀などは本来ここで売られているようなものではないが、王都だからこそ売られている可能性はある。探せるなら探すべきだろう。
それと三人の奴隷解放だな。色々と秘密が多いし、魔王討伐に付き合ってもらわないといけないので奴隷にしておいたままのほうが都合は良いのかもしれないが、俺としては解放してあげたいという気持ちが強い。
何より三人ともいずれは解放させないといけない理由があるからな。
エリザは奴隷のままでは【セイント】に就けないだろうし(イベントを熟せるかは疑問だが)、ネフィリアは奴隷にしたまま【エルフの隠れ里】になど行けないだろう。全てのエルフから敵視されるのが目に見えている。
フライヤもイーステッド武国に行く頃には奴隷から解放していないといけない。仮にも王族を奴隷にしているなど不敬罪で斬られてもおかしくないからな。
……ということをふんわりと伝えておく。
「ただフライヤは犯罪奴隷だからすぐ解放できるものなのか分からないんだよな。奴隷商に聞いておけば良かったと後悔しているが」
「解放するのは聖教会ですし特に問題ないのでは?」
「どちらかと言えば解放するための寄付金が問題ですよ。たしか一人当たり百万milくらいかかるはずですし」
マジかよ! おのれ生臭坊主ども! ここにエリザがいなければ悪態を吐いているところだ。
つまり三人で三百万milもかかるってことか。なるほど主人の恩赦でもなければ解放されないわけだ。だから奴隷が多いままなんだろうな。
しかし今の俺の資産は数千万milにも上っている。闇組織や闇金業者のおかげで三百万などはした金だ。全く問題はない。ただ聖教会がむかつくだけだ。
話し合った結果、とりあえず聖教会で解放させてみようという話になった。
三人とも俺に感謝していたが、俺からすれば魔王討伐に付き合ってもらうので逆に申し訳なく感じる。
まぁ立場上、偉ぶった態度をとるしかできないんだけどな。「気にするな」と。
あとは、『王都で仲間にしてはいけない要注意人物』だけ共有しておき、とりあえず会議は終了した。
じゃあできるところからやっていこうか。さっさと王都を出るために。




