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王道ルート拒否!~転生やりこみゲーマーはメインストーリーを避けて通りたい~  作者: 藤原キリオ


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35:魔嵐公アシュトルーデ



 ラスボス弱体化イベントというのはRPGで稀に見るものだ。

 例えば「とある道具を入手するとラスボスが弱くなる」だとか、「とあるイベントを熟すとラスボスが弱くなる」だとか。


 【AG】(アーク・ジェネシス)の冒険者ルートにもそのようなギミックがあった。

 何もせずに最終決戦に突入した場合、ラスボスは【魔王ラスタエル】に加えて幹部である【六魔将】も同時に戦うことになる。七人もの強者と同時に戦うのだから苦戦は必至。RTA走者や縛りプレイでもしていなければそんなのと戦おうともしないはずだ。


 それを回避するための方法として「事前に六魔将を斃しておく」というものがある。

 ゲーム中盤になるとシュトローゼル王国から出て他国を巡り、仲間を増やしたり、装備や隠し職業(ジョブ)を集めて強化し、最終決戦に向けての準備期間となる。


 他国を巡ってイベントを熟せばその時点で六魔将と戦うことができるのだ。

 そうして事前に六魔将を斃しておけば、最終決戦で現れることはない。最も上手くいけばラスボスは魔王単体となる。



 【魔嵐公アシュトルーデ】の場合、リッツエルデ王国でのイベントを熟すと戦うことができるが、中盤に入ってから最速でイベントを熟したとしてもLv65の状態。

 最終決戦で戦う場合はLv80なので、できれば事前に斃しておきたいところだ。

 ただLv65というと中盤の中~後半といった難易度なので、早くに斃そうと思っても難しい。他の国を巡りつつ、終盤の手前(エイリーン聖王国に行く直前)に斃すというのが無難なところだろう。



 しかし、だ。

 そんなアシュトルーデが今、俺の目の前にいる。

 序盤に登場していいヤツではない。フルアデスと共にいること自体が想定外もいいところだ。


 俺の予想では、フルアデスは好き勝手に研究・実験をし、シュトローゼル王国を遊び場として勝手に動いているのだと思っていた。魔王やアシュトルーデに指示されたのではなく、魔族としての本能だけで動いているものだと。


 ところが目の前の現実がそれを否定する。

 フルアデスはアシュトルーデに指示されていたか、もしくは話を通した上でシュトローゼル王国に来ていた。

 アシュトルーデもそれを承知していた。何ならフルアデスの実験に協力していた可能性すらある。



 考えてみればフルアデスの『狂乱の首輪』は、魔物をバーサーカーにするだけのもので、それをスタンピード化させて王都に攻め込ませるといったことはできない。

 俺はそれを「ゲームやシナリオの都合」と捉えていたが、もしアシュトルーデが協力していたとするならば少しは現実味が出てくる。


 魔族に職業(ジョブ)というものはなく、個体によって能力が異なるのだが、フルアデスの場合は『錬金術師めいた生産能力』であり、アシュトルーデの場合は【魔嵐公】の名が示す通り『風と魅了に特化した能力』となっている。


 もしフルアデスが強化した魔物にアシュトルーデの魅了が加わっていたら?

 もしアシュトルーデの魅了の力を何かしらの方法で付与(or再現)できていたら?

 それがスタンピードや改造スライムを王都で暴れさせた原因なのかもしれない。



 六魔将の中では戦闘能力に秀でているわけではない。まぁ弱いわけもないのだが。

 しかしだからこそ六魔将の中では直接的な戦闘というより策略や生産といったほうに力を入れている印象だ。フルアデスが配下にいるのもそのためだろう。

 実際、リッツエルデ王国で起きるイベントも搦め手を使って王国に異変を起こすような内容だった。


 序盤でいきなり現れたアシュトルーデがLv65なのか。それとももっと低いのか。

 いずれにしても今の俺たちより強いのは当たり前で、だからこそ真っ白になった俺の脳内はその姿を見てから高速で動き続けていた。



「五人は魔物三体と白衣の男を頼む。俺はあの女を抑える」


「「はいっ」」



 それだけ言って、俺はアシュトルーデに突っ込んだ。

 本音を言えば戦いたくない相手だ。俺が死ぬ可能性もあるし、五人が危険なことには違いない。だから逃げるという選択肢もあった。


 しかしここで逃げ出すと間違いなく『王都騒乱』が起きる。

 少なくともフルアデスはここで斃さないといけない。

 アシュトルーデに関しても、斃せるものなら斃しておいたほうがいい。

 もともと最終決戦前には斃しておきたかった相手なのだ。だからと言って今戦いたい相手ではないのだが。


 だから『本来のボス』である改造魔物とフルアデスは五人に任せることにした。俺抜きでも勝算は十分にある。


 だがアシュトルーデに関しては俺が止めるしかない。

 下手に戦闘に加わられても困るし、六人で戦っても勝てるとは思えない。むしろエリザが回復しきれないほどの被害が出る可能性が高い。

 彼女たちは確かに強くなったが、まだアシュトルーデと戦えるほど鍛えたわけではないのだ。


 でも俺一人ならどうにか戦える。勝算はある。

 なぜならアシュトルーデの能力や戦い方を熟知しているからだ。

 ゲームと同じ動きをしてくれる保障などない。だが勝算を見出すならばそこに賭けるしかなかった。



「ほう、活きのいい実験体だな。察する能力が高いと見える」


「ヒヒッ、魔物を一体そちらに嗾けますかな?」


「いや、メスザル五匹の相手でもしていろ。オスザルは私の暇つぶしに付き合ってもらう」


「ヒヒッ、承知しました。お好きにどうぞ」



 そんな会話が聞こえた頃、俺はすでにアシュトルーデの近くまで迫っていた。

 広い部屋とは言え、ごちゃごちゃしていて戦いやすいとは言えない。そんな場所で二つの戦いが同時に起きようとしていた。


 フゥガたちはすでに陣を整え、改造魔物とぶつかり合っている。

 その音を背中に受け、俺はただアシュトルーデだけを見据えていた。



「<ナイトフォッグ>」



 開幕は俺の<ナイトフォッグ>。黒い霧をアシュトルーデの周囲に発生させる。

 ここから<アサシンエッジ>へと繋げるのがいつものやり方なのだが、今回はそうもいかない。



「くだらん。<ウィンドベール>」



 アシュトルーデの身体の周りに風の膜が覆い、黒い霧は即座に晴らされた。

 そう来るのは知っていた。だから俺はスキルを放ったと同時に<ラッシュエッジ>でアシュトルーデの懐に飛び込んでいた。

 最速の突き攻撃。即座に晴らしたとはいえ、黒い霧の中から急に現れた俺の攻撃を、アシュトルーデは右手を前に突きだしただけで受け止めた。


 アシュトルーデは無手である。手のひらを前に出しただけで防げる自信があったのだろう。

 実際それくらいの差があるのだ。アシュトルーデの見立ては間違っていない。

 ヤツにとって俺は歯牙にもかけないほどの雑魚なのだと。レベル的な意味で言えばそれで正しい。



 俺の攻撃は確かにアシュトルーデに止められた。

 しかし――ヤツの手のひらからは黒い血が流れていた。それはわずかではあるがダメージが入ったことの証だ。

 暗月の短剣のおかげでもある。レベル差はどうしようもないからな。



「ほう、思ったよりも活きがいいな。シュトローゼルの冒険者にもなかなか面白いのがいるではないか」


「<クロスエッジ>!」


「高ランクの冒険者が偶然やって来たなどと言うことはあるまい。貴様はこちらの動きに感付いていたな?」


「<バックスタブ>! <アサシンエッジ>!」



 アシュトルーデは俺に興味を示しているようだが、会話に付き合うつもりはない。

 俺は淡々と攻撃を続け、相手の動きを見ては回避に動き、常に接近戦を仕掛けていた。


 先にも言ったとおりアシュトルーデは『風と魅了に特化した能力』を持っている。

 ゲームで戦った時は屋外での戦闘だったが、その時は常に浮遊していたし、その上で様々な風魔法を駆使して戦っていた。

 さらには魅了で状態異常にもしてくる。技巧派というか頭脳派というか、そういう戦い方が得意なのだ。


 だがここは地下の一室で浮遊も意味ないし、広範囲風魔法も撃てるような場所じゃない。

 それが勝算の一つだった。後回しにするのではなく、今ここで戦う理由があったということだ。



 とはいえそんな条件だけで勝てるのならば苦労はしない。

 だから俺はアシュトルーデの弱点をひたすら狙っていた。


 一つは接近戦に弱いことだ。魔族に職業(ジョブ)はないが、もし例えるならばアシュトルーデは『後衛魔法職』である。

 肉体的に強いのは言うまでもないが、戦い方としては後衛魔法職に違いない。

 故に接近戦で戦う手段に乏しく、得意の風魔法も限られたものしか使えなくなる。


 もう一つは『暗闇と沈黙が有効』ということ。

 六魔将クラスとなれば状態異常が効く相手も限られるのだが、アシュトルーデの場合は暗闇と沈黙の耐性がない。

 だが「耐性がない=弱点」というわけではない。「状態異常に掛かった時、それを解除する手段を持っている」ということであり、それは「アシュトルーデの行動パターンを限定化させる」という意味でもある。


 だから俺は定期的に<ナイトフォッグ>を使い続けた。

 そのたびにアシュトルーデは<ウィンドベール>で霧を晴らす。パターン化しているのだ。

 ならば<ナイトフォッグ>と同時に攻め込めばいい。俺はひたすらそれを繰り返した。



「ふむ、全く困ったものだ。暇つぶしにはなるがさすがにちと目障りだな」



 アシュトルーデの中でも何かしらの変化があったらしい。

 それもそうだろう。侮っていた相手に攻められる一方で、ヤツはほとんど守るだけになっている。

 たまに攻めても俺は動作を見て避けるし、この部屋の中で下手な魔法も撃てない。フルアデスの研究をアシュトルーデが支持していたのなら当然だ。自分で研究所を潰すような真似はしないだろう。


 痺れをきらした様子のアシュトルーデは、切り札の一つを切ってきた。



「<チャーム>」



 今までの風魔法とは違うナニカが俺に飛んで来た。

 それは俺へと命中し、同時に俺の身体も止まる。

 攻撃体勢を解除し、だらりと力が抜けたように立ち尽くした。



「ジェイルッ!!」



 後方からフゥガの声が聞こえる。魔物と戦いながらもこちらの様子を見ていたのだろう。

 いきなり起きた俺の変化に慌てている様子が窺えた。



「ふふっ、本当はもうちょっと楽しみたかったけど仕方ないな。とりあえずはおもちゃが増えたってことで良しと――」



 余裕の表情で俺に近づくアシュトルーデ。

 心ここにあらずといった様子の俺は――



「<スターバースト>!!」


「!? くっ!!」


「はあっ!!!」



 ――突然、息を吹き返したかのように短剣の最大スキルをアシュトルーデの首筋目がけて打ち込んだ。


 【デュッセル】の闇金業者の家で手に入れた【紫水晶の指輪】の効果は『魅了無効』だ。

 これを装備していたこともアシュトルーデに対する勝算の一つである。


 ヤツを油断させるために<チャーム>をわざと受け、魅了されたふりをして攻撃を仕掛ける。これもゲームではできなかった動きだ。

 俺は最初からこれを策の軸としていた。

 普通に戦っても勝てる相手ではない。油断を突くか、虚を突くか、何かしなければ勝機などない。


 だから俺は一気に仕掛けた。

 油断していたアシュトルーデは俺の<スターバースト>をまともにくらう。Lv8まで上げた短剣最高位のスキルだ。レベル差があっても効かないわけがない。


 それは確かにダメージを与えていた。

 今まで余裕の表情で俺の攻撃を捌いていたアシュトルーデが初めて驚愕の表情になる。


 ここを逃す手はない。俺は<スターバースト>を放ってから襲い掛かるように迫り、追撃の<ファイナルスロー>を放った。

 持っている短剣を投げて高威力を出すスキルである。武器を手放す以上、俺の奥の手なのは間違いない。


 狙うはアシュトルーデの目か口。レベル差があって、VITが高くても防ぎきれない場所がある。

 ゲームと違うそれは今まで俺が戦ってきた経験で分かっていたことだ。

 確実に仕留めるにはここしかない。だから超近接距離から<ファイナルスロー>を叩き込んだ。アシュトルーデの顔面目がけて。



 はたしてそれは――避けられた。


 強引に顔を横に振ることで、目への直撃を躱していた。

 しかし頬から耳にかけて、大きな傷となり黒い血が一気に噴き出す様子も見てとれた。


 俺は内心、舌打ち一つ。さらに追撃しなければいけない。

 即座にインベントリから投げナイフを取り出し、<ダブルスロー>を放とうとしたのだが――



「<サイクロン>!!」


「!? クッ!!」



 顔に傷を負い、体勢が大きく崩れたアシュトルーデは、俺の全く予想していなかった手を打ってきた。

 <サイクロン>はアシュトルーデが得意とする広範囲風魔法である。

 それをこんな室内で放ってきたのだ。フルアデスや魔物にも被害が出るし、研究所はめちゃくちゃになる。

 危険と判断したのか、用意していたのか、アシュトルーデは被害などお構いなしに放ったのだ。



 超近距離で直撃したのはもちろん俺だ。

 それ一撃で死ぬようなことはないと分かってはいるが、それでも身体は吹き飛ばされ、目もうっすらとしか開けられないほどの暴風の中でただ耐えることになる。


 限られた視界で見えるアシュトルーデは俺を見たまま、余裕の表情を取り戻し、懐からナニカを取り出した。

 それは聖教会で見る<ディテクト>の宝玉と同じようにも思えた。

 風の中のアシュトルーデが告げる。



「なかなか面白かったぞ。ジェイルとか言ったな、覚えておく――<リターン>」



 それだけ言うと、アシュトルーデの身体が光となって消えたのだ。

 <リターン>なんてスキル、俺は知らない。だからまた頭が真っ白になってしまっていた。

 吹き荒れる暴風を残したまま、アシュトルーデはこの場からいなくなった。



 俺は――斃すべき相手を取り逃したのだ。





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