33:ワーデル侯爵別荘にて
法服貴族であるデュイス・ワーデル侯爵の邸宅は王都の貴族街にある。侯爵らしく大きなお屋敷だ。
おそらく王国各地に別荘はあるのだろうが、王都のこんな近くの小さな街にまで別荘があるというのは不自然だろう。
ゲームで詳しく理由が語られることはないが、まず間違いなく【砂鼠団】と打ち合わせるためにアジトの近くに屋敷を確保しているだけだと思われる。
他にも後ろ暗いことを多くしている侯爵だから、【砂鼠団】以外にも何かしらの繋がりがあるだろうし、そういった者たちとの打ち合わせに使われているかもしれない。暗殺者ギルドとかは間違いなく絡んでいるだろうしな。
つまり別荘ではあるものの『別荘』としての役割は果たしていないのだ。闇組織のアジトと変わらない。
じゃあそこで働いている使用人は悪人なのか。そうじゃない……と思う。
侯爵に一番近いであろう使用人の長みたいなヤツがいれば悪に染まっている可能性もあるが、さすがにそこまでは分からない。
だから今回の侵入では誰も殺さないつもりだ。俺だって誰彼構わず殺すような傍若無人な人間ではない。(多分)
ちなみに昼間のうちに下見のようなことをしてみたが、やはり別荘には幾人かの気配があった。
ゲームにはいなかった使用人だろう。まぁ貴族の別荘なのだから当然と言えば当然なのだが。
さすがに開錠のような真似はできないし、窓をブチ破ることもできないので、まだ使用人が起きて動いているうちに裏口から<ハイド>全開で潜り込むことにした。
<エネミーサーチ>を使いつつ、誰もいなさそうな部屋に侵入し、使用人全員が寝静まるまで待つ。
そして深夜になったら行動開始。<ハイド>と<スニーク>なども併用し、隠密っぽく動き出した。
本当は何も考えず目につくものを片っ端からインベントリに入れてしまいたいところだが、使用人が盗まれていることに気付くと侯爵に報告するだろうし、その結果、使用人が酷い目に会うことも考えられる。
だから盗まれていることにも気付けない程度に抑えておきたい。少なくとも一見では気付かれないようにしたいものだ。
ゲームでは執務室だか書斎だかの本棚に『王都地下水路の地図』があり、同じ部屋の中に宝箱が置かれていた。
しかし現実世界となった今、部屋に宝箱を置くなんてことはありえない。
【幽霊屋敷】などでもそうだったが、クローゼットや貴重品入れ、金庫などにお宝があるものだ。
この別荘でも同じようなものだった。
まず本棚の中から地図を探すことが難しい。かと言って本を全部奪って逃げたら即効でバレる。
おまけにこの部屋にあるはずのお宝がどこにあるのか分からず、延々と探すはめになった。
【デュッセル】の闇金業者とかもそうだったが、俺の知らない隠し部屋があったりもするのだ。
それを考慮して色々と探ってみたのだが、結局はやっとのことで執務机の下に床下収納めいた空間を発見した。
いかにもな隠し場所だったから助かったが内心かなり焦っていた。
扉のようになっている床を開けてみれば、そこにはいくつかのお宝と書類などがまとまっていた。
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金塊×20、闇の秘石の指輪、エリクサー
王都地下水路の地図
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(地図もここにあったのかよ! まぁ用途を考えれば隠しておくのが正解かもしれないが)
ゲームのように本棚に置いてあるわけないんだな。
以前にも言ったが、現在、王都地下水路の一室は【這宴のフルアデス】の研究所と化しているはずだ。(正確にはまだ化していないのかもしれないが)
地下水路は王都全土に張り巡らされており、特別な許可がなければ入ることができない場所だ。それこそ悪事に使われそうだしな。
で、そんな場所を根城にして狂乱の首輪を量産したり、色々と研究しているのがフルアデス。
そして『王都地下水路の地図』を持っているのが極悪貴族、デュイス・ワーデル侯爵。
つまり二人は繋がっているわけだ。侯爵はフルアデスの研究に協力し、王都を大混乱に陥らせようと画策している。
だからこそ貴族ルート序盤のボス扱いとなっているのが侯爵であり、魔族と繋がっていたことが明らかになったため、王国だけでなく他国も『魔族警戒モード』になるのだ。
メインストーリーにおける、序盤から中盤への移行を意味する一大イベントである。
冒険者ルートでは侯爵と接触するようなことはない。
今回のようにサブイベントのいくつかで侯爵の存在に触れることはあるが、フルアデスを討伐したあとの侯爵がどうなったかは明らかにされていない。
そもそも繋がっていた証拠的な何かが手に入るわけでもないからな。断じられたのか、罪を逃れたかは不明である。
現在の俺はおそらく冒険者ルートに入っていると思われる。メインストーリーを進めている自覚はないが、俺が意識せずともストーリーのほうが勝手に進めているだろう。
そしてなぜか『王都地下水路の地図』と一緒に様々な書類が手に入り、その中にはフルアデスと繋がっているような記述が……。
本来手に入るはずのない侯爵の悪事の証拠が手に入ってしまったわけだ。
俺はそれから一目散に逃げ出した。
本当はもっとしっかり探索したかったし、俺の知らないお宝がまだ残っていたかもしれない。
しかし主目的は果たせたし、何より手に入れた書類の価値が高すぎてどうしたものかと悩んでしまったのだ。
宿に戻り、部屋を開けると、なぜか五人とも起きていた。普通に「おかえり」などと言ってくる。まぁ嬉しく思うのは間違いないが。
「寝ていて良かったのに。すまんな、待たせて」
「心配はしていなかったのだがな、皆、気になっていただけだ」
「で、収穫はどんなものだったのですか?」
そこから俺の土産話と手に入れたあれこれを説明した。
ちなみに金塊はただの換金アイテム。【闇の秘石の指輪】は闇属性強化だから死蔵確定。
エリクサーは言うまでもないな。エリザに使った分をようやく補充できた格好だ。
そして地図と書類関係の話に移る。
侯爵が行っていた様々な悪事、さらに魔族の研究に協力していた証拠などなど。
【砂鼠団】のアジトでも書類を見つけたが、ここでも同じように【砂鼠団】との繋がりを示すような書類があった。
「ジェイルから事前に聞いてはいたが……聞いていた以上に悪い貴族だな」
「そんな貴族がいるんですねぇ。もしくは魔族に洗脳されて悪事を働いていたのでしょうか」
「どうだろうな。もしそうであればフルアデス以外の魔族も絡んでいそうだけど。フルアデスに精神操作的なことはできないだろうし」
「狂乱化は精神操作とは違うのですか?」
「あれはただ道具を使ってバーサーカーを作っているだけだからなぁ。侯爵を操って悪事を働かせるような代物じゃない」
何かしらの影響は受けているのかもしれないが精神操作されているという感じはしない。
ちゃんと理性があり、考えて行動している風ではあったからな。ろくでもないことばかりだが。
どちらかと言うと、侯爵の国や貴族に対する悪意にフルアデスが乗っかったように感じる。協力体制を布けるほど思惑が合致したという印象だな。
フルアデスは好きな研究をして、人間界で好きに遊ばせたかっただけだと思う。言ってしまえば趣味の一環だ。
そこに上司である六魔将の一人【魔嵐公アシュトルーデ】とか【魔王ラスタエル】の思惑はないように思えるのだ。ゲームをやった感想としては、だが。
実際は魔族としての思惑があったのかもしれないが、少なくとも描写はない。
魔族自身、人間を害してナンボみたいな精神構造をしているし、だからこそフルアデスが遊んでいても好きにやらせたのだと思う。少なくとも魔族にとって『利』にはなるのだしな。
「ちなみにフルアデスは『狂乱の首輪』以外にも魔物を改造するような研究もしている。それは王都で戦うことになると思うんだが、侯爵を洗脳するような代物じゃないし、多分普通に侯爵がクソ貴族ってだけだと思うんだよな」
「おい、聞き捨てならないことを言うんじゃない。なんだ魔物を改造って。私たちはどんな騒動に巻き込まれるんだ」
「ジェイルさんっていつも情報を小出しにしますよね。困った人ですよ」
「悪を討ち斃さないといけないわけですね。正義の心を以って」
すでに作っているかは分からないが、地下水路に行くとヤツが改造した魔物と戦うことになる。
合成魔物っぽい魔物だな。通常より強化された魔物だ。
フルアデス自身に戦う力は皆無だから、そいつらを主人公たちに嗾けてくるわけだ。それがイベントボス扱いだな。
冒険者ルート、序盤の一大イベントである『王都騒乱』は、その改造魔物を斃し、ついでにフルアデスを斃してクリアとなる。
なんで地下水路に魔物が溢れているの? とか、いつからそんなの作ってたの? とか聞いちゃいけない。
そういうイベントなのだから仕方ないのだ。
とは言え現実世界となった今ではそんな疑問のせいもあり「俺たちが王都に行ったところで都合よくイベントは起きるのか?」と疑念も覚えるわけだ。
普通に考えれば【レームル山】の異変から短期間でどれだけ準備したんだよと突っ込みたくなるからな。
ゲームでは時間の概念がなかったからアレだけど、現実世界で考えれば無理がある。
だから俺も「おそらく」としか言えないんだよ。イベントが起きない可能性さえ十分にあると。
「んじゃ、とりあえず急いで王都に向かうって感じか?」
「そうだな。まずは冒険者ギルドに行って情報を探るところからだ。街外の魔物で狂乱化された魔物が暴れていないか確認して、異変がなければさっさと地下水路に攻め込む。そこにフルアデスがいればラッキーだ」
「異変が起きる前に元凶を斃すということですね」
「すでに異変が起きていたらどうするのです?」
「街中の暴徒は騎士団にでも任せるよ。暴れていても元は一般人だしな。疑似スタンピードが起きていたらそっちをどうにかするのが先決かな。冒険者らしく」
もしすでに疑似スタンピードが確認されていたら、おそらく冒険者ギルドでは緊急依頼として戦えそうな冒険者全員に狂乱化魔物の対処を指示しているはずだ。
それに紛れたほうが俺たちも「普通の冒険者」として見られるだろう。
どうせ王都にいる間はギルドを利用することになるのだし、「模範的冒険者」でいたほうが何かと利がある。
「地下水路は魔物を対処したあとか?」
「そうだな。順番がどうなるかは行ってみての様子だが、地下水路には隠れてこそこそ行く感じになると思う。普通は入れない場所だし」
「侵入できる方法があるのか?」
「どうだろうな。地下水路に行くには鍵を入手してから行くのが本筋なんだが、その鍵を得る手段がないんだよな。だからどこかの侵入口を探すか、川の下流から入るかって感じになると思う」
普通の冒険者ルートであればギルドで【地下水路を調査せよ】という依頼が発生し、そこへ行くための鍵を渡される。
しかし今回はそんな依頼を受けるつもりはない。なぜならそのクエストがメインストーリーだからだ。
今さらその方針に固執するのもどうかと思うが、メインストーリーをなるべく進ませないことで最終決戦までの時間的猶予を作るという努力はしたいと思っている。……無駄な努力かもしれないがな。
【ベレッサ】でカールかレヴィアを仲間にしていれば尚更話が早い。
二人の実家が貴族だからな。貴族経由で会話イベントが進み、冒険者ギルドで依頼を受けなくてもメインクエストが発生する。そこで鍵を預かるわけだ。
まぁどちらも俺のパーティーにはいないので他の方法を探るしかないのだけどな。
となると鍵なしで地下水路に侵入するしかフルアデスと戦う術がなく、そのためには騎士団本部などに潜入して鍵をパクるか、上手い具合に地下水路に行ける入口を探すか、水路から排水されている川から入るか、といった選択になるだろう。
正直、川からの侵入はしたくない。臭そうだし。
それはまた王都に行ってからの様子だな。なるべく簡単な方法で侵入したいものだ。




