29:熟練度稼ぎ
「さて、そんなわけで予定通り、みんなにはスキルの熟練度上げをしてもらう。この近くの魔物をスキルで狩って、MPが無くなったらここで回復。これを繰り返す」
「こんな訓練は初めてだからどうなることやら」
「十階層の魔物がいなくなりそうですけどね」
「時間で復活するんだろ? もしリポップも間に合わなかったら九階層か十一階層に出張だな」
魔物がどの程度の時間でリポップするかというのはフライヤでも把握していないらしい。
どうやら人が近くにいるとリポップしないらしいんだよな。だから人のいない場所で、いつの間にか復活していると判断されている。よってリポップに掛かる時間は分かっていない。
「で、それぞれに課題を出しておくが、まずフゥガ」
「ああ」
「フゥガはまず<ダブルスラッシュ>と<スウィープソード>を二百、<スパイラルトラスト>を三百、<ゾーンアタック>を四百、<ゾーンスラッシュ>を五百、これを目標として――」
「ちょ! ちょっと待て! そんなにやるのか!?」
「二~三日くらいでできそうじゃないか? 剣を素振りするのと変わらないだろ?」
「そんなに魔物がいないだろう!? <ゾーンスラッシュ>なんて一撃で斃してしまうんだぞ!? 五百体も狩れるわけないだろう!」
「そのスキルを使って攻撃したという判定が残ればいいんだから、かすらせるように当てればいい。そうすれば雑魚一体相手で何発もスキルを叩き込める」
何も「ちゃんとスキルを当てろ」「スキルで斃せ」と言っているわけじゃない。
訓練場の木人相手のように「スキルを使って攻撃した」という判定が欲しいのだ。
おそらくちょっとしたダメージでも入れば攻撃判定になると思われる。攻撃系のスキルはそれで熟練度が上がるだろう。
「ジェイルさん、私の魔法はどうするです? かすらせるとか無理ですけど」
「魔法は対象が魔物でなくても大丈夫だ。壁に撃ち続けても熟練度は上がるはずだ」
「そ、そうなのですか?」
「多分な。定期的に俺に<ファイアウォール>あたりを撃ってもらってダメージ量を確認すればちゃんと熟練度上げができているかの確認もできる」
「えぇぇ……ジェイルさんに魔法を撃つですか……」
ようは「魔法を使った」という判定が欲しいのだ。
熟練度上げがちゃんとできていてスキルレベルが上がれば威力も増す。それを俺のステータスで確認できれば問題ない。
……いや、問題は俺の装備がボロボロになるってことか。受ける時は適当な装備に着替えよう。【夜霧の梟】の構成員のヤツが在庫であるし。
「エリザも攻撃魔法はそんな感じだが、回復魔法やバフ魔法は自分に延々と掛け続ければいい。一番上げる量が多いのはエリザなんだが、熟練度稼ぎがしやすいのもエリザだから、何ならずっとこの部屋にいてスキルを使い続けるでもいいな」
「承知しました」
「とは言え【クレリック】Lv30まではレベル上げもしたいから、もう少し経験値稼ぎもしたいけど」
六人の中でLv30に届いていないのはエリザだけだ。
Lv30になれば職業スキルが全開放される。そうすればあとは熟練度稼ぎをしてスキルレベルを上げるだけだ。
「フライヤも上げるものは多いんだが、とりあえずは職業スキル優先だな。大剣と剣スキルも使っては欲しいんだが」
「剣スキルのほうは何も使えてねえぞ? 本当に上がってんのか、これ?」
「今は<タウント>と<スラッシュ>くらいだろうな。だが優先するのは一に職業スキル、二に大剣スキル、三に剣スキルって感じで」
「あいよ」
フライヤの場合【ブレイド】Lv30で覚えた<ダブルブレイド>が問題だった。二刀流が可能になるスキルである。
奴隷として買って教会でステータスを確かめた時にフライヤ自身も気付いたそうなのだが、すでにLv31で<ダブルブレイド>を覚えていたのだ。
そうなると大剣一本で戦うのは非常にもったいない。<ダブルブレイド>は二刀流で戦って始めて熟練度が上がるスキルなのだから。
フライヤはずっと大剣一本で戦ってきたそうなので俺が言い包める形になったのだが、装備を整えるのと同時に闇組織の戦利品である黒鋼の直剣を渡し、それからは右手で大剣、左手で直剣という歪な二刀流をさせている。
上手く扱えないのは分かっているが、とりあえず両手で装備して戦ってくれと。
<ダブルブレイド>は熟練度稼ぎに適したスキルでもある。
両手に大剣を持たせれば大剣スキルが二倍の速度で上がる。スキルを撃つのが一回でも、二回攻撃したと判定されるわけだな。
そして両手に別の武器を持たせれば、それぞれの武器スキルを鍛えることができる。
だから今は大剣スキルと剣スキルを両方上げている状態、ということだ。
本当は大剣二刀流のほうが手っ取り早いんだけどな。大剣をさっさと終わらせて次の武器に行こう、とできるし。
しかしいかにフライヤでも大剣二刀流というのは大変なものらしい。ムキムキマッチョな大男とかなら扱えるかもしれないけどな。転職もしていないフライヤにそこまでのSTRはない。
ということで大剣と直剣の二刀流になっているわけだ。それでも片手で大剣を持つのは厳しそうだがな。大剣を選んだ自分を恨め。
そんなこんなで熟練度上げが始まった。
六人でまとまって動く必要もないので、俺とフライヤ、フゥガとネフィリアの二班に分かれて十階層を巡る。斥候を分けた感じだな。もちろんネフィリアたちには罠のないルートを指定してある。
そして休憩所ではカリンとエリザが延々と魔法を使っては『回復の泉』を飲む、というのを繰り返す。
あとは俺か。俺は俺で悩ましいし、何かと頑張らないといけない立場にある。
当たり前の話だが六人の中で一番スキルレベルが高いのは俺だ。すでに八つほどのスキルをカンストさせており、今回の熟練度稼ぎでは容易く達成できる状態にある。
問題は短剣スキルを全てカンストさせたあと、何の武器を使うかだ。
【スカウト】で装備可能な武器は短剣、弓、投擲の三種類しかない。だからこの世界では不人気なのだろう(フゥガ情報)。
スキルだけ見れば非常に優秀だと思うんだけどな。あまりスキルを多用しない世界だから仕方ないのかもしれない。
で、そうなると短剣スキルをカンストさせたあとは弓か投擲のスキルレベルを上げるべき、となるわけだが、何を基準に決めるかと言えば『転職先』なんだよな。
【スカウト】で必要な斥候スキルを覚えてしまえば斥候職に拘る必要もない。
剣士にだってなれるし魔法使いにもなれる。そういう可能性を見越して【スカウト】を最初に選んだわけだ。
だが六人パーティーができた今、正直、必要な人材はすでに揃っているんだよな。
盾役、後衛魔法、後衛物理、回復役、前衛物理、と。
あえて挙げるからデバッファーが欲しいかなぁというくらいだ。
ならばこのまま斥候職を続け、尚且つデバッファーを兼任できるような職業に就ければ丸く収まるのではないか。
このパーティーの最終形態を考えた時、俺がパーティーの役に立つ方法として一番無難な気がする。
まぁ主人公っぽくはなくなってしまうが。【AG】の主人公なんて一般人なんだからそんなものだ。
(となれば【リーパー】ルートか、【ファントム】ルートか……やっぱり【ファントム】かな)
【リーパー】ルートは攻撃的な斥候職。
【スカウト】からなら【アサシン】などの暗殺者系を経由して【リーパー】へと至る。
この場合、暗殺者ギルドとかも使いやすいな。王都にもあるし、サブクエストを色々と熟せる。
一方で【ファントム】というのは【AG】における忍者だ。多様性のある遊撃的な斥候職。
【スカウト】からだと【シャドウウォーカー】を経由しないと【ファントム】にはなれない。
おまけにイーステッド武国のサブクエストを熟さないと至れない隠し職業でもある。
どうせフライヤを強化するために武国には行くのだし、そのついでに俺も【ファントム】になれれば万々歳かな。
ただ隠し職業発現のためのサブクエストが面倒だし、魔族の侵攻的にそこまで時間があるかというのが問題だ。
さすがに【シャドウウォーカー】のまま最終決戦には行きたくないので、そうなると別の最上位職を模索することになるだろう。
デバフを重視するなら【リーパー】よりも【ファントム】が断然良い。
となれば弓よりも投擲を鍛えるべきだろう。投擲ならば【シャドウウォーカー】でも【ファントム】でも使える。
弓は完全にネフィリア任せでいいだろうしな。
となると、また問題が出てくるのだが……投擲武器は非常に弱いのだ。
強い投擲武器というのもあるにはあるのだが(円月輪的なヤツとかクナイ的なヤツとか)短剣と比べても大きく劣る。
まぁその分、遠距離から攻撃できたり、デバフを付与するような武器があったりもするのだが、とても主武器にはなりえない。
それでも使えないよりはマシ。副武器として常に携帯し、いざという時に使えるようにスキルは覚えておくべきだろう。
短剣スキルをカンストさせたらナイフか石でも投げていようかな。ほとんど戦いはみんなに任せることになるが。
◆
結局、熟練度稼ぎは三日間に渡って行われた。
その間に休憩所にやってくる冒険者パーティーもいた。【ナミヴィア渓谷】の休憩所でバッティングしたヤツらだ。後から俺たちに追いついてきたらしい。
挨拶もしないし近づくようなこともしなかったが、おそらくちゃんとしたBランクパーティーではあるのだろう。
フライヤが事前に言っていた「攻略には最低でも五日かかる」という言葉通りの行程で来たようだし、それだけスムーズに探索できる力があるということだ。
もちろんそいつらがいる間はカリンやエリザも熟練度稼ぎをできなかったが、そいつらは朝一で下層に向かっていったからな。そうしたらまた再開という感じで、計三日もやってしまったわけだ。
聖教会で<ディテクト>の宝玉を使わないと分からない部分もあるので、「だいたいこんなもんだろ」という目安で切り上げたところもある。
まぁカンストしきっていなかったら、王都までの道中とかでまた鍛えればいいしな。
少なくとも先んじてカンストさせておきたいスキルは重点的に熟練度上げができたのでそれで良しとしよう。
ちなみにテントに置いてあった樽は、二日目にしてただの水になっていた。
つまり半日か一日程度で回復効果が消えるということだ。
なるほど、だから「ダンジョンから出るとただの水になる」と言われていたんだな。最下層まで行ってボスを斃し転移魔法陣で戻っても、十階層から階段を使って一階層まで上っても、一日は経過している。その時にはもう回復効果が消えているだろう。
つまり俺にとっては朗報である。
インベントリに入れておけば回復効果は消えない。出している時間が合計で一日を経過しない限りは『回復の泉』であり続けるはずだ。
そうと決まれば汲めるだけ汲もうと、俺は闇組織のアジトから押収したいくつもの樽を並べ、出来る限り回収した。
「普通の水を運んでいる業者でもこれほどの量は運ばないぞ」
「ポーション何本分になるですかねぇ。数千か、数万か……」
「しばらくは霊草の採取もしないで良さそうですね」
効果が消えればただの飲み水として使うけどな。いずれにせよ汲める時に汲むべきだ。
これからも大きめのダンジョンに入ったら『回復の泉』に寄って、順次入れ替えていこう。
そうしてやっと、俺たちは最下層を目指した。
十一階層以下は魔物のレベルが一段階強くなっているように感じる。だからこそ十階層に『回復の泉』があったのだろう。
とは言え、鍛えた俺たちにかかれば鎧袖一触。足を止める必要すらない。
レベル的に一番遅れていたエリザも今はLv30である。【クレリック】Lv30で<ライトピラー>を覚え、タリスマンの最上位スキルである<セイントフォース>も覚えている。
<ライトピラー>は範囲攻撃。<セイントフォース>は全体精神異常耐性+小リジェネの効果。
さすがにそれらをカンストさせるまではできていないので、むしろエリザに攻撃させるような形で進んだ。
「さて、ここのボスは通称『三つ巴』だな。クラッグフロッグLv33、スチールスラッグLv33、レイクサーペントLv33。大型三体のボスが相手だ」
「ここが結構キツイんだよな。順調に来ていたパーティーもここまで来て撤退とかよくあるし」
「先ほど別パーティーの気配がありましたが、帰っている途中だったのですかね」
「せっかくここまで来たのだから無理矢理にでもボス突破を試みそうなものだがな」
「撤退判断ができるのだからBランクなのでは?」
何日もかけて潜って来て、ボス前に撤退とか最悪だろうな。
まぁエリザの言うとおり、それでも無理と判断できるのは、それはそれで素晴らしい能力だと思うが。
三つ巴は一体一体がボス級だからドロップも旨いんだよな。数も多いし、いい素材が出る。
レアドロップで防具なんかも狙えるんだが……今のうちのパーティーだと欲しいのはエリザ用の法衣とフライヤ用の軽装だからな。どちらも三つ巴からは狙えない。
フゥガ用の鎧や盾あたりなら狙えるが、今装備している天晶鋼シリーズのほうが上だしな。普通に斃してお終いにしよう。
「一応、ナメクジが盾役で、カエルが攻撃、ヘビが後衛からブレスみたいな形で連携めいたことをしてくるんだが……俺たちも久しぶりに六人パーティーらしく戦ってみようか」
「普通に陣を布くのか。当たり前のことが珍しく感じるから困るな」
「エリザのバフからスタートして、フゥガはカエルを抑え、ネフィリアはヘビを、カリンはナメクジを狙ってくれ」
「「「はいっ」」」
「フライヤは最初がカエル。もしナメクジかヘビが後衛に突っ込んで来そうなら迎撃」
「おう」
「俺は適当に遊撃をさせてもらう。一応ヘビから狙うつもりだが臨機応変に動くからそのつもりで。じゃあ行ってみようか」
「「「はいっ!」」」
そんな軽い打ち合わせをしてボス部屋へと突入した。
三体はすでに鎮座している。カエルもナメクジも体高は2.5mほどもある。ヘビは全長10mほど。こちらもデカイ。
こちらを目にすると攻撃体勢を整え、ヘビの鳴き声と共に襲い掛かって来た。
「<セイントフォース>! <マジックアップ>!」
「<マジックアップ>! <マジックスタンス>! <グランドファイア>!」
「<マジックアロー>! <アローレイン>!」
バフと範囲魔法が連続する。スムーズなスキル回しは嫌と言うほど使いまくった証だ。
炎が地面を覆い、魔力矢の雨が降り注ぐ。しかしそんなもので止まってくれるほど軟な敵ではない。
「<タウント>! <ディフェンススタンス>!」
「<ユーフォリック>! <クリティカルスラッシュ>! そおらッ!!」
「<ハイド>、<ナイトフォッグ>、<アサシンエッジ>」
一塊となった俺たちとボスの巨体がぶつかり合う。
先頭はフゥガとカエルだ。そこにフライヤも斬りかかった。
俺は一人、集団を抜け出して後方のヘビに突貫。ふいうち判定になるとは思っていないが、とりあえず<アサシンエッジ>から始めた。
カリンとネフィリアは範囲攻撃から単体攻撃に切り替え、それぞれナメクジとヘビを狙っている。
特にナメクジは物理防御力が高いのでカリンに何とかしてもらいたいところだ。
ヘビも水属性のブレスを吐いてきたりと厭らしい。三体の中では最も厄介だから、俺とネフィリアでさっさと斃してしまいたいな。
しかし『三つ巴』というボスは三体が揃っているから強いのだ。
一体でも削れれば戦いは断然楽になる。
まぁ三体がそれぞれ強いので一体に集中していると他の二体にやられてしまうのだが、だからこそBランクパーティーでも撤退する冒険者が多いのだろう。危険なボスには違いない。
俺たちの場合はどうかというと……見る限り、全く問題ないな。
フゥガが崩れる心配もないし、フライヤの攻撃力は巨体のボス相手でも的確にダメージを与えている。
前衛がしっかりしていればカリンとネフィリアが好きに攻撃できる。エリザなど無駄にスキルを回している始末だ。
改めて自分のパーティーの力強さを知った。
素晴らしい素質、素晴らしい成長、素晴らしいパーティーだ。とてもモブばかりとは思えない。(エリザは違うが)
俺は満足感を覚えながらボスを相手に動いては斬ると繰り返し、やがてカエルが斃れ、光に消えるのを横目に見た。
「よおし! フゥガはナメクジ! フライヤはヘビだ! 先にヘビから片付けるぞ!」
「「おお!」」
そこから先はあっという間だった。
危な気など全くない。完全勝利と言える内容だった。
ドロップアイテムはすでに俺のインベントリに入っている。
そして部屋の中央には宝箱が残されていた。ボスは三体なのに宝箱は一つなんだよな。
出てきたのは【岩礫蛙の手甲】。……ハズレだな。まぁいいや。
「じゃあとりあえず外に出ようか」
「六日ぶりの外か。ようやくだな」
「出来ればちょっと【ナミヴィア渓谷】の探索もしておきたいんだが、もう二日くらい探索していいか? それとも早く街に帰るか?」
「少し延びる程度ならいいんじゃないですか? また街の人に渡したり、ギルドの依頼を熟すやつですよね?」
「そうそう。行きで狩った分じゃ不足だからな。帰りで稼いでおきたい」
「堅実なご主人様だなぁ、大富豪のくせして。小銭稼ぐまでもねえだろ」
「やることやっておかないと気が済まないだけだよ。冒険者ランクも上げたいしな」
本音は出来る限りやりこみしたいっていうだけだ。
もう色々とやりこめない状況にあるからな。【静水の晶岩洞】だって完全攻略してないんだし。
せめて街中のサブクエくらいはやらせてくれ。……あくまでメインストーリーに絡まないやつだけだけど。




