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王道ルート拒否!~転生やりこみゲーマーはメインストーリーを避けて通りたい~  作者: 藤原キリオ


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29/52

28:静水の晶岩洞



 【AG】(アーク・ジェネシス)のメインストーリーを序盤・中盤・終盤と分けるならば、その割合は1:7:2くらいになると俺は思っている。


 方向性を決めるのが序盤。

 諸国を漫遊し、メインストーリーを分岐させたり、サブクエや寄り道を多く行うのが中盤。

 最終決戦を見据え、対魔王や対魔族に備えて準備するのが終盤、というイメージだ。


 【ベレッサの街】から始まって【交易都市デュッセル】から【王都ローゼル】までが序盤。王都からどこに行こうか、というのが中盤の印象がある。

 つまり今は序盤の中ほどというところ。

 普通のプレイヤーならば自由気ままにプレイし、王都目指して準備をし、適度にメインストーリーを進めるといったところだろう。



 しかしやりこみ勢は序盤からすでに最終決戦を見据えた育成をしている。

 こういう最終パーティーにしたいから、今は誰と誰を育てよう。回復役はエリザベートが入るから聖王国までは適当でいいや。といった具合に予定を組んで育成をするものだ。


 育成のためには『稼ぎ場』が必要であり、どのゲームでもそれは存在する。

 大抵は「終盤の少し手前」くらいに存在しているゲームが多いのだが、序盤にも「そこそこの稼ぎ場」がどのゲームにも存在しているだろう。

 【AG】(アーク・ジェネシス)で言えば最序盤でレベルを稼げる【ヴォンヘーデンの森】か、スキル熟練度が稼げる【静水の晶岩洞】だ。利用しないやりこみ勢はいないと断言できるほど、序盤では優秀な稼ぎ場である。



 まぁ【静水の晶岩洞】に入る前に【ナミヴィア渓谷】に行く必要があるんだけどな。

 【ナミヴィア渓谷】は【デュッセル】周辺では一番難易度が高く推奨Lv25となっている。


 【デュッセル】北部の森を抜けた先にある岩石地帯。そこにある渓谷はまるで大地の裂け目といった様相なのだが、深い谷の底にあるのが【静水の晶岩洞】の入口なのだ。

 そこに辿り着くまでも困難。だからこそダンジョン攻略は冒険者ギルドでBランク以上推奨となっているらしい。



「だいたい渓谷に着くまで二日。ダンジョンに入って攻略するまで最低でも五日はかかる。まぁ往復で十日は見ておくべきだな」


「【静水の晶岩洞】は十五階層だろ? 五日もかかるのか?」


「普通のパーティーだったらな。Bランクパーティーだって慎重にじっくり探索するんだ。それこそ帰りの分の余力を残して戦い続けなきゃいけねえ。このパーティーとは真逆の考え方だろうがな」


「そもそもジェイルのインベントリのおかげで継戦能力が桁違いだからな。他のパーティーよりも強引に行ける分、攻略は早まるかもしれん」



 フライヤから【静水の晶岩洞】の情報を聞きながら、俺たちは北部の森を進んでいる。

 もちろん採取ポイントを巡りながらだが、今回はゆっくり探索する予定もない。出来るだけ早く【静水の晶岩洞】に行く。

 【ナミヴィア渓谷】の探索は帰りに余裕があったらって感じだな。



「にしたってこのペースでスキル使っちゃって大丈夫です? 十日も持つほどMPポーションの在庫はないと思いますけど」


「霊草の群生地でも知っているのですか?」


「いやフライヤなら知っていると思うけど【静水の晶岩洞】の十階層には回復の泉があるんだよ。そこまで持たせればいいからな」


「は? あそこの泉は確かに回復するけど、持ち帰ったって回復効果は消えるはずだぞ。ただの水になるって聞くからな」


「多分いけると思うんだよな。マジックバッグと違ってインベントリ内は時間経過がないから」


「本気か? それができたらポーションいらずになるぞ?」


「まぁ試してみての様子だな」



 十階層以上の大きめなダンジョンには大抵、回復の泉がある。制作側の温情だと思うが。

 そこの水を飲めばHPとMPが回復するというありきたりなものだが、ゲームではもちろんその水を持ち帰ることなどできなかった。


 しかし現実世界の今となっては持ち帰ることも可能。

 フライヤの話では同じように考えてポーション代わりに汲んで帰ったヤツもいたそうだが、ダンジョンを出る頃にはただの水に変わってしまったらしい。その場限りの回復ということだな。


 ただ、『回復の泉がある場所』限定でしか回復しないというのがどうにも腑に落ちない。ゲーム特有の不思議パワーによるものと言われれば納得するしかないのだが、理論的ではありえないだろうと思うのだ。

 だから俺はこう考える。

『泉から湧き出た時は回復効果があって、時間経過によりその効果を失っている』と。これならまだ理解できる。普通のポーションだって劣化するのだし。


 だからとりあえず汲んで試してみようと思うのだ。

 上手くいけば今後ポーション類を買う必要もなくなるし、今以上にスキル使い放題になる。そしてそのための樽は大量に持っているのだ。


 まぁ上手くいかなければいかないでいい。そこまで期待しているわけじゃない。

 やりたいことは回復の泉を拠点としたスキル熟練度上げだからな。

 シュトローゼル王国に回復の泉があるダンジョンは二つしかないのだ。だからこそこの稼ぎ場は有効に使いたい。



 問題はダンジョン内で武器の耐久値を回復する術が限られるということだが、短剣も剣も大剣も弓もインベントリには沢山の在庫があるし(各闇組織の装備品)、耐久値回復アイテムである『研ぎ石』の類も大量に買い込んである。

 何なら『初心者用クラフトセット』でも時間をかければ回復は可能だ。

 そんなわけでMPの回復さえできる状況なら延々と熟練度稼ぎができるということだな。つまり現状、【静水の晶岩洞】以上の稼ぎ場はないと、そういうことだ。



 そんな話をしながら森を抜け【ナミヴィア渓谷】のエリアに入った。木々は極端に少なくなり、むき出しの岩ばかりの岩石地帯となる。

 森ではLv15~20くらいの魔物が出ていたが、岩石地帯になると出てくる魔物も一変する。

 ヘビ、カニ、鳥、虫、あとは小さめのゴーレムが多い。どれもLv20~25と一段階強い魔物だ。

 これらのドロップアイテムを納品するサブクエストも残ってはいるのだが今は後回しにして、ひたすら【静水の晶岩洞】を目指した。


 テントを張る場所もフライヤに教えてもらった。

 どうやら【静水の晶岩洞】に挑む冒険者たちがよく使う休憩所のようなところがあるらしい。

 といっても岩だらけの渓谷なので、魔物に見つかりにくい洞穴とかそんな感じだ。何となくカイザーウルフの寝床を思い出した。


 そこには俺たち以外に二組のパーティーがテントを張っていた。

 こちらには見目麗しい女性が五人もいるので変な目で見られたりもしたな。

 何となく嫌な感じがしたのでその連中とはテントも離し、俺は一人、テントの入口で寝ることにした。

 本当は冒険者同士の交流とか挨拶とかしなきゃいけないのかもしれないが、そんなのは無視だ。彼女たちの安全が第一である。



 朝も二組が出立する前にさっさと出る。テントなどもマジックバッグに偽装したインベントリに仕舞えばいいし、朝食も歩きながら串焼きを頬張る。



「アツアツの串焼きを食べ歩くとかまるで街中を散歩してる気分だな」


「最低でもCランク推奨の【ナミヴィア渓谷】ですけどね、ここは」


「ジェイル様と遠征するとこれほど快適になるのですね。神の御業とは素晴らしいものです」


「少なくとも他の冒険者に見せたくない探索風景であるのは間違いないな」



 なんだかんだ言いながら、みんな俺独自の探索に慣れつつある。主人公的能力とゲーム知識を頼りにした特殊な探索に。

 串焼きを食べながら、片手間にスキルを使い、ちゃんと探索はしているのだ。

 俺が道順を知っていて、フライヤの知識的補助もある。戦闘もスキル連発だから早いとなれば後続より進行が早いのは当然で、一応ネフィリアに後方を警戒させていたのだがすぐにそれも必要なくなるほど順調に歩みを進めていた。


 やがて大地の裂け目のような大きな渓谷に辿り着く。道幅は10~20mとまちまちだが左右の岩壁は10m以上もあり簡単に上り下りできるものでは.ない。

 逃げ場のない渓谷での戦闘。そう聞くと屋外戦闘の有利を消しているようで厄介にも感じるのだが、これから向かうダンジョンに比べれば断然マシだ。せいぜい空から鳥が襲って来ることを警戒するくらいで乗り切れる。



 そうして昼前には渓谷の一角に到着。一見するとただの洞穴に見えるそれは、中に不自然な下り階段が見えるダンジョンの入口だ。

 俺たちは意を決して……ということもなく、家に帰って来たような気楽さで階段を下りて行った。





 ダンジョンというのはどこも石畳で囲まれた迷路と小部屋が組み合わさった形状をしているが、ダンジョンによって多少の見た目は変わる。

 この【静水の晶岩洞】であれば『水』と『採掘』がテーマだな。

 石畳の通路なのに不自然に水が染み出していたり、水溜りがあったり、場所によっては用水路のようになっていたりもする。


 適度にある採取ポイントには岩がむき出しになっていて、そこをツルハシで振れば鉱石系のアイテムを採取できるという寸法だ。

 他にも植物系の採取ポイントもあるし、休憩所っぽいところには水場があったりと、【小鬼の洞穴】に比べて随分と親切な設計だ。


 制作側の温情には違いない。

 だがここの現地人的には「ダンジョンとは神が作り出した不思議な空間」という認識らしい。だから何でもあり(・・・・・)なのだと。

 まぁ制作の人たちを神とすることに異論はない。素晴らしいゲームを作った人たちだからな。

 そう考えると俺にとっての神はこの世界の神とは違うわけで、異端者には違いないのだろう。そんな益体もないことを考えながらダンジョン探索を始めた。



「とりあえず十階までは寄り道なしで行こうか。特に欲しい宝箱もないし」


「道案内も必要ねえのか?」


「間違ってたら指摘してくれ。とりあえず俺が先頭で索敵しながら進む」



 やりこみ勢としては宝箱も全て回収して完全制覇を目指したいところではあるのだが、現実世界となった今では時間を優先したい。

 Bランク御用達のダンジョンということでお宝の質はそこそこ良いんだけどな。

 装備品にしても今の俺たちの装備のほうが上だし、消費アイテムにしても街で買えるものばかり。

 しいて言えば非売品の『力の実』とかは欲しいかな。さすがに逃すのは勿体ない精神が出てしまう。


 とりあえず俺が優先すべきは<トラップサーチ>をLv8にすることだ。罠のあるところじゃないと熟練度上げができないからな。

 ここで使いまくってカンストさせる。あとは短剣スキルを全てカンストできれば最高だ。



「10m先、右側にトラップ。左側に寄れ」


「「「はいっ」」」


「次の角を右に行く。すぐに接敵するぞ。おそらくリザードマン三体。カリンとネフィリアから仕掛けろ」


「「はいっ」」



 探索は非常に順調。ほとんど足を止めずにずんずん進める。

 俺のイメージも含まれるが、普通のパーティー戦闘というのは「足を止めて迎え撃つ」という感じだと思う。

 陣形と連携を意識してセーフティに戦う。絶対に勝たなければ死んでしまうし、傷を負えば回復するためのリソースを失うし、防具を修理するために金もかかる。

 だからまずは防御を固めて安全性を高め、無理せずに戦う。それもスキルをあまり使わず、通常攻撃中心で。それがこの世界の常識だ。


 そこへいくと俺の探索方法というのは特殊すぎるんだよな。

 時は金なり。MPポーションは潤沢にあるからどんどんスキルを使え。防具の修理も本で覚えた<クラフト>がある。何なら初心者用クラフトセットもあるから俺じゃなくなってできる。

 だから見敵即殺。火力で押し切りそのまま進め。それができるレベルならそうすべきだろう。


 これに付いて来られているみんながすごいよな。

 最初の数戦こそ戸惑って戦いづらそうな感じなんだが、すぐに慣れて対応してくる。

 俺が言うのも何だが、よくこんな戦い方できるものだ。



 ゲームの時はパーティーメンバーに「こんな感じで戦ってくれ」と指示を出しておいて、あとは優秀なAIに任せていた。

 VRMMOの戦闘は主人公の操作だけで手一杯なのだ。後衛ならばパーティー全体を俯瞰しながらバランスをとった戦い方もできるが、前衛の特に攻撃役ならば遊撃的に戦うしかない。

 五人は五人で頑張ってくれ、俺は一人で頑張るから、そんな感じにどうしてもなってしまう。


 それが現実世界となった今、俺以外の五人が俺に合わせるように考えて動いてくれるのだ。

 速度や距離を合わせ、それでもパーティーとして連携がとれるように位置取りや攻撃機会を考えて戦ってくれる。

 こんなに素晴らしいことはない。俺は感動を覚えていた。



 結果として遠距離手段を持っているカリンとネフィリアの攻撃機会が増えているのだが、カリンはわざとみんなに攻撃機会を譲る場面も多いし、ネフィリアは索敵スキルなども使っているので弓スキルはそこまで使っていない。

 エリザはほとんど全てのスキルが無駄撃ちになってしまうが、それでも懸命にスキル回しをしている。俺に言われたから無駄であろうとも精一杯やろうという気持ちが見てとれて何とも嬉しい。

 フゥガは全体の動きを見たりバランスをとるのが本当に上手いな。パーティーリーダーは俺なんだが、パーティー戦闘の形を成しているのは間違いなくフゥガのおかげだ。やはり盾役(タンク)はパーティーの核だ。


 フライヤに関してはなぜすんなり合わせてこられるのか、俺が理解不能になる。

 一番新人だし、一番俺のやり方に疑問を持っていると思うんだけどな。Bランク冒険者としての経験もあるから余計に。(エリザも新人には違いないが精神構造がちょっとアレなので省く)


 だというのに血気盛んに攻撃を仕掛け、同時にパーティーの動きを見ていたりしている。好戦的で繊細という相反した印象を受けた。

 これが才能なのか『武国の者』としての特性なのか分からない。王族である以上、ただのモブではない。

 いずれにしてもとんでもない拾い物だと再認識した。まぁ血筋的に厄介という意味でもとんでもないのだが。



 そうして進んでいく【静水の晶岩洞】。

 攻略するのに五日かかると言われていたその行程は「二~三日でいけそうじゃね?」と言えるほどの速度で進んでいた。

 もちろん途中で休憩もしているし、最低限の宝箱と採取ポイントも巡っている。武具屋の親父にも頼まれているしな。採掘も頑張った。


 ちなみに誰も近寄らなそうな行き止まりの場所に、闇組織連中の死体やゴミなどをまとめて捨てている。ダンジョンは何でも吸収してくれるらしいからな。時間が経てば消えてなくなるだろう。



 二日目の昼頃には十階層の休憩所に到着。

 なぜか芝生のような草が広がる小部屋だ。木も三本ほど生えている。石畳の床のはずなのに。

 奥には小さな噴水があり、教会にあるそれのように女神像から水が絶えず流れ出していた。どこに排水されているのかは不明だ。


 運良く他の冒険者パーティーはまだいなかったので、これ幸いとインベントリから樽を取り出し、『回復の泉』を目いっぱい汲んでみる。



「とりあえず樽から飲んでみるか。……回復するな。ということは泉から直接飲む必要はないということだ」


「ダンジョンを出るとただの水になるって聞くけどな」


「それが時間経過によるものなのか、ダンジョンという空間限定の現象なのかを判断しないといけない。一先ずテントを張って、この樽を放置してみよう」



 どうせここを拠点にスキルの熟練度上げに勤しむからな。最低でも二日は掛かると見ている。

 その間に、樽に移した水が回復しなくなれば時間経過が原因だと分かるだろう。であればインベントリで持ち帰れる。大量の回復薬を手に入れたも当然だ。


 もし変化が起きなければ空間的な要因である可能性が高い。「ダンジョンだから回復できる」か「この休憩所付近だから回復できる」といったところ。

 まぁものは試しだ。手に入ればラッキーくらいのつもりでいよう。





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