25:六人目の仲間
エリザことエリザベートを自分のパーティーに入れる。
デメリットはいくつもある。
将来的に考えていたカーマインのメインパーティーから聖女という超強力な駒を奪うことにもなるし、メインストーリーにがっつり絡むことになるから、下手するとカーマイン自体が最終決戦に登場しない可能性すらある。ストーリーが俺を主人公だと認識する、という感覚だな。
ただ、そうならない可能性もあるし、そもそも俺の考えている最終決戦も、結局は予想と希望を混ぜたものにすぎない。
あれこれと将来を危惧しても仕方ない。そう考えることにした。少なくともエリザに関しては。
メインストーリーが進んだと俺が認識した時にまたどうなるのかは分からないがな。今は確認のしようもないので考えようがないとも言う。
エリザは俺に感謝の意を示し、俺に仕えたいという希望を口にした。
だから俺はその意を汲みたいと思った。
少しゲームにおけるエリザベートというキャラクターの説明をしよう。
聖王国の平民であり敬虔な信者であったのがエリザという少女だ。その精神は清廉潔白、いかにも聖女様という慈悲のかたまりのような性格だ。
回復職として極めて優秀な素質を持っており、世の為・人の為に回復職として精進しようと考えて冒険者になる。
そして修行の途中、シュトローゼル王国の【交易都市デュッセル】に辿り着いたところで主人公と出会うわけだな。
主人公と共に旅を進め(メインストーリーが進み)、名声が広まり始めたところで聖王国のとある権力者に目をつけられた。
聖王国内のドロドロした政治体系は端折るが、聖女となりうるエリザを神輿にしようと思ったわけだ。
敬虔な信者であるエリザが教会のお偉いさんから「聖女となってくれ」と言われれば、首を縦に振る以外の選択肢はない。
それが世界の為になるのなら喜んでお引き受けしましょう、となるわけだ。
エリザはエリザベートと名を改め、【セイント】の職業に就き、聖女として象徴的な存在になる。
そして対魔王の最前線となる主人公パーティーか、カーマインパーティーに組み込まれる。聖王国の代表として。
本人としては幸せなのかもしれないが、聖王国の駒のように扱われていて不憫にも感じる。それがエリザベートというメインヒロインである。
現実世界のエリザは不憫どころじゃ済まない、可哀想すぎる目に会っていた。
同情や怒りなど、様々な感情が俺を支配し、それで仲間にすることを決めたのだ。何とかして幸せにできないものかと。
ところが『聖女様』な精神構造をしているエリザは「俺に仕えたい」と言ってきた。
奴隷からの解放など求めていない。平民であるエリザはそれが困難なことだと分かっているから。
だからこそ奴隷のままであることを当然のものとし、主人となるのは助け出した俺に、と言っているわけだ。
「この身は助けて下さったジェイル様のために」と本心で思っている。いかにもエリザらしいと俺は内心思っていた。
フゥガ、カリン、ネフィリアも「こうなるのも当然だな」というような感じだったらしい。
俺から色々と予定のようなものを聞いていても、エリザはやっぱり可哀想だし、助けるのも仲間にするのも何も文句はないと。
だからその日は、宿屋の部屋で四人で話し合った。
まずは俺がどういう存在なのか、これまでのことと、これからのこと。出来る限りエリザに教え込んだ。
「やはりジェイル様は神に選ばれし救世主様なのですね」
「違う。俺は神託も天啓も受けていないし、救世主となるつもりもない」
そうは言ったものの、エリザは俺を崇拝対象のように見ている。
助け出した状況も原因の一つなのだが、もともと聖女様的思考の持ち主なのだ。
インベントリなど特別な力を有して、未来をある程度知っていて、エリザを助け出したと言われれば『神の使い』のように思われてしまうのも仕方ないのかもしれない。まぁ俺は延々と「そうじゃないよ。一般人だよ」と言うのだが。
理解の仕方はどうであれ、とりあえず伝えるべきことは伝えた。三人にも協力してもらい補足もしてもらった。
エリザが理解できていなさそうな所をフォローしてもらう感じだな。俺では現地人の考え方が分からない部分もある。
とは言えエリザだしなぁ……考え方が独特と言うか、自分が「こう」だと思っていることに全肯定しすぎて危なっかしい面もある。
だからこそ聖女であるし、だからこそメインヒロインの一人なのだが。
ちなみにエリクサーに関しては父親の形見ということで誤魔化している。
さすがにあれほどの回復量を誇る回復薬というのはエリクサー以外にないだろうと、現物を見たことのないフゥガやカリンでさえも気付いたそうだ。
話を聞く限り、大貴族でも早々使えないほどの最高級回復薬という評価らしいな。つくづく【ベレッサの街】で売らないで良かった。
そして、そんなエリクサーを容易に使ってしまったからエリザが俺を崇拝している、という部分もあるように見える。
ともかく【デュッセル】三日目はそうして終わった。
翌日、俺たちは宿屋の店主に街一番の奴隷商館を聞き、まずはそこに向かった。
【デュッセル】にはいくつか奴隷商館があるらしく、それ以外にも商業ギルドが主催する奴隷オークションなどもあるらしい。
だが奴隷オークションなんてそれこそ【青の竜爪】あたりが絡んでいるに違いない。三つの闇組織は裏町を支配しているだけでなく【デュッセル】の商業にも関与しているはずなのだ。
俺たちが二つの闇組織を潰したことで【デュッセル】の表の顔にどれほどの影響が出ているか……おそらく少なくはないだろうと思っている。
ちなみに【青の竜爪】【白雷の虎】から押収した資料の中で、ヤバそうなものはまとめて領主館の庭に放り投げてきた。昨夜のうちに<ハイド>全開で行ったわけだ。
俺たちがちょっと見ただけでも、商業ギルドや貴族や大商人など、とにかく色々な大物が闇組織と繋がっていたらしい。
下手したら領主自身が繋がっている可能性もある。しかし俺たちの手に負えるものでもないし、あとは任せたとばかりに投げ捨ててきたわけだ。
ということで安定性を重視して街一番の大店の奴隷商館へと来たわけだが、やはり昨夜の影響が出ている雰囲気は感じた。
宿から奴隷商館へと歩く道でも、路地の住人が活発に動いていたり、衛兵が走り回っている様子も見えた。
奴隷商館の中でも幾人かの従業員が怪訝な顔で話し合っていたりといった感じ。ここも【青の竜爪】か【白雷の虎】と繋がっていたのかもしれないな。それが闇奴隷に関するものなのか、ショバ代などが絡んでいるものなのか分からないが。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件で」
「まずはこの子の契約変更を」
「貴方様が主人でよろしいですか?」
「今は主人不在の状態なんだ。それを俺を主人として再契約したい」
「以前の主人が存命だった場合、契約魔法の更新自体が不可能となる場合がありますが大丈夫でしょうか」
「ああ、それは問題ない。亡くなったばかりらしいからな」
「承知しました。ではこちらへどうぞ」
エリザが闇奴隷だとバレると【白雷の虎】の一件に俺たちが関わっていると気付かれるかもしれないと危惧していたのだが、店主の様子を見るにそんなこともないようだ。
エリザにはネフィリアと同じ契約内容で奴隷契約を結び、正式に俺の奴隷となった。
ちなみにフゥガとカリンには、将来的にネフィリアとエリザを解放したいという旨を伝えてある。
エリザなどはすぐに解放したっていいくらいだけどな。
しかしエリザ自身が俺に仕えたがっているし、それにもう一人買う予定の奴隷のこともある。
解放については遠くない未来だとは思っているが、買う奴隷を見てからのほうがいいだろうという結論だ。
「――というわけでもう一人奴隷を買いたいと思っているんだが」
「どのような奴隷をご希望でしょうか」
「前衛の戦闘職に就いている女性で、ランクや人種は問わず。出来れば盾役系ではなくアタッカーで」
これは相談して事前に決めていた。
ここまで女性が集まってしまったので今さら男性を入れづらいのだ。それもエリザを始め、とんでもない美人ばかりだからな。
冒険者活動の中で、テントで雑魚寝したり宿を同部屋でとったりもするので、俺が余計な心配をしてしまう。
男が俺一人なら俺だけ我慢すればいいだけだし、テントも俺だけ外で寝ればいい。
まぁ彼女たちはそこまで気にしていないと言うか、俺を信頼していると言うか、そういう感じなのだが俺の方が気にするので六人目のパーティーメンバーも女性にしようと。そういう話だ。
店主は一度奥へと下がると、七人の奴隷を引き連れて戻って来た。
さすがは【デュッセル】一番の奴隷商館だけある。突然来て注文したのにこんなにいるものなんだな。
「右手から順に紹介いたしますと、アイオリア、十八歳、職業は【ソードマン】で冒険者ランクはEです。続いて――」
色々と聞くと、様々な事情があって奴隷に堕ちたのだと分かる。やはりこの世界には奴隷が多くいて、それが当然の世界なのだと改めて思った。
普通に借金して奴隷堕ちした者もいれば、親が借金のカタに売った可哀想な者もいる。
両親が奴隷だから、生まれた時から奴隷扱いという者もいた。そういう話を聞くたびに何とも言えない心情になってしまう。
職業はやはり剣を扱う【ソードマン】か槍を扱う【ランサー】が多い。基本的というか一般的なのがそこら辺なのだろう。ゲームでも冒険者ギルドでモブを雇う際は必ずいたしな。
拳系の【ファイター】が一人、短剣を扱う【シーフ】も一人いた。短剣は不人気みたいだな。気持ちは分かる。
ただそんな中、俺の目は最初から一人の女性に惹かれていた。
ボサボサでボリュームのある紅蓮のような深い赤髪。フゥガよりも長身でエリザよりスタイルが良い。
何より褐色肌と紅の瞳は『武国の者』である証。イーステッド武国の出身者だと思われた。
イーステッド武国は大陸の東方にあたる国だ。
シュトローゼル王国からだと、南東のリッツエルデ王国へ行き、さらに東に抜けた先にある。
【AG】における『和の国』といった感じなんだよな。見た目は黄色人種でもないし黒髪でもないのだが。その代わりに褐色肌と紅の瞳が身体的特徴となる。
武国の者はちょっと特殊で、ユニークキャラを仲間にするのも難しいし、モブを雇おうと思ってもイーステッド武国の冒険者ギルドでしか出現しない。間違ってもシュトローゼル王国で仲間になるような者ではないのだ。
だからこそ俺はその女性に注目していた。
「え? こんなトコで武国の者を仲間にできるの? まじで? いいの?」そんな感じだ。とてつもなくお得に聞こえる。
「最後はフライヤ、二十三歳、職業は【ブレイド】、冒険者ランクはBです」
「信仰は?」
「【戦と勲功の神】です」
確定だな。【戦と勲功の神】自体、武国出身者でなければ信仰できない神だったはずだ。俺のチュートリアルにも出てきていない。
つまりこっちで生まれ育った『武国の者』ではなく、武国からやってきて奴隷に堕ちた者に違いない。でなければ【戦と勲功の神】は選べないんじゃないかと思う。
おまけに【ブレイド】は剣の類なら何でも扱えるという攻撃のスペシャリストで、これもまたシュトローゼル王国周辺では一般的ではない。
強いんだけどピーキーなんだよな。
それに『武国の者』自体、ゲームだと仲間にできるのが後半ということもあって「強いから使いたいけど使いにくい」という評価をされがちな人種でもある。武国に着く頃には大抵メインパーティーは決まっているものだし。
「冒険者ランクがBなら金に困って奴隷になるようなこともなさそうだが?」
「ええ、フライヤの場合は犯罪奴隷ですので」
「犯罪奴隷?」
犯罪奴隷というと奴隷商館で売られるよりも領主の管轄になって鉱山とかで働かされそうなイメージだったから驚いたのだが、どうもフライヤという女性の場合は恩赦的なものもあり奴隷商館預かりになったらしい。
詳しく聞けば、酔っぱらった同じ冒険者パーティーの男にセクハラされ、怒って斬り殺したらしいのだ。
俺としては「うわぁ……」という感想しか出てこない。確かに自己防衛のためと言われればそうなのかもしれないが、それにしたってやりすぎだろう……いや、俺の感覚がこの世界にアジャストしていないだけの可能性もあるのだが。
ともかく「殺したことは犯罪だが、情状酌量の余地はある」ということで普通の奴隷扱いになっているそうだ。
聞かなきゃ良かった。買う気でいたのに水を差された感じだ。……いや、まだ色々と聞いてから判断しないといけないのだが。
「店主さん、彼女本人に質問していいか?」
「ええ、どうぞ」
「ではフライヤ、使っている武器は?」
「大剣だよ」
「刀は?」
「ガキの頃に使ってたくらいだな。覚職してからは大剣ばっかだ」
勿体ない。【ブレイド】は確かに大剣も使えるが、何より刀が扱えるのが魅力なのに。
まぁ刀鍛冶や刀匠が武国にしかいないのかもしれないけどな。【デュッセル】で手に入るものなのかも分からない。少なくともゲーム内の【デュッセル】では売られていなかった。
イーステッド武国は『和』の要素が多いのだが、その中の一つがサムライ系職業だ。
刀を扱える【ブレイド】はその基本とも言える職業で、将来的には【マスターブレイド】や【ネメシスエッジ】といった最上位職業へと至る。
フライヤは『武国の者』らしくその素養を持っているということだ。破格のモブであるのは間違いない。
しかし気になることもある。
「もし俺が将来的に刀を使って欲しいと言ったら、言うことを聞くか?」
「そりゃあたしは奴隷なんだから言うこと聞くしかねえだろ。でも大剣スキルしか覚えてねえから今さら刀を持っても弱くなるぞ?」
「刀に忌避感がないのであれば問題ない。まぁいずれにしても先の話だしな」
「よく分かんねえお客様だなぁ」
「では最後に一つ。言えなければ言えないで構わないから答えてくれ」
「ああ」
「家名は?」
「!? …………もう捨てたよ。あたしはただのフライヤだ」
「そうか、分かった。店主さん十分だけ時間をくれないか? パーティーメンバーと相談したい」
「かしこまりました。では一度退室いたします」
そういって店主は奴隷たちを連れて部屋を出た。そこで四人と向き合う。
「つまりジェイルはあのフライヤという者が欲しいわけだな?」
「ああ、みんなはどう思う?」
「私はご主人様の意見を尊重します」
「わたくしもジェイル様の意のままでよろしいかと思います」
「私はパーティーメンバーを殺したってところが気になるですねぇ。殺されたほうが悪いとは思いますけど」
「私もカリンと同意見なのだが、家名がどうこう言ってたのはどういうことなんだ? またジェイルが知っていた知識なのか?」
「いや、そういうことではないんだが――」
この世界の家名持ちというのは基本的に貴族だけだ。イーステッド武国では貴族ではなく豪族という言い方になるが、とにかく上流階級の者には違いない。
武国の者が【戦と勲功の神】と【ブレイド】を選ぶのはよくあることだと思う。ゲーム内の印象の話だが。
他国の者が【剣と正義の神】と【剣】を選ぶくらい普通のことだ。これもまた武国の特異性によるところだろう。
しかし「子供の頃には刀を使っていた」という部分が引っ掛かっていた。
平民のように木剣でチャンバラ遊びをしているわけではない。真剣を使って習い事のようなことをしていたということだろう。
となると相応の環境が必要になるわけで、金銭的に余裕のある豪族なのでは? と思ってカマをかけたのだ。
結果は大当たり。あの反応を見るに、元は豪族なのだろう。
そこからどうして国を離れ、大剣を持ち、Bランク冒険者にまでなったのかは分からないが、刀の下地があるというのは大きい。下手すると隠れて刀スキルを取得している可能性すらある。
懸念点は「フライヤの実家が俺の知る豪族だったら面倒だなぁ」というところだ。
イーステッド武国にはメインストーリーの分岐先で訪れることもあるのだが、国のお偉いさん方と対人戦を連戦するようなイベントがあったりもするのだ。その結果、仲間になるユニークキャラなどもいる。
フライヤを仲間にした場合、強化のためにイーステッド武国に行くのは確定。
そこでメインストーリーに絡むキャラと接触する可能性を考えるとフライヤの家名を知っておきたかったところではあるのだが……エリザを仲間にしている時点で今さらか、と思い直した。家名がどうであろうとフライヤは仲間にしたい。
だってこんな早期で仲間にできる『武国の者』だからな。バグレベルの優良物件である。
……というようなことを誤魔化しつつも説明した。
フゥガもカリンも「そこまで言うなら」と納得してくれたらしい。
まぁ奴隷である以上、仲間を斬り殺すような真似はもうできないんだけどな。
……ということはネフィリアとエリザを解放するタイミングをまた考え直さないといけないのか?
フライヤの場合、犯罪奴隷だから「出来るだけ早く解放」というわけにはいかないだろう。時間と吟味、相談が必要だ。
とは言えこれ以上にお買い得な優良物件はないというのは断言できる。後の事は未来の俺に任せよう。




