24:エリザ
エリザこと【エリザベート】は冒険者ルートにおけるメインヒロインの一人である。
見た目は綺麗なお姉さん。性格は清廉潔白。なのにナイスバディという「貴女、いかにもメインヒロインですよね?」と言いたくなるキャラクターなのだ。
職業は隠し職業と同等の扱いである【セイント】だし、高位の回復職でも敵わないスキルをいくつも持てる。
エリザベート専用のユニーク装備だってあるし、【AG】の世界に三つある隠しダンジョンの一つの出現条件が「エリザベートを仲間にすること」だったりもする。仲間にしない手はない。
当然人気はあるし、そもそもパッケージキャラということで見た目も割れている。
【デュッセル】の冒険者ギルドで【エリザ】として登場しても「おお、パッケージのあのキャラじゃん! 仲間にしなきゃ!」となるのが当たり前。
序盤に貴重な回復職でもあるし、エリザを加入させるためにせっかく作ったクリエイトキャラを解雇するプレイヤーも多いだろう。ちなみに初回プレイの俺もその一人である。
しかしエリザは今いるシュトローゼル王国から一歩でも出ると強制離脱する。
「申し訳ありません、わたくしには行かなくてはいけないところがあるのです」とか言って、いきなりいなくなる。初回プレイの俺は「は?」と取り残されるわけだ。
ふざけるな、と最初は憤慨するのだが、回復職の欠いた五人パーティーとなってどうしたものかと思い悩むはめになるのだ。
そして北部にあるエイリーン聖王国で加入イベントを熟すと【エリザベート】【職業:セイント】として再加入する。
その為、エリザベートを主力として使うのなら、シュトローゼル王国からエイリーン聖王国に直行し、速攻で加入イベントだけを終わらせ、その後南下して各国を巡り、聖王国に戻って魔族との最終決戦を迎える、というのが二週目以降の王道と言える。
それを知らなかった初回プレイの俺は、各国を巡った後で聖王国に行ったせいで『最終決戦にしかエリザベートがいない』という状態になり、育成したクリエイトキャラのほうが強くなってしまった。
もちろんちゃんと育成すればエリザベートのほうが強くなるのは当たり前である。しかし再加入イベントを起こす時期を間違えると『大して強くないパッケージキャラ』となってしまう。これも初回プレイの教訓である。
◆
で、そんなエリザベート……いや、今はまだエリザか。
冒険者ギルドで普通に仲間になるはずの彼女が、なぜか奴隷にされ、【白雷の虎】のアジトで実験体にされていたわけだ。
全く意味が分からない。どう考えてもおかしい事態に俺は頭を抱えた。
ゲームにおけるエリザは冒険者ギルドの受付嬢に三回話しかけるだけで、横から「すみません」と声を掛けられ普通に話して即加入という流れになる。準ユニークキャラにありがちな簡易的な加入イベントだ。
つまり最速でやれば【デュッセル】に来た初日に加入させることもできる。普通の冒険者、普通の【クレリック】として。
一方で【交易都市の裏の顔】というサブイベントは【デュッセル】の街中で発生するサブイベントを熟した先にあるチェーンクエストである。
普通に考えれば冒険者ルートの主人公が冒険者ギルドを利用するのは当たり前で、『【白雷の虎】壊滅』より『エリザ加入』のほうが先に発生するはずなのだ。
だからこんなところでエリザに出会うのもおかしいし、あのエリザがこんな状態になっているのもおかしい。
もしかしたら冒険者ギルドで出会う前に何かしらの理由で【白雷の虎】から解放されたのか、とも思ったのだが、そうなるとエリザの首に『隷属の首輪』があることがおかしい。
ゲームで出会うエリザは奴隷ではないし、奴隷がエイリーン聖王国で【セイント】……つまり聖女として認定されるとは思えない。ゲーム知識を持っている俺からすればどう考えてもありえない状況なのだ。
「――というわけなんだがどうしたものか」
「どうするもこうするもないだろう。捨て置ける状況でもないのだし」
「ちゃんと助けてあげましょうよ。かわいそうですよ」
「衛兵の元へ行けないのであればせめてちゃんとした奴隷商のところへ行ったほうが良いのでは? おそらく闇奴隷の状態でしょうし」
三人と相談した結果、とりあえず保護して宿に連れ帰ることにした。
ジンの時は意識もあったしただ麻痺している状態だったので捨て置いたが、全裸で気絶しているエリザをこのままにして帰るというのはさすがに忍びない。
三人にお願いしてインベントリから出した適当な服を着させ、フゥガに背負ってもらい、燃える屋敷を後にした。
エリクサーがどの程度の回復効果を及ぼすのかは分からない。
見た目は完璧に『俺の知っているエリザ』なのだが、目が覚めるのかも分からないし、起きた時に精神状態がどうなっているのかも分からない。
最悪の場合、診療所のような場所に預けるかもしれないし、闇奴隷の状態なので奴隷商に持っていくかもしれないし、適当な理由をつけて衛兵のところに持ち込むかもしれない。
しかししばらくは宿で保護し、目が覚めるか様子を見ようということだ。
すぐにどこかに預けない理由の一つは、もちろん「将来的にカーマイン陣営に入れる必要がある」ということ。
聖女の存在は魔族との最終決戦に必須だし、カーマインのメインパーティーに入れたい筆頭でもある。
なんとか奴隷状態から解放し、冒険者に復帰させ、カーマインと合流させられないものかと考えているのだ。
何なら「貴女を助けたのはカーマインという冒険者なんですよ」とか誤魔化してそちらに誘導してもいい。そのくらいの気構えでいる。
「魔族との戦いのために必要なことだとは聞いているがな。名誉がいらないことも、カーマインという英雄に戦力を集めることも。だがエリザという彼女のことを考えれば私は無下にはできん」
「かわいそうな目に会ったのは確かですし、ちゃんと助けてあげたいですよ。目が覚めるかも分かりませんが……せめて闇奴隷の状態はどうにかして差し上げたいですし」
「うん、それは俺もそう思う。……が、闇奴隷の解放ってどうやるんだ? そもそもどういう状態かも分からないんだが」
そんな話をしているのは街の外、人目に付かない森の中だ。
宿に戻った俺たちは昼頃まで寝て、未だ寝ているエリザをネフィリアに任せて、三人で森へとやってきた。
昨夜の戦果を整理し、売れるものを選別したりするためだ。死体からはぎとったりな。
そうした作業を行いながら、エリザについてどうすべきかと相談をしているわけだ。俺も悩んでいるところだったし。
奴隷と闇奴隷の違い。そんなものはゲーム内で語られることではない。
フゥガとカリンに相談しつつ色々と聞いたのだが、どうやら闇奴隷というのは『無茶な契約魔法をかけられた奴隷』ということらしい。普通の奴隷商でかければ罰せられるような犯罪的な契約ということだな。
これは奴隷商で契約魔法の更新のようなことをすると、闇奴隷から普通の奴隷になるのだとか。
「じゃあ奴隷からの解放っていうのはどうやるんだ?」
「聖教会で解呪ができるはずだが多大な寄付が必要と聞くな。普通の回復職では使えないようなスキルだか魔法だかアイテムだかを使うらしい」
「だから奴隷がいつまで経っても解放されないんですよね。冒険者となって稼ぐとか主人の恩赦でとか、それくらいじゃないと無理なんですよ」
「なるほどな」
だから奴隷の数も多いし、それが当たり前の世界なのか。
俺の知らなかった【AG】の世界観ではあるのだが……何となく聞きたくなかった感じがする。
ではエリザをどうしようか、という話なのだが、俺としては最終的にカーマイン陣営に行って欲しいわけだ。
その為には【セイント】になってもらいたいし、その為にはエイリーン聖王国で聖女認定される必要がある。
奴隷状態で聖女認定されるとは思えない。聖王国の『お国柄』的に。
ならば奴隷状態から解放し、冒険者として活動させ、実力をつけた後にカーマインと合流させるといった流れになるだろう。
二つ問題がある。
一つは「そこまで都合良くいくか?」という疑問だ。カーマインパーティーに必須な超重要人物だからこそ確実な方向に動かしたい。
冒険者としての実力アップ、カーマインへの合流、聖王国への帰郷と聖女認定。
ゲームではありえない状況になっているエリザが、そこまでゲーム準拠で進んでくれるものかという危惧がある。
特に「どこにいるかも分かっていないカーマイン」に出会うことと、聖女認定されるタイミングが微妙すぎる。
限りなく上手くいったとしても、最終決戦時には「大して強くないエリザベート」が出来上がってしまうのではないだろうか。
二つ目の問題は「俺たちが奴隷解放までさせてしまっていいのか?」という部分だ。
どれくらい金がかかるのかは分からないが、資金は十分にある。
しかしこのお金は俺だけのものではなく、今はパーティー四人のものだ。
魔王討伐という究極の無茶をお願いしている立場の俺としては、パーティーメンバーの強化のための資金としたい。強さだけでなく余裕のある生活を送ってもらいたいし、何なら最終決戦後の生活を安心して暮らせるくらいの金は出してあげたい。そう思っている。
その金をエリザの奴隷解放に使っていいのか?
エリザを解放したところで、「あとは勝手に頑張って何とかカーマインに出会ってね」と別れるんだぞ?
さすがに三人に申し訳ない。というかエリザ自身の性格を考えたら「分かりました。さようなら」と答えるはずがないとも思っている。
仮に「貴女を助けたのはカーマインだよ」と嘘をついても今現在、看病しているのは俺たちなのだし、そこに過分な恩義を感じてしまう性格だと思うのだ。エリザ、エリザベートというキャラは。
そこまで二人に相談することはできない。
俺は悩みを抱えたまま、とりあえず三人で分別を終え、夕方頃に宿へと戻ったのだ。
しかし部屋の扉を開けた途端――
「ジェイル様、この度はわたくしをお助けして頂き誠にありがとうございました。この身を賭しましてご恩をお返ししたいと思いますので何卒、貴方様にお仕えすることをお許し頂きたく――」
「ちょおおおっと待ったぁ!!」
これはマズイ。この流れはマズすぎる。
どう考えても俺のパーティーに入る流れだろ。ゲームになかった加入イベントであっても分かるぞ、さすがに。
脳内で高速演算し解決方法を探りつつ、時間的余裕を作るためにネフィリアに話を振る。
「ネフィリア、何を話したんだ?」
「私はご主人様に言われた内容でお伝えしようと思ったのですが――」
もし俺たちがいない間にエリザが目覚め、精神状態までもがエリクサーの効能により正常な状態を取り戻していたら、「貴女を助けたのはカーマインです」作戦をするよう申し伝えていた。
俺たちはたまたま眠っていたエリザを保護しただけで、助けたのはカーマインですよと。だから感謝するならカーマインにと。
そんな感じで伝えるようお願いしていたのだ。奴隷であるネフィリアがそこを違えるはずないだろう。だから俺も安心して出掛けたのだ。
ところが帰ってきたら加入イベントだったので驚いたわけだが、よくよく聞けば、エリザは例の実験室でも意識だけはあったらしい。
薬や魔道具の影響で身体はボロボロ。精神状態も確かにおかしい。喋れず、不自由を強制され、見た目は生きているのか死んでいるのかも分からない状態。
しかし意識はあったらしいのだ。
そもそもエリザが【白雷の虎】に拉致されたのはソロで冒険者をやっている回復役だったから、というのが理由らしい。
実験体にしても自分で回復できるから、傷つけられるたびに隷属の首輪で回復を強要されていたと言う。より生き永らえさせて色々と実験したいということだ。【白雷の虎】が想像以上にゲスすぎて吐き気がする。
ともかくエリザは最低限の回復により脳は生きており、意識もあったというのだ。
つまり俺たちが助け出したのも知っているし、俺がエリクサーを飲ませたのも知っている。(エリクサーだとは言っていないはずだが)
そしてエリクサーのおかげで完全回復したところで薬などの効果も消え、意識を失える状態にようやくなった、ということだ。
目を覚ましたエリザはまず、隣で待機していたネフィリアに礼をし、全てを伝えたという。
ネフィリアが嘘を伝える暇もなかったということだな。
しかしネフィリアは全てを説明するのは主人である俺の役目と、余計なことは喋っていないらしい。とりあえず助けたのは俺たちだということだけ知っている状態だということだ。
そこまで聞いて俺はまた悩んだ。
正直、エリザがかわいそうすぎる。ゲームの中では普通の冒険者からそれなりに華やかな聖女としての生活だけが描写されていた。(実際には聖王国内のごたごたや政治的なドロドロしたものがあったらしいが)
しかし現実世界のエリザは死ぬより辛い目に会っている。聞くだけでも心が斬り割かれるような話だ。
それで俺は「聖女になってカーマインパーティーに入ってくれ」と言えるのか?
無理だ。
同情、庇護欲、様々なものがこみ上げる。
メインヒロインとして、メインパーティーの一人として使い続けたキャラクターだからというのもあるだろう。
だから、とりあえずエリザの話を聞こうと思った。
なるべくエリザの好きにさせたい。エリザに幸せな日々を送ってもらいたい。
そうしてあげたいと思ってしまったのだ。
「――ですからどうぞ、わたくしを貴方様に仕えさせて頂きたいのです」
「分かった。任せておけ」
将来のことなど知るものか。カーマインのことも後で考えよう。
仮に闇組織がエリザに目を付けても撃退できるほどに強くする。
エリザが幸せな日々を送れるよう、俺に出来ることは精一杯やろう。




