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王道ルート拒否!~転生やりこみゲーマーはメインストーリーを避けて通りたい~  作者: 藤原キリオ


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23:白雷の虎



 【交易都市デュッセル】に蔓延る三つの闇組織の一つ、東の裏町を支配しているのが【白雷の虎】だ。

 闇金業者や闇魔道具の生産、麻薬なんかも取り扱っていて、商業面で【デュッセル】を暗躍している印象だ。


 他の闇組織よりも頭を使っているインテリヤクザというイメージなのだが、戦力的には【青の竜爪】に劣る。

 【青の竜爪】の場合、暗殺とかも生業にしているからジンのような【アサシン】や【シーフ】などもいて厄介なのだが、【白雷の虎】にはせいぜい【シーフ】が三人いるくらいだ。全く問題にならない。



 頭領は【白虎のトラッド】という男で、さすがに【ウォーロードLv35】と一番レベルが高く、無意味に上位職についている。さすがのイベントボスである。

 狡猾で安全重視な性格。インテリヤクザの組織をその頭と力で支配しているわけだ。

 だからこそ側近や幹部は【ガーディアンLv26】など力のある戦力で固めている。攻撃・防御・物理・魔法とバランス良く揃えているな。


 問題は安全重視の性格が故に、逃げたり隠れたりする可能性があることだ。

 ゲームではもちろん普通に戦えたわけだが、現実世界の今となっては「何者かが攻めてきた!? 逃げなきゃ!」となってもおかしくはない。トラッドという男はむさい巨漢の風体に反してビビリなのである。


 だからこそ一番危険性が高い【青い竜爪】を潰して、すぐに【白雷の虎】に攻め込もうと急いだわけだが――



「おう、てめえらか。西に乗り込んで暴れ回った四人組ってのは」

「【朱】の回し者か、コラア!!」

「てめえらやっちまえ!! 生きて帰すんじゃねえぞ!!」



 貧民街に足を踏み入れた途端にこの調子だ。

 本来、アジトの屋敷で待ち構えているはずの幹部がわざわざ貧民街の入口まで出張り、構成員三十人ほどを引き連れて待ち構えていた。


 やはり【青の竜爪】の構成員、全てを斃したわけじゃなかったのだろうな。逃げたヤツがいて、【白雷の虎】に助けを求めたか、それとも情報を売りに行ったのか。

 もしくは【白雷の虎】の構成員が西に潜り込んでいて、俺たちの情報を持ち帰ったか。……そっちの可能性のほうが高そうだな。



 とにもかくにも意気揚々と襲い掛かってくる【白雷の虎】構成員たち。

 そこに俺はまず<ナイトフォッグ>を放った。黒い霧が目の前に広がる。ただでさえ深夜だというのに月明りさえも見えなくなった。

 三人にはすでに作戦を伝えてある。それに従って、三人はすでに退き、近くの路地へと入っている。俺もそれに続く。


 黒い霧から抜けてきた構成員たちは俺たちを見つけ襲い掛かってくるが、そこは細い路地だ。

 三十人いようが一人か二人ずつ迫ってくるのが精一杯。そんなもの順々に斃していくだけだ。

 フゥガが止め、ネフィリアが射貫き、カリンが<ファイアランス>で後衛まで貫通させる。俺はほとんど死体処理だな。

 元々レベル差のある相手なのだ。各個撃破できないはずがない。はっきり言って楽勝である。



 俺は<ナイトフォッグ>を使い続けることで、敵後衛陣に殲滅の様子を見させず、逃げずに突っ込ませることを強いていた。

 しかしそれがいつまでも続くわけがない。

 二十人以上も斃され続ければ最後衛に陣取った幹部のヤツもさすがに異変に気付く。

 どこかに逃げるかアジトに報告に戻るか。それを許さないのが俺の仕事だ。レベル差とAGLの高さに任せて悉く斃していった。



「急ぐぞ。逃げられる前にアジトに乗り込む」


「「「はい!」」」


「ネフィリア、後ろで逃げそうなヤツを見つけたらやっちまってくれ」


「はい!」



 俺は先頭で道案内をしながら、構成員を見つけては速攻で斃し、インベントリに収納し、ひたすら貧民街の最奥を目指す。

 ちなみに【デュッセル】の闇組織構成員は見た目でどこ組織に属しているか、だいたい分かるようになっている。

 【青の竜爪】ならば『青い三本線』がトレードマークだったが、【白雷の虎】は『白い×印』が装備のどこかしらに付いている。

 まぁ<ナイトビジョン>を使ったところで見つけられないパターンもあるだろうから、取りこぼすヤツもいそうだけどな。出来る限りは殲滅する方針だ。



 【白雷の虎】のアジトは三階建ての商会のような感じだ。貧民街にあるまじき立派な建屋である。

 なぜならアジトは闇魔道具や麻薬の製造工場でもあるからだ。アジトの中にはいくつかの工房が内包されている。

 おそらく貧民街のどこかにも同じような工房があるとは思っている。アジトの中だけで全てを賄えるとは思えないからな。

 しかし『白い×印』でも付いていなければ分からないし、とりあえず無視しようかと思っている。


 というわけで【白雷の虎】のアジトに乗り込んだわけだ……が、案の定、アジトの中はお祭り騒ぎになっていた。

 貧民街の入口に送り込んだ構成員たちが全滅したのが伝わったのか、【青の竜爪】が潰されたのが伝わった影響なのかは分からない。ともかく慌ただしく深夜とは思えない様子だ。

 ゲームのように各階の部屋を巡って構成員や幹部を斃すまでもない。入口がすでに決戦場だ。



「チッ! 来やがったか【朱】の犬どもが! 野郎どもやっちまえ!!」

「「「うおおおお!!!」」」



 どうやら俺たちのことを【朱の怪鳥】の手の者だと思っているらしい。

 普通に考えりゃそうだよな。【青の竜爪】が潰されて【白雷の虎】に攻め込んでいるのだから。

 このままだと【朱の怪鳥】の一人勝ちだ。【朱の怪鳥】が【デュッセル】を支配するために送り込んで来たと思われてもおかしくない。



「陣を布け! 入口を背にして迎え撃つぞ!」


「「「はいっ!」」」



 敵は二十人ほどもいる。さすがにこれだけの数に群がられては遊撃気味に戦うことなどできない。

 フゥガを中心に陣を固め、多方向から襲い掛かる構成員を、レベル差によるゴリ押しで斃していくしかない。


 敵最後尾には【白虎のトラッド】も見える。幹部の連中と思われるものも後方だ。

 やはりトラッドは安全思考。自分の回りは固めつつ、雑魚の構成員を前に出すやり方しかしてこない。

 であればそれを順次狩るだけだ。スペースのある中で集団戦はやりづらいものの、十分にやれるはずだ。



「<ファイアストーム>! <グランドファイア>!」



 カリンの範囲攻撃と同時に、俺は街中で拾った爆炎石五個も使い切る。

 とにかく足並みを乱し、とにかく数を減らす。まずはそれだけに注力していた。


 しかし同時に「マズイ」とも思った。何気なく最速・最高戦果を狙える手を使ってしまったが、ここはゲームではない。現実世界なのだ。

 火属性の魔法なんか使えば屋敷は燃えるに決まっている。俺の爆炎石も同じだ。屋内で使うものじゃない。

 敵のアジトが燃えることに忌避感などないが、この中には回収したい財産があるのだ。

 ゲーム的なお宝(宝箱や隠しアイテム等)があるわけではないのだが、【夜霧の梟】や【青の竜爪】と同じように全てを接収するつもりでいる。



「くそがっ! ミディロ! 水魔法で火を消せ!」



 トラッドも慌てた様子で幹部の【マジシャン】に指示を出す。水魔法使いなんていたっけな? まぁとにかく俺たちにとっては助かる行動だ。

 敵の手数も減るし、屋敷も燃えずに済む。


 そうこうしているうちに敵構成員の数は減り続ける。やはりうちの三人は強い。

 これは俺のゲーム知識や影響などではない。三人の経験や素質によるものだ。

 明らかにゲームの『モブ』ではない。将来的にユニークキャラを超える性能になるだろうと、俺はこの時確信していた。



「チィッ!」



 最後尾にいたトラッドを常に警戒していたが、どうやらこのまま戦っても負けると分かったらしい。踵を返して階段のほうへと走り始めた。

 いかにもトラッドらしいと内心感心していた。安全思考の塊。自分の命のためなら部下の全てを犠牲にする。

 だからこの場を全ての構成員に任せ、一人で逃げ出したのだろう。



「この場は三人に任せる! 俺は頭を狙う!」


「「「はいっ!」」」



 Lv22~26の幹部数人が残っているので少々危険かもしれないが、三人に任せるしかない。レベル差があるから何とかできると信じたい。

 それよりもトラッドを逃がすことのほうが危険だ。


 ヤツは生き延びるためなら何でもやるし、伝手だって山ほどあるだろう。俺たちへの報復を考えてもおかしくはない。

 これから少なくとも半月程度は【デュッセル】で活動するつもりなのだ。常に警戒したまま生活なんてできるわけもない。

 じゃあ襲撃なんかするなよと言われれば何も言い返せないのだが。



 とにかく俺は<ナイトフォッグ>と<ナイトビジョン><ハイド>を全開にして敵陣を突っ切った。上階へと上るトラッドを追う。

 当然だが俺の方がAGLは高い。すぐに追いつくこともできた。

 しかしあえて俺はトラッドを泳がせた。<ハイド>している俺に気付くことなどできないだろうと確信もしている。


 ただ逃げるのならば上階に行く必要などないだろう。『何か』を持ち逃げするはずだ。

 案の定、トラッドは自室へと入り本棚を何やら操作すると、隠し扉が現れた。

 やっぱり隠し部屋といったら本棚の裏なんだな、と思いつつゲームの時にはなかった部屋の存在に興奮も覚える。



「!? て、てめえっ――ぐあっ!!」



 と、『何か』の場所さえ分かればそこで終わりだ。今の俺とトラッドのステータスを比べれば、わざわざふいうちを狙うまでもなく、真正面から圧倒できる。

 探索と回収は後回しだ。俺は急いで一階へと下りた……のだが、もうそこは終戦の気配だった。

 トラッドが逃げたせいで幹部連中も「速攻で斃して俺たちも逃げなきゃ」とでも思ったのかもな。

 そのせいでフゥガたちも手傷を負ったようだが、何とか踏みとどまったようだ。結果だけ見れば完勝に違いない。


 問題はカリンが頑張りすぎたせいで、未だに炎が燻っているということだ。敵の水魔法だけで消火しきるのは不可能だったということだな。



「三人は入口で待機しておいてくれ。ネフィリアの<エネミーサーチ>で何かしら見つけたら、そいつを処理しといてくれ」


「了解。くれぐれも深追いはするなよ?」


「欲を出し過ぎてお屋敷の全焼に巻き込まれないで下さいよ?」


「ああ、とりあえず行ってくるわ」



 まずは三階へと上がりトラッドの私室、その隠し部屋へ。

 中を覗いて見ればやはり金貨の詰まったいくつもの袋、宝石、見たこともない魔道具、あとはやはり書類関係だ。後ろ暗いものに違いない。

 それらを何も考えずにインベントリに収納し、足早に各部屋を回る。

 もう手慣れたものだ。すでに煙が二階、三階まで上がってきている。早さ重視でとにかく接収した。


 二階を回りきった頃、一階から「ジェイル!」とフゥガの大声が聞こえた。急いで階段を下りる。



「どうした!」


「ちょっと来てくれ! こっちに囚われている者がいるのだ!」



 は? という疑問が最初に上がった。


 【白雷の虎】のアジト襲撃で人質解放のようなイベントはない。この屋敷で構成員以外の人間などいないはずなのだ。

 そんなことを考えながらフゥガに続いて、一階のとある部屋へと到着した。



「うわぁ……なんだこりゃ……」


「ネフィリアが何者かの気配を感じたらしく覗いてみたのだが……このザマだ」



 そこはおそらく『実験室』だ。麻薬か闇魔道具の工房と繋がる一室に違いなかった。

 壁際にいたのは一人の女性。裸で首には『隷属の首輪』、手足にも鎖が繋がれ、それが壁に打ち付けられている。

 張り付けされたように項垂れる様は、生きているのか死んでいるのか分からないほど。

 髪はボサボサ、身体はボロボロ。逃げられることを警戒したのか左足首は喪っていた。


 性奴隷にされたのかは分からないが、薬物か魔道具の実験体として使われたのは間違いない。

 生きてはいるものの、ただ生かされているだけ。意識がどうなっているかも分からないように見えた。


 内心、「殺してしまったほうがこの人にとって幸せなのでは?」とも思った。それほど酷い状態に思えたのだ。


 しかし――助ける以外の選択肢は持てなかった。


 救世主となるつもりはない。フゥガやカリンを助けた時と状況は変わっているが、俺はどうしても自分が主人公ではなく『この世界のただの一般人』だと思っている。

 単にこの人にとっての元凶である【白雷の虎】を潰した責任があると感じたのだ。



 屋敷に火は回り始めている。手枷・足枷の鍵を探す時間はないと思った。

 <スターバースト>で無理矢理、鎖を切断し、壁から引きはがすように女性を自由にする。

 その上でエリクサーをインベントリから出した。これはチュートリアルステージで手に入れたものだ。

 換金に使わないで良かった。まさかこんな序盤で消費するとは思っていなかったが、この人を助けるにはエリクサーくらいでなければ無理だと思った。


 ゲームではただの完全回復薬。しかし現実世界となった今、エリクサーの効能というのは俺の想像以上にとんでもない薬だったらしい。

 ボロボロの身体は見る見るうちに復元されていき、喪った足首までもが見事に元通りになっていた。



「ジェイル、それは……!」


「ああ、これはたまたま手に入れたエリk――」



 と言いかけたところで俺は言葉をなくした。

 元になった身体、眠ったように意識を失くしたままの女性、その姿を見て俺は動揺していたのだ。


 ボサボサで汚れた髪は美しい金色の長髪へと変わり、痩せこけ目がくぼんでいた顔はあどけなさを残す美しい女性のそれ。

 白い肌、すらっとした体格に似合わない豊かな胸。

 何も身に着ていないから気付かなかったが、さすがによく見れば分かる。



 この人は――いや、彼女は【AG】(アーク・ジェネシス)のメインヒロインの一人。

 こんな場所で出会うはずのない人物。

 将来、エイリーン聖王国で聖女と認定され、英雄と共に世界を救うはずの一人。



 エリザこと【エリザベート】が目の前で眠ったまま横たわっていたのだ。





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