22:青の竜爪
何を売るかを厳選するため、俺たちはまず街の外に出ることにした。
入口付近から離れ、人目につかないところまで移動し、インベントリから色々と出してみる。
【幽霊屋敷】【梟のアジト】【闇金業者の家】から接収したあれこれだな。
「うわわわ、こんなに溜めこんでたですか!?」
「インベントリが容量を気にせず収納できるとは聞いていましたが、まさかこれほどとは……」
「まるで屋敷の引っ越しだな。商会に持ち込んだところで一度では売り切れないだろう」
そもそもマジックバッグに入る量ではないからな。店に持ち込んだところで誤魔化せるものではない。
いくつかの店に分散させるか、何日かに分けるか、何かしら考えないとダメだな。
と言うか、今夜の襲撃でまた増えそうなんだが……考えるのはやめておこう。明日以降の俺に任せる。
一番かさばっているのが家具だ。これは後回しにする。
調度品や雑貨をマジックバッグに移し、まずはそれを売ることにする。
それと問題は本だ。世に出しちゃいけない書類とかもあるからな。やたら売るわけにもいかない。
四人でざっと見てみたが、やはり闇組織と貴族の繋がりとか、とある大店が闇組織と組んで悪さをしてたとか、やばそうな書類がいくつも出てきた。
「領主の館にでも放り投げておくか?」
「私たちが持っていても宝の持ち腐れだからな。機を見て渡したほうがいいかもしれん」
「やたら捨てちゃうわけにもいかないですしね」
というわけで売れそうな本だけをチョイスして、それもマジックバッグに入れた。
そうした上で街へと戻り、売れそうな店を巡ることにする。
まずは一番大きな商会に行くべきだろうと、王都に本店がある有名な商会に行くことにした。
商店が専門店で、商会がデパートって感じだな。取り扱っている商品が幅広い。
調度品など貴族か大商人くらいしか買わないだろうし、取り扱う商会も限られるはずだ。だからこそこういった店に売るしかない。
「さる御方から譲り受けた調度品と雑貨類がかなりの点数あって、それを売りたいのだが」
「かしこまりました。査定いたしますのでこちらへどうぞ」
俺はどう見ても若造の冒険者なので嘗められるかもと思ったが、普通に誠実な対応をしてくれた。
もしかしたら足元を見られて安値で叩かれたかもしれないが、それを俺たちが知る術もない。
だからもう言われるがままに買い取ってもらった。少しでも現金化できれば俺は満足だ。
その後、書店にも行き同じように買い取りを頼んだ。
紙が普通にある【AG】の世界だが、それでも本となるとそれなりの値段にはなるらしい。
とは言えさすがは【デュッセル】。本屋も数軒あるらしく、その中で一軒を選んでまとめて売ることにした。
これまた安値で叩かれたのかもしれないが、俺としてはかなりの値段になったなぁという印象だ。だから文句などない。
まだ時間的余裕があったので武具屋も探してみた。
どこが良い店なのか分からなかったので、一度冒険者ギルドへ行き、おすすめの武具屋に行ってみることにした。
いくつか紹介してもらった中で選んだのは、大通りから少し入った小さな武具屋だ。
なんとなく商会のような大きな店ではなく、こじんまりとやっている鍛冶屋みたいなところのほうが「職人の腕で勝負してます!」という感じがして良さそうに思ったのだ。
「おう、らっしゃい、兄ちゃん新米冒険者……じゃねえな。ランクは?」
入ってみればガタイの良い髭面のおっさんがいるだけの店だった。俺の第一印象としてはかなり良い。これこれ、こういう店だよ、という感じだ。
「ランクはDなんだけどね、訳あって装備だけは立派なんだよ」
「それにしちゃあ着させられてるようには見えねえけどな。腕も相当だろ? うちで買うならそっちの嬢ちゃんの鎧か?」
「それも考え中なんだけど今日は別件でね。こいつの加工をお願いできないかなと」
そう言って俺はマジックバッグ(に見せたインベントリ)からカイザーウルフ素材とフォレストウルフなどの売り切れなかった素材、さらに【夜霧のベルゲッツィ】の装備品などを出して見せた。
「うおおおお……なんだこりゃすげえな! この辺の魔物じゃねえだろ」
「西方の森にいたカイザーウルフってやつなんだけど、これとこっちの素材とかを合わせて彼女と彼女の服とかを作ってほしい」
まず強化すべきはフゥガとカリンのインナーだなと。
特にフゥガの場合、鎧や盾などは宝箱などからも手に入るが、鎧下などは自分で作るしかない。
強化する部分が限られている装備箇所だからこそ、今のうちに強い魔物素材を使って作っておきたいと思うのだ。
カリンの服も同じだな。ローブはいくらでも良いものがあるが、その下に着る服は強化する機会が少ない。だからこそ作ってしまいたいというわけだ。
俺やネフィリアは斥候用装備が服みたいなもんだからな。わざわざ作る必要はない。
「素材が余ればついでに靴も作って欲しいところなんだが」
「いけるだろ。これだけ色々とあるんだから楽勝だ」
「じゃあそれも頼む。あとこっちの装備は彼女に合わせて調整できないかなと」
「こりゃあいい装備だな。兄ちゃんの装備より良くなっちまうけどいいのか?」
「俺の方はちょっと考えていることがあるんでね。とりあえず彼女優先で」
今のネフィリアの装備は俺の一段下って感じだ。それをベルゲッツィの装備にすることで俺より一段上になる。
おっさんには適当に言い訳したが、単純に俺の方が被弾は少ないと思うんだよな。前衛だけど敵の行動パターンも知っているし、スキルの使い方も俺の方が巧い。
だから装備を強くするならネフィリア優先かなということだ。
まぁネフィリアも転職すると斥候職ではなくなるから装備できなくなるんだけどな。
そうしたら俺の装備にまた手直ししてもいいし。
というか俺の転職先もまだ悩んでいるから斥候職になるかは分からないのだが。
ともかくおっさんは良い素材を使えるし、良い仕事ができそうだと気合いが入りまくっている。
ならばこのまま任せてしまおうと、三人にも確認し、おっさんに頼むことにした。
各人のサイズを測り、動きを伝え、俺も横から口出しし、あとは好きに作ってもらう。
出来上がりは全部で六日ほどかかるらしい。その頃になったらまた取りに来よう。
◆
宿へと戻り、仮眠をとって夜になってから起きた。
カリンが爆睡してたがフゥガが叩き起こしていたな。何とも申し訳なくなる。
「さて、じゃあ行こうか」
「「「はい!」」」
四人で行くなら<ハイド>など使う意味がない。外套を被り、なるべく人目につかないよう動くつもりだが、誰にも気付かれないなど不可能だ。
必ず人目につくだろうし、それでも迅速に事を運ぶ必要がある。
近付くヤツは手早く斃してインベントリに入れる。見敵必殺。即殲滅の気持ちで臨む。
まずは西側、【青の竜爪】のアジトを目指す。
二つの闇組織のうち、こちらを先に選んだのは【青の竜爪】のほうが厄介だからだ。体力のあるうちに危険なほうを、ということだな。
人数や平均レベルに差はないが、【青の竜爪】の場合、【アサシン】などの斥候職が八人ほどいるので、それが厄介に思える。
単純に三人が暗殺される危険があるのと、こちらを素早く発見されるリスクが高いということだ。
おまけに幹部の一人に【ジン】がいる。普通に戦っても強いヤツなのだが、こいつは殺すわけにはいかない。
将来的にカーマイン陣営に加わって欲しい人材なので、せめて無力化に留めておく必要がある。できればカーマインを紹介したいくらいだ。
というわけで、こっそりと西の貧民街に向かいつつ、三人と打ち合わせる。
「三人には俺から少し離れて付いてきてもらいたい。出来れば三十メートルくらい。ネフィリアが俺を察知できるくらいの位置で」
「それではジェイル一人で突っ込むのと変わらないのではないか?」
「<ナイトフォッグ>と<アサシンエッジ>でふいうち暗殺を狙うから一人で突出する形が望ましいんだよ。後ろからフォローしてくれたほうが助かるな」
「もしかして私たちが付いてきたのは足手まといですかねぇ」
「いや、そこらじゅうから湧いて出てくるから俺一人だと絶対に討ち漏らしが出る。それを処理してもらいたいんだ。出来れば逃げるヤツとかも極力斃して欲しい」
それに俺が<ハイド>して三人が目立てば後方にヘイトが集まるだろうから、そこでも<アサシンエッジ>が狙える。
囮っぽく言うのは気が引けるので言わないがな。
そう伝えて俺たちは貧民街へと足を踏み入れた。すでに俺は<スニーク><ハイド>を全開にしている。
もう深夜と言える時間帯なのだが、さすがに裏町には起きているヤツもいる。
浮浪者とか孤児とか酔っ払いとかもいるので、誰にも見つからないという訳にはいかないだろう。
俺はともかく三人は外套で身を隠しているだけだからな。どうしたって隠れ続けることはできない。
俺はその中から【青の竜爪】の構成員を選んで暗殺し、即座にインベントリに収納するというのを繰り返しながら進む。
と言ってもさすがにただの浮浪者や孤児を殺すわけにはいかない。【青の竜爪】の構成員だな、と分かるヤツだけだ。
ヤツらはトレードマークのように『青い三本線』の何かしらを身に着けているからな。それで判断するしかない。
おそらく討ち漏らしなどもあるだろうが、それはもう諦める感じだな。
なるべく俺が始末しようとは心掛けたが、通り過ぎたあとに異変を感じて長屋から出てくる構成員などもいる。そこはもう三人にお任せだ。
いくら闇組織の構成員だからと言って人殺しには違いないので、ちゃんと斃せるかなぁと思っていたのだが、どうやら全く問題ないらしい。
最終決戦では魔族軍を相手にしなければいけないので、それを考えれば良い収穫である。魔族だって人種には違いないからな。
狭く入り組んだ貧民街をなるべく早足で進み、見えてきたのは最奥の館。周囲の建屋と比べれば不自然なほどに大きな豪邸だ。
庭があるわけではなく道沿いに正面玄関がある感じは宿屋のようにも見える。
当然のように入口には見張りが立っており、貧民街の様子がおかしいことにも気付いた様子だった。すでに剣を抜いている。
とりあえず<ナイトフォッグ>と<アサシンエッジ>を試みたがふいうち判定になっていたかは微妙だ。俺の存在に気付いていた可能性もある。
とか言え相手はLv20前後。【暗月の短剣】をもってすれば普通に斃せるので問題はない。
同じ構成員でも【夜霧の梟】のほうが若干強いんだよな。そっちのほうがサブクエストを受けられるタイミングが遅いから当然なのだが。
ただこちらは人数が多い。現実世界の今となっては逃げだすヤツだっているだろうし、そういう意味では厄介だ。
俺たちの存在が広まる可能性があるからな。そうなればなるべく早く【デュッセル】を出ていくはめになるかもしれない。
速攻で殲滅しよう。改めてそう思い、屋敷に突入した。
「なにもんだてめえ!!」
「ここがどこだか分かってんのか!!」
案の定、構成員が待ち構えていた。さすがに寝ているようなこともないらしい。
もう<ハイド>も意味がない。ここからは正攻法の連続戦闘だ。
「三人とも入って来い! 入口で対処だ!」
玄関に陣取っての集団戦闘。本当は逃げ出すヤツを索敵する意味で屋敷の外に配置したかったが、屋敷内の連戦のほうが激しいはずだ。こちらは四人で連携し戦ったほうがいい。
問題はネフィリアだな。俺たちのパーティーに加入してからまともな戦闘経験がない。
それで連携がとれるものかと思ったのだが……どうやら五十年の冒険者経験というのは伊達ではないらしい。
前をフゥガが張り、後ろをカリンとネフィリアが並ぶ形で綺麗な三角形になっている。正面と左右の通路も警戒している。
「ネフィ! 外から入ってくるヤツも警戒しておいてくれ!」
「はいっ!」
証人が逃げることも考え、名前を呼ぶわけにもいかないと咄嗟に思ったわけだが、どうやら伝わったらしい。
三人が玄関を固めている隙に俺は遊撃として暴れる。
どんどんと集まってくる構成員。特に気を付けるべきは斥候職だ。
俺はそいつらを優先して斃そうと、スキルを駆使しつつステータスと装備を頼りに即殺していった。
「てめえら何してやがる!! どこのもんだコラア!!」
本当は一階を殲滅してから二階に上がり、幹部や頭領を斃すつもりだったのだが、やはりゲームとは勝手が違うらしい。
騒ぎを聞きつけて、俺たちを一気に殲滅しようとなだれ込んで来た。
正直、こっちのほうが厄介だ。各個撃破のほうが楽に決まっている。
ちなみに頭領は【青竜のブラウリー】という【デストロイヤーLv35】の男。
イベントボスらしくこの世界に相応しくない上位職なのだが、レベル自体は【夜霧の梟】よりも下だ。
武器が大型のポールアクスということもあり、とことん破壊力重視という感じ。
できればフゥガに抑えておいてもらいたいところだが、その前に――
「ネフィ! 右奥で<ハイド>している【アサシン】は分かるか!」
「はいっ!」
「そいつを麻痺らせろ!」
「了解! <パラライズアロー>!」
指示すると同時に俺はインベントリから『睡煙玉』を投げつける。クラフトで作った投擲武器だ。『毒煙玉』と同じように睡眠状態にする効果がある。まぁ瞬時に爆睡するような代物ではないのだが。
投げる相手はもちろん【ジン】だ。
おそらくこちらの隙を見て暗殺するつもりだったのだろう、後方で<ハイド>したまま様子を窺っていた。
しかしこちらには<エネミーサーチ>を使える者が二人もいる。これだけ近くて意識を割ける状況なら<ハイド>も十全に活かせない。
ジンはこの時点では優秀すぎる斥候職ではあるのだが、状態異常耐性の装備は持っていない。REGもそこまで高いわけじゃないしな。だから俺とネフィリアで睡眠と麻痺を狙ったのだ。
効果は確かにあった。ネフィリアの矢は避けたようだが、睡煙玉はまともにくらった。
一瞬、ぐらつく身体。そこに追撃の<パラライズアロー>が刺さり、ジンはその場で倒れ伏せた。
そうなればあとは殲滅するだけだ。
頭領以外は俺たちよりもレベルが下。こちらはスキルを使いまくり、相手は通常攻撃ばかり。ならば結果は火を見るより明らかだった。
二十分くらいは戦い続けた気がする。途中でMPポーションを飲みつつ戦闘を継続していた。
全てを斃しきった後は三人も座り込みそうになっていたほどだ。
死体を順次インベントリに収納しつつ、俺はジンに近づいた。
麻痺して動けない状態のジンは、目だけで俺を見る。おそらく死を覚悟しているのだろう。
しかし殺すわけにはいかない。倒れたままのジンに向けて俺は声をかけた。
「カーマインという冒険者を探せ。それがお前の闇を晴らす者。そこでお前は新たな道を見出すだろう」
俺なりに精一杯、中二病っぽいセリフを吐いてみた。外套で顔は隠しているので、赤面していることは気付かれないだろう。
これで中二病のジンがカーマインに興味を持ってくれたら万々歳だ。
「三人は玄関の中と外の警戒を継続していてくれ。速攻で回収してくる」
「ああ、分かった」
何を選別するとかはしない。目につくものからインベントリに突っ込んでいく。
十分ほどで屋敷中の荷物は全て消滅した。ジンに秘密を教えているのも同じだが、こいつは誰かに吹聴するようなヤツじゃないからな。というかまともな会話ができないタイプだし。放っておく。
大型の金庫もあったが、どこに鍵があるのかも分からない。仕舞いこんだ家具か、ブラウリーの荷物のどこかにあるのだろう。調べるのは明日以降の話だ。
それから四人で屋敷を後にした。倒れ込んだジンだけを残して。
おそらく生き残った構成員とかもいるだろうし、そのうち助け出されるだろう。と期待しておく。
貧民街を出るまで敵討ちのように構成員の襲撃があるかとも思っていたのだが、そのような様子もなく、無事に大通りまで抜けることができた。生き残りがいないわけがないと思うんだけどな。見つからないものは仕方ない。
「さて、三人はどうする? 疲れたのなら宿で休んでいてもいいぞ?」
「さすがに付いて行くべきだろう。先ほどの連中を見れば尚更だ」
「同じような闇組織なんですよね? だったらやっぱりジェイルさん一人じゃ危険ですよ」
「私もお供します」
「んじゃ四人でまた隠れながら行くか。もうひと働き頼むわ」




