21:デュッセル探索
早めに仮眠をとらせてもらった俺は夜になってから動きだした。
まだ同部屋の三人は起きていたので「ちょっと行ってくるわ」と軽く言う。
くれぐれも気を付けてと念を押されたが、今日はあまり危険なこともない。
初めて訪れた街はまず探索すべき。これはゲーマーの基本である。
【ベレッサ】と違って【デュッセル】は夜もある程度賑やかだ。
大通りは飲み屋を中心に騒がしいし、裏道に入れば夜だからと活発に動く連中もいる。
そんな中、俺は<スニーク><ハイド>を全開にして探索を始めた。
他人の家には入れない(勇者行為はできない)ので道端に落ちているものしか探れないのだが、やはり大きな都市だけあって回れる場所も多いし、拾えるものもそこそこある。
とりあえず記憶を頼りに回れるだけ回り、集めたものがこちら。
=====
・現金5,200mil ・ポーション三本 ・解毒薬一本
・MPポーション三本 ・抗麻痺薬一本
・敏捷の実 一個 ・体力の実 一個 ・棒真珠のネックレス
・鋼の剣 ・爆炎石 五個 ・毒煙玉 三個
・白い花束 ・魅惑の香水
=====
まぁ【ベレッサ】よりはマシか、というレベル。それでもゲーマーとして拾わない手はないのだ。
【棒真珠のネックレス】は毒無効の効果。これが一番の収穫だな。前衛の俺が装備して【そよ風のスカーフ】はネフィリアに渡そう。
【爆炎石】は【爆火石】の強化版。でも大したダメージは出ない。
花束と香水はクエストアイテムだな。明日以降に依頼人に渡せばいいだろう。
俺はその足で闇金業者のもとへと走った。場所は南東、大通りから一本奥に入ったところにある。
裏道と言えるほど深くはないし、かと言って目立った店舗でもない。見た目はただの商店だ。
クエスト名【若き店主の苦悩】。
ゲーム的には何の店だから分からなかったが、とにかく小さな店の店主が依頼主だ。
経営に困って金を借りたらとんでもない暴利で、もう店を畳むしかないとかそんな感じで悩んでいる。
そこから「あの金貸しを斃してくれ!」となるのだが、どう考えても暴論だ。
証文を良く読めよとか、衛兵に相談しろよとか、証文取り戻すだけでいいじゃん、殺す必要ないじゃんとか言いたいことは多々あるが、結局は「まぁゲームだしな」と割り切るしかない。
そんなわけで俺は依頼も受けずにその闇金業者を襲撃することにした。
悪事を働いているのは確定しているので世の摂理に従っての討伐である。(暴論)
ゲーム的に言えば、その店舗に乗り込んだ段階で警報のようなものが鳴り、次から次へと用心棒が現れる。
どれも【白雷の虎】の下っ端構成員なのだが、闇金業者も含めて【白雷の虎】と繋がっているわけだな。
これが後の【交易都市の裏の顔】というクエストに派生するわけだが、それは一先ず置いておこう。
ともかくそうして幾人もの下っ端と連戦し、最終的には闇金業者も斃して、クエストクリア。
証文を取り戻した描写はなかったので解決に至っていないと思うのだが、クエストとしては完結である。
おそらく【白雷の虎】が再びその証文を手にすると思うのだが……少なくともゲームで語られることはない。
俺はまず警報を鳴らさずに済むものかと、裏口からの侵入を試みた。
しかし出入り口は正面玄関からしかなかったようで、仕方なく店舗の裏から塀を使って二階へと飛び移り、窓を割って侵入することにした。ステータス様様である。
警報を鳴らすよりも窓を割ったほうがまだマシだろうと、なるべく音を立てないように気を付けながら侵入した。
……が、そこでハプニングである。
なんと侵入した先が例の闇金業者の寝室だったのだ。
窓を割った音にも気付かず、大きないびきをかいて眠っている。近くのテーブルに酒があったので泥酔しているのだろう。
あとは言うまでもない。寝込みを暗殺して終わりだ。
そして寝室の家具やら何やらを全てインベントリに入れ、普通に寝室を出る。
まだ終わりではない。構成員はなるべく斃したいし、この家のあらゆるものを接収するつもりである。
二階の部屋を回り、仕事部屋から書類関係も入手。おそらくこの中に証文などもあるだろう。
本棚を収納すると後ろから隠し部屋への入口も見つかり、そこも探索した。
そこはちょっとした宝物庫だ。金の入った袋が積み重なっていた。
宝石やアクセサリなどもある。金ぴかの剣やサークレットなどもあったが明らかに装備品ではない。ただの装飾品だ。
ただ一つ、有用な装備品として【紫晶石の指輪】というのがあった。これは魅了無効の効果だな。使わせてもらおう。
書類もあったが、おそらく闇組織との繋がりや後ろ暗い事実が記されたものに違いない。とりあえず回収。
二階を探索し終えた俺は一階へと下りていく。
すると案の定、用心棒たる構成員が寝ずの番をはっていた。おそらく一階の各部屋に何人も寝ているのだろう。
なるべく騒がれないよう<ナイトフォッグ>と<アサシンエッジ>のコンボで始末していったのだが、やはり起きてくる構成員もいた。一人が起きればあとは数珠つなぎだ。
しかしこいつらは【夜霧の梟】とは違う。斥候職の集団ではない。
【デュッセル】の闇組織全般に言えることだが、ほとんどの構成員は剣士系か格闘系なのだ。【アサシン】どころか【シーフ】ですら幾人かしかいない。
つまり何が言いたいかと言うと――こいつらは<ナイトフォッグ>を対処できないのだ。
通路や部屋を黒い霧で満たしてしまえば、俺の姿を捉えることができない。それは『ふいうち』が確定することを意味する。
そうして俺は<アサシンエッジ>祭りを行い、無事に殲滅することに成功した。全部で十二人だったな。
あとは建屋の中を巡って接収を繰り返すだけである。明らかに無駄な家具や食料も軒並み回収した。
そのまま玄関から出てしまうと警報が鳴ってしまうので、まだ寝室へと戻って窓からおさらばだ。これで【若き店主の苦悩】クリアである。受けてないけど。
続いては街の西方エリア、はっきりと裏町と分かる貧民街へと足を運んだ。
【ベレッサ】の貧民街より明らかにヤバイと分かる。汚さとか人の様子とかもそうなのだが、空気感がまるで違うのだ。
<ハイド>していても「いつどこで刺されるかも分からん」といった恐怖に駆られる。
ここら辺は【青の竜爪】の管轄だからな。暗殺も生業にしている連中だから他の闇組織に比べて斥候職の構成員が多めなのだ。
【デュッセル】は北が【朱の怪鳥】、東が【白雷の虎】、西が【青の竜爪】とだいたいの管轄が決まっている。
つまり明日は四人でこの貧民街に来ることになるわけで……みんな大丈夫だろうか、と心配になった。まぁダメそうなら俺一人でやればいいのだが。
とは言え、【青の竜爪】のアジトは貧民街の最奥だ。
今日用事があるのは貧民街の入口。並ぶ長屋の一角にある、「青い三本線」が描かれた家だ。
家主が【青の竜爪】だとアピールしているわけだな。実際は下っ端構成員なのだが。
クエスト名【家宝の剣を取り戻して】。
依頼主はどこぞの貴族の坊ちゃんで冒険者でもある。冒険者ギルドの酒場にいるのでそこで受注できるわけだ。
依頼内容は単純で、街のごろつきに家宝の剣をとられたから取り返して欲しいというもの。
窃盗にあったのか単純にぶんどられたのかは分からん。とにかく取られたらしい。そして自分の実力じゃ取り返せないらしい。
というわけで俺が取返しにきたわけだが、クエストを受注してないのにごろつきが家宝の剣を持っているかは不明だ。
もし持っていたらいいなぁくらいのつもりで略奪に来た。
どうせ明日は【青の竜爪】を潰すしな。遅かれ早かれ斃すことになるので、今のうちにやっておこうというだけだ。
そうしてごろつきの家にやってきたわけだが、闇金業者の家と違って裏から回り込むといった真似ができない。長屋だからな。
正面から堂々と入るしかないのだが……周囲には道端で座り込んでいる浮浪者などもいるわけで、どう足掻いても見つかるだろうし、騒ぎになるかもしれない。
どうしたものかと考えた末、もう入る前から<ハイド><ナイトフォッグ>を全開にして突っ込み、速攻で終わらせようと決めた。それしかないだろう。
意を決して俺は作戦を決行したわけだが、入口の扉はつっかえ棒のようなもので戸締りされていた。真面目なごろつきである。
仕方ないので<スターバースト>で木製の扉をぶち破った。
おそらくごろつきは寝ていたのだろう。明らかに慌てて起きている様子が見えた。
「な、なんだてめえは! 俺様を誰だt――」
イキっている隙に速攻で刺し殺した。そして即座に死体をインベントリに収納する。この一連の動作にも慣れてきた感があるな。
狭い屋内を見渡せば、家具やら装備品やらがちらほらある程度。
そして堂々と壁に立てかけられた剣が目に入った。
=====
黒曜石の直剣:STR+30
=====
ラッキーだ。やはり依頼を受けていなくてもイベントアイテムはあるという証明である。
ちなみに黒曜石の直剣は【デュッセル】で売られている剣よりは強力であるものの、決して貴族の家宝となるような性能ではない。依頼人が勝手に「家宝の剣」だと言っているだけである。王都では普通に売ってるしな。
しかしフゥガに良いお土産ができたのは確か。良い収穫だったのは間違いないだろう。
こうして【デュッセル】初日の夜探索は終了した。
宿に戻ったらネフィリアだけは起きていた。というか俺が帰って来たタイミングで起きたらしい。
「起こしちゃってすまんな」(小声)
「いえ、ご無事で何よりです」(小声)
「明日、みんなに報告するからとりあえず寝よう」(小声)
そうして短い睡眠時間を確保し、朝食もギリギリの時間になってようやく起こされた。
気を使ってなるべく寝かせてくれたらしい。
朝食を食べてから再び部屋に集合し、改めて昨夜の成果を報告する。
「――という感じで収穫はかなりあったな。想定以上なのは間違いない」
「聞く限り相当危ない橋を渡っている感じですけどね……ジェイルさんが平然としているので錯覚してしまうです」
「少なくとも私たちを救った時より余裕があったのは分かる。しかし素直に喜べない感情もあるのが困ったところだな」
「よくやろうと思ったし、よくやれたものです。やはりご主人様は私の考えなど及ばない御方なのだと改めて感じました」
心配させて申し訳ない気もするが、俺としては極力安全にいったつもりなんだよな。
ただそこはゲーム知識ありきの行動なので説明できない部分もある。それが代えって申し訳なくなるところだ。
しかし【家宝の剣】もそうだが、闇金業者が蓄えていた現金が想定以上に多かった。
ゲームの時は闇金業者を斃して終わりだったからな。隠し財産があれだけあったのは意外だ。
おかげでかなり余裕ができた。奴隷を買うにしても、装備を揃えるにしても。MPポーションだって大人買いしたいしな。
「装備品が手に入ったので交換しよう。【棒真珠のネックレス】と【紫晶石の指輪】は前衛の俺が付けるから、【そよ風のスカーフ】と【耐呪の腕輪】はネフィリアに渡す。首輪もスカーフで隠せるだろう」
「ありがとうございます。お気遣い頂いて」
「あとフゥガに【黒曜石の剣】だな」
「ありがたく頂く。いきなり立派な武器になったな」
「私の杖とローブよりマシです。未だに分不相応ですし」
それでもまだ全然、最終装備にはほど遠いけどな。
カイザーウルフ素材で何かしらできればとは思っているが……武具屋を回ってみての様子だな。
「今日は夜にみんなで出掛けるから早めに宿に戻って仮眠をとる」
「お出掛けって言うとアレですけど実際は死地に赴くような感じなのですよね……」
「無理そうなら言えよ? 途中で帰るとかもアリだからな? そしたら俺だけで片付けてくるし」
「そうやって簡単そうに言われると、じゃあ大丈夫かという気になってしまうのだ。困ったものだ」
「とりあえず今日は色々と売る先を見に行くか、武具屋を回って注文だけするかって感じだな」
「分かった。ではそうしよう。本番は夜なのだしな」
カイザーウルフ素材で何か作るか、というのと、【夜霧のベルゲッツィ】の装備品を俺たち用に手直ししてもらいたいんだよな。
俺用とするかネフィリア用にするかが迷いどころなのだが。
とりあえず武具屋と相談して決めようかな。




