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王道ルート拒否!~転生やりこみゲーマーはメインストーリーを避けて通りたい~  作者: 藤原キリオ


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02:チュートリアルステージでやるべきこと



 【AG】(アーク・ジェネシス)はオフライン型のVRMMORPGであり、その売りは、自由度とやりこみ要素の多さだ。

 メインストーリーは幾重にも分岐し、エンディングは多岐に渡る。何周もすることが前提のようなゲームであった。とても一周で堪能できるようなゲームではない。


 戦闘職に就いて魔物と戦うか、商人になって店を持つか、功績を得て貴族を目指すというルートもある。

 どのルートも最終的にはラスボスと戦うはめになるのだが、ルートによって場所もタイミングも戦闘方法も異なる。非戦闘職が戦闘職と同じようには戦えないということだ。


 貴族になれば兵を率いて戦うし、農夫になればその村にラスボスが襲って来る。

 いずれにしても最終戦には立ち会うこととなり、結果、世界を救った一人としてエンディングを迎えることとなる。

 理不尽にも思えるが、制作側からすればラスボスとどうしても戦わせたかったということだろう。【AG】(アーク・ジェネシス)が「戦闘職のほうがクリアしやすい」と言われる要因でもある。



 最初のストーリー分岐点となるのがチュートリアルである。

 主人公は生まれた村を出て、初めて立ち寄った街でチュートリアルを経て職業(ジョブ)を得る。それによってストーリーの方向性を決めるのだ。


 この世界の住人は職業(ジョブ)を得るために教会(通称:聖教会)の『祈りの間』で祈りをささげ、神から教えを受ける必要がある……という設定だ。それが即ちチュートリアルである。

 そして教えを受けるために精神が飛ばされる場所が、チュートリアルステージ……今俺のいる場所だ。


 つまり主人公めいた存在である俺は、実際のところ祈りの間で祈りをささげている状態であり、チュートリアルを受けている今の俺は『精神世界に飛ばされただけの精神体』であるということ。

 時間の経過しない夢の中という感じだ。

 何かが間違って死ぬようなことがあっても普通に祠から復活する。まぁチュートリアルで死ぬというのは魔物相手にわざと負けるような真似をしない限りないのだが。



「しっかしこんなに綺麗だったのか、チュートリアルステージは。精神世界って言うより神界とかそんな感じだな」



 チュートリアルステージは半径三百メートルほどの空中庭園という感じだ。

 綺麗な庭園の周りには森があり、ちょっとした小川や泉なんかもある。

 端は見えない壁になっていて侵入不可だったが現実世界となった今はどうなっているか……試したいとも思わないが。


 森には魔物が出るがスライムなどの弱い魔物で、しかもチュートリアル用に弱体化されている。クエストをこなすためにはそいつらを斃さないといけないな。

 ……と、考えてはいるものの、それは後の話だ。

 今はその前段階として木人相手に短剣を振るっている。


 庭園の脇にはちょっとした修練場がある。そこは武器の「試し切り」を行う場所だ。

 VRMMOでは実際に動いて戦うからな。武器など扱ったことのないゲーマーでもちゃんと練習できるよう修練場が用意されている。

 冒険者ギルドの中庭にも同じような修練場はあるし、街の外に出ればそれこそ弱い魔物も出る。練習相手には事欠かない。

 しかしチュートリアルステージの修練場だけの特権がある。

 だからこうして木人相手に短剣を振るい続けているのだ。



「99……100! よし、次は<クロスエッジ>だな」



 普通にプレイすれば五分から十分程度で終わるチュートリアル。

 どの『信仰』『武器』を選んでも、チュートリアルクエストは三つだし、大体そのくらいの時間で終わるようなものだ。

「こんな感じで戦いますよ」「こういうシステムのゲームですよ」と教えるためだけの時間にすぎない。


 しかしやりこみ勢からするとチュートリアルの意味合いも変わってくる。

 大事なのは二つ。

『時間が経過しない』ということと『武器の耐久値が減らない』ということだ。


 冒険者ギルドの修練場でも同じようなことはできるが、木人相手に切り続けていると、武器の耐久値が落ちてしまう。もちろん魔物相手でも同じだ。

 耐久値がゼロになれば壊れてしまうし、減った耐久値は鍛冶屋でお金を払わないと直せない。

 ところがチュートリアルステージならば切り放題だ。いくら攻撃しても耐久値は減らない。

 だからこそ時間と手間のかかる『熟練度上げ』をある程度チュートリアルで済ませてしまう、というのがやりこみ勢の常識になっていた。


 職業(ジョブ)に就いていないのでスキルを覚えているわけではないが、いくつかのスキルは『その型どおりに動く』ことで使った判定(・・・・・)になる。

 実際にスキルを使用したわけではないからMPも減らないのだ。ただ『そのスキルを使った』という判定だけは残るらしい。

 これは発売から二週間ほどで発見された裏技的な何かだがバグではない。現に何回パッチが当たってもこの『未収得スキルの熟練度上げ』は確認されていた。制作側も承知の上で残していたということだ。


 デメリットは時間がかかるということ。ゲーム内時間は経過しなくてもプレイ時間は延びるわけだし、いつまで経ってもチュートリアルが終わらない。地味な作業すぎて飽きもでる。

 しかしチュートリアルが終わり職業(ジョブ)に就いた段階で、戦ってもいないのにスキルを覚え、尚且つスキルレベルも高くなっているわけだ。序盤の戦闘が優位になるのは間違いない。

 おまけに金欠の序盤で鍛冶代も浮くしな。時間があるならやるに限る。


 というわけで、チュートリアルクエストなど放っておいて、まずはとばかりに熟練度上げに勤しんでいるわけだ。

 俺だって序盤の有利は作りたい。ノーデスが義務付けられたこの世界で死ぬわけにはいかないのだ。



 いくつかのスキルを百回ずつ。これを一セットとし、何セットやるか。これはもうプレイヤーのさじ加減一つだ。

 一セットだけやってスキルを使える状態にするも良し。MAXまで上げようと思ったらリアル時間で数日かかるのでそこまでやるのは限られた変態だけだが、俺としてはある程度伸ばしておきたい気持ちがある。


 そうして延々と木人相手に短剣を振り続けていると、やはり時間が経過していないことに気付く。

 太陽の位置も変わらないし、腹も減らない。何なら動き続けているのに体力も減らないのだ。

 改めてチュートリアルステージの特異性を実感した次第だ。なるほどこれが現実世界における精神世界なのかと。



「ふぅ、とりあえず木人はこんなもんでいいか。あとは森にいかないとな」



 どれほど時間が経ったかは分からないが、ある程度のところで切り上げることにした。

 やればやるほど安全になるのは分かっているのだが、いかんせん単調作業すぎる。さすがの俺でも飽きには勝てない。

 それに熟練度上げは木人相手だけで終わるものじゃないんだ。

 むしろ【闇と計略の神】と【短剣】を選んだからにはこれからが本番と言える。



「職業(ジョブ)に就かないとステータスにスキルが反映されないのが辛いよな。これで取得できていなかったら泣くぞ」



 現時点ではスキルも表示されないし、どの程度スキルレベルが上がったのかも分からない。

 短剣を振るう回数で「今、〇レベルだな」と判断しているが、それはゲームだった時の話だ。現実となった今、同じように『未収得スキルの熟練度上げ』が出来ているという保障もない。

 まぁ「ゲームと同じように出来るだろう」という前提でやるしかないのだが……早くチュートリアルを終わらせて確認したいものだ。


 森へと足を踏み入れた俺は視覚と聴覚に集中し、魔物を探し始めた。

 すぐに草むらからガサゴソという音が聞こえ、スライムがその姿を現す。

 そして俺は即座にその場から離れた。


 間違っても斃してはいけない。チュートリアルクエストを完遂するわけにはいかないのだ。

 まだ俺にはやるべきことがある。

 木人相手にできることは『短剣を使った攻撃スキル』の熟練度上げだけ。

 そして俺が就くつもりの【スカウト】には当然、他にも有用なスキルがある。


 いくつかある中で一番欲しいのが<エネミーサーチ>だ。敵の居場所を探るスキル。

 【スカウト】にはいくつかのサーチ系スキルがあるが、安全面を考えれば<エネミーサーチ>の取得を目指すべきだろう。

 本来なら【スカウトLv12】で覚えるスキル。それをLv1から持てるのであればそれに越したことはない。


 とは言え、木人相手の熟練度上げと違い、回数を稼げるわけでもないし、『<エネミーサーチ>を使った判定』も曖昧だ。

 攻略Wikiによると一応「姿を見つける前に発見する」というのが判定基準のようだが、やっている本人としては「これでちゃんと判定でているのか?」と疑わしくなるレベルである。

 まぁそれでもゲームで取得した実績はあるので同じようになぞるしかないのだが……何とも不安なものだ。



 そんなことを思いつつ、森の奥へと足を延ばす。

 <エネミーサーチ>を意識しながら辿り着いたのはチュートリアルステージの端とも言える木の根元。

 樹洞(じゅどう)の中に見えるのは宝箱。チュートリアルステージに唯一の隠し宝箱だ。


 中身はエリクサー。言わずと知れた最上位回復薬。

 ゲームであればすぐに売って序盤の金策に充てるところだが……今回は大事に持っておくべきだろうな。万が一の時に備えてインベントリに忍ばせておくべきだ。なにせ死ねないのだから。


 これで、チュートリアルステージでやるべきは魔物相手のみ。

 スキルの取得を目指し、熟練度を上げ、ある程度のところで切り上げる。

 あとはクエストを達成すれば晴れてチュートリアルクリアだ。



「よーし、気合い入れてやるか! 二度と来られない場所だしな! 悔いのないようにいこう!」



 無理やりにでも盛り上げようと声を張り上げた。


 ……今さらだけど、俺の声、だいぶ違うな。爽やか青年って感じだ。

 設定的には十五歳のはずだから元年齢より四歳下。

 キャラクリをしていないので自分の容姿も分からないのだが……いつになったら鏡を見られるのだろうか。





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