01:アーク・ジェネシス
ありきたりなゲーム内転生ものをだらだら書きたい所存。
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ようこそ ジェイルさん
あなたが奉ずる神を教えてください
剣と正義の神 / 盾と規律の神 / 魔と知恵の神
闇と計略の神 / 愛と生命の神 / 商売と和の神
地と豊穣の神 / 炎と手工の神 / 森と精霊の神
政と裁定の神 / 水と流転の神 / 風と芸術の神
……etc
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「…………は?」
直前の記憶が思い出せない。
しかし目の前にある光景は見慣れている一方、とてつもなく違和感を覚えるもので、それが余計に混乱を助長させていた。
四十八もの神の名が並ぶのは俺の前に浮かぶホログラムのような半透明の『ウィンドウ』。
間違いない。――【アーク・ジェネシス】のチュートリアルだ。
オープニングムービーが終わり自操作が始まる、その前の段階。何十回とやったのだから目に焼き付いている。
直前の記憶もないのに【AG】のことは鮮明に覚えているのだから、また混乱するのだが、とにかく現状を把握するしかないだろう。
だが、それにしてもおかしいところが多々ある。
まず――
(ジェイルって誰だよ!?)
何十周とプレイした【AG】だが、俺は一度として【ジェイル】なんて名前で始めた記憶はない。
視界には自分の前髪も見えるが、白だか薄灰色だかそんな色合いだ。
俺がキャラクリするのはいつもベージックな『人間』で、髪色は黒に近い青か赤、せいぜい茶色ってところだった。暗めで落ち着いた雰囲気のキャラばかりだったのだ。中二病めいた白髪なんて作ったことはない。
(っていうかキャラクリしてないんだけど? どうなってんだこれ……)
普通ならオープニングムービーとチュートリアルの間にキャラクリがある。
ところが今はチュートリアルの最初であり、キャラクリが終わっている状態なのだ。おまけに名前も容姿も全く知らない誰か。
記憶がないうちに自分で作ったキャラなのか、それとも誰かが作ったキャラに入ってしまったのか……全く分からないことが恐ろしくも感じる。
周りを見渡せば、それもまた違和感のかたまりだ。
木々に囲まれた静謐な庭園。その中央に建つ神殿調の小さな祠が今いるところだ。
足元には魔法陣が描いてあるが光ってはいない。まぁこれは帰還用だから別にいいが。
半透明のウィンドウ越しに見える景色は確かに【AG】のチュートリアルステージだ。
しかしBGMもない上に、やたらと現実的すぎる。
風、木々のさざめき、鳥の声、土と草の匂い――その全てがVRMMOではありえないと俺に訴えかけてくる。
――ゲーム内転生。
安直にそんな考えに至り、嬉しくも思った。
好きでやりこんだゲームの世界を実体験する。歓喜の声をあげてはしゃぎたい気持ちもある。夢のような話だ。
しかし現実感があるが故に夢ではないと否定され、それが不安と混乱を引き起こしていた。
端的に言えば「意味わからん」。これである。
現実の受け入れと、ある種の諦めに似た感情をなんとか持つまで数分を要した。
そして再び、目の前のウィンドウと向き合う。
「……俺が主人公になった、という前提で考えるしかない」
言うまでもなくゲームにおいて操作するのは『主人公』であり、それをキャラクリし、育て、エンディングまでストーリーを進めるのが『ゲーム』だ。
しかしここが現実世界であるならば、自分が主人公だと決めつけるのは早計。
なぜなら【AG】の世界の全ての住人はチュートリアル――『覚職の儀式』を受けているという設定だから。
職業に就くために教会の祈りの間で行われる『精神世界の体験』、これが【AG】におけるチュートリアルの意義であった。
従って自分が主人公である保障などない。
主人公ならではの特殊な力や運命、加護のようなものがあれば良かったのだが、【AG】の主人公は『一般人』だ。だからこそ判断材料がない。
とは言え、今は自分が主人公であるという前提で進めなければ何も始まらない。
ウィンドウを前にして悩んでいるのもそのせいだ。
「とりあえず神の選択からだが……さてどうしたものか」
チュートリアルが始まる前に選択するのは『信仰』と『武器』だ。
『信仰』によって素養や適正といったものが決まる。『武器』によって初期武器とチュートリアルの内容が変わる。
物理火力に特化したキャラを作るには【剣と正義の神】と【剣】を選んだほうがいい、とかそんな感じだ。
もちろん【地と豊穣の神】と【剣】を選んでも構わない。その場合、ステータスに多様性を持たせることもできるが、物理火力に特化させることはできないだろう。
つまりは成長方針を決めるということである。
どんなキャラを作りたいか、どんなストーリーを選び、どんなエンディングを見たいか。それを最初に決めろということだ。
あとから職業の変更はできるが、基礎能力はここで決まる。やりこみプレイヤーからすれば最初が一番悩ましいポイントなのは間違いない。
だからこそ俺は時間を使って考えた。
現実となった【AG】の世界で、俺はどのようにして生きるのか。
ゲームとして遊ぶのではない。生活することを考えなければいけないだろう。
そうして俺は指針のようなものを決めた。
① 【AG】の世界を楽しむ
② 死なずに生き延びる
③ メインストーリーにはなるべく関わらない
この三つだ。この三本柱を念頭に置き、選択することにした。
①は単純にゲーマーとしての欲だ。【AG】というゲームが好きだからこそ、この世界を満喫したい。
ゲーム内では知る術が限られていたこの世界の地理や文化、歴史、そういったものを知りたいし、ゲーム内で楽しんでいたものが現実にどう反映されているのかを知りたい。
だからこそ『生活力』のようなものが必要だと考える。
②は、この世界が危険だからだ。現代日本とは比べ物にならないくらい、周囲は危険に満ち溢れている。
街の外には魔物が出るし、盗賊もいる。街には武器をぶらさげた冒険者やチンピラがうろついているのだ。おまけに法整備も甘い。
そんな中で生活するなら戦闘力は必須だろう。となれば『一般人プレイ』は無理だ。仮に『商人プレイ』をやるにしても戦闘力を持った【行商人】になるべきだろう。それくらい戦闘力は重要だと思う。
③は、俺が主人公ではない可能性を否定できないからだ。というか、できれば主人公であってほしくない。
……まぁ主人公であるという前提でチュートリアルを進めなければいけないから矛盾しているのだが。希望を言えば主人公ではない一般人でありたいと思う。
なぜかと言えば、どの職業に就き、どのメインストーリーを進んだとしても、最後は『ラスボスと戦う』というのが確定しているからだ。
非戦闘職でも変わらない。サポートや指揮するような立場になって、最終決戦場に立つことになる。ラスボスと会いまみえるのだ。
仮にめちゃくちゃ強いキャラを作ったとして、それがゲーム内であれば喜んで戦うのだが、現実世界となった今では仮に強くなっても戦いたいわけがない。ノーセーブ・ノーデスでやれるわけがないのだ。
となると「どうすればラスボスと戦わずに済むか」を考えるわけだが、結論としては「メインストーリーを進めない」というのが一番現実的だろうと。
もちろん現実世界であるから時間経過によってラスボス関連のイベントが進むこともあるかもしれないし、俺の与り知らないところでメインストーリーが進むこともあるかもしれない。
しかしそれを俺が知る術はない。
イベントムービーが見られるわけでもないし、別視点が見られるわけもないのだ。世界の情勢やストーリー進行を把握できない状態で生活することになるだろう。
そんな中で俺ができる「ラスボスと戦わずに済む」手段は、「メインストーリーに関わらない」というのが一番有効だと思う。
【AG】好きとしては現実となった王道ルートを進んでみたいという気持ちもあるが、背に腹は代えられない。己の命が一番大事である。
以上の三本柱を念頭に置き、俺はこの世界で生きようと決意を固めた。
ふっと軽く息を吐き、改めて『信仰』と『武器』を選ぶわけだが――
「……【闇と計略の神】と【短剣】かな」
戦闘力は欲しい。しかしメインストーリーに絡むキャラと接触するつもりはないので、強キャラと共闘というのも難しい。
即ち、『独力でも戦える・生活できる職業』というのが望ましいわけで、そう考えると【スカウト】かと思ったのだ。
斥候系の職業は魔法もほとんど使えないし、火力を出すのも難しい。
しかし魔物を察知したり、気配を消したり、生き永らえる力は高いと思う。だからこそ俺は【スカウト】に適した神と武器を選んだ。
『信仰』は四十八柱の中から一つ、そして『武器』も四十八種類の中から一つ。
つまり最初から二千三百以上の選択肢があるということだ。
もちろんそれほど多くの職業があるというわけではないが、やりこみ勢からすると悩ましい選択肢に違いない。
ちなみに俺は約二年かけて三十周ほどしたが、そのほとんどはバラバラな選択をしている。
タッチパネルのように【闇と計略の神】と【短剣】を選択すると、どこからともなく現れた短剣が右手に握られていた。
初心者用の短剣【ビギナーナイフ】だ。攻撃力はお察しである。
続いてウィンドウが切り替わる。
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【チュートリアルクエスト】
□魔物を五体たおそう!
□ふいうちをしかけてみよう!
□三回、回避してみよう!
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ゲームのまんまだな、と思いつつ目の前のウィンドウが邪魔だったので縮小化するよう念じると、視界の端に小さなアイコンのみが残った。
一瞬、「現実世界ではなく本当にゲームなのでは?」とも思ったが、目の前に広がる庭園の現実感がそれを否定する。こんな超容量のゲーム作れるわけないだろうと。
視界の左端にはいくつかアイコンが浮かんでおり、それもまたゲームと同じだった。
もっとも『設定』のアイコンもないし『セーブ』や『ゲームの終了』もなかったのだが。
俺はその中で『ステータス』のアイコンを視線タップする。
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Name:ジェイル
BIL:闇と計略の神
JOB/Lv:未定(0)
HP:20
MP:5
STR:6
VIT:3
INT:6
REG:4
AGI:9
DEX:7
CHA:8
LUK:5
Skill:
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【闇と計略の神】と【短剣】を選んだ時のステータス……こんなもんだろうな。
これで杖とかを選んでいるとMPやINTが高かったり、【愛と生命の神】を選んでいるとREGやLUKが高かったりするのだが、現状はこれでいい。職業に就けばまた変わるしな。
ステータス画面を消し、インベントリ画面を開くが何も入っていない。右上に【500mil】と表示されているのが所持金だな。これもゲームのまま。
ただしゲームと違うところもある。身に着けている鞄だ。たすきがけのようにしてナップザックめいた布の鞄を身に着けている。
ゲームでは初期装備が『布の服』のみとなっており、主人公が鞄を持っているような描写はなかった。インベントリがあるのだから必要ないのだろう。
気になった俺は鞄を下ろし、その中を調べる。そんな動作ができることでまた「やっぱゲームじゃないわ」と実感するはめになったわけだが。
鞄の中には着替え、布きれ、薄手の外套、財布、いくつかの小袋、ポーション1本、ロープ、半分ほどの黒パンがはいっており、腰には小さなナイフと水袋がくくられていた。
「初心者冒険者セットって感じだな。チュートリアルを受けるまでインベントリがなかったってことなのか?」
そんな疑問を持ちつつ、とりあえず邪魔だったので、まとめてインベントリに入れておく。
これでビギナーナイフのみを身に着けている状態だ。
「さて、とりあえずチュートリアルを進めるが……まずはあそこからだな」
祠から周囲の庭園を見渡し、その目は右手にある修練場に止まった。
的のようにして三体の木人が並んでいる。そこが最初の目的地だ。




