17:予定を決めよう!
「というわけでこれが俺たちが入手した【狂乱の首輪】です。お渡ししておきます」
「ありがたい。これで一安心だ。報酬は――」
「いえ、俺たちは調査依頼を受けたわけではないので結構です。採取していたらたまたま出くわしただけですしね」
「それはまた不運だったな。しかしせめてギルドに報告くらいはさせてくれ。便宜を図ってもらえるよう私からも申し伝えておく」
「分かりました。ありがとうございます」
どうやら衛兵団とCランクパーティーの調査隊は俺たちより先に帰ってきていたらしい。そりゃ三日も経てば終わるか。
狙い通り、隠れ家のほうも見つけてくれたらしいのだが、そこにあった資料には【狂乱の首輪】を十個製作し、それをオーガに付けて実験したというような記述があったそうで、衛兵団が斃した一体と隠れ家にあった八個で、一個足りないと騒いでいたそうだ。
資料まで読んでなかったからな……そんなことが書いてあったのか。
で、残りのオーガ一体が野放しになっているのではとカールは騒いでいたわけだが、そこに俺たちが登場。
【レームル山】の麓の森を探索していたら【狂乱化オーガ】に出くわして斃せたよと嘘の報告をした。
調査依頼を受けたわけではないから、採取目的で探索していたという言い訳になっている。
まぁフゥガとカリンはDランクなわけだし、信憑性はあるだろう。
ともかくこれで【狂乱の首輪】は十個全て回収できたという形になり、カールもやっと大人しくなった。
なるほど、主人公パーティーに入れなかったらずっと騒いでる感じになるんだな。無茶して一人で山に特攻とかしないで良かった。
衛兵団への報告の流れで、カールとも少し話をした。
レヴィアの時ほど「ユニークキャラと話しちゃいけない」という気はしない。何もしなくてもメインストーリーは勝手に進むと分かったからな。
大事なのは、俺のパーティーには入れず、カーマインパーティーに入れるということだけだ。
「君たちは私と同年代に見えるのだが……魔族に操られたオーガを斃せるほどに強いのだな」
「目標としている冒険者がいるので、俺たちも頑張って強くなろうとしている最中ですよ」
「ベレッサの冒険者か?」
「いえ、今はどこにいるのか知りませんがカーマインという人です。英雄級の強さだそうで、俺たちもそれに見習おうと」
「へぇ、そんな冒険者がいるのか」
「良かったら調べてみたらどうです? 貴方なら貴族の伝手を使って調べられるでしょうし」
「なんだ私の素性までお見通しだったか。恥ずかしい限りだな」
そんな感じで話しておいた。これでカールがカーマインに興味を持ってくれれば万々歳だ。
将来的にカーマイン陣営に入るのか、【ベレッサ】を守護する立場となるか、どう転んでも俺は構わない。できれば前者であって欲しいとは思うがな。
それから三人で【ベレッサの街】を巡った。
街の住人の中には【ラダン丘陵】や【レームル山】のアイテムを欲しがっているサブクエストの依頼人もいる。まずはそれらを全て周り、報酬を頂いていく。
次は魔道具屋や錬金術屋、肉屋などを回って、売れる素材は全て売る。ギルドに出すより高値になるし量も捌けるからな。
最後にようやく冒険者ギルドだ。
依頼票を見て【ラダン丘陵】【レームル山】関連の依頼があればそれを受付に持っていき、依頼と同時に完了の報告。
調査依頼を受けていないのに【レームル山】に行ったのか的な小言も言われたが、衛兵団の時と同じように誤魔化した。
一応、【狂乱の首輪】を衛兵団に渡したことも伝えた。齟齬があると困るからな。それでまた小言をもらうはめになったのだが苦笑いをするだけで乗り切った。
「ジェイルさんはDランクに昇格させます」
「えっ、早くないですか?」
「さすがにこれだけ成果を挙げられてEランクというわけにもいきませんよ。衛兵団からギルド長にも話が行くでしょうし昇格も問題ないと思います。何か言ってきても私が言い返しますし」
いつも報告している受付嬢さん、意外とヤバイ人だったんだなぁ……ギルド長より権力があるのかもしれない。
ともかくDランクにはなれたらしいので満足である。
俺としては次の街でランクアップの予定だったからかなり駆け足に感じるけどな。早い分には文句はない。
◆
「さて、ではこれからの予定を決めていきたいんだが」
【ベレッサの街】の用事が全て終わったところで、三人で会議となった。
議題はいくつかある。それを話し合っていきたい。
「まずは行き先をどうするか、だな」
「東へ向かって王都方面へ、ということではないのか?」
「まさか北ですか? 聖王国とか魔族領に向かうとか……」
「それも案の一つではある。だが他にも色々と考えがあるから相談して決めたいんだ」
そう言って俺は簡易地図を広げた。
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魔族領
△△△△
△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△
△△△△△△△△ △△△△
△△△△ エイリーン聖王国 :vv
vvvv:・・・・・: :vvv
vv :・・・・・・:
◎ベレッサ ■王都 :マスケード
・・・・・:シュトローゼル王国:・・・: 帝国
ボイルーツ:・・・・・___:リッツエルデ:△
共和国 : ヴェナト | \王国 :vv
: 海王国 / | :v
________/ \ :
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最終決戦場はエイリーン聖王国の北部になると思う。通常の冒険者ルートならな。
各国・各地で暗躍し悪戯めいた悪さをしていた魔族。それに危機感を覚える各国の君主や実力者たち。
やがて魔王の野望――南下して人間界を制圧する――も判明し、聖王国のその地で決戦となる……という感じだ。
つまり遅かれ早かれ、エイリーン聖王国には行くことになる。
今から向かって聖王国内で鍛え、名声を上げることで決戦時に先頭に立つ、というのも手ではある。
聖王国には強力なユニークキャラもいるしな。聖騎士団のヤツとか聖女様とか。
だがそれはカーマイン先輩にお願いしたい役割でもある。
名声を得るのも、聖女たちを仲間にするのも、全てカーマイン先輩に任せたい。
「じゃあ北にはまだ行かないってことですか?」
「俺たちは俺たちで仲間を増やしつつ、強くなる手段を模索する。その上で聖王国に行くというのが理想だな。もっとも魔族軍がいつごろ攻めてくるのか読めないから聖王国から離れるのも不安なんだが……それを言ったら何もできないし、弱いままで魔王と相対するなんてとても許容できないからな」
「言わんとしていることは分かった。何とも悩ましいところだな」
折衷案と言うわけではないが「急いで強くなって、出来る限り早く聖王国に入って、魔族軍に備えよう」という感じになると思っている。
問題は「急いで強くなって」の部分だ。
どれほど時間をかけられるか、どれほど他国を回れるか、どれほど強くなればいいか。
これはもう俺のさじ加減で決めるしかない。なにせ明確な判断材料がないのだから。残り時間的な意味で。
「俺の考える、最低限やらなければいけないこと、というのは次のとおりだ」
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① 仲間をそろえる
② 装備をできるだけ『最強』にする
③ 転職を含めたレベルアップを図る
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仲間は早めにそろえたほうがいい。俺たちがレベルアップしても、新しい仲間が弱いままだったら魔王と相対せるわけがないからな。
だったら早めにそろえて、俺たちと一緒にレベルアップさせたほうが建設的だろう。
とりあえずパーティー上限である残り三人は必須。何なら二十人規模のクランを見越して多く確保したっていい。
多くすればするだけ経験値や装備や転職など管理が難しくなるのだが、魔王戦を考えれば多いに越したことはない。
装備は「ユニークキャラを仲間にするつもりがない」という部分が多少のネックになっている。
大抵のユニークキャラには専用装備や相応しい装備があり、それを最終装備とする場合が多い。
ユニークキャラが強いと言われる一因だ。ちなみに『一般人』たる主人公には専用装備がない。
しかし「ユニーク装備が最強ではない」というのも『RPGあるある』だ。『天〇のつるぎ』より『メタル〇ングの剣』のほうが強かったり、『エクス〇リバー』や『ラグ〇ロク』が最強でなかったりする。
【AG】にも同じようにユニーク装備を超える『隠れ最強装備』のようなものが存在する。
俺たちはモブばかりの集団になるのだし、そういった装備をできるだけ集めるべきだろう。ユニーク装備はカーマイン陣営に全てあげるつもりでいい。
あとは転職とレベルアップについてだが、レベルアップに関しては『狩り場』で重点的に上げるべきだろうな。
ここら辺だと【ヴォンヘーデンの森】が一番効率は良いのだが、いつまでも【ベレッサ】周辺に居座るつもりもない。行く先々で適した狩り場を巡るという形になるだろう。
転職についてはレベルアップと同時に考えていくのだが、これまた『RPGあるある』で『隠し職業』というのが存在する。
普通の上位職や複合職などはレベル上げだけ頑張れば、聖教会で転職リストに出てくるのだが、隠し職業だとそうもいかない。
「転職の際にあるアイテムが必要」だとか「どこそこで転職する必要がある」みたいな制約がある。
当然強い。狙えるものなら狙うべきだろう。
しかし上位職や複合職でも十分に強いとは思っているので、「できれば」というくらいだ。
だいたいめんどくさいからな、隠し職業は。それだけ時間をかけられるのかも分からない。
「――という感じだな」
「また誰も知らないような情報をポンポンと……」
「当たり前みたいにすごいこと言ってますよね……」
「で、どれを最優先すべきかと言うと……仲間だろうな。これをどうにかしないと話にならないし、それによって行先が変わると思っている」
例えば新しい仲間の最終装備を考えた時、どこそこに行く必要がある、とかだな。
この隠し職業に就かせたいからどこそこに行ってアイテムを入手しよう、とかもありうる。
現時点でもフゥガとカリンの強化を考えて行きたいところもあるのだが、どうせならパーティーが固まった状態でどう巡れば効率がいいか判断すべきだろう。
「問題はどうやって仲間を増やすかだが……冒険者ギルドで探すしかないのか?」
ゲームではモブを仲間にする場合は『施設による紹介』限定だった。冒険者ギルドであったり、騎士団本部であったり、聖教会であったり。
しかしフゥガとカリンはそんなのを無視して仲間になったわけだ。ゲームの仕様を越えた、現実世界としての理由で。
それによってゲームではありえない好物件の二人を確保できたわけだが、同じように「ゲームの仕様以外」での加入方法もあるのではないかと思ったのだ。
だから二人に相談してみたのだが――
「奴隷商に行けばいいのではないか?」
「えっ」
それは俺にとって意外な提案だった。
そもそもゲーム内に奴隷商というのはない。【夜霧の梟】事件のように闇奴隷が存在しているのだから普通の奴隷もいるのだろう、というのは予測できるのだが、ゲームにそんな施設は存在しないし、奴隷を仲間にするというのは俺にとって青天の霹靂だった。
だが二人は当たり前のように「奴隷でいいじゃん」と言うのだ。
「戦闘用の奴隷を買ってパーティーに加えるというのは普通にあるぞ? 別におかしな話ではない」
「ジェイルさんの場合、秘密も多いですしね。奴隷なら契約魔法で口封じもできるのでちょうどいいかもしれないです」
「そもそも冒険者ギルドの紹介だと、大体が何かしらの理由で追い出されたはぐれ者か、伝手のない新人だからな。ある程度力を持った戦闘経験者を探すのであれば奴隷のほうが確実だろう」
「ジェイルさんはお金持ちですしね。何なら大きな都市の奴隷オークションで見繕っても良さそうです」
「お、おう」
そういうものなのか……何と言うかカルチャーショックを受けた気分だ。
俺の知っている【AG】はほんの一部でしかなかった。ある意味、闇の部分を見せられたような気がする。
しかしそれがこの世界の常識と言うのであれば順応すべきなのだろう。朱に交われば何とやら。
「じゃあ【ベレッサ】の奴隷商に行くべきか。いや、もっと大きな街のほうがいいのか?」
「一応見るだけ見ておいたほうがいいだろうな。しかし本格的に探すならやはり大きな街の奴隷商のほうがいいだろう。奴隷商と言ってもピンキリだからな」
「大店のほうが安心ですよね。奴隷商って【ベレッサ】だと一店舗くらいだと思いますし」
奴隷商にも大店とかあるのか。問屋みたいな感覚なのかな。
犯罪奴隷やフゥガ、カリンに危害を加えそうなヤツだったら嫌だな……いや、そもそもそういう奴隷は売らないのか? それとも契約魔法があるから安心って感じなのだろうか。
色々考えるとやっぱりカリンが言うように大店のほうが安心なんだろうな。扱っている奴隷の質という意味で。
まさか俺が【AG】の世界で奴隷を買うことになるとはな……まぁ新しい【AG】の知識と思っておこう。この世界を味わいつくすべきだ。
「では明日、奴隷商に行ってみてその様子で街を出るか」
「結局行先はどうなったのだ?」
「近場で大きな奴隷商があるところを優先して回るべきだろう。となれば東に行って、【交易都市デュッセル】から【王都ローゼル】までは行こうかな」
「予定通りと言えば予定通りですね」
「そこから先は仲間集めの状況にもよるが、【ヴェナト海王国】か【リッツエルデ王国】に南下するつもりでいる」
「聖王国から離れるのか。大丈夫なのか?」
「分からん。そこはもう魔族に早く来ないでくれと祈るしかない」
「魔族に祈ってもご利益なさそうですけど」
どんな仲間が買えるのかにもよるし、魔族の動きにもよるが、装備などを考えると南下しておきたいんだよな。
できればリッツエルデ王国のさらに東の【イーステッド武国】にも行っておきたいくらいだ。
何なら【ボイルーツ共和国】にもいい武器があったりする。【ベレッサ】からなら王都に行くより近いんだが……さすがに後回しかな。あわよくばというところだろう。
さて、何はともあれまずは【ベレッサ】の奴隷商を見てみようか。
初めて行く場所だからかなり緊張するんだがな……二人にも協力してもらうか。




