15:いざレームル山へ
結局その日は街の外には出ず、翌日からの探索準備に費やした。
目的を達成するだけなら頑張れば一日でもいけると思うのだが、【レームル山】を探索するとなると最低でも一泊は必要になる。ちゃんとした探索をするなら二~三泊だろうな。
俺一人なら【フォーラス村】に行った時のように木の上で無理矢理休むこともできるのだが、フゥガとカリンがいるのにそんな真似もできない。
これも冒険者として必要な経験かと、テントやら毛布やら買い込み、丸一日かけて準備を行った。
「インベントリがあるから遠征という感じが全くしないがな」
「熱々の料理を買い溜めてそのまま保存とか、他の冒険者が知ったら大騒ぎです」
「ようやく気付いてきたようだな。インベントリのヤバさに」
マジックバッグと同じように考えてもらっては困るのだよ。
入れるも出すも自由自在、容量は無限で時間経過もなし。魔物を斃せば自動的にインベントリに保存される――これがチートでなくて何と言うのだ。主人公特典おそるべし。
その足で冒険者ギルドにも寄る。【レームル山】の調査に関する依頼を確認したかったからだ。
依頼票を見てみると、ゲームと同じような内容の緊急依頼が並んでいた。
Dランク冒険者に対しては【ラダン丘陵】を調査し、グランドボアのような強めの魔物がいればそれを討伐するようにと。
Cランク冒険者は【レームル山】だな。内容は同じようなものだが、どちらかと言えば調査がメインになっている。何が起きているのか、まずは確認からといった感じだ。
俺はEランクだからどちらも受けることはできないのだが、フゥガとカリンはDランクなので【ラダン丘陵】のほうなら受けられる。
しかし依頼は受けずに、俺たちは【レームル山】に行くつもりだ。これは二人にも事前に言ってある。
冒険者的には掟破りのようなものなのだが、だからと言って行儀良くルールを守るつもりはない。行かなかった結果、カールや他の冒険者が死ぬような事態になるよりよほどマシだ。
そうして三人で依頼票を確認していると、入口のほうが騒がしい。
俺には心当たりがありすぎたので横目でチラリと見る程度だ。
「君たちはCランクパーティーなのだろう!? ならば私も連れて行ってくれ! 異変の原因をこの目で確かめたいのだ!」
「バカ言ってんじゃねえよ。あんた衛兵だろ? 衛兵団も【レームル山】に調査を出すって聞いたぜ? それと一緒に行けばいいだろうが」
「調査隊には実力不足と弾かれてしまったのだ……しかしこの街の危機とあれば黙ってはいられん! 頼む! 私を【レームル山】まで!」
「はあ!? そりゃあんたを護衛しながら山に行けってか!? 無理に決まってんだろ!」
俺はフゥガとカリンに「さっさと出よう」と告げ、早々に冒険者ギルドから離れることにした。
しかし無茶苦茶だな。イベントだからと言えばそれで終わりなのだが、衛兵の若者を護衛したまま異変が起こっていると見られる【レームル山】に行ける冒険者パーティーなんかいるわけがない。
ましてや【ベレッサの街】は『はじまりの街』だからな。Bランクパーティーでさえ一つか二つしかいないのだ。Cランクが『高ランク』と見られるような街で『Cランク限定の依頼』というのはそれだけ危険な証拠。
誰だって御守りを連れたまま山登りなんてしたくないだろう。
「ちなみにさっき騒いでいたのがカール・ホイスト・ベレッサ。領主の息子で衛兵団に所属している若者だ」
「ええっ!? じゃあ貴族なのですか!?」
「随分と無茶なことを言っていたな。街を守る領主の息子だと言えば、その志は立派なのかもしれないが……」
志はあっても力量が伴っていない。この時点でカールはLv7だからな。
もっとも、集団講習依頼を受けた主人公とレヴィアも同じようなものだ。そこにカールを入れたところで【レームル山】になど行けるわけがない。せいぜい【ラダン丘陵】でグランドボアの残党を狩れるくらいだろう。
とは言えそこはゲームのイベント。ちゃんと理由をこじつけてある。
先ほどと同じようにカールが主人公に「連れて行ってくれ」と頼みこんでくるわけだが、主人公は渋々了承し、本来なら行けない【レームル山】の調査に赴くことになる。
高ランク冒険者や衛兵団が調査に向かったあと、後ろからこっそり付いて行くようなイベントなのだ。だから強い魔物は間引きされ、低レベルの集団でもなんとか付いて行ける……という感じだな。
そのためこのイベント自体の推奨はLv8となっている。集団講習がLv5だったから次のイベントと考えればまぁ妥当なところだ。
ちなみにイベントと関係ないエリア的な推奨Lvの話をすると、【ラダン丘陵】がLv4、【レームル山(麓)】がLv8、【レームル山(山中)】がLv15だ。
Dランクのフゥガやカリンであれば【レームル山】の探索は問題ないということだな。
しかし今は異変が起きており、山では何が起きているか分からない。ということでランクを一つ上げた依頼内容になっているわけだ。
いずれにしても低レベルのカールを含めた主人公陣営が本来行ける場所ではない。
イベントだから行けるようになっているだけで、普通に行くのは自殺行為だ。だから衛兵団もカールを連れて行かないというのは正しい。頼まれていたCランクパーティーも断るのが正しい。
「そんなに頼まれたら仕方ない」と言ってしまうゲームの主人公がおかしいのだ。
そしてそんな無茶なことをしてどうなるかと言うと――負けイベントが発生する。
道中は衛兵団や高ランク冒険者が間引きしてくれるので問題なく【レームル山】まで行けるのだが、そこで今回の異変の元凶と言える魔物【狂乱化オーガLv25】が襲って来る。
正確に言えば、十体いる【狂乱化オーガ】のうち九体は衛兵団とCランク冒険者に斃され、手負いとなった最後の一体が主人公パーティーに襲い掛かってくるのだ。
Lv25とはいえ瀕死の状態。だからこそカールも意気込んで斃そうとするのだが……あっと言う間に全滅する。
死ぬわけではないのだが、寸でのところをCランク冒険者に助けられ、難を逃れるという感じだ。
猪突猛進だったカールもそこで気付くわけだな。「手負いのオーガも斃せないほど、自分は弱い」のだと。
調査の結果、狂乱化の原因が魔族にあると分かり、魔族に対抗するため、街を守るために強くならなくてはと決意を新たにする。
……というのが主人公パーティーに正式加入となる流れなのだが、パーティーに加わった結果【ベレッサの街】から離れてしまうので「街を守るとは何だったのか」と言いたくなるのはご愛敬である。
カールについてそこまで詳しく教えるつもりはないのだが、それでも二人には伝えておきたい。
「あのカールってヤツは将来的にカーマインのパーティーに入って魔王と戦う可能性があるんだ」
「ええっ!? そうなのですか!?」
「レヴィアもそうだったんだが、こんな所で危険に晒すわけにはいかないだろ? だから俺たちの手でさっさと【レームル山】の異変を解決したいんだよ」
「なるほど。だから衛兵団の出立より先に出たいと言っていたのか」
情報を集めた限りでは二日後に衛兵団が出立するらしい。Cランクパーティーはどうだか分からないが、おそらく行動を共にすると思われる。
だから俺たちは明日の朝から出たいんだよな。先回りして【狂乱化オーガ】を斃しておきたいと思っている。
今の俺たち三人なら【狂乱化オーガ】十体も十分斃せるはずだしな。
そんなことを話していると、フゥガがこんなことを聞いてきた。
「カールという者にそれほどの素質があるのなら、一緒に連れていってもいいのではないか? ジェイルが鍛えたほうが良さそうに思えるが」
うん、俺もそれは考えた。カールは将来的に魔王相手にもメイン盾を張れるくらい強くなれる。
しかし最終的にはカーマイン陣営に入れたい人材だし、そうなると俺のパーティーに入れてから脱退させることになる。
俺の下で強くなったカールが素直に脱退するだろうか……正直無理だと思う。カールの性格的にも。
だったら最初からカーマインに預けたいし、それまでは自主練でもして鍛えておいて欲しい。おそらくカーマインと組む頃には立派な盾役になっているだろうから。
もしカーマインと会えずにいたとしても、それこそカールは【ベレッサ】を守るべきだ。
衛兵としてもそうだが、将来的に領主になるのだろうし、【ベレッサの街】に留まっていて欲しいという気持ちもある。
その場合、カーマインパーティーに入るのは別の盾役になるのだが……ぶっちゃけそっちのほうが強いしな。
カーマインは二十人規模のクランで最終戦に参戦する場合があるが、カールはクランに三人いる盾役の一人なのだ。メインパーティーにいる場合もあるし、サブパーティーにいる場合もある。そこら辺は俺に関与できる部分ではない。
ただカールを死なせる、もしくは俺のパーティーに入れるとなるとカーマイン陣営が弱体化するのは間違いないから、俺としては最初からカーマインに預けたいということだ。最悪、【ベレッサの街】の守護に就かせたいと。
「鍛えるのは英雄様に任せるよ。それにうちの盾役はフゥガだしな。こっちのが強いし」
「ははっ、そういうことなら期待に応えられるよう頑張らなければな」
◆
翌日、俺たち三人は【レームル山】に向けて出立した。
途中の【ラダン丘陵】は無視だ。一直線に【レームル山】へと向かう。
おそらく【レームル山】の麓から流れてきているグランドボアなどの魔物もいるとは思うんだけどな。それはちゃんと依頼を受けた冒険者パーティーに任せよう。
採取も寄り道もせず、極力戦闘もせず、とにかく目的地へ。
そうして【レームル山】に着いたのはまだ昼頃のことだった。相当に早い。
軽く昼食をとりつつ、二人と作戦会議を行う。
「ここら辺に出てくる魔物は本来【レームル山】の山中にいる魔物だ。だいたいLv15とかそんなもんだが、これも出来る限り無視して進みたいと思っている」
「あくまで元凶を狙うということだな」
「オーガが十体ですっけ……ちょっと怖いですけど」
「しかも普通のオーガじゃないからな。魔道具の首輪を付けているせいで狂乱状態になって暴れている。レベルは25だが実質はLv35くらいと見たほうがいい」
「ひぃぃ……私たちより全然強いですよ!? そんなの斃せるですか!?」
オーガたちは強制的に狂乱状態になっているから、まともな思考はしていないし、群れで行動しているわけじゃない。
散らばって適当に暴れているから、山中の魔物が混乱して逃げ惑い、麓まで下りてきたり【ラダン丘陵】まで出張ってきたりしているんだ。
だから俺たちは各個撃破を目標とする。一体ずつならどうにでもなるしな。
ただ三体以上、同時に戦うような状況なら退いたほうがいいだろう。こっちの三人のほうが足は速いから逃げるのは訳ないと思っている。
もしくは高低差のある場所に引き込んで、上からカリンの魔法で一方的に斃すという方法もある。
俺がカイザーウルフ戦でやった手だな。ゲームではできなかった方法だが現実世界の今ならば有効だろう。
「――他には俺が<ナイトフォッグ>を使いつつ、フゥガに<タウント>使ってもらって背後から<アサシンエッジ>で攻めるとかな。まぁやろうと思えば色々と方法はある」
「はぇ~さすがジェイルさんですね」
「ようやく連携らしいことができると思えばいい機会かもしれないな」
「実はそれも目的の一つだったりする。俺たちだけで【狂乱化オーガ】十体を斃したい理由の一つだな。こう言ってはなんだが『ちょうどいい相手』だと思うんだよ」
「はは……なんだか怖がっていたのがバカみたいです……異変の元凶が練習相手ですか」
今の俺たちのレベルを考えれば、ほどよく強敵で安全に狩れる相手に違いない。
もちろん本来ならありえないことではあるんだけどな。【夜霧の梟】と【仇敵の森】を熟したからこそ言えることだ。
俺自身、ソロでカイザーウルフとかを斃したものだから麻痺している部分もあるかもしれない。【狂乱化オーガ】くらいどうにでもなるだろうと。
「ただフゥガは<ガードスタンス>や<ディフェンススタンス>も使えよ? 狂乱化したオーガの攻撃力はかなり上がっているからな。<タウント>だけじゃ多分もたないぞ」
「ああ、承知した」
今さらだがフゥガとカリンは良い拾い物すぎるんだよな。
最初からLv17でDランクのモブなんて、ゲームじゃありえない。
おまけに獣人だから従順で物分かりもいいし、身体能力も高い。盾役のフゥガも後衛のカリンも、人間の前衛アタッカー並みのAGLを持っているしな。そういう意味でもありえない好物件だった。
改めて二人を仲間にできて良かったと思う。
じゃあそろそろ山登りを始めようか。
居場所の当たりはつけているが、はたしてゲームどおりの場所にいてくれているだろうか……。




