14:大幅な方針の変更
翌朝、俺はいつものようにフゥガ、カリンと合流すると、まずは個室のある食事処へと入った。
二人と相談したかったからだ。
俺なりの答えは出したのだが、それを二人が受け入れてくれるかどうかは分からない。
パーティーとなった今、一人よがりの考えはやめて、ある程度情報共有しておきたかった。
ここはゲームではない。主人公の思惑一つでどうにかできる世界ではない。
そう思ったからこそ話しておきたかった。
「色々と秘密事が多いから二人には心苦しいんだが、もう一つ、打ち明けておきたいことができた。それを以って相談したいんだ」
「それは昨日の件と関係があるのか?」
「様子がおかしかったですものね」
「ああ。端的に言えば……俺はある程度、未来を予測できる」
「「はあ?」」
ゲームがどうこう言っても理解できないと思うので、二人が分かるように説明するしかない。
となると『限定的な未来予知能力を持っている』とするのが分かりやすいと思ったのだ。まぁそれにしても荒唐無稽な話だとは思うが。
「といっても本当に限定的なものだ。カリンが今晩何を食べるのかも分からないし、フゥガが一年後どんな職業に就いているのかも分からない」
「じゃあ何が分かるです?」
「例えば昨日の事件だ。俺は【ラダン丘陵】にグランドボアが現れるというのを知っていた。だから【ラダン丘陵】には近寄らないようにしていた」
「なるほど、合点がいった。どうりで北側は避けていたわけだ」
「俺が【ラダン丘陵】に近寄らないことで未来を変えようと思っていた。グランドボアの出現というイレギュラーが起きないようにと」
「しかし起きてしまったわけですね……」
「ああ、つまり未来を変えることは並大抵なことではない、と昨日で証明されてしまったわけだ」
厳密に言えば、ゲームどおりの展開にならない――知っている未来を変える――ことも可能だとは思う。
【夜霧の梟】戦ではゲームと違う点が多々あったし、カイザーウルフは怪我をした状態だった。実際、俺の行動如何で変えられる部分もあるのだろう。
しかし全てが変えられるわけではない。
変えたくても変えられない未来――ゲームの仕様か、主人公としての運命力か、そのようなものがあるのだと思う。
グランドボアの乱入イベントは冒険者ルートにおける最初のメインイベントと言っても良かった。
そこからレヴィアの加入、名声の獲得、と続き、カールの加入イベントへと移行する。最初の大事なイベントだ。
だからこそ変えたかったのだが……変えられなかったわけだな。もう俺は『ゲーマー』ではないのだと突きつけられた気分だ。
「他にも色々と知っている未来がある。変えられるかもしれないし、変えられないかもしれない、ほとんどが曖昧な未来だが……一つだけ決定的だと言える未来がある」
「それは……?」
「【魔王ラスタエル】が魔族の大群を率いて南下してくる、ということだ」
「「なっ!?」」
【魔王ラスタエル】、それが【AG】のラスボスだ。
俺たちが今いるシュトローゼル王国。その北に位置するエイリーン聖王国。さらに北側に広がる山脈を隔てて【魔族領】はある。
人類の宿敵とも言われている魔族は広大な北の大地に押し留められているのが現状だ。山脈と聖王国が防壁となっていると言ってもいい。
魔族領を治めるのが【魔王ラスタエル】……なのだが、その性格はルートによって大きく異なる。
「人間どもを殲滅せよ! 世界を魔族のものとする!」という感じの如何にも魔王様というパターンもあれば、魔族領が飢饉になり「やむを得ん、人間領に攻め込み略奪しよう」というパターンもある。
「私は平和主義なのだが好戦的な部下たちが勝手に暴れたのだ」というパターンもあるから困ったものだ。
主人公がどのような職業を選び、どのようなメインストーリーを選ぶか。その多様性は【AG】のウリのようなものだ。
しかし全てのルートのラスボスを【魔王ラスタエル】としたことで、魔王本人にも多様性が出てしまった。
ルートによってラスボスの性質も変わるし、戦う時期も場所も変わる。現実世界となった今では非常に厄介なところだ。
とは言え、最終的にラスボスと戦うのは確定しているわけで――
「俺としてはその未来を変えるために、極力目立たず、極力魔族を刺激しないよう冒険者活動をするつもりだった。しかし昨日の件を受けて、それは変えられない未来なのだと感じた」
「つまりジェイルは、昨日の件にも魔族が絡んでいると言っているのか? ただグランドボアが出てきただけだぞ?」
「【レームル山】にいたグランドボアが下りてきただけって言ってましたけど……」
「下りてきた原因は【レームル山】で魔族が実験めいたことをしていたせいだ。元々【レームル山】に生息していた強い魔物が麓へと下りてきて、麓の魔物が【ラダン丘陵】まで出てきている。グランドボアはその一端にすぎない」
「そ、そんな……! それでは今後も同じようなことが起きるではないか! 下手すれば【ベレッサの街】にも被害が出るぞ!」
街から近い【ラダン丘陵】で強めの魔物が出るようになれば、ランクの低い冒険者は立ち入り禁止になるだろう。行商人が北側を通ることもできなくなるだろうし、そうなれば街の通商にも影響が出る。
強い魔物の南下が続けば、【ベレッサの街】自体が魔物被害にあう未来もありえるだろう。
「おそらく今日か明日には調査部隊が出るはずだ。領主軍として衛兵の部隊が出るし、冒険者ギルドも高位ランク向けの依頼が出る。それで【レームル山】を調査し、そこで魔族の痕跡を見つけるはずだ」
「ほ、ほんとですか? 魔族がこんなところにまで……」
「山脈を越え、聖王国を越え、シュトローゼル王国のこんな端っこに魔族が出張ってきていること自体がもう異常なんだ。将来的に魔王が――魔族軍が南下してくるのは間違いない」
何の変哲もないグランドボアの乱入。
それが起きたからこそ、ラスボスとの最終決戦が確定的になった。
メインストーリーという道で全ては繋がっているからだ。俺はそれが分かっている。
「戦う時期までは分からない。しかし俺は戦うことになると思う」
「その未来が見えているということか……」
「だからこそ二人に聞いておきたい。魔王や魔族軍と戦う意思はあるか、とな。もちろん無理強いはしない。今ならパーティー解散でも構わないと思っている」
いきなり魔王と戦えと言われて頷くヤツのほうが稀だろう。
そもそも俺の話を荒唐無稽だと笑い飛ばすのが普通だ。
受け入れられないならパーティー解散も止む無し。だからこそ早めに確認したかったのだが――
「愚問だ。私はジェイルに命を救ってもらった身。身命を賭して仕えると口にしたはずだ」
「ですです! ジェイルさんなら魔族だってきっとぶっ斃しちゃうです! 私もお手伝いするです!」
その忠義心や信頼がどこから来るのだと、俺が戸惑うはめになった。
獣人としての性質なのか、二人が特別なのか。
「……分かった。二人ともありがとう」
「礼を言うのはこちらのほうだ。強くしてくれるのだろう?」
少し笑ってフゥガが言う。それもそうだな、と俺も笑った。
二人はモブだ。ユニークキャラではないし、メインストーリーに絡むキャラではない。
素質もなく、どれだけ育てても最終的なステータスはユニークキャラに及ばない。
――ゲームなら、な。
俺は心の中で誓った。モブだろうが関係ない。俺はこの二人をユニークキャラ以上に育ててやろうと。
それが二人の信頼に対する、俺なりの答えだ。
目に見える形で強くしてやる。最強のモブにしてやる。そんな風に意気込んでいた。
◆
二人の気持ちを確認したところで、俺にはもう一つ考えるべきことが生まれていた。
ラスボスとどうやって戦うの? ということだ。
戦闘職に就き、冒険者ギルドに加入した状態で順当にイベントを進めると『冒険者ルート』になる。
その場合の最終決戦は『主人公のいるパーティーorクラン vs 魔王』となる。
パーティーならば六人限定。クランならば最大二十人まで戦闘可能だが、その場合は魔王に加えて六魔将という幹部が加わる。
六魔将が何人、最終決戦に加わるかというのもルートによって異なるのだがそれは一先ず置いておこう。
ともかく少数同士の決戦となるわけだ。
正直、それは怖いと思う。
もちろん魔王なんて何十回と斃しているし行動パターンも知り尽くしている。
とは言え、現実世界による不確定要素と、ノーセーブ・ノーデスの現状を考えれば少数戦闘は避けたいし、もっと勝率の高い手を探るべきではないかと思うのだ。
それこそ『現実世界だからこそ打てる手』を――。
「二人は【カーマイン】という男を知っているか?」
「カーマイン? ……いや記憶にないな」
「その男がどうかしたです? また未来の情報ですか?」
「おそらく魔王と対峙する時、人々の先頭に立っているのがその男――【英雄】カーマインだと思う」
「「英雄!?」」
先ほど言ったように、最終決戦で主人公が魔王とガチンコで相対するのは『戦闘職に就いて冒険者ルートをいった場合』だ。
ならば非戦闘職に就いた場合はどうなるのか。
それでも最終決戦場で魔王軍と戦う(何かしらの形でサポートする)のは変わらないし、勝利すれば「お前のおかげで助かった」的なことを言われ英雄扱いされるエンディングを迎えるわけだが、実際に魔王と戦うのは非戦闘職である主人公ではない。
その場合に現れるのがカーマインというSランク冒険者。
主人公の代わりに魔王と戦うことを義務付けられた可哀想な英雄である。
商人系や農民系のルートに行っても、街に襲い掛かって来る魔族軍と戦うためにカーマインのパーティー(orクラン)が救援にやって来る。
貴族系のルートに行っても、主人公は自前の騎士団を動かしつつ魔族軍と戦い、魔王は局所戦力であるカーマインたちに任せるといった戦いになる。
ただし、冒険者ルートに入るとカーマインは出現しない。それは魔王と相対するのが主人公となるのと同時に、本来カーマインの仲間となるべきユニークキャラたちが主人公の仲間になっているという状況がありえるからだ。
レヴィアもその一人である。
俺が冒険者になっていなかったら勝手にカーマインと出会い、パーティー(orクラン)に入り、魔王と戦っていたはずだった。
俺は戦闘職に就き冒険者になったわけだが、現実世界となったこの世にカーマインがいないはずがないと思っている。
存在が消えるなんてことはないだろう、必ずどこかにいるはずだと。
俺は昨日まで、メインストーリーを進めないことで魔王の動きを抑制し、仮に魔族軍が迫ってくる事態になってもカーマインに戦ってもらうつもりでいた。それもまた【AG】の正しいストーリーなのだから。
しかしそうも言っていられなくなった。
レヴィアが死に、魔族の動きが確定的になり、俺も戦うべきなのだと考えを改めた。フゥガもカリンも同調してくれている。
だからこそ俺が魔王と戦うと同時に、カーマインたちにも戦ってもらえないかと思うわけだ。
それはゲームではありえなかったこと。しかし現実世界となった今ならそれも可能だろうと。
おそらくカーマインは実在し、ユニークキャラを集め、力を蓄えるはずだ。それはカーマインが出現する時に共通している動きなのだから。
つまり、ユニークキャラは主人公の仲間になるか、カーマインの仲間になるかの二択になる。そう思っている。
そこでまた悩んだ。
最終戦でカーマインを万全の状態で参戦させるために、俺はどうすべきか。
出した結論は――『有能なユニークキャラは軒並みカーマイン陣営に入れる』というものだ。
俺が好き勝手にユニークキャラを勧誘していったら、当然、カーマイン側は弱くなる。それでは魔王に対する戦力にはなりえない。ひいては俺が危険だ。死ぬ確率が高まる。
だから俺が仲間にするのはモブだけ。
それを育て、カーマイン陣営に見劣りしない主人公陣営を作り上げる。
俺はゲーム知識を使ってモブを育成する。それはこの世界において、常識外れな急成長となるだろう。
カーマイン陣営にその育成方法を伝えて強化を図る、というのも一案なのだが、俺が直接育てるわけではないので、おそらくそれほど強くはならないと思う。オート育成みたいなものだからな。
しかし非戦闘職ルートで実際に魔王を斃していたように、カーマイン+ユニークキャラの陣営というのは強力なのだ。モブとはポテンシャルがまるで違う。
だからユニークキャラさえカーマインに与えておけば、相応に強くなると思っている。もちろん協力できる部分はするつもりだが。
頭の中でそんなプランを作り、俺は目の前の二人に話していた。
「俺は俺で対・魔王に向けて強くなるつもりだが、英雄となるべきはカーマインだ。ヤツを探し、魔王と戦う時には参戦してもらわなければならない」
「ジェイルさんでも敵わないほどの人なのですか……」
「どうだろうな。英雄としての素質だったらカーマインのほうが上だろうが」
俺自身の育成が十分なら俺の方が強いだろう。やりこみゲーマーを嘗めるんじゃない。
しかしカーマインは『ゲームで決められている英雄』なのだ。素質で言えば主人公の比ではない。
なぜなら主人公は『一般人』だから。非戦闘職としても生きられるように、主人公はあくまで『一般人』として設定されている。その代わり、育て方に多様性があるということだな。
「そんなわけで方針としては仲間を増やしつつ、育成し、旅をしてカーマインを探すという感じになる」
「ふむ、言われていた内容とほぼ変わらないな」
「目標が魔王とカーマインさんで増えただけって感じです」
「まぁそうなんだが、急ぐ理由ができたのと、目的地が変わったってとこだな。それを二人にも承知しておいてもらいたい」
二人が意外と乗り気と言うか、楽観的にも見えるのが逆にありがたい。
普通、魔王と戦いますとか言われればビビりそうなものだけどな。
まぁ俺に対する信頼と受け取っておこう。獣人の性質故かもしれないが、それは何よりありがたいものだ。
「ではもう【ベレッサ】を離れるのか?」
「そうしたいところなんだが、その前に【レームル山】をどうするか、というのが残っている」
「衛兵団と高ランクの冒険者に任せるんじゃないです?」
そうしたいのは山々なんだが……下手するとカールまで死ぬからな。
レヴィアに続きカールまで死んだら【ベレッサ】の戦闘系ユニークキャラは全滅だ。それはさすがに捨て置けない。
となれば手助けするべきだろう。表立ってはできないだろうけどな。




