12:真っ当な(?)冒険者活動の始まり
■フゥガ 17歳 狼獣人
■ナイトLv17
ジェイルという男と出会えたことはこの上ない幸運であった。
それは捕らえられた私たちを助けだしてくれたのもそうだが、私の人生において大きな転換点であったのだと思う。
見つけられて良かった。仲間に入れてもらえて良かった。
まだ仕え始めて間もないが、すでにそう感じている。……困惑することもまた多いのだが。
私は幼馴染のカリンと共に冒険者になった。
ボイルーツ共和国に住む獣人系種族には多いことなのだが、成人となって戦闘職に就くことが当たり前だと思っていたのだ。
時には助っ人のようにして六人パーティーを組むこともあったが、基本的にはカリンと二人行動をとっていた。
シュトローゼル王国への護衛依頼もたまたま二人分の空きがあったから滑り込んだだけだ。
護衛依頼を受けた冒険者は計十名にものぼる。依頼人の商人は相当な金持ちだったのだろう。
私とカリンはDランクだったので戦闘よりも見張りをしていることがほとんどだった。
それでも依頼は依頼である。辿り着いた【ベレッサの街】ではかなりの依頼料を貰うことができ、そのまま現地解散となった。
ボイルーツ共和国に舞い戻るような依頼内容でなかったというのも、依頼を受けた一因だった。
私とカリンは国を出て、諸国を漫遊するような冒険者に憧れていたからだ。
故郷に留まっていただけでは損だと。何も知らない遠くの国を訪れてみたいという冒険欲があったのだ。
……まさかその出だしで拉致されることになるとは思わなかったがな。
金持ち商人の依頼を受けていたから目を付けられたのかもしれない。
年若い獣人の女だから狙われたのかもしれない。
捕らえられた中に他の護衛メンバーがいなかったので何とも言えないが、私とカリンが狙い撃ちされたのは間違いなかった。
そこから数日、私たちは牢屋の中で過ごした。
途中、別の牢屋から出された人間もいた。おそらく「買い手がついた」ということだろう。
見張りであった闇組織の構成員から洩れ聞く話で、だいたいの予想はついていた。
通常の奴隷ならばある程度は法に守られ、不遇な目にあるのは滅多にないと聞く。
しかし闇奴隷は別だ。売り手も買い手も犯罪者。売られた先でどのような目にあうか……想像もしたくない。
捕らえられた時点で人生は終わったも同然なのだ。だからカリンは毎日泣いていたし、私も自暴自棄になっていた。
それが一人の男によって晴らされた。暗がりしか見えなかった未来に光が差したのだ。
覆面の男が放り投げた鍵束によって、全ての牢屋は開けられた。と同時に全員から歓喜の声が上がる。
泣きだして動けない者もいた。憤り勇んで飛び出す男たちもいた。
しかし扉を開けた先にあったのはもぬけの空だ。アジトが引っ越したのかと思うほど、何から何までなくなっていた。
強大な爆発音もしたし、怒号や戦闘音も聞こえていた。だというのに構成員の死体さえもなかったのだ。
不思議に思いつつも地上へと出た我らは、即座に衛兵の詰め所へと行き、事の顛末を報告した。
だが、肝心の『救世主』は分からなかった。
捕らえられていた他の者たちは「名を明かせない事情があるのだろう」「国に雇われた暗部なのでは」などと言い、救世主の特定までは動かなかった。
それでも私とカリンは探した。どうしても礼をしたかったし、命を救われたからには身命を賭して仕えたいという欲があった。
まだ【ベレッサの街】にいるのであれば強者の集まる冒険者ギルドで出会える可能性が高い。そう思って張り込んだ結果、数日後にやっと出会えたのだ。
白髪に翡翠の瞳を持つ彼はジェイル――年下で、Fランクの冒険者だった。
しかしそんなことは関係ない。私たちより強く、高潔で、仕えるべき素質を持っていることは明らかだ。
実際に話してみても年下という感じはしない。
強者として我らを引っ張っていくという意思を感じ、やはり仕えるべき人なのだと実感した。
とは言え、共にあることで困惑することも多かった。
ジェイルの持つ膨大な知識は驚嘆すべきものだったが、我々の常識から外れていると感じるものも多かったのだ。
「フゥガ、そこで<ソードスウィープ>だ」
「今か!? スライム一匹だぞ!?」
「それでもスキルは使って欲しい。本気で探索する時は別だけどな、今は熟練度稼ぎ中だから」
<ソードスウィープ>は高威力で薙ぎ払う範囲攻撃だ。単体のスライム相手に使うスキルではない。
それでも使えとジェイルは言う。いや、その理由もちゃんと教わってはいたのだが……どうにもMPが勿体なく感じてしまう。
そもそも熟練度という言葉自体、私は初耳だった。ジェイルは当たり前のように口にしていたが一般的ではないだろう。
スキルというものは腕を磨き、扱いに慣れればレベルが上がるものだ。少なくとも私はそう認識していたし、それ以外の方法を聞いたことなどない。
しかしジェイル曰く、単純に回数を重ねるだけで熟練度が増し、スキルレベルは上がるのだと。
何ならスキルを覚えていなくとも、意識して身体を動かすだけで熟練度は増すらしい。
最初に聞いた時には「何を言っているのだ?」と疑っていたが、実際にジェイルのステータスを聞けば納得せざるを得ないところがある。
【スカウトLv25】で短剣スキルの<スターバーストLv4>を持っているわけがないのだ。
<スターバースト>は本来、【スカウトLv30】あたりで覚える短剣最上位のスキルだし、Lv4まで鍛えるには相当扱い慣れていなければ不可能なのだから。
ジェイルは叡智の塊だ。頭の構造がそもそも常人とは異なるように感じる。
探索にも無駄がない。効率が良いというレベルではないのだ。
<コレクトサーチ>を使う前から採取ポイントに目星をつけ、<エネミーサーチ>を使いながら魔物の処理と採取を平行してやっていく。
さらに『初心者用クラフトセット』なるものでMPポーションもその場で自作し、狩りと熟練度上げを効率化しているのだ。
インベントリもあるのでドロップアイテムの吟味も必要ない。
大量に魔物を狩り、全てのドロップアイテムを持ち帰ることができる。
リトルボアの肉などはなかなかの重さになるので、それほどの量は持ち帰れないものなのだ。それこそマジックバッグなどがない限り。
我々の場合は、私とカリンにマジックバッグの支給もあったのだが、ドロップアイテムは全てジェイルがインベントリに収めている。そうすることで「どこで買い取りに出すか」「目当ての素材がいくつあるか」を把握しているらしい。
買い取りに関しても普通ではない。
通常、魔物のドロップアイテムや採取アイテムはまとめて冒険者ギルドの買い取りカウンターに出す。そのほうが楽だし、間違いもないからな。
しかしジェイルは魔道具屋や武具屋、錬金屋などを巡ってそれぞれの店に適した素材を売っていく。
その上で冒険者ギルドで依頼票を確認し、熟せるようなら依頼の完了報告と、余ったアイテムを買い取りに出す、といった寸法だ。
「手間はかかるけどこっちのほうが無駄がないし金も溜まるからな」
何気なくジェイルはそう言うが、全てのアイテムの買い取り価格を店ごとに覚えているとでも言うのだろうか。
それはもう冒険者ではない。商人の仕事だ。
とは言え、確かに有用なのは間違いない。商売に疎い私でも利益の差が歴然であることは分かる。やれるのならやるべきだろう。
さらにジェイルは普通の住人に売りつけるようなことまでしていた。
「すみません、風の噂で【フォレストモスの繭】を集めていると伺ったのですが、いりますか?」
「ええっ、こんなに!? ありがとうございます! ちょうど欲しかったところなのですよ!」
「いえいえ、たまたま狩れただけですのでお気になさらず」
そんな会話をそこいらのご婦人としていたわけだが、わざわざ森に入ってフォレストモスを狩ったのだ。それも繭のドロップ数がちょうど十個になるように。たまたまなわけがないだろう。
つまりジェイルはこのご婦人が所望していると知っていたわけだ。街を巡り事前調査したということだろうか。
ご婦人はお礼にと金に加え『上絹のストール』をくれたのだが……明らかに繭の売値よりも高い。
これでは「10milもらったお礼に100milあげます」と言っているようなものだ。
ジェイルもご婦人も普通に対応していたから口は挟まなかったが、私は内心「これ、大丈夫なのか?」と心配になっていた。
「あのおばさん、絹織物の生産者らしいんだけど材料が不足して困ってたそうだよ」
「そうなのですか」
「直接渡したほうがギルドを通すより早いし、報酬も美味いしな。街の住人から受ける依頼ってのはお得なんだ」
それからも数日間は街の外で魔物を狩り、採取ポイントを巡っては、幾人かの住人に同じようなこと――ドロップアイテムを渡し報酬を得る――をやっていた。
曰く、「この街で現状受けられる住人からの依頼はもうない」とのことだ。
そのたびにお礼というには多すぎる金やアイテムを手に入れていた。本当に商人のようだな。
当然、街の住人への納品だけでなく、冒険者ギルドへの買い取りや依頼報告も多くなり、ジェイルのランクは早々にEへと上がった。短期間であれだけ依頼を熟せば当然とも言える。
その上で私たちの訓練(熟練度稼ぎ)も行っているのだから、本当に効率的だと感心するばかりだ。
やはりジェイルは我々が仕えるべき男だ。並みの人間ではない。カリンとも毎夜、そんな話をしていた。
ある日の朝、カリンがジェイルに問いかけた。
「ジェイルさん、北の丘陵は行かないですか?」
今まで私たちが採取して回っていたのは【ベレッサの街】の西・南・東方面のみ。
森や草原、河川敷などが多く、採取アイテムや魔物も多岐に渡っていた。
しかし北の丘陵には別の魔物も出るらしいし、他ではとれない採取アイテムなどもあるだろう。
たしかに北に出る魔物は他に比べ強いと聞くが、我々にかかれば鎧袖一触であることは間違いない。
効率的なアイテム収集を旨としているジェイルがわざと避けているようにも見えて、私も不思議に思っていた。
「【ラダン丘陵】はあまり近寄りたくないんだよな」
「奥まで行ってもせいぜいEランクの魔物くらいしかいないと聞くが」
「その先の【レームル山】まで行くと強いのが出るらしいですけどね。そこまで行くと日帰りは難しそうですけど」
「いや、危険だとは思ってないんだけどさ。単純に行きたくないんだよ」
「ふむ、リーダーが意図しているのなら文句など言わんさ。気になっただけだからな」
■ジェイル 15歳 人間
■スカウトLv25
【ラダン丘陵】は冒険者ルートで最初のイベントが起こるポイントだ。
Fランクの依頼を三件熟すと講習の意味合いで集団依頼が発生するのだが、そこでメインヒロインの一人、レヴィアと出会うことになる。
パーティーに加入させない選択もできるのだが大抵のプレイヤーは入れるだろう。能力も高いし、見た目もいいユニークキャラなのだから。
レヴィアは主人公と同じく講習を受ける新人冒険者の一人として登場する。
【ラダン丘陵】でパーティー戦闘を経験しつつリトルボアを狩るというのが講習の内容なのだが、そこでグランドボアという上位種が乱入してくるというイベントだ。
講習に随伴していた冒険者に加え、主人公とレヴィアの活躍もあって無事、グランドボアを始めとするボアの群れを討伐する。
そうしてレヴィアが主人公と行動を共にするようになる……というのが加入イベントの流れだな。
グランドボアは北の【レームル山】から流れてきたと推測され、【ベレッサ】の領主は衛兵団を調査に出し、同時に冒険者ギルドにも調査依頼を出す。
本来なら新米冒険者の主人公が行けるものではないのだが、そこに領主の息子である『カール・ホイスト・ベレッサ』が「一緒に行ってくれ」的な感じで主人公パーティーに加入。ギルドに内緒で【レームル山】の調査に行くことになる。
カールは熱血漢で正義感の塊のようなヤツだ。街で起きた異変を自らの目で確かめたいということで暴走したらしい。主人公の巻き込まれ体質が発揮された形でもある。
アタッカーのレヴィア、タンクのカールという二枚看板。
主人公が何の戦闘職についても活躍が見込める編成だ。これにクリエイトキャラを三人入れて六人パーティーとするのが【ベレッサ】における鉄板構成である。
結局は【レームル山】で魔族の痕跡を見つけ、それが旅のきっかけになるわけだが……まぁ言うまでもなく『メインストーリー』なわけだ。
だから俺は【ラダン丘陵】に近づきたくないのだ。
メインストーリーの発生源とも言える場所だから。
そこで手に入れられるアイテムもあるし、それを納品するサブクエストもあるのだが、俺としてはやるつもりがない。
というわけでさっさと次の街に行ってしまいたいのだが、その前に――
「とりあえず【小鬼の洞穴】に行こうか」




