11:Red Hare
「ではパーティーリーダーをジェイルさんとし、フゥガさん、カリンさんとの三人パーティーで登録します。パーティー名はどうされますか?」
「【レッドヘア】で」
二人とも「おまかせします」的なノリだったのでFランクの俺がリーダーとなり、パーティー名も勝手に決めることになった。
【AG】でいつも使っていたパーティー名だ。
意味は赤兎馬。由来は元の名前をもじっただけだ。
それから聖教会へと足を運ぶ。
高いお布施を払ってでも確認しておかなくちゃいけないからな。
「私たちのためにお金出してもらって申し訳ないです」
「私たちから押しかけておいて何とも心苦しい」
「いや、パーティーを組むのに確認しておかないわけにもいかないからな。金なら例のアジトからパクったのが結構あるし」
教会に入り、神官さんに<ディテクト>の宝玉の使用をお願いするとすんなり了承された。
ただお布施は一人5,000milも必要らしい。俺の感覚では五万円相当だ。宿一泊が四千円前後と考えるとべらぼうに高い。
これは一年に一回くらいしか自分のステータスを確認しないというのも納得だ。
おのれ生臭坊主ども。おかげで世界の人々はちゃんとした育成ができなくなっているのだぞ? 世界を滅亡させる気か。
そんな不満も覚えつつ、二人には自分のステータスを確認してもらいつつ、その内容を読み上げてもらい、俺は紙に書き留めた。
ちなみに紙や筆記用具はこの世界では普通に使われているらしい。【幽霊屋敷】にも【梟のアジト】にもあったので適当にパクってきている。
これからは俺が計算しつつ、定期的に教会で確認する感じになるだろうな。なんともアナログな育成になりそうだ。
この場であれこれ説明するのも何なので、一度街の外に出て、狩場に向かう途中で改めて説明することにした。
一応俺がリーダーなので年下で後輩でもあるのだが偉そうにさせてもらう。まぁ獣人の性質を考えても俺が偉ぶったほうがいいだろう。
「まずこれからの活動方針から説明するが、【ベレッサの街】で行うのは依頼をこなしてEかDランクに上がること。それとダンジョン【小鬼の洞穴】をクリアすることだ。それが終われば次の街へ行く」
「【小鬼の洞穴】? たしかこの近くにある初心者用ダンジョンだよな? 行く必要はあるのか?」
「俺はダンジョン自体行ったことがないからな。経験のためにも行っておきたいってだけさ」
推奨Lv5のダンジョンなんて行く必要はない。
しかし俺には『メインストーリーに絡まない程度でこの世界を存分にやりこみたい』という欲がある。プレイヤーとしての性だ。
だからサブクエストも出来る限り熟したいし、ダンジョンにもなるべく行きたい。さすがに『全てをやりこむ』というのは不可能だろうがな。
「それと並行して俺たち三人のレベルアップ、強化を行っていくのだが、まず初めに俺の秘密を共有しておく。必要なことだから話すのだが、くれぐれも吹聴しないよう気を付けて欲しい」
「ああ、分かった」
「なんかドキドキするですね」
カリンはワクワクしているようだが、そんな能天気でいられるものだとは思わない。この世界において異質すぎる能力だからな。
俺も改めて、主人公はチートなのだと感じた次第だ。
「まず俺は自分のステータスをいつでも見られる。<ディテクト>を使っているわけでもなく、普通に見ることができるんだ」
「ええっ!? そうなのですか!?」
「なるほど、それで私たちだけしか見なかったのか。あの店での様子も……」
「ああ、恥ずかしながら誰もが俺と同じように見られるものだと思っていた。しかしどうやら俺だけの特殊能力だったらしいな」
おそらく二人は「お金を払わずにステータスを確認できるのだからお得だなぁ」くらいにしか思っていないだろう。
それがどれほど有利なことか理解していない。育成する・強くなるためには必須だと思っているのだが……まぁすぐに気付くだろうな。これがチートと呼べるほどのものなのだと。
「それとこれもスキルではないんだが、インベントリという能力を持っている。これはほぼ無限の容量のマジックバッグを持っていると思ってもらえばいい」
そう言いながら、虚空から【幽霊屋敷】の家具を取り出した。
鞄に手を突っ込んだわけではない。俺の周囲からならどこからでも取り出せるし、手を近づければ一定の大きさのものは何でも取り込める。
ゲームでも同じ仕様ではあったが、取り込める『もの』は多くなっている。オブジェクトなど『アイテム』以外のものなどだな。
これもまた二人は驚いていたものの「便利で羨ましいなぁ」というくらいの反応だ。
ちょっと考えれば危険な代物だと分かると思うのだがな。利権を狙う貴族がこれ目的で俺を拉致してもおかしくはない。インベントリ一つで国を動かすくらいの力はあると思っている。
まぁ今は「特殊すぎる力だから吹聴しないでくれ」と言うに留める。無理に理解しろとは言わない。
そこまで説明したところで、二人のステータスを書いた紙に目を通す。
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Name:フゥガ 狼獣人
BIL:剣と正義の神
JOB/Lv:ナイト(17)
WEP Skill:スタンス(3)、スラッシュ(3)、ダブルスラッシュ(1)、スウィープソード(1)
JOB Skill:ガードスタンス(3)、ディフェンススタンス(2)、タウント(2)、シールドバッシュ(1)
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Name:カリン 狐獣人
BIL:炎と手工の神
JOB/Lv:マジシャン(17)
WEP Skill:スタッフクラブ(1)、マジックスタンス(3)、マジックアップ(2)
JOB Skill:ファイアボール(4)、ファイアベール(1)、ファイアランス(2)、ハートオンファイア(1)
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ステータスの値については『信仰』『武器』『レベル』でほぼ決まっているから割愛だ。特に気にするところでもない。
獣人と人間では違うし多少の個人差はあるのだが、そこまで気にするところでもない。
それよりも確認しておくべきは――
「まずフゥガだが、【ナイト】にしたんだな。【剣と正義の神】を選んでいるのに」
【ナイト】は盾職だ。それなら【盾と規律の神】のほうが合っている。
【剣と正義の神】は近接物理アタッカー御用達だから【ナイト】よりも【ソードマン】や【ランサー】のほうがステータス的には扱いやすい。
チグハグというほどではないが、勿体ないとは感じてしまう。
「獣人というのは近接物理に行きがちなのだ。適当なパーティーを組んでも前衛過多でカリンを守る者が誰もいないということになるのでな。それであえて【ナイト】を選んだ」
「なるほど、そういうことか」
なんとなく理解できる気がした。
獣人と言えば人間以上の身体能力がウリだし、特にSTRとAGLが高い。狐獣人はINTが高いらしいが。
だから【剣と正義の神】を選ぶ獣人が多いんだろうな。一般的なチョイスだったに違いない。
しかしそれで【ナイト】を選んだというのは貧乏くじを引いたような印象を受ける。
カリンのためを思ってのことか、フゥガが元来一歩引くような性格なのか。
ちなみに装備は直剣と中盾だ。だから剣スキルを覚えている。【ナイト】Lv15相当の経験値を必要とする<スウィープソード>を覚えているということは【ナイト】に覚職してからずっと剣を使い続けているということだな。
「剣以外はやるつもりないのか? 大剣とか槍、メイスとかも【ナイト】なら適正あるだろ?」
「周りが剣ばかりだったからな。倣うにしてもお下がりを貰うにしても剣のほうが都合が良かったのだ」
「そういうことか。一応言っておくと、フゥガを強くするにあたって将来的に転職も視野に入れているし、剣以外も扱ってもらうつもりではある。今は承知だけしておいて欲しい」
「て、転職するのか!? そ、そうなると剣スキルが使えなくなってしまうだろう?」
「主要スキルだけはMAXにするつもりだ。だから仮に【マジシャン】になったとしても剣は扱えるぞ」
「……は? すまん、どういうことか分からないのだが」
「ん? 転職とスキルの関係が分からないってことか? 説明するとだな――」
俺は職業が【スカウト】で、MAXまで育てた場合は【スカウトLv50】だ。
武器は短剣を選択したからそれを使い続けたことで<ラッシュエッジ>や<スターバースト>などの『短剣スキル』を身に着けた。
俺はチュートリアル中に裏技的に色々と覚えたが、通常はその武器を使いつつ、職業レベルと同様に経験値を溜めることで段階的にスキルを覚えていく。【スカウト】であればLv30相当で覚える<スターバースト>が最高位スキルとなる。
それぞれのスキルはLv8がMAXだ。スキルを使い続け熟練度を溜めることでスキルレベルは上がっていく。
『武器スキル』の他に『職業スキル』というものも覚える。職業レベルを上げれば自動的に取得できるスキルだ。<エネミーサーチ>や<ハイド>など。これもまた俺は裏技的に覚えたのだが。
職業スキルもLv8がMAX。基本的に職業Lv30で覚えるスキルが最高位となる。【スカウト】の場合は<マップ>だな。
そして転職した場合だが、まず職業Lv50まで育てると、転職しても基礎能力が上がる。
つまり【スカウトLv50】から【マジシャンLv1】に転職した場合、普通の【マジシャンLv1】よりステータスが上がっているということだ。元が【スカウト】ならAGLとDEXが伸びているとかそんな感じだな。
職業スキルは、MAXにすることで転職しても使用可能になる。
<エネミーサーチLv8>にすれば【マジシャンLv1】になっても使えるということだ。だから俺は最初に【スカウト】を選んだわけだ。今後どの職業になっても使えるように。
武器スキルはMAXにするとステータスに表記され続ける。
つまり【マジシャンLv1】になっても本来装備できない短剣を装備でき、MAXレベルとなった短剣スキルを使用できるということだ。
しかしMAXにしなかった武器スキルは転職すると同時に消えてしまう。まぁ内部データ的には熟練度が残り続けているので、短剣を装備できる【アサシン】などに転職し直した時には【スカウト】時代の武器スキルが復活したりもするのだが。
……という【AG】の基礎知識を説明していたのだが
「うぅぅ……よく分からないです……」
「頭が混乱してくるな……おそらくとんでもない知識を教えられているとは思うのだが……」
「まぁそこら辺は俺がステータスを確認しつつどうにかするさ。損はさせないよう強くするつもりだから承知だけしておいてくれ」
こんな感じだった。
やはり転職自体が一般的ではないようだし、どうやらスキルレベルをMAXにすることもあまりしないものらしい。
当然、MAXにすることのメリットも知らなかったようで、そこら辺の新しい知識を理解するのが難しい様子だった。
ステータスの確認に大金がかかるのだから仕方ないかもしれない。自分がどのタイミングでMAXになったのか分からないだろうし、その状態で経験値・熟練度を上げても全て無駄となる。
仮にMAXにしたところで転職自体が「弱くなるもの」という認識ならば、ステータスの加算や武器スキルの引継ぎなどは知らないのも当然だろう。
二人が一般人で弱い冒険者だから知らないだけ、という可能性も高い。
強者や貴族関係者は知っていて当然ではないかと思うのだ。<ディテクト>しやすい環境なのだから。育成の仕組み・基本のようなものを把握していてもおかしくはない。
……というか知っておいてくれ。強者を育て、ラスボスを斃してくれ。俺の与り知らないところで。
「長々と説明してしまったがカリンのステータスのほうに移ろう。典型的な火魔法使いって感じだな」
「属性は悩んだのですがね、周りに【炎と手工の神】を信仰としている人が多かったので右へ倣えという感じです」
「冒険者をやめても手に職あるしな、選びやすいのは納得できる」
【炎と手工の神】は【クラフター】や【スミス】でも選ぶし、非戦闘職にも人気の神様だ。
魔法使い系の職業は属性の神様を選ぶのが普通だが、カリンの場合は火魔法を選んだってことだな。
まぁ最初は何でもいい。どれを選んでも一長一短だし、好みで決めていいだろう。
「カリンは将来的に火魔法以外も使ってもらうつもりなんだが、そのためにも転職は必須だ。フゥガと同様、承知だけしておいてくれ」
「ふ、複数属性ですか!? 宮廷魔導士とかになっちゃいそうです……」
ということはやっぱり貴族は転職の心得があるということだな。
一般的には単一属性、複数属性は宮廷魔導士だということは、強くなるための方法(転職)は一般的ではないということなのだろう。
ざっくりとした予定を伝えたところで、次は装備だ。
今のうちに強化できる部分はしてしまおうということだな。
「で、まずはカリンにこれを」
「な、なんですか、この杖とローブは! なんかすごそうな装備ですけど!?」
「拾い物だ。装備できるのがカリンしかいないからとりあえず渡しておく」
【幽霊屋敷】で手に入れた【長栄樹の杖】と【闇紫のローブ】だ。
俺の【暗月の短剣】と同じく、ストーリーの中盤付近まで使える装備。まぁカリンの能力に適しているかと言われると微妙なのだが、それでも現状の「Eランク相応の魔法使い装備」よりは断然マシだろう。
二人はDランクなんだがな。どうやら金欠冒険者だったらしい。
「フゥガにはこれくらいだな」
「これは?」
「例の闇組織の副頭領が装備していたアクセサリで【豪傑の腕輪】という。効果は単純なSTR上昇だな」
「なんと、このような高級品を……」
フゥガは【ナイト】なんだが、そうなると装備品は何も持ってないんだよな。【夜霧の梟】は暗殺者(斥候職)ばかりだったし。
唯一の物理アタッカーが【アベンジャー】の副頭領【剛腕のダンドーン】だったのだが、【ナイト】に適した装備をしていたわけではない。むしろ【ファイター】とか【モンク】っぽいヤツだったしな。
というわけでアクセサリだけ渡しておく。俺よりも有用に使えるだろう。
二人の装備品については今後の課題にもしておこう。
それこそカイザーウルフ素材から作ってもいいのだが……出来れば次の街で考えたいな。【ベレッサ】で作っても目立ちそうだし宝の持ち腐れになるだろう。
もしくは【幽霊屋敷】のようにお宝があるポイント……将来的に訪れることができる、不可侵エリアなどがあればそこで見繕うでもいい。考えておこう。
「あと二人にマジックバッグを渡しておく。例のアジトでいくつか手に入ったのでな」
「うわわ、こんなのDランク冒険者で持ってる人いないと思いますが……」
「そこは掘り出し物を見つけたとか、家族の形見だとか適当に誤魔化してくれ。大物は全部インベントリに入れるつもりだが、俺も誤魔化し用に持っておくよ」
とりあえず今渡せるものはこんなものか。
あとは育成……どうやって戦っていくかだ。それを指示しておかなくてはいけない。
ゲームのように俺がコマンド設定するわけにはいかないからな。
「で、これから普通の冒険者活動として採取しつつ魔物を狩っていくわけだが、連携については今のままで構わない。カリンが後衛、フゥガが守る形だ」
「ジェイルは?」
「俺は斥候だから探索時には先頭で、戦闘時には遊撃になる。ポジションのすり合わせは徐々にしていくつもりだ。少しずつ調整しておこう」
「ああ、分かった」
「それで戦闘に関してだが、できるだけスキルを使って欲しい。無駄撃ちでも構わないから」
「えっ、そうするとMPとかすぐに切れちゃうですよ?」
「『初心者用クラフトセット』というのを持っていてな。霊草を採取すれば俺が<クラフト>でMPポーションを作れる。採取ポイントを巡りつつ魔物を狩って魔石も集めれば材料には困らない」
「はぁ~なるほど、ジェイルさんは何でもできてしまうですね」
話を聞くと、どうやら一般的な戦闘はスキルを乱用するものではないらしい。
特に物理アタッカーは通常攻撃が基本で、たまにスキルを放つ程度なのだとか。
それだけMPの管理を重要視しているということだな。俺からすれば「クールタイムが終わっても撃たないのは損じゃん」という感覚なのだが。
【マジシャン】のカリンは火魔法を使っていたらしいが、それでも連発するような真似はしてこなかったらしい。
基本的にフゥガに任せ、遠距離で放つか、多方向から攻められた時に食い止めるために放つというような運用だったとか。
それはそれで正しいとは思うのだが、熟練度稼ぎを考えると不足だろう。
何なら敵がいない状態でも火魔法を使って欲しいとさえ思ってしまう。まぁそんなことをやれば目立つどころの話ではなく、狂人の類と見られそうだが。
「フゥガは全てのスキルを一回ずつ順々に使う感じでいて欲しい。【ナイト】スキルより【剣】スキル優先で」
「それは例えばスライム程度の魔物でも<タウント>や<ソードスウィープ>を使えということか?」
「そうだ。強くなるために何より優先すべきはスキルレベルを上げることだ。だからMPを気にせず、撃てる限りは撃って欲しい」
「分かった……が、何とも不安なものだな。継戦のためのリソースをわざと減らすような戦い方はしたことがない」
だろうな。しかし俺の仲間になったからにはやってもらう必要がある。
理想は主要な武器スキルをカンストさせてから、職業レベルをカンストさせる。そうすれば武器の変更や転職もスムーズにいく。
経験値や熟練度が無駄になりにくい、ゲーマーとしたら一般的な育成方法だ。
「カリンも全ての魔法を順々に使いつつ、【杖】スキルを使って欲しい。<スタッフクラブ>は適度で構わないんだが」
「すぐに息切れしちゃうと思うですが、大丈夫ですかね……?」
「MPポーションの生産が追い付かなくなるかもな。まぁ金はあるから帰りにでも店で買い溜めしておこう」
「うひゃあ、金満冒険者とかホントにいるんですねぇ」
まぁ【梟のアジト】でパクった現金だけならすぐに底を付きそうだよな。
やっぱり色々と売るべきか。【幽霊屋敷】の壺とか悩ましいところなんだが……出来れば次の街で換金したい。
一先ず、最初に話しておくべきはこんなところだな。
さて、三人パーティーとしての冒険者活動を始めてみようか。




