二十日目(後編)
迷宮の一階層にて探索を行っていた冒険者達、順調に迷宮の攻略を行っていた彼らですが、突然ざわめきだち歩みを止めてしまうのでした。モニターからその姿を伺う限り、彼らはひどく動揺しており緊張した面持ちで、身振り手振りを交えながら何やら仲間と話し合っているようです。
彼らの異常な行動の真意を知るべく、画面を拡大表示する私。すると彼らの手元に我々が扱っている物と同じ端末を確認する事が出来るのでした。遠く離れていても、端末同士で会話をする事が出来る長方形のアイテム。侵入者達は端末を口元へ当て、しきりに何かを口走っているのでした。
おそらく侵入者達は、第二階層へと向かったパーティーが全滅した事を悟ったのでしょう。全滅する前に二階層のパーティーが最後となる連絡を行ったのか、突然連絡が途絶えた為に全滅を知ったのかは定かではありませんが、結果として全滅したという事実は伝わっているようです。
二階層のパーティーの安否とは違う内容で動揺しているという事も考えられなくはありませんが、一階層のパーティーは今のところすべて順調そうに見える為、ほぼ間違いは無いでしょう。すべてのパーティーのうち、二階層に進んだパーティーだけが端末を持っていないなんて事は無いでしょうし。
それにしても、遠く離れた仲間と会話出来るというのは意外と便利な物ですね。正直な所ご主人様に勧めておきながら、私自身はその利便性には疑問を抱いていました。迷宮内の様子はモニターにて監視出来ますし、大抵はわざわざ危険を冒してまで迷宮の外で活動する管理者はいませんから。安全な迷宮内にて侵入してきた冒険者を、こちらの有利な状況で撃退するという事が迷宮の醍醐味だと思っていました。
ある区域で人間を狩り尽くしてしまっても、迷宮を移動させれば良いだけですから、ご主人様のようにオーブを求め、更に多くの迷宮を管理しようとする必要性を私は感じません。一部の実力のある管理者は数多くの迷宮を管理して自らの力を誇示しようとしますが、ご主人様はそういった性格は持ち合わせていないようにみえます。
一階層にて、各パーティー毎に話し合う素振りを見せていた侵入者達ですが、再び動きを見せるのでした。迷宮内の探索を再開すると思いきや、急に進路を変えて歩きます。モニターを見る限りでは、他の侵入者達も同様に密林の中央付近の一点を目指して歩いているのでした。
ランダムに配置されている筈の木々で覆われた密林ですが、彼らのすべてのパーティーが一点に集まろうと動いています。まだ密林全体を探索したわけではありませんから、いくら端末によって連絡を取り合えるとはいっても、この広い密林で特定の場所に集まる事は出来ないはずです。それも最初に訪れた、入口付近であれば分かるのですが、彼らの集まろうとしている場所は密林の中央ですから。
彼らの行動を探ろうと再びモニターを動かす私。まだ彼らには私達の知らないアイテムがあるのかもしれません。画面を拡大したりと、オーブの操作におわれている私ですが、隣からはミントとエミリヤの談笑する声が聞こえてきます。まだ侵入者は大量に迷宮内に残っているというのにいい気なものです。
「大変ですよ。あれだけの数の侵入者に集まられて進まれると、第二階層の魔物では手に負えません。彼らには既に二階層へと進むワープポイントの場所が知られていますし」
おそらく一階層に残っていた連中は、ワープポイント以外の二階層に進む道を探していたのでしょう。この迷宮の場合は異なりますが、実際はひとつの階層に複数の階段等を設けることはよくある事ですから。ですが、先に二階層へと進んだ仲間が全滅した事を知り、最初に見つかったワープポイントが本命の道と判断したのか、予想以上の魔物の強さに慎重になったのかは定かではありませんが、今までと方針を変えようとしているようです。
予測される彼らの次の行動は、統率のとれた連中であることから一度一箇所に集まって話し合いを行うはずです。それから全員で一丸となって進むか、引き返すのか決めるでしょう。個人の強さもさることながら、数が揃ってしまうと厄介です。ここは彼らが揃い切る前に、何とかして各個撃破したいところですが。
「じゃあこっちも連中が一箇所に集まったところを一気に殲滅しますわ。予備の魔物を連中の目指している場所へ向けて向かわせなさい」
偉そうに喋っているミントですが、相変わらず寝巻き姿のままですから迫力がありません。連中がここに来た時も彼女はその姿で戦うのでしょうか?寝起きの、皺だらけの服のままで。
「すべてのパーティーの中で動いていない人達がいるはずです。ここは狭い迷宮ではないので、おそらくその人たちが狼煙でも上げて、集合場所を知らせているのではないでしょうか?」
エミリヤが口をはさみます。たしかに、ここは密林ですからその方法であれば場所を指定する事ができますね。周りには燃やすものも大量にありますし。
攻撃に特化した破壊魔法ですが、その用途は多岐にわたります。人間達の世界では火を起こしたり、水を出したりと生活の中で非常に有用な魔法と言われているようです。今までの戦いを見る限りでは戦闘面においては、火の属性がよく用いられているようです。火に耐性を持っている魔物に対してはその弱点となる水の魔法が用いられますが、特に弱点を持たない魔物に対しては、大抵は火の魔法を撃つのが一般的と言えるでしょう。
破壊魔法にも様々な属性の魔法が存在していますが、中でも火の魔法は他の属性と比べて威力が高いようです。代わりに氷の魔法等は、威力が低い代わりに相手の移動を阻害したりといった効果を持っています。昔偉い人が言っていた事ですが、同じ価値の物は総合的に似たような結果をもたらしてくれるとかなんとか。特殊な効果を持つ他の属性の魔法に対して、特に効果を持たない代わりに威力の高めな火の魔法といったところでしょうか。勿論、これは同じ程度の魔法同士の話であり、初級と上級の魔法では威力も特殊効果も段違いですが。
予備の魔物として密林の四方の片隅に用意されていた魔物達が、ミントの命を受け中央付近にすすみだします。赤黒い肌をした巨人達に赤い色の蜥蜴達。二階層の巨人とは異なり、この巨人は火山に住んでおり、図体も大きいようです。赤い色の蜥蜴のほうは、火山の火口域に生息している種類の魔物です。これらの魔物達は総じて水の属性に弱いのですが、水の属性は敵の行動を邪魔したりと厄介な効果を持っていますが、威力は低めです。弱点の水魔法も巨人の持ち前の体力で乗り切ろうという考えなのでしょうか。
「巨人の魔物は労働力としても期待出来そうですね。畑を耕したりとか」
呑気な口調のエミリヤ。そういえば彼女の出身地の砂漠地帯は、作物もあまり育たない為か巨人族は生息していませんね。
「魔物は体力自慢に限りますわ。なかなか死なないから長く使えるし」
「確かに、折角魔力を消費して呼び出したのに、使い捨てでは勿体無いですね」
どうやらミントの考えはご主人様とは異なり、多くの魔力を消費してでも長く使える魔物を配置するという考えのようです。少ない魔力で呼び出せ、局地的に力を発揮して使い捨て同然の扱われ方をするご主人様の戦法も悪くはありませんが、ミントの戦い方も中々良いかもしれません。対照的な魔物の運用方法ですが、どちらも魔物の持ち味を生かしていますね。
個人的には、ご主人様の飽和攻撃とやらのほうが理にかなっている気もします。大量の敵を前にして冒険者は毎回有効な戦法を取れるとは思えませんし、散っていった魔物の魔力はある程度ですが再び迷宮に戻りますから。汎用性は巨人等の大型の魔物に劣りますが、小型の魔物の数が揃っていれば戦闘で多少数を減らしても全体的に見ると影響も少ないようです。
迷宮では侵入者達は一箇所に集まり、話し合っているようです。今後の進退についての話し合いで間違いは無いでしょう。流石、歴戦の兵達といったところでしょうか、中央の偉い人達を守るように一般の兵は円陣を組み、敵の奇襲に対して備えているようです。円陣の外側の人間は、大きな盾を密林に向けて構え、その後ろでは盾の隙間から槍を突き出しているその姿は、まるで巨大な針鼠が防御姿勢をとっているようです。
針鼠とは違い、更に彼らには厄介な特徴があります。鎧に身を包んだ連中の後方では魔術師達が杖を構え、魔法による援護の準備姿勢をとっているようです。これでは連中を一網打尽にしようと魔物を向かわせても、無駄になるかもしれません。巨人も満足に被害を与えられずに、魔法の集中砲火を受けて息絶えてしまうでしょう。
「あの防御陣形を崩すのは容易ではありませんね。一旦待って彼らが移動している所を狙ってはどうでしょうか?」
「折角大きな体をした巨人ですし、外側から岩や大木でも投げさせてはどうですか?魔術師連中なんかは簡単に数を減らせそうですよ。身動きもとれないでしょうし」
エミリヤが酷い事を考えています。確かに戦士に比べて体の頑丈ではない魔術師は岩なんか当たったらひとたまりも無いでしょう。それにしても彼女は、完全にこちら側の考えですね。元は人間界の住人だったはずですが、したたかというか頼もしいというか。
「もっと良い方法がありますわ」
不敵に笑うミント。私がその意図をつかめずにいると、モニターから侵入者達の慌てふためく声が聞こえて来るのでした。
密林から火の手が上がり、円陣を組んだ侵入者達を燃え盛る赤い炎が取り囲んでいます。彼らのいる場所は密林にしては多少開けているのですが、密林全体を燃やされてしまえばひとたまりもありません。直接燃やされるわけではありませんが、彼らは熱気によって蒸し焼きにされてしまいます。
「そろそろ迷宮の模様替えをしようと思ってましたわ。私、密林はごちゃごちゃしてて嫌いですの」
迷宮を自分の思い通りに変えてしまおうと考えているミント。敵と一緒に密林を焼き払う気のようです。
魔術師達が一斉に水の魔法を唱え、付近の消火を行っています。ですが、燃えているのは人間の何倍もの背丈の大木です。彼らの行動は焼け石に水といったところでしょう。
金属の鎧に包まれた屈強の前衛達はなすすべも無く、膝をついていくのでした。熱気を受けて自身の金属鎧が熱くなっている様子が見て取れます。丈夫さが取り柄の前衛ですが、鎧があだとなっているようですね。彼らの装備は耐熱仕様では無いようです。偉い人達の装備はどうかわかりませんが。
「十分に大木に火が回ったようですし、次の作戦いきますわ」
ミントがオーブを操作すると、一斉に赤黒い肌の巨人達が燃え盛る大木に抱きつき、侵入者達の方に向かって押し始めるのでした。次第に大木の根元から複雑に絡み合った根が姿を現し、大木が傾いていきます。そして燃え盛る大木は円陣を組んだ侵入者目掛けて倒れ掛かるのでした。
幹から火を吹き、轟音を立てて倒れる大木。うまく直撃を避けた者もいれば、押しつぶされた者もいたでしょう。モニターからは炎によってその姿を確認することはかないませんが。次々と倒される燃え盛る大木によって、侵入者達は分断され更にその身を炎の近くに晒すことになるのでした。
あれほどの質と量を備えていた彼らですが、もう結果は見えています。このまま放っておいても、炎によって死んでいくでしょう。近くの木々が倒されたといっても、密林全体が燃えているのですから彼らに逃げ場はありません。彼らの呆気ない幕引きに席を立とうとした私の隣で、更にミントは追い討ちをかけるように魔物に指示を出します。
燃え盛る炎の中から次々と姿を現す巨人達。戦いの終わりを感じて部屋へと戻ろうとした私が最後に見たモニターには、人間の胴体程の大きさの棍棒を手に、戦意を喪失している侵入者達に向かっていく姿が写っているのでした。




