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二十日目(前編)

 私、ミランダは迷宮管理センターから派遣された使い魔です。こちらの迷宮には既に熟練の使い魔の方々がおられる為、私は主に商品の宣伝をさせて頂いていたのですが、昨日ご主人様は新しく迷宮を作る為に旅立って行かれました。


 迷宮の管理運営はご主人様や使い魔に任せて、私は商品を売りつけていたかったのですが、見事にあてが外れてしまいました。金払いもそんなに悪くない方だったので、とても残念でなりません。こうなったらここの迷宮を任されている使い魔に、商品を売りつけるしかありませんね。


 使い魔は商品を売る事で、その値段の何割かを迷宮管理センターから貰えます。そして値段の高い物であるほど貰える割合も高く決められているので、私としては高額商品をおすすめしたいところです。たとえば冒険者が訪れやすくなる効果があると言われている壷とかは、最高の商品でしょう。これは売値は高いのですが原価は安いので、効果は期待出来ません。でも私に入ってくるお金が凄いので是非買っていただきたいところです。


「ミント様、こちらの商品についてご存知ですか?」

「あ、その壷私が作ったやつですわ。うまく作れなくて形が歪んでるところを何故か評価されて、売り出されたインチキアイテムよ」

ミントが得意げに言います。たしかこの使い魔は戦闘に特化した型の使い魔だと聞いていましたが、手先も不器用だったのですね。やはり同じ使い魔を相手にした商売は難しそうです。


 使い魔は物理戦闘を得意とする者が多く、私のように魔法使い型の使い魔は珍しいと言えます。戦闘では魔法による遠距離攻撃は魅力的ですが、魔法使い型はどうしても打たれ弱い為です。物理戦闘型の使い魔の場合、攻撃力のみならず耐久力にも優れている為、大抵の管理者は物理型の使い魔を欲しがります。高いお金を出して使い魔を買うので、これは当然かもしれませんが。すぐに死んでしまったらお金が勿体無いですからね。


 このミントは能力の全てを直接戦闘に注ぎ込んだ使い魔と聞いています。性格面や知能に難がありますが、実際に迷宮に置いておけばとても頼りになる使い魔でしょう。管理者によっては、この自由気ままな性格が良いという方もおられるそうです。従来の真面目な使い魔に飽きている管理者にはお勧めかもしめません。


「装飾品とかは如何ですか?高級な服とかお似合いですよ」

女性の使い魔にはこういった商品を薦めておくのが無難かもしれませんね。


 彼女はご主人様の姿が見えなくなるや否や、迷宮の魔物を即座に変更していました。きっと自分の中では、いっぱしの管理者気取りなのでしょう。この手の者は見栄を張りたがるので、服や装飾品が良く売れるはずです。容姿も良いので似合いそうですし。


「服なんて守りが期待出来ませんわ。金属鎧や武器のほうでおねがい」

「でも、鎧だと見た目が」

「見た目じゃ敵を倒せませんわ。圧倒的な戦闘能力で冒険者を排除してこその使い魔よ」

服には目もくれず、無骨な鎧や武器ばかり見ているミントです。


 迷宮の管理を支援する為に作られた使い魔といっても、考え方は色々あるようですね。リリのように主の事だけを考えているような使い魔もいれば、ミントのように戦う事ばかり考えている使い魔もいるようです。出来る事なら、浪費癖のある使い魔とかがいてくれれば良かったのですが。


 そして残念ながら武具等の実用性重視の商品は、利率が低いので買わせてもあまり得にはなりません。早くも彼女には商品を薦めても無駄な気がしてきました。


 迷宮の事ですが、今までいた少ない魔力で呼び出せる魔物は、昨日のうちに殆ど処分されてしまいました。処分と言っても廃棄ではなく、人間の街や城に攻撃に向かわせたようです。これは攻め落とす目的では無く、在庫の処分でしょう。


 数が多いと言っても弱い魔物ばかりですから、人間達に勝てるとは思えません。今までは地の利があったおかげで活躍出来ていた程度の魔物ですから、逆に人間の方に地の利がある戦闘では、結果は見るまでもありません。


 今迷宮に残っている魔物といえば、パーウクに龍族の魔物に成長型の魔物達ぐらいでしょうか。それ以外の魔物はすべて人間の都市へと向かったのです。


 ミントは新たに迷宮の防衛を担う魔物を呼び出しているようです。今までいた魔物を追い出すときに、代わりの魔物の目星をつけていたのでしょう。現在の迷宮の状態では、戦闘もままなりませんから。


 モニターを見る限りでは、ミントはご主人様とは違い少ない魔力で生み出せる魔物は使う気が無いようです。中型や大型の魔物を何体も迷宮に配置している様子から、冒険者と正面からぶつかるような戦闘を行うようですね。魔族らしい堂々とした戦いには好感が持てます。


 ミントの戦法だと、ご主人様の御造りになった姑息な仕掛けが無駄になるような気がしてなりません。ですが迷宮自体には手を付けていないようですから、何か考えがあるのでしょう。なんといっても迷宮を一つ任せられているぐらいですからね。


 魔物達を呼び出した事によって、迷宮の魔力は大幅に減少しました。一体一体の魔物の質は向上しているため、防衛能力は大幅に上がってはいますが、今度は魔力の確保に頭を悩ませる事になりそうです。以前言われていたように、そろそろこの迷宮も引越しを考える必要がありそうです。


「ミント様、迷宮の場所はこのままでいいのですか?最近、訪れる冒険者の数が少なくなってきています」

「しばらくはこのままでいますわ」

「魔力の確保とかは大丈夫ですか?今は牢に相当な数の人間が入っていますが、ご主人様が新しい迷宮を造られたら囚人の移動とかあるかもしれませんよ」

「駄目そうだったら移動するわ。人間達の王都のすぐ近くとかに行くのも面白そうね」

私の心配をよそに笑顔で話すミント。この自信は一体どこから来るのでしょうか?いきなり私の魔力をよこせとか言われたら困るのですが。


「そういえばご主人様達は、海のほうに行くと言ってましたわね。新鮮な海の食べ物とか期待出来るかしら?」

「迷宮が出来上がってから聞いてみたらいいと思います。ご主人様はわりとお優しい方のようですし」

「でもあの人、海産物が嫌いなのよね。美味しいのに」

食べ物の事よりも迷宮の心配をして欲しいのですが、気楽なものですね。


 ご主人様も楽観的な方でしたし、案外この二人はお似合いなのかもしれません。物事に動じず冷静に対処できる優秀な管理者としての素質があるのか、ただ何も考えていないのか、私には分かりませんが。


「ああ、疲れた。私はもう寝ますわ。何かあったら呼んで頂戴」

大したことはしていないのに自室へと戻って行くミント。


 戦う事と食べる事と寝る事しか考えていないミントの管理する迷宮に、私は次第に不安を抱いていくのでした。それなりに今まで結果を出してきた、ご主人様とリリはもうここにはいません。強い冒険者が侵入してきた場合、これで大丈夫なのでしょうか?


 よくよく考えてみると、私は今まで迷宮に派遣された経験がありません。なのでミントの策が正しいのかどうかも分からないのです。不安でいっぱいになった私は、呼び出された魔物の確認を行うのでした。そして、モニターを見ると私の抱いていた不安は的中します。


 なんと、迷宮には肉弾戦闘に特化した魔物しか配置されていないのでした。一般的には、肉弾戦の魔物に前衛を勤めさせ、後方から魔法が得意な魔物が攻撃する戦法がよく用いられています。こうする事によって相手を選ばず、効率良く戦闘が行われると言われています。


 また、肉弾戦闘用の魔物は魔法に弱いという特徴を持っていますから、今の状態では敵に魔法使いがいたら不利な戦いを強いられるでしょう。私やエミリヤが魔物の補佐に回るという手段もありますが、これは良い策とは言えません。なぜなら、敵が1パーティーだけとは限らないからです。


 同時に複数起こった戦闘のうち、一つで勝利を収めたところで、冒険者全体が止まるわけではありませんから。それに私達の魔力は有限です。大量のパーティーが侵入してきた場合は、きっと押し切られてしまうでしょう。


 魔物の配置にはバランスが求められているのですが、どうやらミントにはそれが無いようでした。この状況を打開する為の策を考えますが、経験に乏しい私にはまったく良い案が浮かびません。どうしようかと考えあぐねていた時に、私はあることを思い出すのでした。


 困ったらご主人様達に相談すればいいのです。早速、監視室にて端末を探す私。ですが、不幸な事に端末を見つけるより先に、室内には冒険者の侵入を告げるアラームが鳴り響きます。


 昨日まで訪れる事を期待されていた侵入者達ですが、今ではまったく状況が変わっているのでした。恐る恐るモニターを見る私。


 映し出されているのは、金属鎧に身を包んだ多数の人間達。その後ろにはローブを纏った者の姿も見えます。皆同じような装備に身を包み、似たような編成のパーティーが多数迷宮に侵入してくるのでした。そして、その者達の鎧やローブには同じ紋章が付いています。金で縁取られた五角形の盾形の金属片の中央に獅子を模った紋章。それは、この迷宮の近くにある商業都市の象徴とされているものでした。

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