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十八日目(後編)

 ご主人様のいいつけに従い牢屋へと向かう私。迷宮の魔力の為に魔法使いを多く捕えてありますが、それ以外の奴隷もまだ残っています。魔法の使えない普通の人間でも魔力そのものを持っていないわけではない為、捕えておけば幾分かは魔力を生み出してくれます。


 とはいえ戦士や村人から得られる魔力は微々たるものであり、連中を生かす為に消費する食料の事を考えると、はやく売り払ったほうが良いと感じているのでした。迷宮内で戦わせる案もありましたが、魔物との連携にはあまり期待はできません。それに今現在囚われていると言う事は、その程度の実力しか持っていないという事に他なりませんし。


 その点村人は役に立っていると言えるでしょう。今のところ我々の食材の下処理に洗濯、奴隷用の食事の用意、屋敷の敷地内で作物を育てたりといった労働を行わせているのでした。今回のように裁縫や機織等、正直冒険者よりも重宝しています。


 私の姿を確認すると怯えた表情で壁際に身を寄せる奴隷達。ですがそんな連中の態度等、いちいち気にしている暇はありません。私は牢屋全体に聞こえるように言うのでした。


「裁縫の技術を持っている者は前に出なさい。ご主人様が呼んでおられます。良い働きをした者には褒美や待遇の改善もあります」


 私に顔色を窺うような視線が向けられています。役に立っている者は実際、屋敷を自由に歩き回る権利を与えられている事は知っているはずですから、私の言葉を疑っているわけではないでしょう。ひそひそとお互いに話合っている声が聞こえてきます。やがて、格子の近くへ歩み出る女達。まだ幼い子供も混じっていますが、まあ何かの役には立つのでしょう。


「私に付いてくるように」

私は8人の奴隷を連れ出すのでした。連中は全員が女で年齢は様々です。彼女らは不安の入り混じった表情を浮かべて付いてきます。


 ふと私の頭に、今のところ使い道の無い奴隷の活用方法が浮かぶのでした。たしか、高貴な吸血鬼は人間種を眷属にする能力を持っているはずです。実際にどうやっているかは分かりませんが、吸血鬼は村等を襲って少しずつ人間を眷属に変えていき、自分達の勢力を広げる習性を持っています。


 吸血鬼でなくても似たような能力を持つ魔物もいたので、それを利用して眷族と化した奴隷達を野に放してみるのも良いかもしれませんね。その手の魔物は呼び出す為の魔力を多く必要としますが、魔物を単体で呼び出して野に放つよりも、眷属を与えて放つほうが良い結果が期待出来ます。


 うまくいくと有名な吸血鬼のように、一領土を支配する程の存在になってくれるかもしれません。そうなってくれれば、金銭面も魔力においても大量に集める事が出来るようになるのではないでしょうか?そんな事を考えながらも、やがて奴隷達を連れて広間へと辿り着いた私は、ご主人様の元へ駆け寄るのでした。


「必要な道具を集めている所だから。リリは適当な奴をつれてサイズでも測ってきてくれ」

薄い紙やハサミや魔力で熱を持つ金属塊に霧を噴射する容器等を広間の大テーブルに並べているご主人様。


 私はご主人様の命令に従い、奴隷を1人連れ出すのでした。私が選んだのは一番歳を取った女です。その事についてはとくに理由もありません。


 あちこちの身体の長さや太さを調べて紙に書き写す年配の女。私の細かな情報が衆目に晒される事にあまり良い気はしませんが、文句を言うわけにもいきません。私はこの作業が終わるまでの時間、先ほどの魔物について考えを巡らせるのでした。


「ご主人様。今現在役に立っていない奴隷を有効利用する方法を思いつきました」

サイズを測り終えた私は、すぐにご主人様に進言します。


「ああ。その辺の事は任せるよ。頑張ってくれ」

お忙しいのか、厚紙を片手に仰るご主人様。私は信頼されているようですね。きっと私にまかせればうまくいくと考えて貰えているようです。


 ご主人様に詳細をお伝えすべきかと悩みます。売り払った場合の奴隷の金額と魔物に必要な魔力は相当なものになるでしょう。この作戦が失敗すればそれらはすべて失われてしまいますから。失敗した事を考えると反対されるかもしれません。


 お忙しい所をしつこく話しかけるわけにもいきませんし、悩みどころですね。しばらくその場で考え込んでいると、やがて裁縫作業が始まるのでした。型紙に線を引く女、完成予定の絵を片手にご主人様と話している女。ご主人様は布にゆるい折り目を付けて見せながら説明をしているようです。


 完成品にしか興味の無い私はその場を離れる事にするのでした。波立った飾りを付ける事で服に何の効果をもたらすのか、私には分かりませんし興味もありませんから。魔物についても実行しても構わないとの考えに至りました。私のやるべき事は悩む事ではなく、結果を出す事でしょう。迷っていても何も始まりませんから。


 監視室に向かった私は、モニターを監視しているミランダを横目に呼び出せる魔物を調べます。どうやら現段階でも、いくつか該当する魔物が存在しているようです。流石に低コストの魔物の場合は、日中は眷属は活動出来ないとかの問題を抱えているようでした。ここは失敗を避けるため、呼び出せる魔物の中でも最上級のものが好ましいようです。


 まず目に付いたのは人間に寄生して身体を乗っ取る魔物でした。耐久性に富んでいるようですが、残念ながら中々数が増えないようですね。人間の体内で分裂して増殖するとの事ですが、分裂に数年かかるようでは意味がありません。きっとその頃には私とご主人様は異世界へと旅立っているでしょう。


 次に見つけた魔物は昆虫の魔物でした。増える速度は速いようですが目立ってしまってはあまり意味が無い為にこれも却下ですね。こんなのが歩き回っていたら、即駆除対象でしょう。なんせ昆虫を背負ったまま活動するようですから。


 しばらく悩んだ私はありきたりな吸血鬼に決めるのでした。これは女性型の高貴な吸血鬼で、どうやら魔物自体も眷属も、太陽の下で普段と変わらない生活を送れるようです。日中は本来の能力を発揮出来ないという欠点がありますが、人間社会に溶け込むには適していそうですね。


 同様の吸血鬼の男性型は、ご主人様のランクが上がらないと扱えないようです。両者には一般的な男女の能力差があるようですが、どちらにせよ人間種にとっては強力な存在であることには変わりないので良いでしょう。欠点は、生命活動を維持する為に定期的に吸血を行う必要があるとの事です。


「冒険者から奪った装備を与えて強化すると良さそうですね。消費する魔力を考えると、専用の装備を買い与えても良いぐらいです」

興味を持ったミランダが覗き込んでくるのでした。


 迷宮での魔物も能力に応じて待遇を変えるのが一般的です。能力の高い魔物の場合は装備を与える事でより良い結果を出してくれるので、当然と言えるでしょう。ゴブリンに伝説の武器を持たせて、ジャイアントに何も持たせない管理者はいないでしょう。例外として不可視の魔物等に武器だけを与えて奇襲させるといった考えもありますが、どうせ装備を与えるのなら攻守揃った魔物のほうが好ましいでしょう。


「吸血鬼なら空も飛べますし魔法も使えます。持ち前の素早さを損なわないように刺突剣に防具は服と装飾品です」

商売上手なミランダがお勧めの装備を教えてくれます。迷宮管理センターには吸血鬼向けの、隷属化効果上昇の能力の付与された装備も売られているようです。


「稀にですが、天然の吸血鬼が管理者になる事もあります。連中は人間の貴族のような暮らしを好むので迷宮はあまり好みではないようですが」

「太陽が苦手なのに地上の屋敷に住みたがるというのも妙ですね」


 私は吸血鬼を呼び出し装備品を買い与えるのでした。見た目は人間の若い娘といった所でしょうか。金色の髪を頭の後ろで結んでおり、目鼻立ちのはっきりした顔に色白の肌、細長い手足。外見を餌に獲物を呼び込めそうですね。元気の良さそうな印象を与える、馬の尻尾に似た頭が吸血鬼らしくありませんが。


「貴方には手下として獣人の戦士と斥候、人間の戦士と魔法使いを与えます。その者等を眷属に変えて大陸の北西部へと向かうように。その地で村等を襲って勢力を拡大していきなさい」

私は吸血鬼に命令を下すのでした。


「すみません。眷属に変えるにはちょっと時間が必要で」

申し訳無さそうに俯きつつ言葉を濁す吸血鬼。


 どうやら連中はその日のうちに大量の人間を眷属に変えることは出来ないとのことです。彼女が言うには1人の人間を眷属にするには、その者の血液に半分以上自分の血液を送らなければならないようです。相手が死なないように血液を吸いながら自らの血液を送るとの事ですが、吸い取った分の血液はすぐに他の人間には使えず、一晩経たないと自分のものとはならないとの事です。


 また、吸血鬼でも男性と女性で保有している血液の量が異なっており。彼女の場合は、一晩に男性1人しか眷属に変える事が出来ないようです。ちなみに眷属が人間を従属させる場合は、彼女の倍の手間がかかるらしく、どうやってもすぐには出立は出来ないとの事でした。


 眷属を増やしていく事で全体的な従属化の速度は上がっていくのは明らかですが、最初は彼女だけなので今日の出発は難しそうですね。彼女が言うには、自分の血液をすべて与えてしまうと吸ったばかりの他人の血液がどれほどあろうと死んでしまうそうです。便利そうに見える彼女らも色々悩みはありそうですね。


「分かりました。ではしばらく屋敷に滞在してまずは眷属を増やして行きなさい。あと移動用に馬も買い与えます。三人眷属を作って、四人人間を連れて行ってはどうですか?逃げないように縛り付けたまま移動して、移動しながら眷族に変えていくとか」

私が提案するのでした。血液の全体の何割かは食事にしなければならないようですから、この方法なら彼女らが飢え死にすることは無いでしょう。移動中に獲物に会えるとも限りませんし。


「ありがとうございます。それならうまくいきそうです」

「今後の役に立てたいので貴方達の特長とか性能とかを教えるように」

今後の予定はありませんが、興味が出てきたので聞くことにします。まったく生態の異なる種族というのはなかなか面白い存在ですね。


 聞くところによると彼女らのような高貴な吸血鬼は、ただ趣味で勢力を拡大しているのではないようでした。低級な者とは異なり、彼女らは多数の眷属を従える事によって強大な存在へと変わっていくそうです。手下を率いているから全体として強いのではなく、彼女ら自身が強くなるそうです。一晩に何人も眷属に変えられるようになったり、男性型を上回る能力を得たりします。


 強さへの願望については彼女自身が分かっていない様子から、おそらく本能によるものなのでしょう。低級な吸血鬼はにはない機能ですが、おそらく連中も本能ゆえに眷属を増やしているのでしょう。企みが露見する危険を冒してまで。ただの食事であれば眷属を増やす必要はまったくありませんからね。むしろ餌の取り合いになりかねない事ですし。


 彼女らの一派はオーブから生み出されたので、ご主人様に牙をむく心配はなさそうです。勿論、魔族は吸血鬼にはなりませんので使い魔である私も安全です。一応彼女にはミント達の事を話しておきました。彼女は使い魔であるミントの事を認識できますが、その逆は無理でしょう。そしてミントのほうが遥かに強いので、偶然出会った場合は吸血鬼が説明する余裕はありません。でも特徴等を教えておけば、逃げる事は容易いでしょう。


 こうして私は新たな試みとして、しばし吸血鬼を屋敷で飼うのでした。やがて野に放つその日まで

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