十六日目(後編)
侵入者の報告を聞いた私がモニターを確認すると、そこには4組の冒険者達の姿が映っているのでした。そのうちの一組は河原にて休憩を行っているようです。
恐らくこの連中はほぼ同時に迷宮に入ったのでしょう。冒険者達は他のパーティーの後に続いたところであまり得は無いので、違う道を通ろうとします。他者の後をついて行くだけだと、戦闘が目的にせよ宝が目的にせよ、先を進んでいる連中に踏み荒らされた何も無い道を進むだけになってしまいますから。
四組がほぼ同時に迷宮に入り、最初の密林で四方向に分かれて進んだ為に運よく一組が最短距離で河原まで辿り着いたのでしょう。密林は他の階層のように迷路のようにはなっていないので、比較的自由に進む事が出来ます。小さな区画毎に用意した木や地面のレイアウトを全域にわたって使いまわす事で、別の場所であっても先ほど通った道ではないかと錯覚させる目的があったのですが、効果はあまり無いようですね。
この密林の弱点は、数組のパーティーがそれぞれ違う道を、己の足を信じて真直ぐに進めばワープポイントまで到達出来る事です。もし迷路のようになっていれば、それぞれの道を進むうちに移動距離に大きな差が出来てくる他、入り口付近へと繋がった道や知らないうちに他のパーティーの通った後の道を進まされたりするのですが。
「冒険者が休んでいる河原に空を飛ぶ魔物を送り込みますか?」
「最初の一組だし、構わないでおこうか。二組目や四組目のパーティーが休んでいる時に奇襲をさせよう」
どうやらご主人様は、冒険者達による第二階層への進行を調整したいようです。
監視室にて私とご主人様がそのようなやり取りをしている間に、冒険者達は休憩を終えて移動し始めるのでした。先頭を獣人の斥候と戦士が辺りを観察しつつ慎重に進み、その後には人間の射手にドワーフの魔法使いが続いています。種族の垣根を越えたパーティーです。数時間もすれば迷宮の牢獄にて更に多くの種族と一緒になれますね。
「ご主人様良い機会ですし、鼠が変異した魔物を使ってみてはいかがですか?」
ミランダが進言するのでした。どうやら商品の宣伝以外にも使い魔らしい事を言えるようです。
「よし、強そうな奴らを数体密林に送ろう」
結構乗り気なご主人様。遊び心が先走って失敗をしなければ良いのですが。
他のパーティーは密林を彷徨っていますが、一組目は二階層へと歩を進めるのでした。昨日双子に破壊された壁は、オーブの魔力によって既に元通りになっています。オーブは定められた迷宮の姿を常に保とうとする為、あまりにも酷く迷宮が破壊された場合は、魔力の枯渇という事態を招いてしまいます。もっとも、人間に破壊されたという例は今まで殆ど無く、大半が上級魔族が冒険者を血祭りにあげる際にやりすぎた場合が多いのですが。
魔族であれば、その有り余る魔力をオーブに与える事で修復も簡単なのですが、人間のご主人様には難しいでしょう。今後、魔力の供給量と拡大していく迷宮による消費を考えると、ミランダを買い取ってもしもの事態に備える事も考えなければなりません。彼女は魔法使い系の使い魔なので、魔力は豊富に持っているでしょう。
第二階層にて、狭い通路を獣人の斥候を先頭に縦一列に並んで進む冒険者。犬人種の斥候が鼻を動かしながら今まで以上に慎重に辺りを観察しているようです。嗅覚に優れた犬人は斥候という職業は天職かもしれません。更にこの手の獣人は忠誠心も俊敏性も高い為、こちらの陣営にも欲しいところですね。
優秀そうな犬人種や狼人種ですが、組織内での順位を付けたがるという欠点も抱えているようです。強いものに従うという本能なのでしょうが、なかなか厄介な問題です。私達使い魔に逆らえば死が待っているだけなのですが、問題はご主人様です。飼う際には、奴隷用の首輪を用意する必要がありそうですね。
突然斥候の足が止まり、天井付近を注意深く見つめます。モニターにて確認してみると、その辺りの通路にはゆっくりと落ちてくる天井の罠が仕掛けられているのでした。長い距離に作用する罠ですが、消費魔力を大幅に抑える為に非常にゆっくりとした速度でしか落ちて来ない、あまり有効では無い罠でしょう。
斥候がなにやら仲間に伝え、それを合図に一気に通路を走り抜ける一行。慌てなくとも押しつぶされる心配はありませんが、見た目的な圧迫感はそれなりにあるといえるでしょう。走りながらも壁や床に注意を払っている斥候。持ち前の素早さを失わないように、革製の鎧を身につけているせいか、他の仲間達よりも移動速度も速いです。
しばらく駆けた先には、最初の小部屋が用意されています。前回と違い扉を撤去している為、冒険者達は小部屋の入り口へと勢い良く飛び込む事になるのでした。小部屋には彼らを待ち構えるようにして並んだ魔物達。前列にゴーレムと動く鎧、続く骸骨兵にゴーストといった魔物達が、たった今侵入してきた冒険者達を取り囲むようにして配置されているのでした。
一瞬、天井と魔物の集団という罠に顔を曇らせる冒険者達でしたが、比較的弱い魔物達の姿に落ち着きを取り戻します。本人達としては急いでいるつもりなのでしょうが、緩慢な動作にて冒険者達へと歩み寄るゴーレム。斥候が短剣を、獣人の戦士が剣を抜き、人間の射手が弓を引き絞ります。
ゴーレムへと狙い済まされた矢が次々と刺さっていきます。また、ドワーフがなにやら魔法を唱える事によって、パーティー全体が光に包まれるのでした。魔法を合図に集団から飛び出した戦士が、剣を振るい無傷のゴーレムを一刀両断します。切り割かれ床へと崩れ落ちるゴーレム、彼はもう動くことは無いでしょう。
また、斥候がゴーレムの振るう腕をかいくぐりながら短剣で攻撃をしていました。三体のゴーレムの攻撃を避けつつ、首筋へと短剣を突き立てていく斥候。囲んでいるとはいえ、元々の敏捷性が違う為に相手になっていませんね。幾度と無く短剣を突きたてられたゴーレムもまた、己の体を維持出来なくなり床へと崩れ落ちるのでした。
「大変です。もっと包囲を狭めなければ前回のようにゴーストの火の魔法も効果がありません」
数を生かしきれずに劣勢の魔物達を前に心配そうなミランダ。
ところが、ゴーレムを三体程倒しただけにも関わらず息を荒げている獣人。人間よりも身体能力に勝る種族の彼らですが、見た目上は疲労困憊といった様子です。また、弓を射続けていた人間はおろか、一回魔法を唱えただけのドワーフも似たような状態へと陥っているようでした。
迷宮内に設置されたザコーンによる恐怖効果によって能力が落ちているのでしょうか。それとも彼らは見た目に反して虚弱体質なのでしょうか。私達が呆気にとられていると、一気に動きを鈍くした冒険者達は次々にゴーレムに捕らえられていくのでした。
武器を持った腕を掴まれ、持ち上げられる斥候。ゴーレムの巨体によって床へと押さえつけられる戦士。弓を手放した射手は、そのまま体ごと抱えられていました。やがて捕えた冒険者達と共にモニターから姿を消すゴーレム達、下層の牢獄へと向かうのでしょう。
「やっぱり、戦闘前にひとっ走りしてもらうのが良かったね。あの犬も鼻は利いても空気が薄い事には気が付かなかったようだし」
得意になるご主人様。どうやら第二階層はフロア全域が罠のようになっているようです。
また、密林の方でも激しい戦闘が行われていました。冒険者達に、蹄の付いた腕を振るい大きな火球を投げつける、羊に似た顔に人型の胴体の下級悪魔。ある者は火球に包まれ、床へ倒れます。火球をかいくぐり悪魔へと一太刀浴びせた戦士は、代わりに腹部に蹄を食い込ませて崩れ落ちるのでした。
元々は貧弱な鼠だったとは思えない働きぶりです。と思ったら、後一歩で冒険者達を無力化させられるというのに、貧弱そうな兎へと姿を変えてしまうのでした。捩れた一本の角を生やしてはいますが、所詮はただの動物です。生き残っている魔法使いによって簡単に焼き払われてしまうのでした。まあ、及第点といったところでしょうか。私は密林の魔物を向かわせて、残った冒険者を制圧するのでした。
勝手に死肉等を口にして変化してしまいますが、戦闘面では役に立つようです。今回は弱い魔物へと変化しましたが、更に強力な魔物への変貌を遂げる事もあるでしょう。通常の密林の魔物に混ぜてこのような予測不能な魔物を出す事は、有効な手段かも知れません。
他の冒険者達の戦闘は凄惨なものになっていました。最大の人数となる6人のパーティーが二組で一体の魔物と戦っています。桃色の人に似た姿をしていますが、全身に人間の口を大量に設け、手足の末端には鋭い鉤爪を備えた魔物unknownが冒険者達を次々とその手にかけているのでした。あの魔物は狡猾さを持っており、更に姿が見えません。伸縮性に富んだ手足を伸ばして獲物を切り裂き、その血液を糧に生きている魔物で耐久性も高いです。
目に見えない魔物によって後衛職から倒されていく冒険者。半狂乱になった前衛はがむしゃらに武器を振るっていますが、生半可な傷を与えた所で倒れた後衛達の血液を吸う事によってすぐに傷は癒えるようです。やがて戦士と剣士が4人残った所で、彼らは画期的な手段でもって敵の姿を見破る事が出来るようになるのでした。
一人の戦士が持っていたブドウ酒を辺りに振りまく事で、紫色の染みを空中に浮かび上がらせる事に成功したようです。そして一斉にその染みの浮かんだ場所へと武器を突き立てる冒険者達。彼らは恐怖に支配されているのか、動かなくなった魔物に執拗に武器を振るっています。背後から小人が忍び寄り、麻酔効果のある吹き矢で攻撃されても、彼らは武器を振るうのを止めませんでした。
麻酔が効いてくる事で、地面へと倒れる前衛。unknownを処分する役に立ってくれた彼らですが、褒美等は無く、目覚めた時は冷たい牢獄に入れられていることでしょう。




