十六日目(前編)
食堂にてご主人様と私は、昨日捕えた双子に質問をしています。気を失った状態で運ばれてきた彼女らには治療を施していました。昨日のうちに彼女らには、我々に服従する効果のあるアイテムを付けさせています。勿論、アイテムの代金は彼女らの所持していたお金を使いました。根無し草の冒険者達は、常に現金や貴重品を持ち歩いているようです。優秀な冒険者である彼女らは、多額の金品を所持していたのでご主人様もお喜びのようでした。
持ち家があればそこに隠して置けるのかもしれませんが、不在時は心配ですね。やはり、自らが持ち歩くのが一番でしょう。ご主人様はお金や貴重品を預かる施設を作れば儲かるかも知れないと言っていましたが、恐らくそういった仕事は国や貴族等の信用のある偉い人でなければ無理でしょう。しかも、預かったお金を他者に貸す事によって利息分を得ようとか考えているご主人様に預けたがる人間はいないでしょうね。
双子は不必要なお金は宝石や貴金属等に変えて持ち歩いていたので、一度それらを売り払う必要がありました。これから役に立ってもらう事もあるので、装備等には手をつけていません。数々の迷宮を攻略してきた彼女達なら、これから効率良くオーブを集めてきてくれるでしょう。もっともミント達が帰ってくるまでは彼女らの仕事はこの迷宮の防衛ですが。
「結界を張りつつ、中から一方的に攻撃出来るというのはすごく便利だね」
ご主人様は双子の魔法に興味がおありのようです。
「たしかに卑怯なぐらいですね。中から私の投げナイフやご主人様の弩での攻撃を合わせると、誰も勝てないでしょう」
幻術については何も言わないでおきましょう。弩からボルトの一本でも飛ばしたほうが効果がありますし。
私達の言葉を前に双子は、俯き気味に申し訳なさそうにしています。ミントなら勇者の首を取ったかのような態度で胸を張るのに。豪快な戦いぶりの彼女らでしたが、根はおとなしい性格なのかもしれません。扱いやすそうで容姿も良いですし、奴隷として売り払ったら良い値がつきそうです。
「姉の閃光の魔法で妹の結界の魔法を撃ったらどうなるんだ?」
急にまた奇妙な事をご主人様が言い出すのでした。
言われてみれば気になりますね。迷宮の壁すら貫く魔法と大抵の攻撃は防いでしまう結界、どちらが強いのが興味が出てきました。少し考えてみた私の予想では、結界は閃光を防ぎつつ両者の魔力が尽きるといった結果に終わりそうですね。双子というのは同じ程度の能力をもっているらしいですし。……これだと防ぐという点で妹の勝ちになってしまいますか。
「魔法は使用した本人には害をなさないようになっています。そして人はそれぞれの持つ魔力の本質が異なっています。ですが私達は同一の存在なのでお互いに対して、魔法は効果を発揮しません」
姉のほうが、ゆっくりとした口調で喋ります。
「なので姉さんが私を撃っても、ただすり抜けていくだけです。そして私の結界も姉さんだけは自由に通過出来ます」
続けるように妹が答えるのでした。
「ふむふむ、矛と盾はお互いには効果無しと……。じゃあ、君達以外は結界内から外部へ一方的に攻撃することは出来ないのか」
残念そうなご主人様です。世の中うまい話は無いものですね。
魔力の質が違う為に効果を発揮しているものが、双子だと同一の使用者として扱われるのでしょうかね。魔法とはそういったものだったのですね。言われてみれば、すぐそばにある杖の先から、あれだけの熱量の閃光を放っても二人が何とも無かったのがうなずけます。
「前々から思っていたのですが、冒険者達がオーブを狙う理由は何ですか?」
私は元々は双子の所持していた宝石の指輪を眺めながら聞くのでした。
「色々な利用価値があるそうで、高値で売れるからです。あと、魔族は我々に害をなすために存在していると聞いていますから、退治の為です」
「じゃあ、迷宮の最深部まで辿り着かない限りは殆ど利益が無いのかな」
ご主人様も興味がおありのようです。相変わらず損得の事ですが。
「魔物を倒すと魂の欠片を手に入れる事が出来るので、攻略目的でない人も多いです。自らの修行の為や魔物の素材の入手の為に迷宮に入る冒険者もいます」
冒険者達には我々の常識とは外れた目的があったようです。ご主人様と私は、知られざる人間達の目的について耳を傾けるのでした。
人間界の理では、全ての生物は魂の器というものを持っていて、他者の命を奪ったりするとそこへ、その他者の魂の欠片が得られると言うのです。欠片を消費することによって魂の器が強化され、身体能力等が成長していきます。また、魂の器にはその持ち主の名前や生い立ち等といった情報が記されており、その情報を開示することによって身分等の証明にも使われているそうです。これらの特性を利用して人間達は犯罪者の特定や領内の人民の管理に役立てています。また、魂の欠片は元の持ち主の姿を具現化する事も出来るそうです。
たとえば猪を一体始末することによって欠片を4つ手に入れる事が出来、欠片2つ消費する事によって肉を手に入れ、残りの二つで毛皮を手に入れるか成長に使用するか、といった用途です。三つ消費する事で骨を具現化させたり、数十個の欠片を集める事で欠片を魂に変えたりも出来るそうです。魂そのものは、装備に付与する事で特別な効果を持つようになります。猪の場合は僅かに腕力が増えるといった効果で余り価値のあるものではないそうです。これらの欠片の数や用途、魂に変わる為の数は魔物によって違うそうです。
以前私がシャラルラムから手に入れた奇妙な武器も、特定の生物の魂を付与する事によって作られたものらしいです。非力な人間界の生物はこのような手段でもって我々に対抗してきたのですね。もっとも彼らには我々から侵略を受けているといった意識は無く、自らの作り出した神に仇なす存在という考えの下戦っているとか。
この魂の器は人間界に生まれた者の特権らしく、魔界で生まれた私はおろか、異世界からやってこられたご主人様も持ってはいないのでした。我々が生物を倒すとその場に亡骸が残るのですが、人間界の住人が倒すと亡骸は飛散して大地へ還り、器に欠片が入るとのことです。パーティを組んでいると欠片は均等に分散されるそうです。欠片の数が人数で割り切れなかった場合はどうなるのか不明ですが、便利そうですね。
欠片は長期間保存しておく事は出来ず、そのままにしておくと器に吸収されて成長に使用されるようです。大量に集めて簡単に運搬する事は出来ませんが、捌いたりといった手間をかけずに素材が得られるのは羨ましい事ですね。一般的に猟師は森で動物を狩り、その行為によって得た欠片を町で素材に変えるそうです。あと魂の欠片の得られる数には決まりがあり、生前に損傷が激しい場合には得られる欠片の数も少なくなるそうです。
「ご主人様やリリ様も町の教会で洗礼を受ける事でこの理に従う事ができるようになります」
双子が言ってますが、迷宮を捨てて人間界で暮らさない限りは必要は無いでしょう。
欠片によって具現化出来る素材は、用途等について器の持ち主が知る事が出来るので、誤って毒を口にしたりする心配は無いそうです。他者から盛られた場合は別ですが。また、これらの欠片は植物からも得られるそうです。
私達が双子から話を聞いていると、ミランダが慌てた様子でやってきて迷宮にまた新たな冒険者が侵入したとの報告を受けるのでした。




