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十五日目(後編)

 迷宮の第一階層の最奥に位置する河原にて腰を下ろし、休憩をする双子の姿。この先には、第二階層へと続くワープポイントが設置されています。この見晴らしの良い場所は冒険者にとって水を補給できるだけでなく、魔物の襲撃にも気が付き易い為に絶好の休憩場所として利用されているのでした。


 もっともご主人様の考えでは、ここで水分を十分に与えることでこの先に続く高温多湿の迷宮内で汗をかかせ、その濡れた体に雷属性の魔物達による攻撃を浴びせるという目的の為に設けられているのですが。双子達は結界に守られている為に、その戦法は通用しないでしょう。



「木とかの隠れる場所が離れている分、空からの攻撃に対してはどうだろう?」

休憩する双子の姿を見て呟くご主人様。


 言われてみれば、河原は見晴らしが良いかわりに、空からは絶好の攻撃場所と言えるかもしれません。休憩中に空から群れをなして襲い来る魔物達。密林の方へと逃げ込むにも少し距離がありますし、逃げている途中にはぐれたり、足の遅い冒険者を集中的に狙う事が出来ますね。


「良い考えかもしれません。空からの攻撃に合わせて、密林の方からも魔物を向かわせて挟撃という手段も取れますね。彼女らには通用しませんが、他の冒険者達には有効だと思います」


 双子が休憩中なのをいいことに、ご主人様は早速オーブを操り新しい魔物を探し始めるのでした。モニターへと候補の魔物を並べて、いつになく真剣な眼差しで選ばれています。しばらく悩まれた末に、鳥の翼と脚に女性の顔と胴体をしたハーピー、猛獣の胴体に鳥の頭部と翼のグリフォンの二種類に候補を絞られたようです。夢魔等も空を飛べるのですが、密林には似合わない魔物ですね。大抵の冒険者は、日中に迷宮に侵入してきますから。


「ハーピーは爪に麻痺毒を持っています。グリフォンは必要な魔力が高い分、身体能力が優秀です。冒険者の捕獲には、ハーピーが適していると思います」

「じゃあ、ハーピーにしようか。一応、グリフォンも数匹用意しておいて、背中に乗ったり出来ないかな?」


 またおかしな事を申されるご主人様。一部の例外を除いて魔物は命令を聞きますから、難しい事ではないかもしれませんが、馬にすら乗れないご主人様がグリフォンに乗って空を飛ぼうと思っているのでしょうか?たしか街へ出かけた時に、馬にはあまり乗ったことが無いと仰っておられました。それに迷宮内の移動には、飛行は役に立たないでしょう。天井の高い密林かこの屋敷付近でしか使えないはずです。


「迷宮の外の移動に利用されるおつもりなのでしょうが、意外と空は危険なのですよ。ワイバーンやロックやドラゴン等、グリフォンよりも強くて速い魔物は多いです。それに地上と違い隠れる場所もありませんから」

きつめに言っておきましょう。ご主人様はただでさえ思考が読めない人ですから、移動手段を与えたらどこへ行くかわかりません。


 丁度話終えた時に双子が立ち上がり、敷物や焚き火を片付け始めました。彼女らは、礼儀のなっている冒険者のようですね。最近は、片付けはおろか火すら消さずに先へ進む輩も多いですから。常々、片付けをさせられる者の事も考えて欲しいと思っていました。もっとも片付けをするのは魔物達ですが。


 河原を後にした双子の目の前には、青く輝くワープポイントがあるのでした。眼鏡をかけて注意深くワープポイントの周囲を見ている妹。ヲープポイントに罠を仕掛けられていると回避のしようが無い為に警戒しているのでしょうが、心配はありません。なんでもお互いの作動魔力が干渉しあう為に、誤作動が多発してどちらも使えなくなってしまうのです。そして我々にとって、長期間階層を繋ぐ手段が失われてしまえばオーブは力を失ってしまいます。そのため、ワープポイント付近には罠等は設置する事が出来ません。


「冒険者が侵入しているそうですが」

監視室にミランダがやってきました。彼女は不慣れな使い魔の為、緊張しているようです。


「自慢の第二階層の出番だ」

ご主人様は自信がおありのようですが、ただワープポイントを利用して別の場所に階層を移動させているのに過ぎません。配置されている魔物も貧弱なものばかりですし。またこの階層は、外部と空気孔によって繋がっている為それほど温度も高くなく、冒険者にとって都合のよい階層となっているはずです。



 双子は狭く入り組んだ道を進んでいます。ご主人様の考えでは、この階層には通路上に魔物を置かず、各所に点在する小部屋や大部屋にまとめて魔物を配置する事にしています。普通の冒険者には有効かもしれませんが、まとめて魔物を倒す事の出来る、双子には有効ではないように思えます。


 特に罠も設置されていない通路を警戒しつつ進む双子。他の階層と違い、内壁に実際とは異なる壁の絵も描かれておらず、特に迷うことなく彼女らは進んでいるのでした。いくつかの曲がり角を過ぎた後に、最初の大部屋へと辿り着いた彼女らは、金属製の両開きの扉を開き中に入ります。


 大部屋では、双子を待ち構えていたかのように魔物がひしめいているのでした。入り口を取り囲むように並ぶ土の体を持つゴーレムと鎧の魔物達。魔力によって動く鎧ですが、見た目通りの頑丈さと手に持った剣や槍によって戦います。鎧の後ろには骸骨の兵と魔法による攻撃を得意とするゴースト。所々、骸骨兵の中に鎧を着込み、その体に火薬の入った袋を埋め込まれた個体も混じっているのでした。


 魔物達が双子の方へと動こうとしたその時、姉の手にした杖から白い閃光が走ります。巨大な閃光に飲み込まれ、消滅していくゴーレムや骸骨兵。入り口から放射された魔法は、奥に見える両開きの扉へと、進行上の魔物をなぎ払い、奥の扉を貫くのでした。扉を貫いた魔法は更に奥の壁をも数枚貫き、次の小部屋までの新たな道をつくります。夥しい数の骨片や金属片の散らばる道、ゆっくりとした足取りで双子は

一歩を踏み出すのでした。


 魔物達を二分した双子は結界に守られつつ、閃光の走った道を歩いていきます。意外な事に、二人の息は荒く疲れが見て取れます。強力な魔法を使った代償でしょうか。彼女らの足元からは、乾いた骨の砕ける音が聞こえて来るのでした。魔物達は一瞬動きを止めましたが、自らの目の前を歩いていく彼女らへと一斉に襲い掛かります。ゴーレムはその巨大な腕を振り上げ結界を殴りつけ、鎧の魔物は手にした武器によって攻撃を加えていくのでした。


 二分された魔物達は双子を取り囲みますが、彼女らは魔物を無視して大部屋を歩いていきます。半球型の結界の中央に位置する妹が一歩を踏み出す毎に、また結界も動き正面にいる魔物を消滅させて行くのでした。横方向から攻撃を繰り出した魔物も同様に、結界に触れた部分を四散させます。魔物達は次々と結界によって粉砕され、その破片を床へと撒き散らしています。宙に浮かぶゴーストの目の前に人間の頭大の火球が浮かび上がりました。そしてその火球は双子へと放たれますが、結界に阻まれて消滅していきます。


 一体のゴーストが、結界の傍にいる金属札の鎧を身につけた骸骨へと、火球を放ちます。火球は一直線に飛んで行き、命中すると同時に骸骨兵の体を炎によって覆うのでした。炎に包まれた矢先に、轟音と共に炎に包まれた骸骨兵は爆散し、周囲へと骨や金属札を高速でばら撒きます。結界の至る所で何かが消滅する光が起こり、その周囲では飛来した金属片によって魔物達もその体に穴を穿たれていくのでした。


 状況の飲み込めないでいる双子は足を止め、爆発の起きた場所を見ています。まったく被害はありませんが、彼女らの顔は青ざめているようです。結界を破壊することは出来ませんでしたが、あの骸骨兵は使える魔物といえるでしょう。一瞬にして弓矢よりも早く、強力な攻撃を無数に、かつ全周に行う術はありません。一般的な生物と違い、骸骨兵やゴーレム等は穴を穿たれても攻撃の手を緩める事がありません。痛みによって身を埋めたりする冒険者と、今までと変わらず行動できる不死系や魔動系の魔物達。魔物の特性を考えた罠といえるでしょう。



「そろそろ終わりにしようか」

モニターを前にして呟くご主人様は、他の魔物達にも指示を行うのでした。


 第二階層中からゴーストを集めて双子の下へ送るご主人様。ゴースト以外の骸骨や鎧の魔物達は動かさないようです。監視室にあるオーブから各魔物に指示が送られ、その命令を受けた数十体のゴーストが一斉に浮遊しつつ、双子の戦っている部屋へと移動していくのでした。



 戦闘の行われている大部屋では、姉が閃光を迸らせつつ杖を横薙ぎにしている姿があります。大きな音をたてながら巨大な白い光が走り、次々と魔物達を飲み込みました。奥にあった壁は崩壊し、光の通った後には魔物の残骸が床に散らばっているだけです。この一撃により、大部屋の一角にいた魔物は片付けられてしまいます。実力の違いを見せ付けられても臆することなく戦いを挑む魔物達。この階層の魔物の特徴は、守るべき自らの生命を持っていないことです。


 攻撃によって魔物のいなくなった場所へと駆け出す二人。圧倒的な強さを見せる彼女らですが、表情に余裕は無く、疲弊しているようです。不思議な事に魔法を放った姉と同様に、結界を維持しているだけの妹のほうも疲れが来ているようです。大部屋の破壊した壁から通路へと出ようとする双子。ですが、二人の前に他の場所から集められたゴースト達が立ちふさがるのでした。


 多数のゴーストの前方に、一斉に火の球が浮かび上がります。結界の中では、姉が妹の前へ一歩踏み出し杖を構えました。ゴーストへと魔法を唱えようとする姉ですが、動きがとまります。何故か手にした杖を床へと落とし、背中を丸めた姿勢で硬直する姉。そこへ一斉に火球が放たれるのでした。


 結界に阻まれてはいますが、大量の火球が集まり大部屋の一角が火の海へと変わります。安全な結界の中で蹲る姉と驚きの表情を見せる妹の姿がありました。そして彼女らの事はお構い無しに火球を放ち続けるゴースト達。双子の後方からは、ゴーレムや鎧の魔物も近付いてくるのでした。


 炎に包まれた中で蹲る姉に声をかけている妹。彼女の周りは大部屋の魔物達が集まっていき、徐々に包囲しつつあるのでした。まったく余裕の無くなった表情の妹は、右手に持っていた刺突剣を地面へと突き刺し、空いた右手をローブのポケットへと突っ込むのでした。この間も次々と火球が結界へと放たれ、魔物達は各々の攻撃手段で結界へと攻撃を加えます。また、火の海を化したこの一角の至る所で金属札の骸骨兵が爆発しているようです。


 ポケットからなにやらアイテムを取り出そうとする妹、その表情は青く生気を失っているようでした。やがて掲げられた彼女の右手には何も握られておらず、そこで力尽きた妹は地面へと崩れ落ちるのでした。半透明の結界が光を失い、消滅してきます。その場には双子が寄り添うように倒れているのでした。彼女らの足元には、妹のポケットから落ちたと思われるアイテム、鳥と蝙蝠の翼を交差させた形状の物が残されていたのでした。

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