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十五日目(中編)

 モニターには、一階層の密林を歩く双子が映し出されています。彼女らは以前とは異なる迷宮の姿に驚きを隠せずにいるようですが、それはこちらも同じです。二人は胸部に銀色に光る胸当てのついた、前よりも上質そうなローブを着ており、更に頭には宝石の埋まった黄金の髪飾りを付けていました。姉の持っている杖は、自らの身長よりも長く先端には龍を模った装飾が施されています。妹のほうは右手に紫色の輝きを放つ細身の刺突剣、左手には全身を覆う程の大きさの銀色の大盾をもっていました。


 私達と同様に彼女らもまた力を蓄え、装備を整えていた事が窺えます。前回の失敗を踏まえ密林を慎重に進む双子は、後方の姉を守るかのように妹が盾を構え、注意深く周囲を見渡しつつ歩いていました。更に先行する妹の目元には、起動用の魔力を目視する事によって、仕掛けられた罠を見破る効果を持つ眼鏡がかけられています。


「迷宮管理センターの情報を確認してみます。彼女らの装備の詳細が載っているかも知れません」

ご主人様は今回は一階層から攻撃を仕掛ける考えのようです。比較的少ない魔力で配置する事が出来、繁殖によって数を増やしていく事の出来る、密林の魔物を足止めに使うおつもりなのでしょう。


 双子は前回この迷宮を訪れた後に二つの迷宮を攻略しており、迷宮管理センターからは結構な額の懸賞金がかかっているようです。情報では戦法自体は変わっていませんが、より質の高い装備品によって魔力の消費を減らすと同時に、魔法の威力や効果を高めていると書かれていました。特に注意すべき装備は、攻撃することによって敵の魔力を奪う効果を持つ、妹の刺突剣とあります。また、床に届く程の長さのローブによって隠れていますが、二人の履いている金色の靴は歩く事によって僅かながらも魔力を回復させていく効果があると書かれています。


 どうやら前回の失敗から魔力の枯渇対策を学んだのでしょう。ご主人様の飽和攻撃とやらに対して、万全では無いものの一応は対抗手段として形にはなっていますね。そして覆せない程の劣勢になればまた帰還アイテムで逃げるつもりでしょう。上級の冒険者と管理者の戦いは、大抵は痛みわけで終わる事が多いと聞きます。今回もそうなりそうですね。


「やはり二人には多額の懸賞金がかかっています。これは生死を問わず、迷宮管理センターへ引き渡す事で受け取る事ができます。生きて捕えたなら、引き渡さずにこちらの配下に加えて扱ったほうが得ですね。」

私は率直な意見をご主人様に申し上げるのでした。


 彼女らは私の最初のご主人様の仇でもありますが、その能力は優秀と認めざるを得ません。迷宮管理センターへと引き渡したところで、見せしめに処刑されるのが関の山でしょう。こちらで運用したほうが利益になるのは確実です。個人的には恨みもありますが、私の最初のご主人様は迷宮管理者として彼女らと戦った結果、敗れてしまったのです。その勝負は正当なものだったでしょう。私も使い魔としての誇りがありますから、個人的な事案よりも迷宮の利益を優先するべきでしょう。


「たしかに彼女らを配下に加えられれば、例え他の管理者と敵対しても怖くは無いね。ただ、捕えるどころかこちらが滅ぼされそうだけど」

いつに無く弱気なご主人様。やはり、ミント達を外へ出したのは失敗だったのでしょうか。



 太い木の幹の合間から小人達が吹き矢による一斉攻撃を仕掛けました。風きり音と共に10数本の矢が双子へと飛んでいきます。その矢には麻酔薬が塗られているでしょう。同時に木の上から人型の魔物が、人間の頭程の大きさの石を双子目掛けて落とします。地面からは視認することが難しい高さから落とされる石は、並みの冒険者であれば脅威でしょう。双子も小人の吹き矢には注意を払っているものの、木の上からの攻撃には気づいてすらいないようでした。


 同時に四方と頭上からの逃げ場の無い攻撃ですが、彼女らに当たる寸前でそれらは四散して散っていきます。双子の周囲には、半透明の半球型の結界が現れていました。奇襲が失敗するや否や、地中に備えられた隠し通路へと避難する小人達。木の上に潜む魔物は、小人が隠れる時間を稼ぐように連続して石を落としているのでした。


 落とされた石は、妹の唱えた結界魔法に触れるや否や四散して散っていきます。一見原始的ですが、この戦法はなかなか理にかなった手段といえるでしょう。弓や魔法等の遠距離攻撃であっても、高い木の上に潜む魔物を捉える事は難しいです。比較的安全な位置からの攻撃を続ける事で、危険な地上にいる小人達を逃がし態勢を整え、再び奇襲を加える。この戦法を取るようになってからは、密林を突破した冒険者は数える程しかいません。結界に遮られて被害こそ与えられていませんが、比較的安全に妹の魔力を減らしていけるでしょう。


 結界の中で両手に持った杖を水平に構える姉の姿がありました。彼女は念じるように一瞬目を瞑ると、杖の先端から白い閃光が真直ぐに照射されます。閃光の走る先には魔物の姿は無く、密林が広がっているだけでした。一見無意味な行動を前に木の上からの石が降り止みますが、彼女が杖を横に薙ぐことにより魔物は石を落とす事が出来なくなってしまうのです。放たれている閃光は彼女の杖の動きに合わせ、まるで巨大な剣のように密林の木々を切り裂くのでした。


 轟音をたてながら倒れる巨大な木々、木の上にいた魔物は地面へと叩きつけられ、地下に潜む小人は倒れた幹によって付近の地上に出る事ができなくなってしまいます。双子にも巨大な幹が降りかかりますが、結界に阻まれ、半球状の表面を滑るようにして地面へと落下するのでした。そして何事も無かったかのように再び密林を進む双子の姿があります。結界は自動で危険を察知して発生するのか、安全になった今では姿を消しているのでした。



「地形を変えるのは正直やめて欲しいな。元の迷宮に戻るのに無駄に魔力がかかるし」

双子の豪快な戦いぶりに困った表情をされるご主人様ですが、無理もありません。


 双子は前回は迷宮の内壁を破壊していました。彼女らは、その気になれば壁を破壊しながら迷宮を進む事が出来るのですが、そのような方法で迷宮を攻略するなんて聞いたこともありません。勇者と呼ばれる冒険者の最上位の連中すら普通は道なりに進むというのに。もっとも勇者達は時折、迷宮内をワープで移動したりする事もありますが。極稀に、未熟な冒険者がその真似をして迷宮の壁に入り込み、命を落としたりもします。ワープの場合は危険を伴っているのですが、彼女らの行為にはそれがありません。正直なところ、反則的な攻略は謹んで欲しいです。


「密林の魔物では歯が立たないでしょう。魔物を遠ざけて被害を減らしてみてはいかがですか?」

私が申し上げたところ、ご主人様は承諾されて魔物達に避難の命令を下されます。


 避難の命令を下されるや否や、興奮状態の二匹の大黒豹が双子の前に姿を現すのでした。あの魔物は、番いとなって縄張りを形成し繁殖を行います。むやみに縄張りを荒らされ、怒り狂っている様子でした。もっとも荒らされたどころか、壊滅させられたと言った方が正しいのでしょうが。ちなみにこの手の動物型の魔物は、このような繁殖方法を行うものが大半です。迷宮管理者も人間も似たようなものですが。



 二匹の大黒豹を前にした双子は臆することなく、密林を歩き始めるのでした。人間の何倍もある大きさの魔物であっても、彼女らにとっては敵ではないのでしょう。必死に威嚇する豹の隣を談笑しながら歩く双子。やがて一匹の豹が飛び掛ります。一瞬の出来事でした。閃光が空中にいる豹を貫き、その鋭い爪は彼女らに届くことなく地面へと落下します。肩を支点に右手で杖を持って歩いていた姉は、魔法によって背後から飛び掛った豹を攻撃したのでした。彼女らは、密林の最奥に位置する川へと歩を進めます。


 無残にも巨大な木々が伐採され、かつてあった密林の面影の無いその場所で、動かなくなった豹へと近付き、遠吠えをあげる番いの豹。その悲しげな声は密林へと木霊していたのでした。

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