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十五日目(前編)

 朝食を皆で囲んでいると、ご主人様は仰られます。


「ミント、エミリヤとシャハルラムを連れて何処かの迷宮からオーブを持ってきてくれ。捕えている奴隷達を適当に見繕って連れて行ってもいいよ」

彼女らを順に見ながら仰るご主人様。いつも通りの温和な口調ですが、真剣な眼差しをしておられます。


「オーブを無事に手に入れたら、ミントに新しい迷宮を任せよう」

「本当ですか?遂に私に迷宮を任せて頂けるのですね」

声を張り上げて確認をとるミント。ご主人様と離れなければならない為、私には新しい迷宮の価値が全く分かりません。


「ミントがまえから言ってたからね。奪うオーブの在り処は知らないから、自分達で街で聞いてみてくれ」


 大喜びのミントとは裏腹に、エミリヤとシャハルラムの表情は暗いです。危険を伴う上にミントは指揮官としては優秀ではありませんからね。いつもの鎧姿をしていれば街へはすんなりと入れますが、勇み足で失敗をしないか心配です。流石に他の管理者と争う真似はしないでしょうが。


「早速商業都市へと向かいますわ。二人とも準備なさい」

笑顔で食堂を後にするミントと意気消沈して続く二人の姿。


 後片付けの心配は必要ないようです、ミランダがいますから。彼女は新しい迷宮の事など気にしていないのか、未だに朝食を口へと運んでいました。小さな体同様の小さな口元へ少量ずつ食べ物を運ぶ姿は小動物を思わせます。彼女の姿は、ある程度手のかからない年齢まで成長した子供といったところでしょうか。


「早速、迷宮を開けて第二階層の効果の程を確かめようか。一階層の密林を突破出来るレベルの冒険者が来てくれるといいんだけど」

ご主人様は余程自信があるのかそんな事を仰られます。


「ご主人様。オーブを中継して魔力を飛ばす事によって、迷宮内や他の迷宮の端末同士で連絡を取り合う事の出来る商品がございます。複数の端末を揃えるだけで可能な上、一つ一つの値段もお求め安い価格となっています。時間差も殆ど存在せずに、素早く命令を伝える事が出来ます」

思い出したかのように商品の宣伝を行うミランダ。そんな事よりも、早く朝食を終わらせて欲しいです。それを使って朝食を終えるように命令を伝えたいですね。


 それにしても迷宮管理センターも次々と新商品を発明しているのですね。私がいた頃は魔物の種類の増加と人間の発明したアイテムを改造したものしかありませんでしたが。今では魔力を飛ばして会話を可能にするとは。どういったものなのか、見当もつきません。


 大急ぎでお皿に残った朝食を口に詰め込み、食堂を出ようとするミランダ。彼女は私達に来るように促すと、租借しながら監視室へと急ぐのでした。幼い見た目の為、品の無さはあまり目に付かないところが幸いでしょう。ミントなんかは口に食べ物が詰まったまま、喋ろうとしますし。ちなみにご主人様は食事の作法などは、我々とは幾分の違いこそあれど上品に行います。他人の作法に対しては無頓着ですが。


 監視室のモニターにて、端末の説明を行うミランダ。小さな長方形の箱を耳と口元に当てるだけで、離れた場所にある端末と会話が出来るとは、想像に難い話ですね。実際に使ってみれば簡単なのでしょうが、仕組みも良くわからない為使用は難しそうに見えます。


「無線か携帯電話といったところか。カメラ機能は付いてないの?」

ご主人様は既に端末の事を理解しておられるのか、ミランダへと質問をしておられます。


「そのような機能はございません。これよりも大型の専用のアイテムで映像をオーブへと送るものもありますが、それは迷宮の入り口に使われるものです。入り口付近の確認等あまり必要性が無い為、売れておりませんが」

「監視カメラか、迷宮内の映像は元々オーブでモニターされているから必要はないね。それは夜間でも使えるの?」

「夜は真っ暗じゃないですか?モニターでも真っ暗ですよ」

もっともな返答を返すミランダ。頭脳明晰な彼女でもご主人様とは会話がかみ合っていないようです。


「便利そうだし、使い魔全員に一つずつ持たせよう。有用な奴隷が手に入ったら渡す為、多めに買っておこうか。早速、ミントに一台渡しておいてくれ」

「ありがとうございます。商品をご購入されるとポイントが貯まり、管理者としてのランクが上がったり、お金と引き換えにポイントを使ったり出来ます」

迷宮管理センターのシステムも紹介するミランダ。こうしてみると彼女は召喚魔法士というよりも商人にしか見えませんね。魔法よりも商談のほうが得意なのでしょうか?


「ミランダはどのような召喚魔法を使うのですか?シャハルラムは不死者を召喚し、エミリヤはたしかゴーレムとかを召喚するのが得意だと言っていました」

つい気になったので聞いてみることにしました。召喚魔法といっても召喚する魔物は様々な種類がいて、術者によって全く異なる魔物を使役するそうです。


「私は、精霊を呼び出せます。恒常的に使役するのではなく、限定的にしか呼び出せませんがそのぶん強力です。また呼び出すためには予め契約を行わないといけない為、面倒とも言えます」

淡々と答えるミランダ、精霊を操るのは大変だと聞いた事があります。値段が高いだけあって彼女は召喚魔法士としても優秀なのでしょう。精霊相手に商談を行っている姿が目に浮かびます。契約でしたっけ?


「そうか!幻術で強力な魔物を召喚したように見せるという手もあるな。これでまた新しい幻術が増える」

ご主人様は未だに幻術魔法を作っておられるのですね。どんな種類の幻術が増えたのか見てみたい気もしますが、所詮は幻術ですからね。無駄な事に割かれる時間があるのなら、もっと私と会話して欲しいところです。


「ご主人様は幻術魔法士ですか。それなら設置型の杖がありまして、それによって様々な魔法を強化することが出来ますよ。使い方は簡単で、設置された杖の付近で魔法を使う事によって、魔力が増幅され効果が強力になります」

更に新しい商品の説明をするミランダ。


「それはいいや。この迷宮の魔物の扱う魔法はどれも大したことのないものばかりだし、所詮は幻術だし」

落ち込んだ様子で仰るご主人様。幻術の効果の程に自覚をお持ちだったのですね。強化したところで、魔法使い系の冒険者にも幻術が効くようになる程度ですから。幻が現実になったりはしない為、わざわざその為にお金を使おうとは思っていないのでしょう。


 オーブを操作し、迷宮の入り口を開くご主人様。モニターにはミントがエミリヤとシャハルラムと奴隷の回復魔法士を引き連れ、こちらに手を振っている姿が見えます。彼女の手には会話用の端末が握られていますが、端末の向きと上下が反対です。そして私がミランダに朝食の片付けを命じると、ご主人様は迷宮の隅にある進化鼠の部屋の操作を始めるのでした。


「適当に強そうな魔物は個別に隔離しておいてあるんだけど、どうかな?」

私に魔物を見せるご主人様。その少年のような瞳は何か魔力でもこもっているようです。


 小さな部屋に一体ずつ入れられた魔物達、ラミアの迷宮にいた火に耐性のある亀や美しい女性の顔と身体に鳥の翼と脚を持つハーピー、強力ですが命令をまったく聞かない不可視の吸血魔物、同様に命令を聞かない巨大な丸く黒い粘性の身体を持つ魔物。不可視の吸血魔物は、モニターを介してのみ姿を見ることが出来ます。それ以外の手段では、私のように隠密看破のスキルを持つ必要があります。その姿は全身に口の付いた奇妙な桃色の人型をしていて、手足には鋭い爪がついているのでした。手足と無数にある口以外には何もついておらず、生態も名前も分からない魔物として有名です。


 黒い塊の魔物も同様で、オーブに登録はされている名前はunknownとなっており好き好んで使う管理者はいません。それらの魔物は命令を聞かないばかりか、迷宮の魔物はおろか管理者にも襲い掛かってくるありさまで、何故そんな魔物が登録されているのか疑問に思う声も聞こえてくる程です。


 unknown種族はランクの低い管理者でも配置する事が出来、命令を聞かず無差別に攻撃をする代わりに能力が強力な為、管理者に相応しくない者を自滅させる為に存在しているとも言われています。上級魔族であればunknownを圧倒する事が出来る為、今までも問題では無いとされてきました。


 そしてunknown種族は、私の二番目のご主人様の仇でもあります。私が迷宮に派遣されたときに既に血溜まりへと変わっていたご主人様。unknown達を迷宮に配置し、わざわざ入り口まで私を迎えに来られた魔族のご主人様。その一件から、使い魔も直接オーブの元へとワープする決まりができました。オーブによって呼び出された魔物は、オーブに害を与える事が出来ず近付くことすらも出来ませんから。


 そのときのunknownは紫色の曲がりくねった筒状の魔物で、私が始末しました。あの時は必死だったのでよく覚えてはいませんが、使い魔である私でも手こずった記憶があります。ご主人様にこれらの魔物は厄介なので早く処分するようにお伝えしなければ。そう思った矢先の事です。迷宮へと二人の女性の冒険者が訪れるのでした。


 銀色の髪を持つ美しい容姿の魔法使いの双子、ご主人様と私が初めて戦った冒険者が再び迷宮へと侵入して来たのです。

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