十四日目(後編)
迷宮内の至る所へと設置されたザコーンを確認していく私。設置自体はオーブによって簡単に、時を待たずにして出来ます。ご主人様のお選びになった恐怖属性のザコーンは、処刑や拷問器具を模して作られているのでした。これは視覚的にも冒険者達に恐怖を与える目的があるのでしょう。
血を滴らせている斬頭台、大きな楕円形をした内部に隙間なく棘の生えている金属製の開き戸、骸骨が拘束されている奇妙な形の椅子、それらが小部屋の中央や壁際に設置されています。オーブによって設置されているとはいえ、実際にその位置が正しいかは目で見て確かめる必要があるそうです。
配置場所や設置する方向等には頭を使います。斬頭台が倒れて置かれていては何の効果も期待出来ないでしょう。またこれらの器具は実用を兼ねる造りになっている為、罠としても利用出来そうです。
人間一人が丸々収まる大きさをした、縦長の金属製の開き戸は、内部の棘へと服をかける用途にも利用出来そうですね。ハンガーを利用して上着をかけたり、2つ折りにしたズボンを直接棘へとかけたりと、幅広い収納性を持っていそうです。
奇妙な椅子は、やや上体を起こした姿勢で座り、膝を曲げ股を広げた状態で拘束するという作りになっています。無理やり両膝を上げたり、更に広げさせる為の仕掛けが椅子の下に用意されていました。取っ手のついた輪を回す事で、座る者の姿勢や格好を変えさせる仕掛けは、羞恥心を覚えさせる為のものでしょう。拷問用の器具としては優秀かもしれませんが、これが迷宮に置かれているからといって恐怖を感じるかどうかは、怪しいところです。
設置するザコーンは、属性によって見た目も変わってくるのでした。火属性だと松明や篝火といったもので照明の役にも立ちそうです、また水属性だと噴水や壁に付いた手洗い場、といった見た目をしていました。ザコーンの持つ特定の属性を強化する効果や、対応した属性の魔物を自動で生み出したり、復活させたりといった効果は実際使ってみなければわからないところもありますが、うまく扱うと強力な効果を発揮してくれるでしょう。
私が迷宮内を見て回っていると、骸骨兵、動く鎧、ゴースト等の魔物達が二階層へのワープゾーンへ向かって行進していました。彼らは魔力によって生み出され、どんな命令に対しても文句一つ言うことなく実行してくれます。生者と比べて体の動きも頭の動きも鈍かったりしますが、命令に忠実な所や己の安全を顧みないところは評価出来ますね。私達の為、立派に散って行くのですよ。
屋敷の近くまで戻ると、骸骨兵が黒い砂を袋詰めにして袋の口を頑丈に縛り、自らの肋骨の中へと押し込んでいました。黒い砂とは以前ご主人様がお造りになったもので、火を放つと勢い良く燃え上がったり、火の粉を散らして爆発したりする物です。袋を詰め終った骸骨は、キルトの服に薄い金属札を綴って鎧の形を成している防具を身につけ、立ち上がるのでした。それぞれの手に簡素な盾と剣を持ち、彼らもまた二階層を目指し歩いていくのでした。
監視室に戻ると、ご主人様がモニターを通じて成長型の魔物の勇姿を見ているのでした。二つのモニターには、進化鼠の部屋とグラトニーウィッチの部屋が映っています。鼠から姿を変えたのか、胴体部分だけでも人間と同じ大きさをした蠍、室内を飛び回る鳥の魔物、砂粒程の大きさしかない小虫がお互いに絡み合い、更に足元では鼠が噛み付いているといった状況でした。死んだ魔物はすぐに食べられ、食べた魔物は新たな姿へと変わっていきます。相手を食べたからといって確実に変化するわけではなく、しかもどういった姿へと変化するかは予想もつきません。部屋中に魔物の血や体液が飛び散っている様は、見ていて苦痛を感じます。
ご主人様のほうに目をやると、涼しげな顔をされてグラトニーウィッチの部屋を眺めて居られるのでした。見習い魔女の服を着た少女の姿をした魔物達が、お互いに抱きつき会ったり、口元を近づけ合ったりと官能的な戦いぶりを披露しています。彼女らはたいした魔法も扱えず、出来る事といえば肌を接触させることによって対象の魔力を吸収するエナジードレインといった攻撃方法しか持ち合わせていません。接触面積を増やす為に抱きついて口をつけたり、お互いの服を破りとったりと、こちらも奇妙な戦いが繰り広げられているのでした。
彼女達は人型をしているだけあって知能もそれなりに高く、個体毎に異なった戦いぶりを見せてくれる為、鼠達の戦いより戦闘が面白いといえるでしょう。直接目の前の敵に飛び掛り吸収を始める個体に、すでに交戦状態にある敵を専門に背後から狙う個体、徒党を組んで一体を襲う個体達、争わず逃げ回ってばかりの個体。同一の攻撃方法しかもっていませんが、個性を発揮して生き延びる為に戦う姿は参考になりそうですね。もちろん、戦闘方法の卑猥さに興味をそそられている訳ではありません。
この魔物は姿形は変わりませんが、吸収した魔力の量によって体力も強化され、更に知能も高くなっていくといわれています。もっとも成長の度合いは大変緩やかで、戦力として期待できる強さになるのにどれほどの期間が必要かわかりませんが。
「育ったら余所の迷宮に放してオーブを持ってこさせよう」
ご主人様は成長型の魔物の育成を楽しんでおられるようでした。
「この魔物とこの魔物を戦わせてみてはいかがですか?」
何故かシャハルラムがいます。そして驚いた事に、進化鼠用の部屋が一つ増えており、新しい部屋は以前作った部屋と一本の通路によってつながっているのでした。
モニターから遠隔操作で扉を開け、巨大な蠍の魔物を一匹通路へと送るご主人様。蠍が進む通路の先からは、同様にシャハルラムが送り込んだ下級悪魔が現れます。硬い甲殻に覆われた蠍と羊の角を頭に生やした下級悪魔。蠍は両手の鋏を持ち上げ、下級悪魔は魔法によって手に焔を宿し、お互いを威嚇しあっているのでした。
「サソリンの連勝記録はこのデビデビによって止めて見せますぞ」
どうやら二人は進化した魔物を持ち寄って競い合わせて遊んでいるようです。年齢を忘れて魔物同士の戦いに興じる二人。そういえば、男性はこのような遊びが好きなのでしたね。前仕えたご主人様のご子息と遊んだ記憶が甦ります。カードへと封印した魔物をお互いに解き放ち、戦わせるというルールの魔界の遊び。種族は違っても趣向は変わらないのでしょうか?
素早い動きで鋏を振るう蠍、次々と繰り出される攻撃によって迷宮の床には次々と穴が開き、通路の内壁は削りとられていくのでした。迫りくる鋏を紙一重で避けて炎の魔法を投げつける下級悪魔、二足歩行をしていますが手足はどちらも蹄がついており、武器も扱えないようです。
「回避能力と魔法攻撃が厄介だね」
遊んでいるご主人様は今まで見せたことの無い笑顔です。同様にシャハルラムも立場を忘れ遊んでいるのでした。
二人の遊びは夜更けまで続くのでした。




