十三日目(後編)
前と物語の書き方が変わってきた感じがします
良くなっているのか悪くなっているのかは分かりません
こういった感覚があるということは、今までの経験上7:3で悪い方向に
向かっている気がしてなりません
岩盤をくりぬいたかのような内壁をした迷宮。私はラミアと共に、侵入した冒険者のもとへ向かっているのでした。ゴツゴツとした壁は赤く塗られており、床と天井は起伏に富んでいます。基本狭い通路や分岐の後に小部屋や大部屋が配置されており、そこで罠と魔物でもって冒険者と戦うという迷宮のようです。こういった配置は魔族でも龍族でも一般的な迷宮と言えますね。
ただ一階層ごとに隔絶された空間と階段が多く置かれており、一度他の下の階層に下がった所で探索をし、上に戻る階段で登らないとその隔絶された場所には行けなくなっているのが特徴でしょうか。階層を一つ下る為に、何度も階段と探索を繰り返さなければ進めない構造になっている所が素晴らしいですね。
「この迷宮の構造は、旦那様の描かれた案を参考にして作りました。所々に下の階層まで続く奈落が設置してある為、特定の魔物を奈落を使って送り込む事も出来ます」
得意げに胸を張るラミアの姿。残念ながら彼女ではエミリヤには敵いません。それに自らが考えたものでもありませんし。
「旦那様は計画しておきながら何故この配置を使わなかったのか疑問です。それと私も壁に実際と異なる壁の絵を描いて惑わす仕組みを作ろうかと思っていたのですが、うまくいきませんでした」
ラミアは疑問に思っているようですが、彼女の迷宮は地図を作りやすい事と撤退しやすいという欠点を抱えているのでした。
おそらくご主人様の騙し絵は誰にも真似は出来ないでしょう。御作りになった本人ですら迷うくらいですから。欠点は場所を大きく変えて絵を見た場合に効果を発揮しないと仰られていましたが、絵自体の欠点であり、迷宮としては逆に良い効果をもたらすのでした。それは冒険者が徒歩で戻る際に、見知った部屋が一つも無いと思ってしまう事です。絵自体は部屋の入り口から見て騙すよう作られていますから、出口側から戻ろうとした場合は本来の部屋そのままの姿が見える為、迷うのは当然です。
最初の密林も迷わす仕組みになっていますが、密林の一番の目的は出口付近に水場となる川を設けていることでした。水は重く持てる量に限りがある為、大抵の冒険者は水が無くなれば引き返していきます。ですがわざと水場を用意して、高温多湿の環境の中多くの水分を与えて汗をかいた所に雷属性の魔物をぶつけて制圧するという方針です。帰還の手段を取らせずに、決着をつける考えでしょう。雷属性の攻撃を受けている最中は満足に動けないはずなので、アイテムも使えません。
更に感電対策を取られた場合に備えて、極寒の階層が控えているのでした。多量に汗を含んだ服はすぐに凍りつき体温を奪っていきます。そして少ない魔力で呼び出せる水属性の魔物やスライムによる寒さを利用した攻撃は、冒険者に隙を与えないでしょう。
捕獲を優先されているご主人様はまだ利用されておりませんが、焚き火の部屋の罠もありましたね。ご主人様が仰るには焚き火によって酸素を燃やし、さらに床にばら撒いた鉄を錆びさせる事により常に酸素を限りなく少ない状態に保った部屋を作ったとのことです。信じられない事ですが、我々生物はその目に見えない酸素を必要として生きているそうです。そしてそれが少ない場所では息をしただけで昏倒し死に至ると仰っておられました。迷宮全体はおそらく少しずつ換気が行われているのでしょうが、その部屋だけは扉の隙間が密閉されており、常に鉄によって酸素が消費されている状態です。
強力ですが受動的な効果しか持たない罠ですが、価値のある品々を体に身に着けさせられた骸骨達によってその部屋は能動的な効果も持つようになりました。冒険者が現れると、骸骨達は焚き火の部屋に逃げ込みます。欲に目がくらんだ冒険者達は、骸骨の纏った財宝を追いかけて部屋へと足を踏み入れるでしょう。ちなみに骸骨達は、生物としての活動をしていない為酸素は必要ないとの事です。冒険者が来るまでひたすら焚き火の部屋の前で待機し続ける骸骨達には哀れみを覚えますが。
「そろそろ冒険者達の戦っている場所へと辿り着きます」
自慢げにラミアが言いました。
今気が付いたのですが、ラミアはこの迷宮の管理を任されてから少し美しくなったように感じます。龍帝の存在が原因でしょうか?髪や肌も潤いを持ち綺麗に見えますね、尻尾もハリと艶がまして、毒々しい斑模様が際立っている様子です。ところで、ラミアは卵を産むのでしょうか?龍族は大抵卵を産む事によって繁殖するようです。勿論ヘビもそうなのですが、卵を産みつつ授乳も行うのでしょうか?
どうやら冒険者達が魔物と交戦している部屋へと到着したようです。全体的に丸い形をした赤い大部屋、敵は前衛となる鎧に身を包んだ男の獣人の戦士二人と中衛の部分に位置するエルフ女の弓使いが一人と人間の男の魔法使いが一人。後衛にあたる場所には、ドワーフの少女と人間の女の魔法使いがいるのでした。服装や杖から見て、男は破壊魔法士で後方の女二人は回復魔法士でしょう。様々な種族の入り混じった珍しい構成のパーティーです。
冒険者を迎え撃つ魔物は、前衛の位置にレッドタートルが十体程並んでいました。火属性に耐性がある硬い甲殻と甲羅を持つ大きな亀で力もありますが、鈍重です。彼らは攻撃方法の種類を増やす為か、いつも二足歩行で動いている事と炎や溶岩を餌にしているのが特徴です。そして中衛にガーゴイル五体が迷宮の天井付近を飛んでいました。その硬い石の体は火に耐性があるのが特徴で、防御にも優れています。後衛には子供のレッドドラゴンが五体並んでいました。まだ子供なので背丈は人間の半分ほどしかなく、耐久力も力も弱いですが、広範囲に炎の息を吹く事が出来ます。成長型の魔物なので、後方に置いて他の魔物に守らせながら育てていくつもりなのでしょう。そして亀達の大きな体に遮られると同時に、宙を舞うガーゴイルにも注意を払わなければならない冒険者達には、ドラゴンの子供の姿は見えないでしょう。
横一列に並びゆっくりと前進するレッドタートル達、耐久性に定評のあるその体は生半可な弓や魔法はものともしません。獣人の戦士は必死に剣や斧を振るい、レッドタートルは前方に倒れこむようにして攻撃したり噛み付こうとしているのでした。獣人の傷ついた体は魔法によって癒えていきます。そして獣人の振るった斧によって後方へとひっくり返るレッドタートルの姿が見えました。ジタバタと足掻くその亀に執拗に攻撃を加える人間達。レッドタートルには弱点があり、後ろに倒れるとなかなか起き上がる事が出来ないのでした。
今度は空中を移動するガーゴイルが、回復魔法士を直接狙いに行きます。弓と魔法で接近を阻止しようと目論む中衛には目もくれず、回復魔法士へと飛びかかるのでした。弓と魔法の援護の来なくなった前衛は、数に押されて後退していきます。亀の列が過ぎ去ると、ひっくり返ったままの個体が取り残されていました。全身傷つきながらもまだ元気はあるようです。未だにジタバタ足掻く姿は、この戦場に和みを与えてくれますね。
やがて部屋の隅へと包囲される冒険者達、その上にはガーゴイルに抱きかかえられた回復魔法士の姿が見えます。人間の女は杖で、ドワーフの少女はメイスでもって、抱きかかえて飛ぶガーゴイルを叩いていますが、石の体には傷一つ付かないのでした。そして、子供のドラゴンの口から一斉に炎の息が吐き出され、隅へと追いやられた冒険者達は勿論、その周囲を囲っている亀達も炎に包まれます。子供なので炎の息は大したことは無いのですが、複数の息が部屋の隅の一点に向けられている為にかなりの威力がありそうです。
炎の中から叫び声があがり、その声を聞いた回復魔法士は必死に炎に向けて魔法を唱えているのでした。亀は炎に耐性を持っているため、ダメージは無いようです。延々と炎を浴びせられる冒険者達。やがて回復魔法士の魔力が尽きて彼女達が昏倒すると同時に、手の空いているガーゴイルが炎の中へと飛び込み、エルフ女と人間の男を抱えて飛び上がるのでした。所々焼け焦げて反撃の気力も残されていない中衛の二人。冒険者達を抱えたガーゴイル達は、迷宮の奥へと飛んでいくのでした。
再度ドラゴン達の口から炎が発せられ、獣人の叫びが迷宮へと木霊します。今度はドラゴン達はすぐに炎を吐くのをやめ、迷宮の奥へと戻っていきました。ドラゴンに続いてレッドタートル達も奥へと戻っていきます。力なく身を投げ出した獣人達は、レッドタートルに咥えられていました。
「いかがでしょうか?リリお姉さま。ドワーフは旦那様の迷宮の位置からすると珍しい為、どうぞお持ち帰りください」
再度胸を張るラミアの姿がそこにありました。ラミアは頭が良い使い魔と思っていましたが、まさかこれ程までとは思っていませんでした。
「素晴らしい魔物の扱い方です。たしかご主人様はドワーフを見たことが無いはずです、きっとお喜びになるでしょう」
私はラミアの頭を撫でながらいいます。良い働きをした部下は褒める事で能力を伸ばすと言われていますから。ミントは褒める所が殆ど無い為、能力は伸びそうにありませんが。それとこの迷宮は大陸北部にあるのでしょう。南部ではドワーフを見ることがありませんから。
「レッドドラゴンが成体に成長したら旦那様にお届けします。広い空間を必要としますが、屋敷の周辺に相応しい場所がありました」
ラミアを手放すのは惜しい気がしますね。龍帝はミントに心変わりしてくれないでしょうか?レッドドラゴンが大人になるまで婚約を引き延ばす訳にもいきませんし、夢魔系の魔物で龍帝を誘惑……も効果は無いでしょうね。正直、成長型の魔物を使い、今後の迷宮の発展も視野に入れて管理出来る使い魔はそういません。認めてもらおうと頑張った結果が、婚約の引き延ばしに繋がるのは可哀相ですが。
「是非、今日は泊まって行ってください。ご馳走を用意します」
いつに無く嬉しそうにしているラミアの隣で、私は今後の事を考えながら一日を終えるのでした




