表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/59

十三日目(前編)

 私が監視室へと向かうと、ご主人様がオーブを操作していました。幾ら私がシャワーを浴びてから訪れたとはいえ、こんな朝早くからいらっしゃるとは珍しいですね。きっと私に会いたくなったのでしょう。


「色々と迷宮の改築をしようと思う。あと、明日辺り龍族を招いてみようか」

手を止めたご主人様は、私の方へと向き直って仰るのでした。


 迷宮の管理に熱心なのは大変良い事なのですが、ご主人様は私でなくバハムトと会いたいと仰られているのでした。


「それと、リリは今日一日ラミア達の観察を頼む。連中の意図を掴んで欲しい」

真剣な表情のご主人様。それよりももっと私を観察してその意図を掴んでください。


「仰せのままに」

ミントに仕事を頼んでから向かいましょうか。


 監視室を後にした私は幾つかの考えが浮かぶのでした。頼んでいた送還機能付きのオーブが完成しているかもしれません。それと、この迷宮で研究されている送還の魔法の事も気になります。私の知らない所で、ご主人様だけが元いた世界に帰られてしまっては困りますから。勝手な事をしないようエミリヤに釘を刺す必要があります。


 まずミントの部屋を訪れたところ、入り口の扉が僅かに開いており、中から話し声が聞こえてきます。内容は聞き取れませんが、そのミントの声が妙に艶かしかった為、私は扉から中を覗くことを決めるのでした。薄暗い部屋の中央に向かい合って座るミントと鎧。その鎧は、彼女自身が身につけていたものでした。彼女は、話しかけるようにして、その手に握る布で鎧を磨いています。輝きを増していく鎧をウットリとした表情で見つめるミント。ちなみに私は驚愕の表情でもってミントを見つめているのでした。


 ミントと鎧の愛の語らいの邪魔をする気のない私は牢屋へと向かいます。当然ですが、牢屋では男女が別々に入れられているのでした。間違いが起きてからでは遅いですから。もっとも反抗的な奴隷に限っては異性の牢へと入れる事もありますが、今のところそのような事態にはなっていませんでした。


 私が牢屋の部屋へと近付くと中から怒鳴り声が響いてきます。こういった事は稀にある為、急いで向かったところ鉄格子ごしに激しく口論を交わすエミリヤとシャハルラムの姿がありました。ちなみにエミリヤは屋敷内を自由に歩き回る事が許されている為、牢の外側にいるのでした。一見すると看守と囚人にも見えますがどちらも立場はそうたいして変わりません。温厚なエミリヤも今日ばかりは胸を揺らしながら喚いています。対するシャハルラムも口から泡を飛ばし蓄えたヒゲを揺らしているのでした。


 二人の口からは専門的な用語が飛び交っています。おそらく送還の魔法についての研究でしょう。意欲的に行ってくれているようで大変好ましい事です。他の奴隷達は耳を塞いで、不快感を露わにしていましたが。私は魔術の事は分からないので邪魔はしないほうがいいでしょう。


 そういえば二人は同郷の出身でしたが、仲は良くないみたいです。私としては仲良く魔法の完成を急ぎ、さっさとご主人様と私を送還して欲しいのですが、この様子からは難しそうですね。勝手に恋仲になられても困りますが。


「これだからダークエルフは、乳ばかりに栄養が行って頭に回っておらん」

「あなた達こそ、砂漠の人間は揃いも揃って貧弱な身体つきで、摂取する栄養が足りてないんじゃないですか?魅力の欠片もありません」

とうとう種族間の罵りあいになってきました。私としては聞き捨てならない言葉が出てきた為、止めざるを得ません。ご主人様のお気に入りでなければエミリヤは男性の牢へと放り込んでしまいたいぐらいですね。



 二人をおとなしくさせた後、私が研究の成果を尋ねたところ二人は口を揃えてお互いの能力の無さを語るのでした。これでは何が原因か分かりません。とりあえず、二人は別々に研究させる必要がありますね。


「両名とも自らが正しいと言うのであれば、独自で研究を行い魔法を完成させなさい」

私は二人に対して言うのでした。こうやって競わせてみると、うまく行くかも知れませんね。元々同じ魔法を研究しているのですから、完成したものが不十分であっても同時に使わせれば効果を発揮するかも知れませんし。


 やがてエミリヤは大急ぎで牢を後にし、シャハルラムは牢屋の隅に座りなにやら呟くのでした。同時に他の奴隷達は安堵の表情を浮かべます。私も一安心ですが、今日は何事もうまくいきませんね。こういう日は何もしたくありません。次第にラミアの所へ行くのが嫌になってきました。


 ですがご主人様の命令なので、実行しないわけにはいきません。私はラミアの迷宮へとワープするのでした。独特の雰囲気の監視室にて温かく迎えてくれる彼女は、私とは異なり満ち足りた表情をしていました。心なしか胸や尻尾の動きにもキレがあります。


 そしてラミアに迷宮を案内される私。迷宮の魔物は異なる種族によってパーティーを組ませているようです。硬い外殻を持つ近接戦闘用の魔物を前衛に、その後方に魔法や弓による支援を行う魔物を置き、更に空を飛ぶ魔物に奇襲させる等と理にかなった運用をしているようです。他にも死亡時に爆発する魔物を大量に一室に配置させて戦わせるといった事も行っているようです。


「多数奴隷を捕えましたが、召喚魔法士は残念ながらいませんでした。ですが、朗報もあります。有翼人を捕えましたので旦那様にお届けしようと思ってました」

未だに勘違いをしているラミアですが、その嬉しそうな表情を見ると何も言えません。


「赤毛で若くて可愛らしい有翼人ですから、旦那様もお気に召すと思います。他の種族を見下したりしない珍しい有翼人なのでとても価値がありますよ」

得意げに語るラミアですが、なんか特徴に覚えがあるような気がします。


「クリエという明るく良い娘です。是非見て行ってください」

「その有翼人は、まず私の部屋に閉じ込めておきなさい。ミントにそう伝えるのです」

つい私は名前を聞くなり、そう口にしてしまうのでした。


 この迷宮はコメルスシティから近いのでもしやと思っていましたが、まさかこのような形で再開するとは思ってもいませんでした。やはり翼は自由とは程遠いのですね。でも、クリエには恩がありますから、ここはご主人様に多少無理を言っても彼女を助けましょう。ご主人様が許可してくれると良いのですが。


「冒険者を多数捕らえるようになった為に、直接私が面談を行う決まりが出来たのです」

驚いているラミアには申し訳ありませんが、こう言っておきましょうか。


「わかりました。そのように手配致します」

「ところで、オーブに送還の機能は付ける件はどうなりましたか?」

私としてはこれがここへ来た一番の目的でもあります。クリエから話題も逸れますし。


「えっと、バハムト様は一応完成は近いと言ってました」

先ほどとはうって変わって自信無く答えるラミアでした。


 この様子からは婚約の破談を恐れている様子が窺えます。ですが、この件については私が一任されている為、破談はさせません。勿論、いくらラミアの幸せの為といってもオーブの完成無くして婚約もありえませんが。……これを伝えるのは気がひけますね。伝えると意欲的に行動してくれると思いますが、彼女は仲間ですから悲しむ顔はみたくありません。


「ご主人様のご期待に副えるよう尽力してください。そういえば、明日にでも龍族を招くと仰ってましたが」

嘘ではありませんから、こう言って発破をかけるのも悪くはないでしょう。もっとも中途半端なものを渡されても困ります。ご主人様に何かあった場合には幸せどころか命を失う事になりますよ。


「分かりました」

相変わらず自信なく答えるラミアの姿を見ると、私も元気が無くなってきました。


 一旦屋敷に戻ってご主人様に報告をして、それから本格的に観察を始めましょうか。新しい使い魔にもまだ会っていませんし、余計な邪魔が入る前にクリエを逃がして上げたいですし。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ