十二日目(後編)
ミントにシャハルラム達と鉤縄を回収させた私は、オーブの前に座っているのでした。手にはシャハルラムの使っていた武器があります。美しい赤い色をした刀身は、室内の光を受けて妖しく輝いているのでした。この武器は効果は勿論、見た目も素晴らしいものです。私に迷宮内の適当な魔物を斬って見たいと思わせる危険な武器でもありますが。
この迷宮は少ない魔力で出せる魔物を大量に配置するという考えで作られていますから、多少試し切りに使っても問題はありません。一度に対処しきれない数の魔物達によって敵の防御を破るという考えです。ご主人様が言うには飽和攻撃というらしいのですが、正直な所今までは扱える魔物の種類が少なかった事もあり、効果を発揮していませんでした。
私の考えでは、この迷宮の魔物は冒険者を捕らえる上で役に立っていると考えています。弱い魔物ばかりなので攻略が簡単そうに見えて深部まで進んでくれます。冒険者にとって魔物は、倒す事で経験と価値のある素材等を手に入れられる存在です。人型の魔物の場合は、お金や武具を残す事もあるのでした。そして多くの冒険者は、安全な敵を大量に倒す事で稼いでいるのです。中には強い魔物と戦う事やそれによって名誉もしくはスリルを得る事を目的にしている特殊な冒険者もいるのですが、数は少ないです。特殊な冒険者は大抵長生き出来ませんから。
強い魔物を大量に揃える選択肢もあるのですが、その状態を維持する事は大変な労力となっているのでした。冒険者が怖がって迷宮に入らなくなってしまっては意味がありません。その点はこの迷宮は、優れていると言えるでしょう。魔物の量は多いですが、質は良くありません。逆の場合よりも、冒険者を多く呼び込めるのでは無いでしょうか?また相手の自由を奪おうとする罠や魔物によって、帰還アイテムの使用の防止措置も取られているのでした。
それにしても、先ほどの戦いではミントは良い働きをしてくれました。彼女にも取り得はあったのですね。値段と釣り合っていない気もしますが。まさか彼女の装備代が含まれていたのでしょうか?
「私の戦いぶりをご主人様にも見て頂きたかったですわ」
自信満々の表情をしたミントが現れるのでした。数少ない見せ場が無駄になってしまいましたね。でも気にする事はありませんよ。恐らくご主人様はミントにはあまり期待していないようですから。
「使い魔として、他の部分も頑張りなさい」
実力行使だけが使い魔の仕事ではありません。天狗にならないように釘を刺す必要がありそうです。
「任せてください。ご主人様に私の夜伽の腕前も見せて差し上げますわ」
どうやら彼女には釘ではなく、私が手にした武器を刺す必要があるのでした。
ミントと話をしているとご主人様が迷宮へ戻って来られるのでした。画面に映るご主人様は、男性の戦士二人とエミリヤを連れて密林を歩いています。街から連れてこられたと思われる二人の獲物は、胸元を強調する服を着たエミリヤと話しながら歩いているのでした。あの服は街でご主人様に買って頂いたのでしょうが、羨ましくはありません。多分私が着て歩くと勝手に脱げて行くでしょうから。
「私が選んだだけあって、エミリヤはなかなかやりますわね。でも私と連携を取った彼女はもっと凄いはずですわ」
「そういえば、そろそろ新しい使い魔が用意されているはずです。ミントは迷宮管理センターに迎えに行ってあげてください」
すかさずミントに命令を下す私。使い魔に求められているのは実力行使では無く、頭脳戦です。
お疲れになられているはずのご主人様には、夜の連携なんて必要ありません。彼女が帰ってくる前に、ご主人様には休んで頂きましょう。更に、後でエミリヤにはシャハルラムと送還の魔法について研究をするように命令しておけば完璧です。
密林の開けた場所へと辿り着く四人。その場所の中央には何故か若い女性のエルフが座り込み、泣いています。良く見るとエルフの着衣は乱れていて、破れた服の所々からその白い肌を露出しているのでした。その姿は見かたによっては、裸よりも艶かしく見えるかもしれません。やがて四人の姿を目にした彼女は、目に涙を浮かべて、その透き通った声で助けを求めます。
我先にとエルフの元に駆けていく二人の戦士。その後ろでは杖を構えたご主人様と首を傾げたエミリヤがいました。やがてエルフの元へ辿り着いた二人は地面に膝をつき、何やら話しかけているようです。安心したのか、急に二人に抱きつくエルフ。二人の戦士は彼女の行動に戸惑いつつも、その表情を綻ばせているのでした。そして地面へと倒れこむ二人を前にエルフは、睡眠ガスを放出する植物へと変わっていくのでした。
私はご主人様をお迎えする為に密林へと向かい、ついでにエミリヤも加えると屋敷へとワープするのでした。途中でエミリヤから漂ってくる香水の匂いが鼻につきますが、これはきっと先ほどの冒険者を誘い込む為の罠でしょう。私が引っ掛る訳にはいきませんね。もっとも冒険者と私の考えは真逆でしょうが。
「ご主人様、お帰りなさいませ。早速ですが、腕の良い魔術師を捕えましたのでエミリヤと共に送還の魔法の研究をさせたいのですが如何でしょうか?」
私は屋敷にてご主人様の目を見つめながら言うのでした。
「良くやってくれた。エミリヤ、早速頼む」
ご主人様の行動に安心する私。研究はすぐには終わらないでしょうから、これでご主人様は安全です。
「お顔に疲れが出ています。後の事は私に任せてお休みになられては如何でしょうか?」
むしろ疲れているのは私のほうですが、ご主人様の安全の為こう言っておきましょう。
「迷宮の罠について良い考えが浮かんだ。それを配置してから休もうか」
私達は監視室へと向かうのでした。
「気に入ってくれるといいんだけど」
監視室にて、ご主人様は私に装飾の施された貴金属製のヘアバンドをくれるのでした。ありがとうございます、家宝が増えました。
オーブを操作し新しい魔物を呼び出すご主人様。ご主人様の選ばれた魔物は、魔力で動く骸骨の兵でした。更にオーブを操作して迷宮管理センターから、純金の王冠と豪華な服と宝石の付いた装飾品を多数買い込み、骸骨に身に着けさせます。これは冒険者にとって非常に都合のいい魔物でしょう。ですが骸骨達の配置場所は、以前設置された焚き火の部屋の前だったのです。締め切った室内にて焚き火を行い、床に並べられた金属を錆びさせている部屋。冒険者が現れると、骸骨はすぐに焚き火の部屋へと逃げ込む手筈となっています。
他にも魔力で動く鎧の兵や同様の肉体を持たない、ローブとつばの付いた先の尖った帽子が組み合わさった魔物を呼び出されるのでした。鎧の中には睡眠ガスを放出する植物や毒蛇を放り込み、ローブと帽子姿の魔物の中には麻酔吹き矢を扱う小人を中に隠すのでした。これらの魔物はパーティーで行動させるようです。鎧が前衛を務め、ローブが魔法を唱え更にその中から吹き矢で攻撃するという一風変わった魔物達によって迷宮を巡回させる考えでした。人間のパーティーと是非とも戦って貰いたいものです。もっとも鎧を倒すと中からは睡眠ガスが放出されるのですが。
これらの魔物を御作りになられたご主人様は寝室へと戻られるのでした。満足そうに戻られるご主人様の姿を見送った私もまた監視室を後にします。寝室に戻り、ベッドにて横になる私。ようやく長い一日が終わり、眠りにつくのでした。




