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十二日目(中編)

 私達の目の前には全身を隙間無く骨で埋め尽くした姿をしたゴーレムが佇んでいます。その姿は裸体の人に酷似しており、筋繊維にあたる部分を骨によって再現したその姿は、さながら白色の巨人族といったところでしょうか。迷宮の天井付近へと届く頭部は、無数の骨が集まることで髑髏を形作っており、その眼窩には怪しげな紫色の光が輝いているのでした。


「行け。ボーンゴーレム」

私達を指差し低い声で巨人へと命令を下す、シャハルラム。


 眼窩の紫の光がより一層の輝きを放つと共に、全身の骨を軋ませ動き出す骨の巨人。迷宮内に地響きを立てながら一歩一歩を踏みしめるかのように進んでいます。武器こそ手にしてはいませんが、その巨体は十分な脅威と言えるでしょう。


「まずは巨人を倒しましょう」

私はミントと骨の巨人を相手にする事を決めました。シャハルラムは迂闊に前に出てこないでしょう。


 彼は様子を窺って私達の隙をついてくるはずです。もっともこちらも巨人なんかを本気で相手にするつもりは無く、透明な状態になったままのコングが彼を捕らえるまでの時間稼ぎをするつもりですが。先ほど捕獲に失敗していなければこのような事態にはならなかった事が悔やまれます。


 ミントが鎧から金属音を鳴らしながら巨人へと駆け出しました。私も彼女に合わせて巨人の左側面へと回り込みます。私達の動きを見た巨人は、右手をミントへと伸ばすのでした。その突き出した右手によって、彼女を捕えようとしているのでしょう。指がミントへと触れる瞬間、彼女は前転し右手を回避すると同時に巨人の右側面へと移動するのでした。


 ミントが剣を振り上げ、巨人の右足へと振り下ろします。彼女が武器を振り下ろす度に、金属がぶつかる音と共に骨が爆ぜ、周囲へと散っていきました。彼女がそれを何度か繰り返すと、巨人は伸ばした右手をもってして彼女を叩こうとするのでした。後方に短く飛び巨人の手を回避した彼女は、地面を力強く蹴り、その勢いを乗せるようにして今度は左手の盾で巨人の足を殴りつけます。そして両手を振り回し足への攻撃を続けるのでした。


 骨の巨人の劣勢な姿を見たシャハルラムは、目を閉じて呪文の詠唱を始めるのでした。そのすぐ隣には、彼を挟み込むような位置を取ったコングがいます。無防備な彼の姿を見たコングは、その隙を見逃さず彼へと飛びかかるのでした。


 ですが、飛び掛るコングは彼を捕えることなくお互いがぶつかります。目をつぶったまま後方へ若干移動し、コングの攻撃を回避した彼は、それぞれの手にした武器をコングへと突き立てるのでした。そして彼が詠唱を終えると、巨人の周りに散った骨が再び元あった場所へと戻って行きます。彼の魔法によってミントの今までの攻撃は全て無駄になってしまったのでした。


 突然迷宮の壁へと大きく飛び上がるシャハルラム。彼は天井付近の壁に武器を突きたて、迷宮を見回すのでした。部屋の中央では骨の巨人から繰り出される攻撃を回避しつつ反撃するミント。シャハルラムへと向かって走る私は両手に持った短剣を直し、代わりに投擲用の短剣を手に取ります。その瞬間私と目が合ったシャハルラムは、この部屋の出口へと向かって壁を走り出すのでした。


 器用に壁を蹴って走るシャハルラム。私は彼に向かって短剣を投げますが、残念ながら短剣は命中することはありませんでした。それぞれの手に持った武器を振り回すようにして、投擲された短剣を打ち落とした彼は、やがて迷宮の床へと着地し部屋の外へと姿を消していくのでした。


「ミント。先に戻ってオーブを守りなさい」

思わず怒鳴るようにして言った私に彼女は一瞬身体を強張らせます。


「わ、わかりましたわ。すぐに戻ります」

巨人の振るった手に対して大げさに後方へと跳んだミントは屋敷へとワープしていくのでした。


 標的を見失った骨の巨人は、身体を作っている全身の骨を軋ませながら周囲を見渡していました。私が巨人に向かって駆け出すと同時に、私の姿を発見する巨人。目の前に巨人の伸ばされた右手が迫って来ると、私は地面を蹴って飛び上がり手首から肘へと向かって走るのでした。


 自らの腕を足場に移動する私に驚いた巨人は、ゆっくりとした動作で右手を持ち上げています。私は懐から鉤縄を取り出し、巨人の次の行動を観察することにしました。巨人は右手を床に叩きつけて、私を振り落とそうとしているのでしょう。私のいる場所が巨人の肩よりも高く持ち上がると、今度は肩口へと跳躍するのでした。


 巨人の肩へと着地した私は鉤縄を懐にしまい、大型の短剣をそれぞれの手に構えるのでした。自らの姿勢を維持する為に左手の短剣を巨人の肩へと突きたてました。やがて巨人の振り下ろされた右手が迷宮の床を叩く音が聞こえてきます。巨人の右の鎖骨の辺りへ何度も短剣を振り下ろす私。短剣を振り下ろす度に骨が飛び散り私の頬を掠めます。


 巨人の左手が私を捕えようと迫ってくると、短剣を抜き左肩へと走ります。途中、走り様に延髄の辺りへと短剣を走らせ左肩へと移動した私は、再び鎖骨へと短剣を振り下ろし続けるのでした。やがて巨人の鎖骨部分に大きな穴が開くと、今度は左の肩甲骨へと短剣を振り下ろします。途中、巨人は身体を大きく揺さぶり私を落とそうとしますが、低い姿勢をとり短剣を突き立てている私には効果はありません。


 肩甲骨へと幾度と無く短剣を振り下ろしたことでしょうか。いつまでも捕えられない私に業を煮やした巨人は右手で拳を作り、左の肩へと叩きつけるのでした。寸前のところで拳を避けた私は、再び延髄へと短剣を走らせ右肩へと戻っていきます。自らの拳によって巨人の右肩の痛んだ鎖骨から肩甲骨付近へと亀裂が走っていました。そして右肩で攻撃を続ける私を捕える為に左手を動かすと亀裂は大きくなっていき、やがて巨人の左肩は崩れ落ちていくのでした。


 同様に右肩の鎖骨と肩甲骨も短剣によって被害を与えた私は、迫り来る右手に対して巨人の頭部を盾にして首筋へと攻撃を繰り替えすのでした。自らの頭部の前方へ後方へと右手を動かす巨人。次第に右肩にも被害を受けた部分へと亀裂が走っていきます。もう右肩は放っておいてもいずれ朽ちるでしょう。


 巨人の首筋にも被害を与えた私は、最後に頭部に鉤縄を付けて地面へと降りて行くのでした。途中で巨人を見上げると、右肩の亀裂は大きく広がっています。いまだに頭部の辺りに右手を這わせて私を捕えようとする姿は滑稽です。床へと降り立った私は巨人の脚部に縄を巻きつけ、巨人の前方へと走るのでした。


 やがて私を見つけ、歩こうとする巨人を尻目に屋敷へとワープの魔法を唱えます。光に包まれる私の目に映ったのは頭部と足を繋ぐようにして張られた縄により体勢を崩し、床へと倒れる巨人の姿でした。



 屋敷へと戻った私は、監視室へと急ぎました。おそらくシャラルラムはまだ極寒の迷宮を彷徨っていることでしょうが、次の手を打つ必要がありますから。冒険者に居座られていると迷宮の入り口を閉ざすことが出来ない為、心休まる暇もありません。監視室の扉を開けた私の目には、床中に散乱しているミントの防具が入ってきます。


 足甲に鎧にバケツ兜に武器までも転がっており、その転々と置かれた先には椅子に優雅に座り、飲み物を片手に果物をつまむミントの姿があるのでした。室内着に着替え、髪を濡らしている姿から判断してシャワーもあびたのでしょう。モニターから目を離し私と目が合うと、悪びれる様子も無く声をかけてくるのでした。


「おかえりなさい。今画面をみたら巨人の首が取れてましたわ。どうやったんですの?」

果物を口に含みながら喋るミントを見ると怒る気にもなりません。まあ、戦闘では役に立ったので良しとしましょう。


「シャハルラムは?」

「多分、ここまでこれませんわ。もうすぐご主人様が仕掛けた罠地帯ですもの」



 これまでとは打って変わって小さなレンガを積み重ねて造られた極寒の迷宮。そこには白い息を吐きながら道幅の狭く複雑な迷宮を進むシャハルラムの姿があり、所々彼の着ている服は凍り付いています。彼の進んでいる曲がり角の先には、水の魔法を使う魔物が待ち構えているのでした。鉢合わせた瞬間、魔法によって霧状の水が吹きかけられ、変わりに彼の右手が魔物の胸へと付き立てられます。血を吹きながら倒れる魔物と、魔法を受けた部分が白く変わっていくシャハルラム。この階層はオーブに近いのですが、意外なことに低ランクの水属性の魔物ばかりが大量に配置されています。低ランクでも扱える詠唱の必要の無い、威力が無いに等しい魔法を捨て身で放つ大量の魔物達。


 突然、迷宮を歩くシャハルラムの足が止まりました。迷宮の床や壁や天井から染み出すように現れる、液状の体を持つ魔物、スライム。液状の為重なり合うと数は分かりませんが、大量にその場にいるでしょう。既に床から染み出したスライムに足をとられていて身動きの取れない彼に、一斉に襲い掛かるのでした。


 両手の武器を振るい、スライムを切り裂いていくシャハルラム。ある程度細かく体を散らさなければ倒せないスライムですが、傷つけた相手の生命力を奪う彼の武器は一振りで大幅にスライムの体積を奪っていました。余りにも量が多い為に倒しきれない数体が彼の体に取り付いていきます。取り付かれたスライムからは酸が分泌され、彼にダメージを与えているはずですが、武器によってすぐに傷は治っていくでしょう。あの武器の吸収能力はとても厄介ですが、近いうちに私の物にする為にも何か対策を考えなければなりませんね。今の現状では、スライム達はやがて突破されるでしょう。


 飛びかかって来るスライムをほとんど片付けたシャハルラムですが、取り付かれたスライムがまだ残っているにも関わらず動きを止めていました。良く見ると取り付いたスライムの大半が、すでに凍っていたのでした。スライムはこの迷宮に潜んでいるので凍ることは無いはずです。隙間に潜んでいるといっても、寒さは変わらないはずですから。不思議に思っている私を見て、ミントが胸を張りながら説明を始めるのでした。


「スライムもしばらくは寒さに耐えられるみたいですが、ダメージを負う事で変わっていくらしいですわ。元気が無くなれば寒さに耐える力も無くなって、そのうち凍りながら死んでいくとかなんとか。ご主人様は冒険者が付近を通ると自動でスライムが召喚されるようにしたみたいですわ」


 ご主人様の手によって作られた極寒の迷宮は、冒険者のみならず魔物に対しても脅威となる、あらゆる生命を拒む迷宮でした。捨て身で襲い来る魔物達によって、私達の生活が守られていた事を知るのでした。

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