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十一日目(後編)

 鬱蒼と生い茂る密林を進む二人の男の冒険者、先頭を歩くのは銀色に輝く金属鎧に全身を包んだ男、右手に両刃の斧と左手に金属製の丸盾を持っています。男は角の付いた豪華な鉄仮面で顔を覆っていて、その表情や容姿は分かりませんでした。体格から見て男性で間違いは無いでしょう。


 その後ろを歩く男は、曲がりくねった赤い刀身が目を引く奇妙な武器をそれぞれの手に握っています。その握りこまれた拳の前方には刃が突き出していて、頭に幾重にも巻かれた白い布と身に纏った黒いローブ姿から砂漠地帯から訪れた冒険者であることが分かりました。長く伸ばした顎鬚は白で染まっていて、顔に刻まれた多くの皺から年配の冒険者と判断できます。おそらく熟練の冒険者と見て間違いは無いでしょう。堂々とした足取りで密林を歩き、ローブの隙間から金色に輝く数々の装飾品を覗かせていました。


 ミントが監視室にてオーブを操作して冒険者の情報を調べています。有名な冒険者であれば、その特徴から戦い方や過去の実績を割り出す事が出来ます。我々からしたら、実績ではなく悪行ですが。


 鉄仮面の情報は有りませんでしたが、頭に白い布を巻いた男は有名な冒険者でした。名をシャハルラムといい、大陸の南西に位置する砂漠地帯出身で、職業は暗殺者です。暗殺者という職業につきながらも堂々と一人で数々の迷宮に入り、多くの魔族に正面から戦いを挑み葬って来た要注意人物だそうです。もちろん暗殺も生業の一つとしているようで、人間社会からも賞金をかけられているようです。関係有りませんが、金属の装飾品から発せられる音が暗殺の妨げになりそうな気がします。


 特徴として、両手に握りこまれた武器は特別な効果を持っており、傷つけた相手の生命力を奪う事が出来るとされています。また、人間では考えられない程の生命力を持っており、全身に深手を負っても普段と変わらず戦う事が出来て、武器を振るう事により回復していく、と情報にありますね。人間の中では不死者との噂もあるようです。この噂は、おそらく見た目から判断したのでしょう。それに魔法使いにも見えますね。


「シャハルラムは見た目通り魔法も使うと書いてありますわ。既にリッチに転生してるんじゃないかしら」

ミントも私と同じ考えのようです。名の知れた魔法使いが永遠の命を望み、特別なアイテムを使うことでリッチという不死種族の魔物に転生することが出来ます。彼がそうなのかは分かりませんが、見た目はそう見えますね。


 彼らを見ていると、あの鉄仮面も呪いによって動く鎧の魔物に見えてきました。こちらは見た目と出自から判断できるよう、動きが鈍いので問題ありません。呪いと鎧って相性がいいのですかね?名前も似てますし。


「他にも冒険者達が侵入して来ていますね。ミント、鉄仮面達は魔物と戦わせないように」

「ずるい。私もあの仮面欲しいですわ」

ミントが頬を膨らませて抗議してきます。装備を奪う気でいるみたいですが、私は戦術的な話をしているのです。


 実際は私もシャハルラムの武器が欲しいです。きっと私が装備したほうが似合う上に有効に扱えますから。装飾品も高く売れそうですし。


 他の冒険者のパーティーが三組程密林を歩いています。その中に何か見つけたのか、ミントが魔物に命令を与えました。


「あのエルフ女は必ず生け捕りにするのよ。ご主人様への献上品だから傷をつけてもいけませんわ」

一生懸命頑張っているのは分かりますが、ミントに指揮は向いていないようです。


 一人の男の剣士が木に吊るし上げられ、もう一人の男の剣士は落とし穴へと消え、突然地面から現れた小人の吹き矢によって女の魔法使いが倒れました。それを見たエルフの少女は杖を放り投げ、ローブの裾を手で掴み逃げ出します。追いかけるようにして小人が攻撃を繰り出しますが、空気をはらんで盛り上がるローブには吹き矢は通用しないようです。偶然でしょうが、このような防御方法もあるのですね。


 突然、エルフの前方に黒い大きな影が飛び出しました。立ち止まった彼女の逃げ道を塞ぐように黒豹が立っています。恐怖のあまり全身を震わせ、地面に膝をつくエルフ。黒豹は舌なめずりをしながらゆっくりと近づいていました。

やがて小人達が追いつき、吹き矢でエルフを眠らせます。黒豹は役目を終えて密林へと去っていきました。


「やっぱり、モニターだと迫力がありませんわ。リリ先輩、直に見に行きません?」

「真面目にやらないと、怒りますよ」

ご主人様、ミントを買ったのは失敗でしたね。値段の割りに良いところが少なすぎます。


 そういえば新しい使い魔は明日迎えに行く必要があるのでした。迷宮は明日も開放される予定なので、ミントを行かせましょうか。いえ、彼女を行かせるとまた勝手に奴隷を買ってきたりしそうですね。冒険者よりも厄介です。


「リリ先輩。リッチが二階層で暴れてますわ」

ミントの悲痛な叫びが監視室に響きました。


 モニターを確認すると、いつの間にかシャハルラムの周りに現れた骸骨の兵がゴブリンメイジ達と戦っていました。彼は召喚魔法から派生した死霊術を使えるようです。職業が暗殺者という情報はもう古いようです。直ちに情報を書き直す必要がありますね。


 冒険者の情報等は、オーブを通じて迷宮管理センターによって管理されていて、情報の更新等は発見者の義務だと私は思っています。早速、オーブを操作する私にミントが言いました。


「そんなの放っておいたらいいのに。きっと誰かがやってくれますわ」

「この行為で一人でも救われる管理者がいるのですよ。誰かがやってくれるでは駄目です」

ミントに情報の大切さを教えた私は、冒険者の情報を更新しました。考えてみたら、彼らはこの迷宮で囚われるので必要は無かったかもしれませんね。


「事務作業なんて面倒ですわ。私も冒険者と戦いたい……」

「文句ばかり言ってないで、シャハルラム捕える方法を考えましょう」

ご主人様の不在時に厄介な冒険者が現れたものです。


 再びモニターに目をやると、シャハルラムが呪文を唱えて骸骨の兵をさらに呼び出しました。今やその数は30体にも膨れ上がっています。鉄仮面を先頭に迷宮を進む一団は三階層へと進んでいきます。


 骸骨達は電撃に耐性がある為、魔物達は戦いを仕掛けないようにと指示しました。変わりにリザードマン達を向かわせましょう。混戦のさなか、体の色を周囲と同化させる事の出来る色トカゲに襲わせる作戦です。リッチにしろ死霊術士にしろ肉弾戦闘は弱いはずなので有効だと思われます。囮の為に電撃の魔物も多少は向かわせておきましょうか。


「リッチって強いですわね。エミリヤもリッチに転生させてみたらいいかも」

シャハルラムの強さに感銘を受けたミントが面白いことを言い出しました。良い考えですが、ご主人様に進言する役はミントがやるのですよ。


「装備もいいのかもしれませんね。でも肉弾戦では弱いでしょう。動かなくなるまで痛めつけて、捕えて終わりにしましょう」


 魔物達と戦闘が始まりました。骸骨達は積極的に電撃の魔物を狙っていました。次々と襲い掛かるリザードマンを一撃で鉄仮面が倒していきます。やはり魔物でしょうか、人間だとすると納得出来ませんね。暑い迷宮の中で鎧を着たまま暴れまわっていますから。でも魔物にしても、動きが素早いのが納得出来ません。


 ですが、魔物を犠牲にしたかいがありました。孤立したシャハルラムを10体の色トカゲが囲んでいます。自らを囲む魔物に気がついているようですが、数までは分からないでしょう。そして背景と同化している為に敵の攻撃が分かりづらい上に死角からも攻撃が来ます。これで安心してご主人様を探しにいけますね。


 一体の色トカゲが両手剣でシャハルラムに襲い掛かりました。迫り来る両手剣を難なく避けて、逆に色トカゲの急所に正確に刃を突き立てるシャハルラム。彼が腕を無造作に振るうと、元の色に戻った色トカゲが鮮血を迸らせながら床に転がりました。


 それを見た色トカゲは彼に一斉に襲い掛かりました。次々と繰り出される攻撃を避けて色トカゲを一撃の下に葬っていくシャハルラム。その動きは華麗で踊っているかのようにも見えます。次々と血を吹き、倒れていく色トカゲ達。それにしても彼は踊り子の経験もあるのでしょうか。その素早い動きは思わず見とれてしまう程です、年老いた男性でなければ。


 魔物達を殲滅すると、シャハルラムは再び呪文を唱えます。30体の骸骨兵が現れると同時に、周囲の魔物の死骸が集まり半球形の家へと形を変えました。その姿は南方に住む獣人の遊牧民達が作る家に似ています。骨や皮で出来ている為、非常に悪趣味な印象ですが。


 出来上がった家に入るシャハルラムと鉄仮面。家の周りには60体の骸骨が待機し、彼らはここで夜を明かすようです。


 他に冒険者はいない為、私とミントは一旦休むことにして今度は夜明け前に新たな魔物を自ら率いて、彼らを襲うことを決めるのでした。

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