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十一日目(前編)

 朝を迎えた私は、ご主人様に昨日の出来事をお伝えに向かいました。昨夜は時間が遅く、ご主人様も魔法の実験でお疲れだと思っていましたから、伺っていませんでした。


 金色の獅子の装飾の施された取っ手を数回ノックし、しばらくすると扉が開き、その隙間からご主人様が顔を出されます。私が龍族の事でお話があるとお伝えすると、ご主人様はようやく扉を開き、私を室内へと招き入れました。


 私達の部屋の倍程の広さのご主人様の部屋。床に敷かれた赤い豪華な絨毯には、金色の糸で刺繍された一つ目が描かれていました。部屋の隅に置かれた大きな机には、無造作に大量の紙が置かれており、それぞれに文字や図形が書かれています。その机を照らす証明は、髑髏を模したものでした。また、机の反対方向に並べられた衣装棚には龍の姿が彫ってあり、取っ手も龍の形をしています。


 寝室は隣の部屋にある為に、伺うことは出来ませんでした。ご主人様は豪華な内装を好まれると共に、奇妙な好みも持ち合わせているようです。耽美主義だと思っていましたが、ただ変わったものがお好きだったのですね。


「龍族を招待するのは後日にしよう。一応準備は進めておいてくれ」

淡々と意外な言葉を口にされるご主人様。今日にでも呼ばれるのかと思っていました。


「わかりました。ラミアにそう伝えさせます」


「しかしラミアを手離すのは惜しいな。どうしたらいいんだろう?」ご主人様は迷っておられるようです。下手に断ると怒りを買う恐れもありますね。


「彼女は優秀な使い魔なので勿体無いとは思いますが、ここは龍族の要求をのみつつ、最大限の見返りを探るのが得策かと思われます。この件については、私にお任せ下さい。良い策があります」

ミントの話では、ラミアは件の龍帝に心が傾いていたようですから、彼女の為にもこれが最良の策でしょう。


「わかった。リリに任せる」

ご主人様は具体的な事を聞かれませんでした。私を信頼して下さっているのでしょうか?


昨夜一晩考えた策ですから、自信があります。ご主人様だけでなく、私も幸せになれる素晴らしい策です。


「ところで、結納金とか期待できるのかな?」早速、お金の話が出てきました。


「お金よりも、大量の魔力の込められたオーブを要求してみてはいかがでしょうか?私は送還の魔法に流用出来ないかと考えています」

このほうが、ご主人様にとっても良いでしょう。そしてオーブなら二人同時に移動出来る分の魔力を保有しているはずです。


「なるほど、いい考えだね。後でエミリヤに聞いてみよう」

納得されるご主人様は私の思惑には気が付いていないようです。


「それでは、龍族を招く準備をしておきますね。」

ご主人様の部屋を後にした私には、もう一つの考えがありました。


 オーブ自体が管理者を召喚する機能があるのなら、送還も可能なのではないでしょうか?もしくは、新たに送還の機能を付与する事が出来るのではないでしょうか?魔族にはそのような考えはありませんが、オーブの持つカスタマイズ機能を強化している龍族の考えはどうでしょう。早速、龍族に聞いてみる必要があります。



 食堂に移動した私は、いつ龍族が来ても良い様に屋敷の飾り付けを始めました。最初にラミアの迷宮を訪れた時に、龍族の好みを知りましたから。


 石製の龍を模った壁掛け、取っ手が龍の形をしたコップ等買いました。龍族は自己主張が強いようですから。そういえば、ご主人様が仰るには背中に龍の刺繍を施した上着が良さそうだとか。良い考えですね、早速刺繍の得意な村人が役に立ちます。実はご主人様に差し上げる服を作らせていたのですが、後回しにしましょう。刺繍で作られた私自身の肖像は後でもかまいませんからね。


 最後に食堂の大テーブルを移動させ、新たに亀に似た種類の龍の形をしたテーブルを置いて完成です。さて、ラミアにご主人様の意向を伝え、ついでにオーブの事を聞きにいきましょうか。


移動した先の監視室にて、ラミアと対峙する私。ご主人様は多忙な為に今は龍族と会う機会が無いとでも言っておきましょう。彼女のスパイ疑惑もまだ明らかになっていませんし。

「ラミアはあの龍族の事をどう思っているのですか?龍族との結婚を心から望んでいるのなら、私も協力しますよ」

本人の意思も確認しておきます。流石に、ラミア自身が嫌がっていることは無いでしょう。


「旦那様への忠誠心は失っていません。ですが、バハムト様は私達龍族の憧れの君でして」

真剣な表情で訴えるラミア。


これは本心でしょう。そして、私の事を信頼して語ってくれていることも分かります。きっと、ラミアはご主人様の所にいても幸せにはなれないでしょう。


「ご主人様もラミアの幸せを望まれていました。結婚後はバハムトと幸せになるのですよ。そして、ご主人様の厚意を何時までも忘れる事のないように」

「リリお姉様」

大粒の涙を零し両手で顔を覆っています。


「この事はまだバハムトには秘密ですよ」

どうせ喋ってしまうでしょうがわざと婚約を長引かせて、役に立って貰いましょう。


「それと、送還の魔法をオーブの魔力を利用して出来ないでしょうか?」

「それは聞いたことがありません。オーブに改造を施したりすれば可能かも知れませんね。」

オーブ自体を改造するとは、龍族は進んだ考えをもっていますね。


「バハムトに相談してみてください。ご主人様が欲せられていますから」

「分かりました。旦那様のご期待に添えるよう努力します」龍帝も頑張ってくれるでしょう。期待通りに婚約が早まると良いですね。


目的を果たした私は、ご主人様へと報告に向かいました。きっと喜んで頂けます。上手くいけば数日後にでも元の世界に戻れるでしょう。私と一緒に。



ご主人様が見当たりません。屋敷内を隈無く探しましたが、何処にもいらっしゃいません。冒険者とでも戦っておられるのでしょうか?


まあ、後でも構いませんね。それより、私達が居なくなった時の事も考えておきましょうか。


迷宮はミントに任せるとして。私の部屋にその旨を伝えるミント宛ての置き手紙を用意しておきましょうか。ご主人様と私が居なくなった後に見つけてくれるように。


考えてみると彼女の事ですから、私達が居なくなると我が物顔で迷宮の管理を始めるでしょう。置き手紙は必要無いかも知れません。迷いますが、一応用意しておきましょうか。


自室に戻ろうとした私の前にミントが現れました。


「あ、リリ先輩。ご主人様はエミリヤと一緒に街に行かれました。リリ先輩に迷宮を任せると言ってましたわ。」


彼女にご主人様を守れる力があるのでしょうか?ご主人様が心配です。命もそうですが、私から彼女に心変わりしないかも心配です。


ご主人様を追いかけようと考えた私の邪魔をするかのように、迷宮へと冒険者が侵入して来るのでした。


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