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十日目(前編)

 目覚めた私が最初に見たものは、着たままの状態で寝ていた為に皺だらけになっているドレスの姿でした。そして装飾品を身につけたまま眠りについた為、身体のあちこちにその跡が残っていました。私は慌てて着替えを済ますと、ドレスを手に浴室へと向かいます。


 屋敷の廊下にて、ミントに出会いました。私の腕に抱えられたドレスを見たミントは、口を大きく開けて驚いています。運が悪かったようです、今度はミントはドレスが欲しいと、騒ぎ立てるのでしょう。私が、どうやってミントをなだめようかと考えていると、彼女は優しく微笑みながら何処かへ行ってしまいました。


 ご主人様の元へ、ドレスをねだりにいったのでしょうか?ですが、今はミントどころではありません。


 浴室に到着した私は、ドレスを適当な所に置き、浴槽へと熱いお湯を出し始めました。湯気によって白く染まりつつある浴室。十分に浴槽にお湯が溜まったのを確認した私は、絹のドレスを浴槽の上に綺麗にかけました。これで、湯気によって皺が取れるはずです。普通に皺を伸ばそうとしても、絹は生地が薄い為中々取れませんから。


 朝食の準備をする為に、食堂へと向かう私は昨夜の事を考えていました。ご主人様は、どういったおつもりだったのでしょうか?まさか服や装飾品を与えてくれただけなのでしょうか。もしかして、あの後再び寝室を訪れたところ、私が寝入っていた為に、お帰りになられたのでしょうか。お優しいご主人様の事ですから、私が疲れていると思われたのでしょう。ますます、疲れさせる為にはいけないと気を使わせてしまったのかもしれません。


 食堂の手前で、ミントにぶつかってしまいました。


「すみません。昨夜の事を考えていて、大丈夫ですか?」

「あ、いえ。こちらこそですわ。昨夜の……」

少し青ざめた表情を浮かべるミント、こちらの不注意でぶつかったのに、立場を気にしているのでしょうか。


「それでは、朝食の準備をしましょう」

私は話題をそらす為、朝食の支度を促しました。


 卵とベーコンを炒める私と隣で丸いパンに切れ目を入れていくミント。今日のミントは様子がおかしいです。いつもは無駄に良く喋るのに、今日はとても静かです。とうとう、彼女も使い魔としての自覚が芽生え、真面目に仕事をこなすようになったのでしょうか。良いことですね。


 炒めた卵とベーコンをパンに挟んでいく私を、隣で見ているミント。お皿や飲み物の用意をして欲しいのですが、困った娘ですね。ひょっとしたら、私の仕事ぶりを見て、何かを学ぼうとしているのかも知れません。ミントが自主的に仕事の為に行動するとは、やはり意識によってずいぶんと変わるものですね。私が、ミントのほうへ目をやると、彼女は慌てた様子で目をそらし、お皿や飲み物を手に食堂へと行きました。


 食堂にて朝食を取っているときも、ミントはご主人様と私を交互に見ていました。そういえば昨日、ミントが買われるかもと伝えたのでしたね。ご主人様の目に留まったとして、緊張しているのでしょう。今朝から急に使い魔としての自覚を持ったのもそのせいでしょう。ミント、これからは使い魔として、ご主人様を第一に考えて行動をするのですよ。


「昨日はリリは本当に良くやってくれた。これであの村を補給地点に利用して、この迷宮を攻略することは出来なくなっただろう。もう迷宮の周囲に、村等は無いから安心だ」

私はお金だけでなく、迷宮の防衛の為にもお役に立てたのですね。


「今日は、迷宮は休みにして皆で迷宮管理センターへ行こう。リリの戦利品を売って、そのお金でミントを買おう」

ご主人様の有り難いお言葉に対してミントは。


「え、あ、ありがとうございます。これからも、よろしくですわ」

やはり緊張しているようです。私もそうでしたが、喜び半分戸惑い半分といったところなのでしょう。


「ご主人様。村人の中から使えそうな人間を後で選んでみてはいかがですか?魔法使いはいなかったとは思いますが、何か特技を持った人間がいるかもしれません」

「そ、そうですわ。ご主人様のお目にかなう人間がいるはずですわ」

慌てて私に同意するミント。彼女も使い魔として連携を取る様になりました。日々成長をしているのですね。


「わかった。朝食後に皆で見てみようか」


 朝食の後片付けを終えた私達は、村人達の入った牢屋へと向かいました。私達を見るなり怯えた表情を浮かべる村人達。早速ミントが牢屋に入り、目をつけていた村人の髪を掴んで連れてきました。


「ご主人様。この娘などどうでしょうか?地方とはいえ、領主の目にかなった一品ですわ」

「こちらも、器量や身体つき等申し分の無い乙女ですわ。結婚の指輪をしていますが、嫁ぐ前に手に入ったのは天命ともいえますわ」

次々と、容姿の良い娘達をご主人様に紹介していくミント。残念ながらやる気が空回りしているようです。欲しいのは能力に優れた奴隷なのですが。流石にご主人様も、苦笑いしておられます。


「ご主人様。この女性はいかがでしょうか?刺繍や裁縫において良い腕を持っています。役に立ちそうです。」

「いいですわね。容姿がいい上に、胸も大きいですわ」

ミントが同意してくれていますが、判断基準に誤りがあるようです。


「この男も、言う事を聞かせる首輪を付けて、迷宮に放っておくと良いかもしれません。剣の腕がありますので冒険者を装って良い働きをしてくれるでしょう。」

「わかった。二人のおすすめを残しておこう。目ぼしい者を選んだら、残りはすべて迷宮管理センターへ連れて行こうか」

流石に同種族の人間を大量に物として扱うのは、ご主人様には酷だったかもしれません。ご主人様の、まともに村人達を見ることが出来ない姿には、心が痛みました。


 迷宮管理センターに来ました。まずは村人達に持たせている金品を売り払います。そしてそのお金でミントを買うことが出来るようになった為、ご主人様はお金を持って、使い魔関連の部署へと向かってもらいましょう。私は、ミントに村人の処分を任せてご主人様についていきます。


 いよいよ、ミントの購入手続きが始まりました。私の時はまったく覚えていませんが、案外あっさりしたものです。お金を支払うと、手続きを進めてくれるだけのようです。ですがやりましたね、これで更に扱える魔物の種類が増えました。女性型の魔物も扱えるようになりましたね。ご主人様の戦術にも幅が出て来ることでしょう。


 私やミントを御作りになられた、上級魔族様がやってこられましたが、すぐにご主人様と供に何処かへ行ってしまわれました。きっと新しい型の使い魔について熱く語られるのでしょう。ご主人様は、案外魔族に好かれる能力を持っているのかも知れませんね。お二方の邪魔をするわけにもいきませんので、私はここで待っていましょう。



 しばらくすると、ご主人様がお一人で戻ってこられました。手には新たに、お金の入った袋を持っていますね。


「新しい使い魔は召喚魔法士で決まった。値段が高くなるが、最高の能力を与えてくれるそうだよ。」

満足げな表情のご主人様。お金を貯めるのが一苦労ですね。そして高い能力を持った召喚魔法士であっても、元の世界に戻せるかどうかは判らないのですが、これは黙っておきましょう。


 ミントが何故か一人の奴隷を連れてやってきました。短めで癖のある銀髪から飛び出した細長い耳に褐色の肌、少々幼い印象を受けますが、我々使い魔に匹敵する程整った顔立ちの娘でした。身に着けているローブの上からでも判るほど身体つきもいいみたいです。背も高いですね、腰の位置からして人間とは違うようです。おそらくダークエルフの魔法使いでしょう。


「ご主人様。掘り出し物を見つけたので、買っておきましたわ。少々高かったですがご所望の召喚魔法士で、この容姿なのに生娘ですわ」

先ほどより、少しまともになった判断基準です。


「お初にお目にかかります、マスター。エミリヤと申します」

地面に片膝をつき、ご主人様の手を取るダークエルフの娘。


 どうやら独断で既に買ってしまったようです。もう召喚魔法士の目星はついていますが、数が多くても問題は無いでしょう。ダークエルフは個体数が少ないので珍しいです。売り払う時も、あまり値が下がらないでしょう。少なくとも私以外の役に立たない翼、を買うよりかは良いでしょうね。


「そ、そうか。ミント、ありがとう。エミリヤもこれからよろしく」

ご主人様も戸惑っておられますが、ミントの勝手な行動を怒ってはいないようです。主の為を思っての行動ですからね。



 屋敷に戻ると、エミリヤを連れて何処かへ向かうご主人様。召喚魔法の話でもされるのでしょう。ひとまず私は、ミントを自分の部屋へと連れて行きました。今日の不可解な行動の真意を確かめずにはいられませんでしたから。


「昨夜見てしまいました、ご主人様がリリ先輩の部屋へ行くのを。ご主人様の手からは、ドレスの下に隠された鎖が見えましたわ。隠れて聞き耳を立てていましたが、何の音もしないので不思議に思っていました。」

色々と言いたい事がありますが、黙って聞いておきましょう。


「そして今朝、リリ先輩の身体に付いた鎖の跡を見て、ご主人様が恐ろしくなりました。それで、良さそうな娘をあてがおうと」

「それで、しきりに村娘を薦めたり奴隷を買ったりしたのですね」

「私も使い魔ですから、ご主人様に命令されたら、精一杯答えようと思っていました。ですが変態のような行為には耐えられません。鎖で繋がれ、声も出せない状態にされるなんて。」

どうやらミントはご主人様の事をとんでもない勘違いをしていました。


 そして、今日私を注意して見ていたのは、変態と思って見ていたのでしょう。使い魔としての自覚が芽生えたのではなかったのでした。

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