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九日目(中編)

 朝食を終えた私は、ご主人様に小さな小瓶を渡されました。何処にでもあるような蓋付きの小瓶には、透明な液体が入っていて、覗き込むと瓶の向こうのご主人様の姿が見えます。


「前言っていた、持ち運べる睡眠ガスだ。布に染み込ませて、相手の口元を覆うようにして吸わせて。液体はすぐに大気となって消えるから注意するようにね。」

ガスをどうやって持ち運ぶのか疑問に思っていましたが、すぐに液体がガスに変わるということですね。これは中々良さそうなアイテムです。私の戦い方に合った使い方が出来そうですね。


「後で奴隷相手に使い方を練習してみて。それと村を襲う魔物は、新たに追加して行って良いから。リリが危なくないように、幾らでも連れて行っていいよ。」

ご主人様の心配そうな表情から、私の事を大切に思って頂いているのがわかります。ご主人様、リリは頑張ります。ご褒美を用意して待っていてくださいね。


「眠れないときとか、役に立ちそうですわ。私、昨夜はご主人様の事を想って眠れませんでしたの。」

ご主人様に向かって、ミントが上目使いで言っていますが、騙されてはいけません。ミントは昨日は一日中寝ていましたから。夜眠れないのは当たり前です。


「ミントの分も用意してあるけど、自分に使うものじゃないから。必ず相手に使うと、約束できるのならあげよう。」

小瓶をミントにも渡すご主人様。使い方を間違えないか心配そうにされています。


「ありがとうございます。リリ先輩だけでなく、私にも頂けるのですね。ご主人様から物を頂いたのって、初めてですわ。」

ミントのこの性格は、たしかご主人様が決められたのでしたね。ご主人様は、こういった性格の女性を好むのでしょうか。私ももっと積極的に、ご主人様に接したほうがいいのでしょうか?


「それではお先に失礼して、魔物を作って来ます。」


 一緒にきて欲しいですわ、なんて私にはとても口に出来ません。いいのです。きっとご主人様は私の良さを知っています。食堂を後にした私は、オーブへと向かいます。ですが、私の頭の中は村を攻略することよりも、ご主人様を攻略することで一杯でした。


 監視室にて私はオーブを操り、新たに作る魔物を探していました。すでに私は手下となる魔物の目星をつけていましたから。それはリザードマンの亜種で、体の色を背景と同じ色に変えることの出来る個体でした。通常のリザードマンよりも耐久性と敏捷性は落ちますが、隠密性が高い事と壁や木を移動手段として使える特徴があります。色トカゲとでも呼びましょうか。


 本当は、目に見えなくなる効果のある隠密スキルを持った魔物が好ましいのですが、現在のご主人様では扱うことが出来ません。使い魔をもう一体購入して迷宮管理者(見習い)から迷宮管理者(古参)になる必要があります。使い魔を死なせてしまうと、迷宮管理者(仮)に戻ってしまいますが。ちなみに、迷宮管理者(古参)になると異性の魔物も扱えます。ほとんどの迷宮管理者はこれが目当てだったりします。


 これから襲う村の住人を売り払ったらミントを買えるので、ご主人様も古参になれますね。じつは、ミントは意外と値段が高く、600万Gもします。私が街で翼を買わなかったら、ミントを買えていたのですが。まあ、過去のことを悔やんでも仕方ありませんね。ご主人様は前向きなお方ですから、大丈夫でしょう。そして、わざわざこの事をお伝えする必要もないでしょう。


 私はよくリザードマンを使っていると思われていそうですが、そんなことはありませんよ。現在扱える人型の魔物は、ゴブリン、オーク、リザードマン、コボルト、小人ですから。小人は性能が頼りないし、ゴブリンやオークやコボルトは臭いので、リザードマンしかいません。この中で性能も一番良いですし。

 

 色トカゲを10体召喚しました。これで村を襲撃する魔物は、オーク20体ゴブリン10体リザードマン10体色トカゲ10体の計50です。村の人口は50人もいないので、大丈夫でしょう。問題は敵の強さですが、非戦闘員が大半でしょう。そうそう、全員をつれて迷宮へワープすることは出来ませんから、オークとゴブリンは全滅してもかまいませんね。全滅しなくても村に置いてきましょうか、勝手に繁殖してくれるかもしれません。


「順調に進んでいるかな?リザードマンごときで大丈夫?」

ご主人様が様子を見に来られました。すみません、リザードマンはご主人様よりも近接戦闘は強いです。


「これで大丈夫です。それと、この襲撃でお金が溜まったらミントを購入してはいかがですか?その、性格に問題があるかとは思いますが。使える魔物が大幅に増えますし、上級魔族様に新しい型の使い魔として、おすすめの性格と一緒に召喚魔法の能力を要求してみてはいかがですか?」

ご主人様は使い魔作成担当の上級魔族様に、気に入られていますからいけるはずです。


「それはいい考えだね。つぎは妹か幼馴染か姉あたりを上級魔族に言ってみようか。」

使い魔の性格の話なのに、どうして間柄の話が出て来るのでしょうか?しかも妹や姉とか身内じゃないですか。一体何を考えておられるのでしょうか?


 それからは、ご主人様は新しい発明の話をされました。塩水に金属の棒を二本挿して、そこから電撃を加える事で毒や衣服の漂白液や殺菌の役目を持つ液体を作ることが出来るとか。更にこの前作った酸を加える事で、毒のガスを発生させることが出来るとも仰っていました。また海水に対して電撃を行うことで毒を広めて、その付近の魔物を一掃することが出来るとか。一通り話されると、ご主人様は早速作りに行かれました。


 まったく意味のわからない私は、自らの知識の無さが悔しいです。やはりご主人様には、アリスのような優秀な使い魔がふさわしいのでしょうか。そういえば、ラミアが龍族のカスタマイズの話をしていましたね。贅沢は言いませんから、今度私も能力を強化してみましょうか。知能と本物の翼と魅力と魔法も欲しいですね。あと戦闘能力も強くして胸も追加で。オーブの魔力が足りなくなるかも知れませんね。


 あと、迷宮の狭い通路にて水属性の魔物を待機させておくと言っておられました。その魔物はカスタマイズによって能力を強化されており、泡を作り出す能力を与えられているとか。細かい泡を大量に発生させて冒険者を包み込む事で、楽に始末することが出来るそうです。息が出来なくなるとか何とか。迷宮が火事になっても、その泡で火を消すことが出来るらしく、役に立ちそうです。もっとも、その泡に巻き込まれないように注意が必要ですね。



 襲撃の準備を終えて魔物を集めていると、突然ミントがやってきました。侵入者が来たようです。ですが、何の心配もいりません。三人の人間で、布の服や木の棒を身につけた村人らしいです。たまたま近くを通りかかって迷宮を見つけたのでしょう。


 ミントは重厚な金属の鎧を身に着けていて、大きな盾と剣を手にしていました。バケツのような兜をかぶっていたのが印象的でした。彼女は迷宮管理センターの所属なので、戦う必要は無いのですが。


「ご主人様が魔物を率いて戦われるみたいですから、私も憂さ晴らしに出撃しますわ。」

などと、楽しそうに言っていました。まあ、ミントはご主人様を守るように動くと言っていましたから、大丈夫でしょう。


 私も保険の為、早ければ今日のうちにもミントが購入されると伝えておきました。それを聞いた彼女は、歓喜していましたから心配はありませんね。一応、ご主人様の戦いを見てから、私も出発しましょうか。ご主人様の戦い方には少し興味がありますから。


 

 モニターに映る密林の中、金属の塊のようなミントとその後ろにご主人様がおられます。そして向かいには、三人の人間とその周りを取り囲むようにして20体の小人が見えます。更に木の上に小人が10体待機しており、地面の下に5体の小人が隠れているようです。村人が哀れになってきました。


 ご主人様が短く詠唱をされると、一番後ろにいた村人がオークに変わります。これは、ご主人様の幻術魔法でしょう。やがて二人の村人がすぐ後ろのオークに気づくと、手にした木の棒を振り上げオークに襲い掛かりました。無抵抗で村人二人に殴られるオークの姿をした村人、それと同時に一斉に吹き矢で攻撃をしかける小人達。


 ご主人様は元いた世界にお戻りになられる為に、本気で迷宮管理を始められた事に間違いは無いようです。きっとこの戦いは、やがて来る大きな戦いの予行演習なのでしょう。改めてモニターを見ると、気を失った村人達を数人がかりで運ぶ小人達と、屋敷へと戻るミントの魔法に包まれるご主人様。


 ご主人様の戦いぶりに満足した私は、50体の魔物を連れて迷宮の外へと向かうのでした。

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