八日目(後編)
一日のうちに二回目覚めるというのも新鮮です。昼寝なんて初めての経験ですから。朝寝というべきですが。
空を飛ぶ夢を見たのも初めてですが、素晴らしい夢だった気がします。曖昧にしか覚えていませんし、夢だから美化されているのかもしれませんね。寝起きだからか、うまく頭が回りません。
あの景色はご主人様にも見せて差し上げたかったです。一緒に、二人だけで。いつでも飛べる、有翼人が少し羨ましくなりました。
よく羨望の目で見られる有翼人ですが、彼等にも悩みは多いらしいですね。自由に空を飛んでいるように見えますが、空には敵も多いみたいです。
有翼人は、非力で体も頑丈ではありませんから、狙われたら大変なのでしょう。空だと隠れる場所もありませんし。
私としては、仰向けに寝る事が出来ないのが辛いです。朝起きたら、翼を寝違えていた為、治るまで飛べないとか。愚かですね。
昼食を作り、ご主人様を呼びに行った所、食べないと仰ってました。本当にお身体の具合が宜しく無いのでしょう。回復魔法士をご利用にならない様子をみると、特殊なご病気なのでしょうか。もしくは、回復魔法士の能力が低くて役に立ってないのかも知れません。
そういえば、ミントはまだ起きて来ませんね。でも、あの様子なら、心配は無さそうです。放っておいても大丈夫でしょう。
これから、新しい迷宮へ向かいます。ラミアの様子も心配ですから。ご主人様に嫌われたと思ってないか、真面目に迷宮を作っているか、裏切ったりしてないかの確認です。
ラミアが、ご主人様と会えなくて、寂しくて泣いてるかも知れません。せめて、私だけでも行ってあげましょう。
新しい迷宮の監視室へ向かった私は、龍族の独特の価値観によって作られた内装に圧倒されました。
巨大な生物が入る事を想定して作られた高い天井、直線的な黒い壁からは、石で出来た龍が顔を出しています。床一面に広がる赤色は、薄暗い室内の為に、血に染まっているようにも見えます。部屋の中心に置かれた丸テーブルは、一見普通の物に見えますが、テーブルを支える四つ脚が、それぞれ龍を模した形になっていました。
オーブを置く台座も変えられていて、細長い形の龍が数匹、お互いに巻きつくようにしてオーブを支えていました。私は好みではありませんが、案外、ご主人様は気に入るかも知れません。
「リリお姉さま、どうしたんですか?」
「真面目にやっているか、様子を見に来ました。」
「任せて下さい。旦那様にとって最高の迷宮を作ってみせますよ。大切な役目を与えて下さったご主人様に、良い所を見せないと。」
張り切っているようです。隔離されている事には気がついていませんね。
「頑張るのですよ。結果を出せば、きっと、ご主人様も良くして下さいます。」
「ところで旦那様の迷宮は今日は休みですか?」
「残念ながら、ご主人様はお身体の具合がよろしくないのです。」
そこまで悪い様子はありませんが、大袈裟に言っておきましょう。ひょっとしたら、尻尾を出すかもしれません。
「もといた世界へ帰りたがっておられましたから。郷愁の病ですね。薬や魔法では治す術がありません。」
「どういう事?知っていたのですか?」
原因はお身体ではなく、故郷を想って、気持ちが沈んでいただけだったのですか。
「昨夜、ミントと遅くまで示し合わせて、今朝一芝居うったのですが、逆にお嬢様達を思い出して悪化されましたか。」
「あの今朝のご主人様に対する態度は演技だったのですか。」
「ミントは主に気に入られるように、色々と特別な能力を持っているらしいです。生意気な性格なのに芸が細かいです。」
悔しそうな表情のラミア。私も気持ちは分かります。あれで人気があるのは、その能力のおかげですか。
「でも、もう打つ手がありません。あとは、時間が解決してくれるのを待ちましょう。」
諦めた表情をみせていますが、これだけ、ご主人様の為に尽くしているのです。裏切り行為等、心配はなさそうですね。
解決方法が思い浮かびました。前にご主人様が考えていたように、召喚魔法で元の世界に帰る事が出来るかも知れません。
「ラミア、召喚魔法士が迷宮に侵入して来たら、捕獲しなさい。」
驚いた顔を見せますが、利口なラミアは直ぐに気がつきます。
「召喚された魔物を、送り返す魔法がありましたね。それだと、旦那様も送り返す事が出来るかもしれません。」
この口ぶりだと、無理な話ではないみたいです。
「でも、他の術者の魔物を送り返す魔法は腕の立つ魔法士でないと使えないはずです。自分で召喚した魔物を送り返すのは簡単ですが。」
これは、知りませんでした。自分で召喚した魔物と他人が召喚した魔物では、扱いが違うのですね。当然とも言えることですが。
「その辺は、捕らえた召喚士に聞きましょうか。片っ端から捕らえていけば、中には使えるのもいるでしょう。それと、これからは迷宮へ侵入するのを待つだけでなく、魔物達を地上に放っていきます。」
召喚士を集めて返還の魔法を研究させるのもいいでしょう。
「召喚魔法士は、迷宮に侵入して来る事が多いです。連中もオーブを手に入れて、迷宮を造りたがっていますから。理由は自らの保有する戦力を増やす為と隠す為です。」ふと良い考えが浮かびました。オーブを餌に、召喚魔法士に交渉を持ちかける事です。もっとも交渉を理由におびき寄せ、痛めつけて言うことを聞かせるのですが。高尚な考えではありませんが。
「でも、リリお姉さまはいいのですか?旦那様と離れ離れになってしまいますよ。」
「正直、離れたくありません。でも、私はご主人様の為なら、どんな事でもします。ご主人様の幸せが、私の幸せですから。」
早速、屋敷に戻った私は、召喚士の事を伝え、ご主人様に許可を頂きます。ご主人様は、元の世界に帰る事が出来るとなると、急に元気になられました。
ご主人様は自室にて、真剣に迷宮の罠や魔物の研究を始められました。今までとは別人のように成られた姿は、立派ですが何処か寂しげです。私には、ご主人様が何処か遠い所にいかれたように感じます。
ご主人様の部屋を離れた私は、ミントの力を借りる事を思いつきました。ミントの部屋にて彼女の指示を仰いだ所、任せて欲しい、夕食でも作って待っていて欲しいと言っていました。良い考えがあるようです。ミントも偶には役に立ちますね。
夕食は、下処理をした小さめの魚に衣をつけて油で揚げ、それを熱いうちに甘酸っぱいタレに漬け込んで完成です。パンも添えておきましょう。出来上がると、ミントがやってきてご主人様の部屋へ持って行きました。
うまくいってるでしょうか?参考にしたいので、後で聞いてみましょう。自信があるみたいでしたから。食堂に夕食を並べていると、ミントが帰ってきました。
満足した表情で魚を頬張るミントに聞いたところ、驚くべき事を口にしました。予め購入しておいた滋養強壮の薬と共に夕食をご主人様の部屋に運ぶそうです。
そして、ご主人様の食事が終わった所に、お気に入りの有翼人を裸にして放り込んで帰って来たそうです。基本三つある欲望は一つが満たされると、他の欲望が強くなるとか、自慢げに語るミント。確かに、空腹が満たされたら眠くなったりしますが。
ご主人様の迷宮にかける熱意を削ぐ最良の方法だと、得意気になるミントです。私は、熱意を削げとは言ってませんでしたが。やはり、彼女に任せたのは失敗だったようです。
こうしてご主人様の迷宮管理は新たな一歩を踏み出すのでした。




