八日目(中編)
暇を見つけて全話を読みやすく、所々加筆修正を加えていきたいと思っています。
物語が変わるような修正は行いません。
最近、迷宮や罠や戦闘成分が足りず申し訳ありません。
これからバランスよく頑張っていきたいと思っています。
どうぞよろしくおねがいします。
ご主人様の命令に従い、ラミアはオーブを手に新たな迷宮を作りに行きました。そして洗い物をすませた私は、次は綺麗に洗濯された白い布巾で、今洗ったばかりの食器に付いている水滴を拭っていきます。右手に持った白いお皿に目をやると、ご主人様の食事へのこだわりを思い出しました。
主となる色の付いた料理はあえて白いお皿に、それもなるべく平らで大きなお皿を使い、真ん中に一品だけ置くとのことです。その一品も平べったく並べるのではなく、真ん中にのみ一部分を重ね積み上げるように盛り付けます。白い大きなお皿の余白を残しつつ、立体的に盛り付けるよう指示をされました。
また、パン等も料理と一緒のお皿に乗せるのではなく、パンのみ別にバスケット等を使いひとまとめにテーブルに置くよう言われました。ミントは食後に洗物が増えると愚痴をこぼしていましたが、私は料理を美しく見せる良い方法の一つだと思っています。料理は、味と香りだけではなく見た目も重要ですから。
自室に戻った私は、ご主人様のこだわりを元に、今日の服装を改めようと思っています。私の特徴的な黒い髪と瞳、そこにあえて純白の上着と翼の飾りを身につけ、平らな胸元を飾る、美しい大きな宝石のついたブローチを真ん中に一つ。スカートもただ穿くのでは無く、重ねて穿くように作られた薄い生地の専用のスカートを、まるで腰に向かって積み上げるように重ねて穿いて、立体的に見せます。胸が立体的ではないのが残念ですが。
極めつけは魔界でもっとも高価な香水を、他の良さを消さないように控えめにつけます。どうでしょうか?私自身という最高の素材はそのままに、素晴らしい香りと計算され尽くした見た目、至高の一品に仕上がりました。
一刻も早く、この姿をご主人様にお見せしたい。はやる気持ちを胸に押さえつけ、あまり押さえつけてこれ以上引っ込んだらまずいですが、まずはミントと策を練りましょう。ご主人様はなかなかの策略家ですから、こちらも秘策をもって迎え撃たなければなりません。ご主人様の鉄壁の守りを秘策でもって打ち崩し、その心を略奪します。
ミントの部屋の扉をノックしました。返事が無い為、呼びかけてみましたが、やはり返事はありません。まだ拗ねているのでしょうか?まさか泣いているのかも。再度ノックと呼びかけを行いましたが、結果は同じでした。私の頭に不安がよぎります。
まさか、ご主人様に冷たくあしらわれたと感じて、思いつめた行動にでたのでは?私は最悪の事態を想像してしまい、扉を開けます。勿体無い、たまには私もご主人様に冷たくあしらわれてみたいぐらいなのに。そして私はミントのとった驚くべき行動を目にしました。
私の目に入ってきたのは、部屋の中央にあるベッドに安らかに横たわるミントの姿でした。はだけた布団から覗かせる寝巻き姿、そして頭には丁寧にナイトキャップまで被っています。もうとっくに朝を迎えているのに、つい先ほど、満足そうに朝食を口にしたばかりなのに。ベッドの上の彼女は安らかに寝息を立てています。
そっと口を塞ごうかと思いました。安らかに眠らせてあげたくなりましたから。ですが、ここは思いとどまっておきましょう。夢の中で良い考えを閃くかもありませんから。一応、耳元で催促しておきましょう。私がご主人様の心を奪う為の秘策を練っておきなさい。ご主人様が私を好きになるような策を、私に夢中になる為の策を。よし、これで大丈夫でしょう。ミントはやれば出来る娘です。私はそう信じています。
そういえば、今日は迷宮はどうされるのでしょうか?ご主人様にお聞きするしかありませんね。無策でお会いすることになるとは、想像もしていませんでした。どうしましょう。正面から立ち向かうのは愚の骨頂です。ここは忍者らしく背後から忍び寄り、抱きしめて差し上げるとかいいかもしれません。そういえば、私は気づかれないように命を奪うのは得意ですが、心を奪うのは苦手です。似たようなもののようで、まったく違いますね。
あ、目の前の廊下をご主人様が歩いておられます。ふと、いい考えが浮かびました。中の良い人間同士で気づかれないように背後に回り、相手の目を隠して、こちらから話しかけて声で誰かを当てるという遊びがあると聞いたことがあります。これは使えますね。
ちなみに、魔族の間でも同じような遊びがありました。魔族同士、気取られないように足音と気配を消して忍び寄り、背後から相手の目を潰した後に、体の自由を奪い去り、背後の存在の正体を見破ることが出来なければ、相手はどんな命令でも一つだけ聞かなければならない、という遊びです。私はこれが得意でした。隠密スキルがある為、目に見えなくなることが出来ますから。人間風の遊びと魔族風の遊びどちらがいいでしょうか?ご主人様は人間でいらっしゃる為、人間の方の遊びがいいでしょう。
さあ、隠密スキルを使い、ご主人様に背後から忍び寄っていきます。相変わらずご主人様は警戒心がありませんね。鈍感なお方です。私の胸に秘めたこの想いにも気づいて頂けません。背後からご主人様の目を、両手で覆います。一瞬、ビクッとされる姿が可愛らしいです。ちなみに背後から短剣を心臓に突き立てた場合も、同じようになります。まったく関係ありませんね。
「ご主人様、今日の迷宮はどうされますか?あと、私は誰だとおもいますか?」
念のため、声色もミントのものにしました。
「えっ?今日は迷宮は休みにしよう。羽根を伸ばしていいよ。」
驚きました、ご主人様は私と気づいたばかりか装備している翼までも見破ったのです。まさか、今だかつて見破られた事の無い、私の隠密スキルが見破られるなんて。私が愚かでした、ご主人様は警戒心が無く、鈍感などと、本当は全てを悟っていらっしゃるお方だったのです。
「えっと、ミント?」
「ミントならすでに部屋で休んでいましたよ。」
ご主人様は、私の策を見破るなど造作も無いのでしょう。さも当然のように振舞われ、ミントの心配までしておられますから。落胆し隠密スキルを解除する私。振り返り、私を見るご主人様は。
「それじゃあ、部屋で休んでるからね。その格好似合ってるよ、リリ。」
有り難いお言葉を発して、ご主人様は去っていかれました。この至高の一品をお気に召されたようです。今の言葉は、部屋に来るようにという意味かもしれません。私もご主人様の寵愛を受ける日が来たのかもしれません。ですが、一つ気がかりなことがあります。
最近ご主人様の元気が無いような気がします。いつもご主人様のお姿ばかり見ているため、わかります。まさか、ご病気でもされているのでしょうか?ご主人様とお会いして、もう八日も経ちますから、疲労が溜まっておられるのかも知れません。ここは、ごゆっくり休んで頂きましょう。
さて、私もご主人様の仰ったように休みましょう。たまには羽根を伸ばすのもいいかもしれません。もっとも実際に背中の羽根を伸ばしたら邪魔でしょうがありませんが。あちこち引っかかって休むどころではありませんから。
ご主人様の事が気がかりなので、少し休んだ後、対策を練るとしましょう。
この格好のまま寝るわけにはいきませんね。折角の服装が皺になってしまうというのもありますが、一番の理由は背中の翼が邪魔です。翼とは自由の象徴ではなかったのでしょうか?たしか大空を自由に飛び回る象徴とか言われていますが、寝るときは不自由の象徴に変わるのでしょうか。ベッドの中で満足に寝返りすらうてません。
やがて、眠りに落ちた私は、夢の中で大空を翼を羽ばたかせて飛んでいました。ですが、やはりそこに自由はありませんでした、スカートをつねに押さえておかなければいけませんから。そういえば、クリエはスカートの下にズボンを履いていましたね。私は翼とは必ずしも自由を意味するのではないということを夢で再確認したのでした。




