七日目(後編)
私達の迷宮、その最深部に位置する屋敷へと戻ると新たに手にしたオーブを監視室へと運びます。
ご主人様は回復魔法士の人間の娘を牢屋に連れて行きます。
とりあえずは屋敷内でシャワーを浴びて、ゴブリンの血が所々付いているこの服を着替えましょうか。純白の翼の飾りも邪魔なので部屋に置いておきましょうか。でも夜は役に立って貰いますよ。
あ、室内が寒い時も使えるかも知れません。
自らの翼にくるまっていれば暖かいです。これは意外な活用方法です。
脂っこくて臭いのを我慢すれば。
翼って洗濯しても大丈夫なのでしょうか?クリエに聞いておけば良かったですね。
そうです、有翼人の奴隷がいました。彼女に翼の手入れの方法を聞けばいいのです。いえ、彼女に手入れさせればいいでしょう。さっそく、牢屋へと行きましょう。
やっぱりご主人様の御作りになった屋敷は良いですね。ゴミ一つ落ちてない床に、白く直線的な壁、所々飾りつけられた廊下。
汚らしいゴブリンの巣穴とは大違いですね。
「お帰りなさい、お姉さま。その、姿は?」
ラミアが廊下を歩いて?這っていました。私は見せびらかすように翼を広げます。
「手羽先。」
料理に使うつもりでしょうか?ラミアは、料理人の鑑ですね。でも、その前に蛇料理にしますよ。
「その羽根で、旦那様を……。私も羽根つけて来ます。」
慌ててどこかへ行ってしまいました。
彼女も翼を持っているのでしょうか?まあ、食材の鶏で作るつもりなのでしょう。
牢屋の近くに行くと、途切れ途切れですが何やら声が聞こえてきます。
奴隷同士、仲良く話でもしているのでしょうか。
更に近づくと、有翼人の喘いでいるような声です。
何かを求めるような、それでいて恥らうような声質でした。
きっと、運動でもしているのでしょう。個室の牢屋で退屈だから。
それに太ったら飛べなくなるのでしょう。
そういえば、牢屋には有翼人と回復魔法士の娘とご主人様がいるはずです。
流石はご主人様です、牢屋が中にあるだけの部屋ですが豪華な扉ですね。きっと中では牢屋の内装などもこだわっておられるのでしょう。こんな素晴らしい牢屋に入れられて奴隷は幸せですね。
シャワーを浴びるのを忘れてました。はやく、この汚らしい服を着替えたいですね。
今日は私もよく働きましたし、ご主人様もお忙しいみたいですし、ゆっくりと時間をかけてシャワーを浴びても問題は無いでしょう。今は、頭から水を被りたい気分です。
嫌な事とか全て洗い流してくれるはずです。きっと。
新しい服に着替えた私は、監視室にてミントから報告を受けています。満足げな表情を浮かべられたご主人様もいらっしゃいました。何やら新しい服を手にされています。
なんといいますか、ご主人様を見ることが出来ません、恥ずかしくて。
ミントの話によると、私達がいない間に龍族の管理者が迷宮を訪れたみたいです。
「この迷宮を素晴らしいと、後日、ご主人様にお目通り願いたいと言ってましたわ。それに友好的な関係を築きたいとか困った事があったら手を貸したいと言ってました。あと自由に使って欲しいとお金も貰いましたわ。」
ご主人様に、お金の入った袋を手渡すミント。結構な額が入っているみたいです。
アリスから貰ったお金とあわせるとミントも買えそうですね。
多分、ミントは安いでしょう、こんな性格ですから。
あ、アリスから貰ったお金は、武器屋でご主人様に渡しましたよ、さりげなく。
ちょっと使い込んだのは秘密です。まあ、ご主人様もお小遣いとして納得されます。きっと。
あえて言う必要は無いでしょう。たぶん。
「龍族は強い冒険者が来た時にでも招待するとしよう。偶然、冒険者と戦ってもらおうか。戦った後に、まだ生きてたら目的を聞けばいいかな。」
また、アレをされるみたいです。きっと、龍族が劣勢だったら今度はベルゴ様とかも呼びつけるのでしょう。他人を利用することが好きなご主人様です。
もっと私も利用して欲しいです。
有翼人なんかより、よっぽど役に立てると思います。
「リリ、こっちへ。」
いきなり声をかけられて、驚きました。もう、ですか?まだ、心の準備が。
近づくとご主人様は、手にされていた服を私にくれました。
変わった形の服ですが、見覚えがあります。前捕らえた冒険者の服に手を加えられたのでしょう。
変わったキルトというか、おおげさなキルトというか。布団を生地にして作ったような厚手の上着です。
袖を通してみると少し大きいですが、見た目に反してとても軽いです。不思議な素材ですね。
「有翼人の羽毛が入ってる。だんだん温かくなってくるはず。」
驚愕の事実です。有翼人を捕らえたままだったのは、これを作る為だったのですね。きっと、ご主人様は有翼人が好きとかではなかったのでしょう。それなのに、私は自分の事ばかり考えて。
私は自分で自分が恥ずかしいです。こんな私の為に、ご主人様が自ら。
「あ、ずるい。私も欲しいですわ。」
ミントが生意気な事を言っています。これは順番ですから、当然、私のほうが先です。それにミントはまだ、迷宮管理センターの所属ですから、ご主人様の施しを受けられる立場ではありません。
「年中生え変わるみたいだから、少し待ってくれ。ちゃんと作るから。」
詰め寄るミントをご主人様は優しげな顔でなだめています。その表情は心なしか寂しそうでもありました。それにしても、駄々をこねるミントは子供のようで可愛いらしいですね。
「ありがとうございます。一生着ています。」
これは家宝です。汚したりしないように大切にしなければ。こういった身に着けるものを贈られるのは、よく愛の証だと言われていますから。
「いや、そのうちまた作るし。洗ったりは出来ないと思うから、室内用で。」
ご主人様はお優しい方でした。私が室内の温度を寒そうにしていたのを、見ておられたのですね。きっと私達は、すでに心が繋がっているのでしょう。
「今度は、私のですわ。」
きっと、ミントも寒がりなのですね。でも貴方は、ラミアよりも後ですよ。
突然、監視室の扉が開かれてラミアがやってきました。
「ここにいらっしゃったのですね。探しました、旦那様。どうですか?私の羽根は?」
ご主人様に詰め寄るラミアの背中にはコウモリのような翼が生えていました。そして、目を輝かせ、翼を羽ばたかせ、胸を押し付けています。
「……うん。格好いいよ。」
何故か翼では無くラミアの胸に視線を注がれているご主人様。ですがラミアは大喜びしています。翼の価値を勘違いしたまま。
「皆、いるみたいだし。重要な、今後の事を話そうか。」
座られるご主人様、私も寄り添うように座らせて頂きます。きっとご主人様と私の今後の話でしょうから。
残念ながら私にとっては、たいした話ではありませんでした。いえ、まあ、迷宮にとって重要な話でしたね。
今後は、ご主人様は幾つもオーブを手に入れて、迷宮を複数同時に管理されるおつもりです。
それが、良い方法だと仰ってました。曖昧なのは、ご主人様自身も本で読んだ知識だとか。
一つの迷宮が軌道に乗ったら、次々と迷宮を作っていったほうが稼げるという予想でした。
後は新しい罠とか、ある程度進行して来た冒険者に対して数階層分の迷宮を落盤させて、やっつけてしまおうと。修理に必要な魔力等、高くつきますので最後の手段として強い冒険者に使われるそうです。
前に作った焚き火の罠と違い能動的に使える罠として期待できます。
一晩考えた後、誰か使い魔に新しい迷宮を任せると仰っておられました。
私は、ベッドの中で名乗り出ようか考えながら、やがて眠りにつくのでした。




