表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/76

第18話 彼女に仏の顔を求めてはいけない


寝起きばかりはワンサイドゲームです。


ずっと俺のターン☆!!!!!!


てやつですね。




今日は休日だ。


休日とあってエリカもフィアも朝はいつもより少し遅くまで寝ていた。先に起きたフィアもさすがに休日までエリカをたたき起こすのもはばかられた様で、自分のベッドで仰向けになって読書をしていた。


とその時、ドアがノックされる音が聞こえてフィアが身体を起こすと、エリカを起こさないようにあまり足音を立てずにドアへと向かう。


(正直、起きないでしょうけどね~)


エリカの寝起きはかなり悪い。寝ぼけることなど日常茶飯事になりかかっている。まだ数日しか共にしていないにも関わらず、フィアはエリカの寝起きの悪さにどうしたものかと悩んでいる。


「どなた~?」

「その声はフィアか、ジーンだ」

「ああ、ちょっと待ってて」


声でジーンだと知ると、フィアはドアの鍵を解除してドアを開ける。


ドアの前にはジーンが休日にも関わらず朝から訓練でもしていたのか少し息が上がった状態で立っていた。よく見ればその後ろでジャックが壁に寄りかかりながら大あくびをしている。


「エリカに模擬戦を頼まれたんだが、一向に現れないので来てみたんだが、エリカはいるか?」

「あ~、そういうこと……」


そういえば、昨夜そんなことをエリカが言いだしていたような気がする。


だが、当の本人は未だに起きる気配を見せていない。


(まったく、人に頼み事しておいてすっぽかすなんて……)


フィアは事の次第を理解して小さくため息をついた。

そしてフィアは2人を部屋に招き入れた。口で言うより見てもらった方が速いだろうと考えたからだ。


「……理解した」

「嬢ちゃん……」


ベッドで静かな寝息を立てているエリカを見た途端、男2人は呆れたような表情をして肩をすくめた。


「エリカ~、起きなさい。今日はジーンと練習するんでしょう~?」


この際、2人にもエリカの寝起きの悪さを知っておいてもらおうとフィアは思って、2人を招き入れたのだ。そしてその目の前でエリカの身体を揺するが、案の定少し寝苦しそうに顔をしかめるだけで目を開ける気配は一向に見られない。


「エ~リ~カ~」

「ふあ……、フィアさん、あと2時間……むにゅ……」

「まったく、起きる気配もないわね」

「え、起きてないのか?」


今の台詞は、まだ寝たい子供が駄々をこねているかとジーンは思ったが、フィアは諦めたような表情で首を横に振る。


「今のは寝言よ。都合の良い夢を見るわねぇ……」

「「嘘だろう……」」


ジーンとジャックは信じられない、という顔で寝ているエリカを覗き込むが、どうやらフィアの言は真実らしく、なにやら呟きながらもエリカは眠っている。


「むにゅ……」


((な、なんだこの可愛い生き物は!?))


「さて、と。2人は部屋の隅に避難して頂戴。エリカを起こすから」

「起こせるのか?」

「……前は上手く行ったわ」


とてもじゃないがまともな方法ではなさそうだと直感で感じ取ったジーンとジャックは素早くベランダに避難すると、ガラス越しに中の様子を観察することにした。


そして、地獄が始まった。


「さあ、起床の時間よ、エリカ」


フィアの右手に炎が灯る。そしてその炎はゆっくりと大きくなると蛇のように伸びてエリカの身体の周り、あと少しでエリカに接触するかという距離をグルグルと回り始める。熱気でエリカが寝返りを打つが、まだ起きそうにはない。


すると、フィアは火力を緩めて反対の左手で水を作り出す。水を風の力で空中に押しとどめると、少しずつ水球を大きくしていく。1度に大きな水球は作り出せないが、少しずつであれば大きくすることはできる。そして丁度エリカの身長と同じくらいの水球を作り出すとそれを慎重にエリカの真上に持っていく。


「や、やるのか……」


これから起こるであろう惨劇を想像して、ベランダのジーンとジャックは唾を飲んだ。


そして、フィアが手を振ると水球が一気に重力に従って真下に落下し、ベッドのエリカを直撃し、その瞬間エリカの眠気は一気に吹き飛んだ。


「ひあっ!? フィアさ、ひゃあああっ!?」


目が覚めた直後、その顔面にさらに冷水をぶっかけられる。


だが、それだけでは終わらない。


「ふふふ、今さら起きても遅いわよ、エリカ。呪うなら自分の寝起きの悪さを呪いなさい!」


緩めていた炎が一気にエリカにまとわりつく。


「あ、熱いですフィアさん! 起きましたから! もう寝過ごしませんからぁ!!」


「あっはっはっはっ! 信用できるかああああああ!!」


物凄い笑顔でフィアは炎の中から水をエリカの顔面にさらに命中させる。エリカは何もできずにフィアのなされるがままに炎熱地獄と冷水地獄を同時に味わっている。


その様子をベランダから見ているジーンとジャックであったが、ガラス越しでも分かる室内の熱気についベランダの柵まで引いてしまう。


「な、なあジーン……」

「みなまで言うな」


フィアを怒らせない方が良いと、2人の脳内で一致した見解を出したジーンとジャックであった。


「この間、2度目はないわよ、って言ったわよね、エリカ?」

「ひ、は、はい! 言われましたぁ!」

「だったらどうなっても覚悟はできてるわよねぇ!」

「す、すいませんでしたああああぁぁぁぁ!」


エリカの目の前で大きな水球を1つ作るとそれを両手で持ち上げるように頭の上に持っていくと、それを勢いよくエリカにぶつけた。水量でエリカが壁まで押されて壁に叩き付けられる。


「きゅう……」


目を回してしまったのか、ずるずると再びベッドに横たわってしまったエリカに、フィアは額の汗を拭いながら近づくと、その両手首を持って床を引きずりながら隣の部屋に連れ込んだ。


「に、2回目でこれなのか……」


それが、ジーンには一番理解できない点であった。















「まことに申し訳ありませんでした」


時刻はもうすぐ昼に差し掛かろうかという頃合いだ。


炎熱地獄と冷水地獄から何とか生き残り、エリカは今修練場にいる。そして膝を付き、手を地面に付き、頭をその手に付けるくらい下げて謝っていた。


謝っている相手はジーンだ。

約束事をしたにも関わらず、完全にそれを失念し、昼近くまで熟睡するという醜態をさらしたのだ。エリカ自身穴があるのなら入って隠れたいくらい恥ずかしい思いをした。


「いや、休日だという事を忘れて約束してしまったしな。時間指定しなかった俺も悪かったし。それに、ここで土下座されると周りの目が痛いんだが……」

「? どういう意味ですか?」


言われて顔を上げ、辺りを見渡すと、修練場にいたほぼ全ての騎士がこちらを興味深げに眺めている。

ジーンはそれを見渡すとどうしたものかと困った表情をしながら頬をかいている。


「騎士たる者、簡単に土下座するもんじゃないと思うんだが……」


ジーンがそう言うと、何とも理解できない、という表情をエリカは作った。


「非があたしにあるのは明確ですし、謝らなければあたしが納得できません」

「! 頭を下げることに抵抗はないのか?」

「不思議な事を聞きますね、ジーンさん。非があるのに謝らない方がよっぽど無礼だと思いますが」


至極当たり前な事を言っているつもりなのだが、何故か目の前のジーンはもとより、ジャックやフィアまで感心したような表情を浮かべている。


(あれ、あたし変なこと言ったでしょうか?)


少しおたおたと辺りを見ていると、ジーンがエリカに近づいて耳元で小さく呟いた。


「騎士が謝るってのは、自分を貶めると思ってる奴が多いんだ。それはここも、他も一緒だ。自分の地位に誇りを持ってるからな。だから、エリカみたいな事を言える奴は珍しいんだ」

「なんと、礼儀を知らないのですか」

「そうじゃない。俺たちは王の名誉を背負っている。だから、俺たちが頭を下げるような事はあってはならないんだ。それは内外を問わない」


なるほど、とエリカは内心で相槌を打った。


礼儀を知らないわけではなかったようで安堵のため息も一緒についた。


騎士は騎士団の存在だけを背負っているわけではないのだ。背負うのは国であり、王であり、民衆でもある。騎士とは規範にならなければならない存在である。だから、過ちは許されないのだ。仮に過ちを犯しても、決して騎士として謝ってはならないという暗黙の了解まである。


「騎士として謝ってはならない、という事ですね。ではエリカとして謝らせてもらいます。すみませんでした」

「ああ、そういう事なら、俺も素直に受けるよ」


笑顔になったジーンは何の気なしにエリカの頭を撫でた。


「っ!!」

「うおっ!?」


その瞬間、エリカの身体が鉄のように硬直して飛び跳ねんばかりに一瞬痙攣した。


「す、すみません、突然だったので驚いてしまいました……」

「そ、そうか……(ちょっとかわいかったなんて言ったら殺されるだろうか)」


ジーンがそんな事を考えているとは知りもせず、エリカは今された事に理解が追いつかなくて心臓がバクバクと早鐘のように振動している。


(な、なんですか。3日かそこらの相手にあんな笑顔で撫でますか!? いや、そもそもなぜあたしが撫でられなければ……、違う違う、論点がずれています……、なぜあたしはここまで緊張してるんですか!?)


全く理解できない。


どうも、撫でられるという行為に慣れていないばかりに過度の反応をしてしまったようだ。顔も少しばかり熱い気がする。


「どうした、顔が赤いぞ?」

「恥ずかしかっただけです! さあ、今日しか練習できる間もないので、さっさと始めましょう!」


照れ隠しに大声を上げた、としか受け取ってはもらえないだろう。事実そうなのだから。

ジーンはそれでも理解はしていないようで、エリカの大声に気圧されたのか少し引きつつも、頷くと背負う剣を両手に構えてエリカと少し距離を取った。


「軽くで良いんだよな? 自分で言うのもなんだが、それなりに力には自身がある方なんだが」

「本気で構いませんよ? 明日からの相手だって本気でしょうし」

「なるほど、では怪我をしない程度にやろうか」

「はい、お願いします」


ジーンが大剣の切っ先をエリカの顔の前の高さで構える。エリカも刀を抜くとそれを右手で持ち、だらりと持つ。


「うん? 構えないのか?」

「構えたところで流派も何もないですから。それに、こっちの方は戦いやすいです」

「そういうものなのか」

「そういうものなのです」


昨晩と同じやり取りをすると、2人ともつい笑いがこみ上げてきてしまった。それを喉の奥に押し込むと笑みを消して張り詰めた空気を漂わせ合う。


「はあっ!」


最初に動いたのはジーンだ。

大剣を腰の位置に構えて地面を蹴ると、エリカの寸前で大きく横に大剣を振るう。エリカは腰に帯びていた鞘を引き抜くと振られた大剣をそれで受け流すと大剣と鞘が接触して火花を散らす。


「くっ、やっぱり重いですね」

「鞘で弾くとは思ってなかったがなあ!!」


受け流されても、それでジーンの攻撃は終わらない。払われた大剣を翻すと畳み掛けるように連続した剣撃をくり出す。


(反撃する隙が、ないです!)


本気と言ってしまった事を少し後悔してしまった。


ジーンはジャックと違って力づくではない。エリカとしては力づくの方が厄介という認識があったのだが、それは大間違いだという事を今になって理解した。


ジーンの戦い方は流派に沿ったものなのだろう。型どおりとでも言おうか、力でなんでも押し通そうとするようなジャックとは一線を画している。ジーンの攻撃はエリカの動きを見て、考えてくり出されている。エリカがカウンターを狙っていることを瞬時に理解したジーンは大きな一撃ではなく、威力はあまり無くても隙の小さい、連続した攻撃を主眼に置いた戦い方をしているのだ。


「くっ、反撃でき、ない!」

「ジャック相手にあそこまでやったエリカに油断はできないからな。悪いがワンサイドゲームにさせてもらう!」


刀と鞘を上手く使ってジーンの攻撃を受け流すが、どうしても反撃の糸口がつかめない。それどころか、徐々に押されてしまう。ジーンの攻撃はエリカに致命傷を与えるような一撃を含んでいない。正直言うとエリカの刀の扱いは素人同然だ。本来ならもっと適切な、カウンターも可能な防御方法もあるのだろうが、あいにくエリカにその知識はない。あるのは昨日1日で得たバーバラのカウンター技術のみだ。そのカウンター技も、相手がそのカウンター技に繋がる攻撃をしてくれないことには威力を発揮できない。


結局、エリカはジーンの攻撃をただ防ぐだけになってしまう。


「こ、このっ!」

「おっと」


連撃の一瞬の間をついて刀をジーン目掛けて突き出すが、溜めもない攻撃は簡単に大剣で弾かれてしまう。


(連撃に入られたら反撃できない。ここで隙を見せるわけには……そうだ!)


「振りが甘い……うおっ!?」


刀がジーンの横に弾かれ、ジーンが反撃に転じようとした時、不意に迫る影をジーンは捉えた。即座に振ろうとしていた大剣でそれを弾くが、その時にはすでに弾いたはずの刀が次の攻撃となってジーンに迫っていた。


ジーンはつい驚いてエリカから距離を取った。


「……鞘か」

「案外固いです」


エリカは自分の持つ鞘が随分と強度がある事に目を付けた。ダメージこそ刀に比べれば圧倒的に足りない上に、当たっても精々けん制にしかならない。だが、攻撃の手を休めずに連撃を繰り出せるという点では、大剣よりも分がある。


「二刀流なんて、器用な真似を」

「元が何もないんでなんでもやりますよ、勝つためなら」

「くっ、確かに。エリカは全ての武術で素人だもんな」

「む、笑うことないじゃないですか。さあ、続き行きますよ」

「ああ、来い!」


刀とその鞘を使った二刀流。エリカが連撃をするために即席で考え出した戦い方だ。隙も大きいだろうが、とにかく小さくしようと心掛ける。カウンター技を知ることは、逆にカウンターを受ける場合を知ることが出来る。その隙を作らないように心がければ、自然と無駄のない戦い方が出来るのではないか、とエリカは考えた。


「はっ!」

「くうっ!?」


刀での攻撃を防いだジーンに間髪入れずに鞘での第二撃をその脇腹にお見舞いすると、一瞬ジーンの表情が苦悶に歪み、身体が少しだけぶれた。


そこを見逃さず、エリカは一気に刀で畳み掛ける。ジーンの大剣で刀を受けられると、受け流される前に刀の腹と大剣の腹を合わせてそのままジーンの腕へと刀を滑らせる。もちろん、鍔で腕への攻撃は防がれるが、それがエリカの狙いだった。


鞘をジーンの大剣の腹、エリカが刀を鍔に当てている方とは逆の面に当てると、刀と鞘で大剣を挟み込むようにする。


だが、鞘は切っ先近くにある。軽い力でも太く重い大剣を押すことが出来る位置だ。鍔に接している刀を下に、鞘を上に横になっている大剣をエリカが力で縦にしようとすると、ジーンが驚いたような表情をして大剣を引き抜き、距離を取ろうとする。


「その一瞬が欲しかったです!」

「な、なにぃっ!?」


大剣を引くその一瞬、ジーンからエリカへの攻撃という考えは霧散する。その一瞬は絶対にジーンはエリカに攻撃できない。その一瞬を、エリカは狙っていたのだ。


ジーンの腕に引かれて刀と鞘の間から引き抜かれようとした時、エリカは素早く刀を大剣の鍔から退けると鞘で思い切り大剣を跳ね除ける。すると、十分に溜めを作って腰だめに構えた刀を勢いよく突き出すと、飛び退こうとして地面を蹴ったばかりのジーンは回避することも、防御することも出来ずに刀の強烈な突きを鎧の胴に受けて、吹き飛ばされた。


「うおおおおおおおおっ!???」

「えっ……」


かなり力を込めて突き出した突きは、鎧を貫通こそしなかったが、衝撃でジーンを5メートルほど吹き飛ばして地面に叩き付けてしまった。


これに慌てたフィアが地面を転がるジーンに駆け寄ると慌ただしく回復魔法をかけ始める。


「ちょ、エリカちゃん、加減!」

「す、すみません、やりすぎました!」


エリカもやりすぎたと思って刀を収めると自分が吹き飛ばしたジーンに駆け寄ってその顔を覗き込む。


「つつつ、腹に穴が開くかと思った……」

「実際、ちょっと骨にヒビいってたわよ?」

「おいおい、嬢ちゃん、貫通もしてない突きでそこまでやるか、普通」


フィアに治療される様子をただ見ているしかなかったエリカにジャックが呆れたような顔をしながら言ってくる。


「模擬戦を殺すつもりでやる人にだけは言われたくありません」


エリカの言葉にジャックが反論の余地を失ったのは言うまでもない。




二刀流とは何ぞや?


刀2本だったら二刀流?


じゃあ片方鞘でも何とかなるんじゃないかな? などと楽観的にエリカの戦闘スタイルを決めてしまいました。さすがに大剣とかを相手に刀1本ではキツイでしょうから。かといって今から2本目出すのもなんだったので、戦闘中腰で邪魔になるであろう鞘を使う事にしました。


普通の刀と小太刀で二刀流なんて描写不可能ですから、私には。







エリカ2連勝! な回になりました。


そろそろエリカの強さが辺りに広まり始めますね。突きで鎧の上から骨にヒビいかせるんですから、エリカの腕力は相当なものですね~。さてさてこれからどうなる事やら……。


ご感想などお待ちしております!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ