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入学式

 貴女は、男性より女性の方が好きなのですか?


 んー。

 うんにゃ、普通に異性愛者やったと思うけど?

 彼氏おったこともあったし。


 ではどうして、妹やフラムリナ、アルキュリアにあんなことをしたのですか?


 え? こう胸がキュンってなって、無性にしたくなったんよね。

 どうみてもみんな可愛かったやろ?


 それは否定しませんが……。


 というか、たぶん女性を愛でたいっていうこの感情は、あなた由来の感情やで?


 ――!


 あ、なんやそんな顔するって事は、自覚あるんや?


 ……あの……その……変じゃ……ありません……か……?

 女性が好きだなんて……。


 あー……。

 あなたがいるこの世界では、あんまり大っぴらには出来んのやろうなぁ。

 日本でも大っぴらにできるかって言われると、そんな事はないわけやし。


 あれやろ?

 私の記憶も混じってるやろうから、私の事もある程度は知ってるやろ?


 ……はい。

 信じられませんが、実際貴女の記憶は自分の事のように思い出せます。

 ……申し訳ありません。

 こんな事になってしまって……。


 ええよええよ。

 私が必要やったってことやろ?


 はい、ありがとうございます。


 ふふふ。

 やっぱり笑ってる顔、可愛いやん。




「お嬢様、お嬢様! グリフォーラお嬢様! 起きてください! お二人が到着されていますよ!」


 フラムリナの大きな声と共に、盛大に体を揺さぶられる。


 このちょっと焦っていて困っているフラムリナの声と顔もとてもキュート。


 朝から良いものを見れた。

 はぁ~寿命が一週間は伸びたんごね。


 それにしてもいつものお布団が重く感じて、そして温かい。


 ……いやこれは。


「お嬢様っ!」


 がばっ!


 しびれを切らしたフラムリナに布団をひっぺがえされてしまった。


 お布団の中になんと!

 妹のスパラシスが潜り込んでいるではありませんか。


「スパラシスお嬢様! またですか!」


 落ち着いて欲しい。

 そう、"また"なんや。


 別に私が引きずり込んでるわけではないのだけど、一度夜遅くまでお喋りをしていた時に、スパラシスがこのまま一緒に寝たいと言うので、その日は一緒に寝ることにした。

 そうしてから、こっそりお布団の中に忍び込んでる事がちょこちょこ起きるようになったのだ。


「お姉様、フラムリナ、おはようございます」


「おはよう、スパラシス」


 頭をなでてあげると、嬉しそうに身をゆだねてくる。


「また勝手に潜り込んだのね? 貴女の侍従が今頃困っているのではなくて?」


「大丈夫ですお姉様。前回怒られてしまったので今回からちゃんと書き置きを残しています」


 んー、ほなええか。

 ……ええんか?


「もう何をのほほんとしておられるのですかお二人共! 早く起きてください! 身支度が出来ません!」


「あら。フラムリナもおいで?」


「……お嬢様」


 私がそう言って手を伸ばすと、照れくさそうに私の手を握る。


「はっ!? くっ! そうやってまた私を懐柔しようと! いえ、今日はそれどころじゃないのです! アルキュリア様とブラッシカ様がもうおいでになっておられるのですよ!」


 まじか、そりゃやべえ。

 今から急いで支度しても、完全に遅刻んご。

 二人共、許してクレメンス。


「私もお手伝いしますね、お姉様」


 少し寂しそうなスパラシス。


「ええ、お願いするわ」


 それもそのはず。

 あれから時間は過ぎ、明日はいよいよユーカリオータ王立総合学園の入学式なのだ。

 学園は全寮制で、勿論この私も寮に入ることになっている。


 一つ年下のスパラシスは来年の入学になり、それまではお別れになってしまうのだ。


 フラムリナは私の侍従として着いてくるんだけどね。


 スパラシスとは文通をする約束をしている。


 身支度をしてもらいながら、ぼーっと夢の事を思い出す。

 何か楽しい話をしたような気がするんだけど、まったく何も思い出せない。


 所詮は夢やし、まあしゃーない。


「お待たせ、二人共」


「遅ーい! もう! 今日はお茶会をするって言ってたでしょ! 楽しみに待ってたのに信じられないわっ!」


 庭園にあるガゼボで寛いでいたアルキュリアとブラッシカの下へと行くと、私の姿に気づいたアルキュリアが頬をぷくっと膨らませてプリプリ怒っている……振りをしている。


「具合がまた悪くなったわけではないんだね?」


 ブラッシカが優しい笑顔で私を心配してくれている。


 おっほ。

 美少年のアルカイックスマイル頂きました!

 心の中で拝んどこ。

 二礼ニ拍手一礼でいいんやっけ?


「ええ。心配させてしまったみたいね。妹と一緒に寝ていたら、ついつい気持ち良くって寝過ごしてしまったわ。ごめんなさい」


「アルキュリアさん、ブラッシカさん、ごめんなさい」


 私と一緒に二人に謝るスパラシス。


「ええ、今回も一緒に寝てたの? いいなあ。……あ、つーん」


 まだ"いつもの"をしていないせいで、拗ねているふりを継続しているアルキュリア。


「ごめんなさいアルキュリア。でも、そんなに頬を膨らませていると、可愛い顔が台無しよ?」


 膨らんだ頬を軽く突くと、プシュっと空気が抜けて、元の可愛らしい顔に戻って、


「てへ」


 舌をチロっとだして笑う。

 こう言ういたずらっぽい所も、アルキュリアの可愛い所だ。


 アルキュリアが拗ねて頬をプクッとしているのを、私が指で突いてプシュっと潰すのが、仲直り……と言う程大げさなものではないのだけれど、私が何かしちゃったときのいつものルーティーンみたいになっている。


「そうだグリフォーラ。君は入学式で答辞を読まなくてはいけないのだろう? ちゃんと練習はしたのかい?」


「もちろん。新入生代表であるよりも、私は王女だから。お父様やお母様に恥をかかせる様な事をするわけにはいかないわ」


「お姉様てっば、原稿は学校側が用意してくれるって言っていたのに、自分の言葉でちゃんと答辞を作りたいからって原稿を自分で考えて、それに原稿用紙を読みながらでも良いって言われているのに、全文暗記までされているのです」


 私じゃなくてスパラシスが誇らしげにしている。


「大切な日だからこそ、用意された誰かの言葉ではなく、自分の言葉を紡ぎたいの。それに淀みなく読むには、ちゃんと覚えておいたほうがいいのよ。あなたもきっと来年は読むことになるのだから、覚えておきなさい。その時は私も見ているのだから……ね?」


「はいっ」


「そう言うちょっとしたことでも気を抜かない君は素敵だね。でも、体調が悪くなったのなら無理はしないようにね? もし何かあったら、頼ってくれていいから」


 私の瞳をブラッシカは優しく、それでいて真剣さも伝わる強さで真っすぐ見つめてくる。


 やばい、美しさの過剰摂取で動悸がする。

 この素敵な笑顔が自分だけに向けられているなんて、恐れ多くて心臓が口からまろび出てしまうかもしれない。


「心配してくれてありがとう。何かあったらブラッシカを頼らせてもらうわね?」


 ぱちくりと目を瞬かせて、黙って自分を指さして小首をかしげているアルキュリア。


「もちろん、貴女も頼りにしているわ」


「ええ!」


 この日は以前に約束した通り二人はお屋敷に泊まり、明日、ユーカリオータ王立総合学園へと一緒に向かうことになっている。


 ちなみにその夜は、スパラシスとアルキュリアと三人で寄り添って一緒に寝たのだった。


 ……なんでこの世界にスマホないん?




「雲一つなく、風も穏やかで、心地良い日の温かさが私達を包むこの素晴らしき日に、栄えあるユーカリオータ王立総合学園への末席へと加われることを、心よりうれしく思います」


 入学式、答辞を淀みなく読むことができほっと一息。

 練習の甲斐があったと言うものだ。


 この異世界でも学園長先生の話は長くて、少し退屈だった。


 入学式も滞りなく終わり、新入生はこのまま寮に案内されて、荷解きを始めることになるのだけれど……。


 学園長先生から、会わせたい人がいるからついて来てほしいと言われて、アルキュリアとブラッシカとは別行動をとることになってしまった。


 ああ、そう言えばそんなイベントあったわね。


 学園長室へ案内されて少し待つと扉がノックされ、男女二人が入ってくる。


「二人共、入学式はどうだったかな?」


 二人に向かって学園長先生が訪ねる。


「このような大きな式典だとは思わず、度肝を抜かれてしまいました」


 男の人が少し大仰に言う。

 その横で、背の小さい女性がこくこくと何も言わずに頷いている。


「そうかそうか、それは何よりだ。二人には先に合わせておこうと思ってね。この方は、グリフォーラ・フォン・アルボラリス様。この国の王女様であらせられます。二人とは同じクラスになっているはずだから、くれぐれも粗相のないように」


 男性の方は慌てて片膝をつき、頭を下げる。

 小さな女性はぽけーっと私を見ていた。


「おい一夜(ひとよ)! 王女様だ! 頭を下げろっ!」


「……えっ!? ええっ!? あびゃっ!!」


 膝をついていた男性が顔を青くして、必死に女性の服を思い切り引っ張り前のめりに転倒させてしまう。


「落ち着いてくださいな。そんな畏まらなくても大丈夫ですわ」


「いえ、しかし……」


「私達は同じ学び舎の学友ですわ。学園長先生は私を王女として紹介してくださいましたが、一友人として、接していただけませんか?」


「……は! 貴女様がそう仰られるのなら……」


「貴女も、大丈夫かしら? 怪我はありませんか?」


「はっはい! だだだっ大丈夫でしゅ……すっ!」


 ガバっと体を起こし、盛大に噛んでしまったせいか、顔がみるみる真っ赤になり、また俯いてしまった。


「王女様、申し訳ありません。この者は酷く人見知りで。優秀ではあるのですが……」


 男性が申し訳なさそうに頭を下げる。


「人見知りは本人にとってもどうしようもありませんわ。それに、ゆっくり仲良くなればいいだけの事ですわ」


「ああ、お優しい方で良かった。安心してこの学園で学べそうです」


 先程からの緊張がようやく解けたのか、強張っていた表情がふっと柔らかくなり、それはもう晴れやかな笑顔に変わった。


 ごふっ。

 思わず口から血を吐きそうになった。

 眩しい、尊い、苦しい。

 黒髪で少し釣り目のイケメン男子から放たれる笑顔。

 私の残機がいくつあっても足らん。


「グリフォーラ様、この者達はさくら皇国の留学生で……」


「私は白州(はくしゅう) 蘿蔔(すずしろ)と申します。ほら、一夜。王女様に挨拶だ」


「わっわわ、わわわ! わわ……わ……わ……」


 口をパクパクして、少しずつ声が小さくなっていき、顔がどんどん青白くなり、彼女の瞳には涙が溜まっていく。

 軽い呼吸困難を起こしているように見えた。


 私は、彼女の胸元でかきい抱かれている手を上からそっと握る。


「ぴっ!?」


 ビクッと彼女の体が酷く硬直する。


「大丈夫。息をゆっくり吸いましょう? 私の真似をしてゆっくりと……吸って……」


 目を合わせて大げさに深呼吸をして見せる。

 案の定彼女は私に合わせて深呼吸を始めた。


「そう……ゆっくりと吸って……吐いて……」


 すー……はー……。

 それを何度か繰り返しす。


「吸って……吐いて……。吸って……吸って……吸って……まだ吐いちゃだめよーもっと吸ってー。……私はこれ以上は吸えないわね」


 そう言うと、無理やり息を吸ってぷるぷるしていた彼女は、


「ぷふっ! ふっふふふっ」


 おかしそうに笑ってくれた。


「すー……はー……。あ、ありがとうございます王女様。私は響(ひびき) 一夜(ひとよ)で……す」


 一つ深呼吸して、まだまだ緊張はしているけれど、それでも先ほどよりかは落ち着いて挨拶をしてくれた。


 そう、これは新キャラの登場イベント。


 さくら皇国。

 この国から海を渡った少し小さな島国。

 まぁありていに言えば、昔の日本っぽい国。

 この二人はそこからの留学生。


 剣術の高い才能と、聡明さを持つ蘿蔔(すずしろ)。

 学問に秀でているだけじゃなく、魔法の才能も高い一夜。


 すずしろルートを選んだ時に、ライバルとなるのがこの一夜。


 元々留学したくはなかった一夜だが、両親だけでなく国からの要請を断るなんてことは彼女にはできず、泣く泣く留学することに。


 同郷で歳が同じだったすずしろとはすぐに仲良くなるが、留学先の国では友達が出来ず孤立。

 すずしろに依存してしまうことになる。


 すずしろ自身は、真面目で気丈だが、何処か思いつめているグリフォーラと出会い、彼女の悩みと心根の優しさを知り、仲を深めていくことになる。


 自身の居場所を脅かされてしまうと思った一夜は、グリフォーラを敵視してこそこそ嫌がらせを始めて……。


 って言うのが、すずしろルートの大まかなストーリー。


 この一夜ちゃん、元々が臆病で引っ込み思案なせいで、嫌がらせも悉くうまくいかず、シリアス寄りのルートと言うよりかは、ギャグ寄りのルートになっていた。


 小動物みたいで可愛いんよ。

 この子のイラスト、何枚描いたかわかんないや。


「すずしろさんに、一夜さんね。これからどうぞよろしくお願いいたしますわ」


「はい! こちらこそ!」


 一夜さんはこくこくと頷いている。

 まだまだ緊張は解け切っていないみたいだけど、動きは先程よりかは大きくなっている。


 最後は二人と握手を交わして、その場は解散となった。




 校長室から出て学生寮へと向かう。


 向かうはずが……。


「……ここはどこですの」


 ……迷子センターはどこですか。


 学園内のマップは大まかに頭に入っているんだけれど、それは俯瞰視点からのマップ。

 上が北だし、なんなら自身の現在位置だって表示されている。

 だけど実際にその世界に身を置くと、方向とかがさっぱりわからなくなる。


 流石に背景でしか見てこなかった学園を、こうして間近でしかも実体験として見られるんだもん、感動して見ていたら自分がどこにいるかわからなくなってしまったのだ。


 暫く学園内を彷徨っていると……。


「この由緒ある学園にあんたみたいな存在がいるなんて、到底容認できないわ!」


 何処からか女性の怒鳴り声が聞こえて来た。


 何事かと、怒鳴り声のした方へと向かう。


「平民は平民らしく、生まれた所の手習い所へ行っていればいいのにっ!」


「いと尊き血が流れている私達の学び舎に、下賤な血が流れている者がいるなんて、汚らわしい!」


 ……おっと。

 一人の女生徒を、複数の女子生徒が囲んで怒鳴りつけていた。


 そうだ。

 これも入学式当日に起こるイベントの一つだ。


 それはそれとして。

 女性がキイキイ馬鹿デカい声で喚いているのは、非常に不快だ。


 集団に近づいて声をかける。


「皆様、ここで何をなさっているの?」


「――!? 誰よあんた。……何だ一年生か……」


 私の胸元にあるループタイを見て、はっと鼻で笑われてしまった。


 おや、私が誰かご存じない?

 おやおやおやおや。


 私も喚いている女生徒のループタイを見ると、紐の色が緑。

 これは二年生のループタイの色だった。

 ちなみに一年生である私のループタイの色は青。


「あんたがどこの貴族か知らないけれど、平民と机を並べて勉強するって鼻持ちならないでしょう?」


 集団のリーダーっぽい女生徒が私に同意を求めて来た。


「そうよそうよ!」

「身の程をわきまえなさい!」

「汚らわしい血め!」


 等の女生徒はと言うと、口を真一文字に結んだまま俯いて、一言もしゃべらない。


 私は、いじめられている女生徒のすぐ前へと歩み寄る。

 女生徒は私と目を合わせた。


「貴女、本当に平民なの?」


「――っ」


 女生徒の表情が、一気に悲しみに染まる。


「……はい」


「そう」


「……」


 私を見ていた瞳に涙が溜まり、俯いてしまった。


 私は彼女の左肩に右手を添えて、


「確かに、身の程を弁えなくてはいけませんわね」


 そう言い放つ。


 女生徒はびくっと体をこわばらせた。


 いじめていた女生徒たちは、したりと嫌らしい笑みを浮かべて再度声を荒らげる。


「何を勘違いされているのでしょうか?」


「……へ?」


 私は振り返り、取り囲んでいる女生徒たちを睨みつける。


「身の程を弁えるのは、貴女達の方ですわ」


「なっ! 生意気な!」

「何様のつもりよ!?」


「私(わたくし)をグリフォーラ・フォン・アルボラリスと知っての言葉かしら?」


 威圧を込めて言う。


「……え」


 私の名前を聞いた瞬間、女生徒たちの顔色が青色を通り越して白くなった。

 あ。

 一人泡を吹いて倒れた。


「貴女達如きがいと尊き血の一族ですって? 笑わせないでいただけるかしら? 今貴女達の行っている行い事態そのものが、下賤な者のすることではなくって?」


「……」


「それにこの学園は、平民でも優秀であればその門徒を開いていますの。私(わたくし)のお父様がそう決めておられるのです。この意味がお分かりですか?」


 一人、また一人とその場でへたり込んでいく。


「陛下のご決定に異を唱えるのですね? ならば、私(わたくし)手ずから首を刎ねましょう」


 あ、二人目の女生徒が泡を吹いて倒れた。

 あと三人程失禁しちゃってる。


 イラっとしてしまったこともあって、ちょっと言いすぎてしまったかもしらん。


「もっもうしわけっありません! 決してそのようなつもりはっ」


 土下座をして平謝りをするリーダー格の女生徒。


「はぁ、いいでしょう。今回は大目に見て、見なかったことにしてあげます。この事は誰にも言いません」


 流石にこれ以上追い詰めるのはかわいそうだと思ってしまったので、渋々と言った態度を大げさに出して、解放してあげることにした。


「――! ありがとうございます!」


「ただし……」


「二度はありません。この意味はお判りいただけるかしら?」


 最後にもう一回だけ威圧を込めて、釘を刺しておく。


「はっ! わかりました!!!」


 壊れた人形のように、首を縦に命一杯ふる女生徒。


「では、私達はもう行きますから、倒れている人の介抱をちゃんとしてあげてくださいな。それでは行きましょう」


 いじめられていた女生徒の手を取って、その場からそそくさと私は立ち去ったのだった。


「ふう。ここなら落ち着いて話せそうね。驚かせてしまって、ごめんなさいね?」


「いっいえ! そんな畏れ多い……」


 さっきの場所からそれなりに離れて、静かでひっそりとした場所に来てしまったので、連れてきた女生徒の手を離して話をする。


「貴女、お名前は何ていうのかしら?」


「もっ申し遅れました、私はレンティヌラ・ホワイトホースです。お、王女様におかれましては……」


「レンティヌラね? そう畏まらなくていいですわ。あの場ではあんなことを言いましたけれど、私も貴女と同じ、ここの学生ですから。貴女が話しやすいように話してくださって構いませんわ」


「……その、不敬だっていって、処刑したりとか……」


「あっあれはただの脅しですわ! 本当にそんな事なんてできる訳がありませんわ!」


「そうなん……ですか?」


「……できなくは……ありませんわね」


「……」


 顔が引きつって、すすすと後ずさりをして距離を開くレンティヌラさん。


「……冗談ですわ」


 いや、できるんやけど。

 それが許される立場にあるんやけど!


 それをしてしまったら、乙女ゲーから悪役令嬢ものにタイトルが変わってしまうやん!


 乙女ゲーの悪役令嬢に転生してしまった私は、私に歯向かってくる人たちを片っ端から処刑してしまいたいと思います。


 うーん、破滅エンドしか想像できない。


「王女様でもそんなジョークを言うのね……言うんですね」


「言うのね、で構いませんわ。私もそちらの方が気楽ですわ」


「ありがとう、王女さ――」


 王女様と言いかけた彼女の唇に人差し指で触れて、言葉を遮る。


「グリフォーラ。呼び捨てでいいですわ。私もレンティヌラって呼び捨てにさせてもらいますわ」


「ありがとう、……グリフォーラ」


 恐る恐る私の名前を言うレンティヌラ。


 レンティヌラ・ホワイトホース。

 平民出身。

 確か設定では、ご両親が経営している宿屋の名前がホワイトホースって名前だったはず。


 薄い茶色の髪を、左でまとめて流している少し大人っぽく見える女の子。


 ちなみにこの子はライバルキャラではない。


 今どのルートを選んでいるとか、好感度がどうとか教えてくれる、所謂親友ポジションの女の子だ。

 色々なところでグリフォーラを手助けしてくれるありがたい存在。


 一応、どのルートも選ばなかった場合のエンディングとして、友情エンドみたいな形で彼女とのエンディングも用意はされている。


 真面目で誠実、そして物腰の柔らかな女の子だ。


「そう言えば、グリフォーラはどうしてあそこに来たの?」


「……あ、そうですわ。私、女子寮に行きたかったのですが道に迷ってしまいまして。レンティヌラは女子寮がどこにあるかご存知?」


「ええ、知ってるわ。私は三日前からもう入寮しているから」


「それは良かった! じゃあ案内してくださる?」


「もちろん!」


 立って私の前を歩こうとするレンティヌラの手を掴む。


「どうしたの?」


「エスコート、してくださるんでしょう?」


 きゅっと手を握り、微笑んで見せる。


「エ、エスコート!? う、が、頑張って……みる……」


 照れているのだろう、少し声が小さくなっていく。


「はい、よろしくお願いしますね?」


 陽が沈みかけ、青と茜のコントラストが美しい空。


 二人分の伸びた影が楽し気に歩いて行くのだった。

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