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17/33

落選を前提にした挑戦

 2025年の夏、参議院議員選挙が行われた。

 投開票日の夜、4人は三浦のアパートへ集まった。

 折り畳みテーブルには、総菜の唐揚げ、枝豆、菓子、ノンアルコール飲料が並べられている。

「今日は酒なしなのか?」

 上村が尋ねた。

「結果を真面目に分析するんだよ」

 三浦が答える。

「お前が言うと、急に嘘くさいな」

 テレビでは、開票速報が始まっていた。

 午後8時を回った直後から、各党の議席予測が画面に表示される。

 与党である自由共和党と日本市民党は、改選前の議席を大きく減らす見込みだった。

「大敗だな」

 上村が言った。

「政権への不満が、かなり強かったということだろう」

 グリフは画面を見ながら答えた。

 一方、議席を伸ばしたのが、新興保守政党の《政治を変える会》だった。

 既存の政治家や官僚機構への批判を強く打ち出し、動画配信と街頭演説を中心に支持を広げていた。

 国の主権や治安、伝統的な家族観を重視し、外国人の受け入れには非常に慎重だった。

 支持者からは、国を立て直す新しい保守政党と評価される。

 反対する側からは、極右的だと批判されることもあった。

「ここ、国民投票を増やすと言ってなかったか?」

 三浦が尋ねた。

「言っている」

 グリフはスマートフォンで党の政策を確認した。

「国民からの発議や、国会の決定に対する拒否権を、憲法上どこまで認められるか検討する、と書いてある」

「俺たちと近いじゃないか」

「直接民主制の部分だけを見ればな」

 リベラル・左派系の新興政党である《生活者の党》も、わずかながら議席を増やしていた。

 こちらは格差是正、社会保障の拡充、環境政策などを重視している。

 最終的な立法権は国会に残しつつ、重要政策について諮問的な国民投票を実施するという政策を掲げていた。

「こっちも国民投票に賛成だ」

 三浦が言った。

「右と左の両方にあるんだな」

「共通しているのは、国会での議席が少ないことだ」

 グリフは答えた。

「どういうこと?」

「議席が少ない党は、自分たちの法案を国会だけで通すのが難しい」

 久保がテレビから目を離さずに続けた。

「だから、国民へ直接訴え、国会の多数派を迂回できる制度に魅力を感じる」

「少数政党に有利なのか」

「少なくとも、与党よりは積極的になりやすい」

 グリフはうなずいた。

「逆に、多数を持つ側は、今の議会制度で政策を実現できる。わざわざ国民投票を増やし、自分たちの決定を覆される可能性を作りたくない」

「直接民主制に賛成するかどうかも、理念だけじゃなくて立場で変わるんだな」

 上村が言った。

「政治では、よくあることだ」


 *


「だったら、この2つの党へ話を持っていくのはどうだ?」

 三浦が尋ねた。

「政治を変える会か、生活者の党」

「政治を変える会は駄目だ」

 グリフは即座に答えた。

 三浦が驚いた顔をする。

「政策の一部は近いんだろ?」

「外国人政策が合わない」

「受け入れに慎重というだけじゃないのか?」

「慎重に考えること自体が悪いとは言っていない」

 グリフの声が少し強くなった。

「受け入れる人数、必要な日本語教育、雇用条件、地域への負担。そこは議論するべきだ」

 グリフは、これまで倉沢で外国人留学生や技能実習生の受け入れに関わってきた。

 生活習慣の違いから問題が起きることも知っている。

 地域住民が不安を感じるのも理解していた。

 しかし、《政治を変える会》の一部の発信には、外国人を治安悪化や社会の混乱の原因として一括りにする傾向があった。

「俺は、外国人を無条件で増やせと言っているわけじゃない」

 グリフは続けた。

「でも、最初から危険な存在として扱う考え方には乗れない」

 三浦は黙って聞いていた。

「俺の父は外国出身だ。妻もそうだ。それだけで言っているんじゃない。倉沢で、真面目に働いて暮らしてきた外国人を何人も見てきた」

 グリフは三浦をまっすぐ見た。

「お前が政治を変える会へ接触するなら、俺はこの企画から降りる」

 部屋が静かになった。

 グリフがここまで明確に条件を示したのは初めてだった。

 三浦は少し考えたあと、うなずいた。

「分かった。そこまでするつもりはない」

「いいのか?」

「直接民主制だけが同じでも、ほかが合わないなら仕方ない」


 *


「生活者の党は?」

 上村が尋ねる。

 グリフは少し考えた。

「政策として合う部分は、政治を変える会より多いと思う」

「じゃあ、こっちか」

「ただ、党首の個性が強すぎる」

 生活者の党は、創設者である党首の知名度と発信力によって支持を広げていた。

 演説も動画も、ほとんどが党首を中心に組み立てられている。

 候補者や議員も、党首の考え方を代わりに説明する人物として見られがちだった。

「三浦が入ったら、たぶんぶつかる」

 グリフが言った。

「会ったこともないのに分かるのか?」

「党首の性格がどうかは分からない。ネットやテレビの印象だけだ」

「じゃあ、決めつけじゃないか」

「それは認める。でも、お前は自分が中心にいたいんだろ」

 三浦は答えなかった。

「党首の個性で引っ張る政党へ入れば、お前は党首を輝かせる側になる」

「俺が自分で目立とうとしたら?」

「内部で面倒な存在になる」

 上村が笑った。

「1か月で、“俺の話も聞いてください”って言い始めるな」

「1か月は我慢するよ」

「我慢する前提なんだな」

 三浦も、生活者の党の集会で、党首の後ろに立って拍手をする自分を想像した。

「やめておくか」

「話を聞くだけなら、将来はあり得る」

 グリフは言った。

「ただ、今すぐ入党を頼む相手ではないと思う」

 三浦は素直に同意した。


 *


 しばらく選挙速報を見ていた久保が、不意に言った。

「東京の小選挙区で、無所属だな」

 3人が一斉に久保を見た。

「急ですね」

 グリフが言う。

「政党が駄目なら、無所属しかない」

「岩手ではなく、東京ですか?」

「岩手で出れば、地元の人間関係に縛られる。町議や県議を飛び越えて国政へ出る理由も説明しづらい」

「東京なら説明しやすい?」

「元芸人が、政治の中心へ挑戦する。地方で出るより物語を作りやすい」

 久保は三浦へ尋ねた。

「東京では、どこに住んでいた?」

「高円寺です」

「長かったのか?」

「大学を辞めてからも、ずっとあの辺です。引っ越しはしましたけど、だいたい高円寺か中野の近くでした」

 グリフはスマートフォンで選挙区を調べた。

「住所によって、東京8区か27区になるようです」

「今の候補者は?」

 久保に言われ、グリフが前回選挙の結果を確認する。

 いくつかの名前を読み上げると、三浦も知っている国会議員がいた。

「その人、テレビに出てるぞ」

「強敵だな」

 上村が言う。

「どこで出ても、楽な選挙区などない」

 久保は画面をのぞき込んだ。

「投票率は6割前後か」

「有権者が30万人なら、投票するのが18万人くらいですか」

 三浦が計算する。

「当選するには?」

「相手の数にもよるが、何万票も必要になる」

「急に遠くなったな」

「最初から1回で当選しようと思うな」

 久保が言った。

 三浦が顔を上げる。

「落選する前提ですか?」

「当たり前だ」

「もう少し夢を見せてくださいよ」

「勝つ気では戦え。だが、計画は負けても続けられるように作れ」

 久保は指を1本立てた。

「最初は、有効投票の1割を目標にする」

「1割?」

「衆議院の小選挙区では、供託金が戻る目安になる」

 三浦の表情が曇った。

「供託金は、300万円でしたよね」

「そうだ」

「それだけで、俺の貯金がほぼ消えます」

「選挙は供託金だけではできない」

 久保は淡々と続けた。

「ポスター、ビラ、選挙事務所、車、通信費、交通費、人が東京へ行く費用。公費で負担されるものもあるが、対象外の費用もあるし、いったん立て替える金も必要になる」

「全部で、どのくらいですか」

「やり方次第だが、最低でも1,000万円程度は考えておけ」

 三浦の口が半開きになった。

「1,000万円……」

「政党の支援なしで、本格的に戦うなら、それでも多いとは言えん」

「俺、300万円くらいしか貯金がありません」

 三浦はそう言うと、グリフと上村を順番に見た。

 グリフは視線をテーブルへ落とした。

 上村も、唐揚げの残った皿を見つめる。

 2人とも、いつか金の話になることは分かっていた。

 だが、実際に三浦から見られると、すぐには答えられなかった。

 久保が言った。

「1割を取って供託金が戻り、公費負担をきちんと使えれば、最終的な自己負担を400万円前後まで抑えられる可能性はある」

「可能性ですか」

「選挙は予定どおりにはいかん」

 久保はグリフと上村を見る。

「2人で100万円くらい、支援できるか?」

 100万円を2人で分ければ、1人50万円。

 出せない額ではない。

 だが、簡単に出してよい額でもなかった。

 グリフにはローサと、まだ幼い海翔がいる。

 店舗の経営も順調とはいえ、飲食業では何が起こるか分からない。設備が壊れれば、数十万円はすぐに飛ぶ。

 家族で使っている車も、数年以内に買い替えが必要になるかもしれない。

 上村にも家庭がある。

 友人の夢に50万円を出すと妻へ話して、納得してもらえるだろうか。

 そもそも、三浦とは高校時代からの友人ではあるが、そこまでする義理があるのか。

 金を出して落選したあと、自分たちは三浦を責めずにいられるのか。

 2人とも、似たようなことを考えていた。

 沈黙は、ほんの数秒だった。

 しかし三浦には、それ以上に長く感じられたらしい。

「いや」

 三浦が先に口を開いた。

「100万円なら、実家から借ります」

「親は貸してくれるのか?」

 上村が尋ねる。

「兄貴とも相談が必要ですけど。農地や家を担保にしろなんて話じゃないなら、何とか頼みます」

「無理に借りる必要は――」

 グリフが言いかける。

「2人に出してもらうよりはいい」

 三浦は笑った。

「今、2人とも、すごい顔をしてたから」

「悪い」

 上村が素直に謝った。

「謝ることじゃないよ。俺だって逆の立場なら迷う」

 その言葉に、三浦の成長を感じたのはグリフだけではなかった。

「今すぐ金は約束できない」

 グリフは言った。

「でも、東京での拠点なら、何とかなるかもしれない」

「拠点?」

「母のマンションが東京にある」

 3人がグリフを見る。

「そんなものがあるのか」

 久保が尋ねた。

「母は60歳を過ぎるまで、外資系企業で役員をしていました。東京を拠点にして、海外出張も多かったんです」

 母の涼子は、長い間、東京で働いていた。

 父のディオは故郷のルンザット島におり、夫婦は長く日本とインドネシアを行き来する生活を続けていた。

 8年ほど前、涼子は会社を退職した。

 それからは東京とルンザットを往復していたが、ここしばらくはディオとともにルンザットで暮らしている。

 将来、日本へ戻る可能性もあるため、東京のマンションは売却していなかった。

「今は空いているのか?」

「はい。ときどき管理のために使う程度です」

「三浦が住める?」

「母に頼めば、選挙の準備期間だけ貸してもらえると思います」

 三浦が身を乗り出す。

「高円寺に近いですか?」

「そこまで近くはないけど、都内だよ。選挙区へ通うには問題ない」

 久保が言った。

「宿泊場所があるだけでも、かなり違う」

「ただし、選挙事務所として使えるかは別です」

 グリフは付け加えた。

「マンションの管理規約もありますし、母の許可も必要です。人が頻繁に出入りするなら、近所にも迷惑をかける」

「事務所は別に小さい場所を借りればいい」

 久保が答えた。

「マンションは、三浦や手伝いに来た人間の宿泊場所として使う。それだけでも東京の滞在費をかなり減らせる」

「お願いします、グリフ」

「まだ母に聞いてない」

「お願いします、お母様に」

「急に丁寧になるな」

 久保は満足そうにうなずいた。


 *


「政治団体を作るなら、会計責任者が必要になる。選挙になれば、選挙運動費用を管理する出納責任者も必要だ」

 三浦は聞き慣れない言葉に顔をしかめた。

「お金を見る人ですよね」

「おおむねそうだ。ただし、1円でも合わなければ問題になると思え」

「久保さん、できますか?」

「私がやろう」

 三浦が驚く。

「本当にいいんですか?」

「その代わり、東京でお笑いの劇場へ案内しろ」

「そんなことでいいんですか」

「テレビに出ていないが、面白い芸人を生で見たい」

「あ、それなら任せてください。劇場を案内するだけじゃなく、知っている芸人なら本人を紹介できます」

「本当か?」

 久保の目が輝いた。

「売れていないやつほど、昔の仲間が多いです」

「失礼な言い方をするな」

「本人たちも同じこと言ってますよ」

「よし。私は会計をやる」

 久保には、金銭ではない報酬が成立したらしい。

 上村は、しばらく考えたあとで言った。

「俺は、昔の仲間に声をかけてみる」

「高校時代の?」

「ああ。東京へ出ているやつも多い。毎日は無理でも、土日にビラを配るくらいなら手伝うやつがいるかもしれない」

 上村は若い頃、地元のやんちゃなグループで中心的な立場にいた。

 その頃の仲間たちは、今では会社員、職人、自営業者など、さまざまな仕事に就いている。

 長く会っていない者もいるが、当時のつながりは意外なほど残っていた。

「ただし、昔の仲間を集めて威圧的に見えたら逆効果だぞ」

 グリフが言う。

「分かってる。もう全員、いい年したおっさんだよ」

「見た目が怖いやつは?」

「何人かいる」

「最初から外せ」

「人を見た目で差別するな」

「選挙では、第一印象が大事なんだろ」

 三浦が口を挟んだ。

「それをお前が言うのか」

 4人は笑った。

 先ほどまで、300万円、1,000万円という金額を前に重くなっていた空気が、少しだけ和らいだ。


 *


「次の衆議院選挙は、いつになりそうですか?」

 グリフが久保に尋ねた。

 久保は腕を組んだ。

「衆議院は解散がある。正確な時期など、誰にも分からん」

「早ければ?」

「いつあっても不思議はない」

 三浦の顔がこわばる。

「来月とか?」

「制度上はあり得るという話だ。現実には、前回の選挙からあまり間がない。政権も参院選で負けた直後だ。常識的には、2年から3年先が本線だろう」

「2年」

 三浦がつぶやく。

「時間はあるな」

「ない」

 久保は即座に否定した。

「無名の人間が、東京の小選挙区で1割を取ろうとしているんだぞ。2年など、あっという間だ」

「何から始めます?」

「まず政治団体を作る」

 グリフが答えた。

「後援会のような形ですか」

「そうだな。名前、代表者、会計責任者、事務所の所在地を決めて、届け出る」

 三浦が身を乗り出す。

「新党じゃないんですか?」

「政治団体と政党は違う」

「また違うのか」

「今の規模で政党を名乗っても、国会に議席がある政党と同じ扱いにはならない」

「名前は何でもいい?」

「基本的には考えられるが、既存の団体と混同する名前は避けたほうがいい」

「新型民主制党」

「党にするな」

 グリフがすぐ止めた。

「まだ候補者1人だろ」

「1人でも党は党だ」

「また自分が党首になるつもりか」

「代表と呼んでくれ」

 久保が言った。

「団体の名前はあとで決めればいい。それより、今からやることは選挙運動ではなく政治活動だと理解しておけ」

 三浦が首をかしげる。

「違うんですか?」

「選挙が正式に始まる前から、“次の選挙で私に投票してください”と頼んで回れば、事前運動と見られる可能性がある」

「じゃあ、何をするんです?」

「新型民主制を広める。勉強会を開く。街の困りごとを聞く。動画を出す。政治団体の会員や寄付を集める」

「でも、国会議員を目指してることは言っていいんですよね」

「政治的な目標を語ることまで禁止されているわけではない。ただし、具体的な選挙で投票を求める言い方は避けろ」

 三浦は難しい顔をした。

「久保さん、ずっと隣にいてください」

「自分でも勉強しろ」


 *


 久保はグリフへ向き直った。

「それからグリフ」

「はい」

「看板政策を、もう少し具体的にしろ」

「新型民主制ですか」

「今のままでは、国民が政治へ参加するという方向しか決まっていない」

「制度の詳細は、これから詰めます」

「詳細の前に、段階を作れ」

「段階?」

「政権を取ったら、いきなり国民発議と拒否権を導入しますと言っても、誰も信用しない」

 久保は指を折った。

「第1段階で何をするのか。次に何をするのか。最終的にどこを目指すのか」

「例えば、最初は国レベルの市民会議から始める」

 グリフが言う。

「そうだ。最初は勧告だけでもいい。その結果を国会で必ず審議させる」

「次に、重要政策について諮問的な国民投票を試す」

「その次に、一定数の署名による国民発議や、法律に対する拒否権を検討する」

 三浦が2人の会話へ入った。

「いきなり全部じゃなくて、少しずつ国民の権利を増やしていく?」

「そういうことだ」

 久保がうなずいた。

「制度を変える側にも、国民の側にも練習が必要だ」

「直接民主制の練習か」

「グリフが言っていた、決めたあとに確かめる仕組みも入れろ。最初の段階がうまくいかなければ、修正してから次へ進む」

 三浦は笑った。

「間違ったら、みんなで直す」

「それを政策そのものにも使う」

 グリフはノートを取り出した。

「分かりました。第1段階から最終段階まで、俺なりに整理します」

「三浦にも分かる言葉で書けよ」

 久保が言った。

「それは、三浦に直してもらいます」

「俺がやるのか?」

「お前の役割だろ」

 三浦は少し考えたあと、うなずいた。

「分かった。グリフが難しく作って、俺が普通にする」

「俺が難しくしているみたいに言うな」

「実際そうだろ」

 上村が笑った。

「俺は、それを昔の仲間に読ませる。意味が分からないと言われたら、やり直しだ」

「俺の役割だけ、雑じゃないか?」

「一番大事だぞ」

 久保が答えた。

「政治に詳しくない人間に伝わらなければ、選挙では役に立たん」

 テレビでは、当選を決めた候補者が支持者と万歳をしていた。

 与党は議席を減らし、新興政党が伸びた。

 政治の流れが変わり始めているようにも見えた。


 *


 三浦は、テーブルの上に置かれたノートを見た。

 東京の小選挙区。

 無所属。

 政治団体。

 目標は、まず1割。

 必要資金は、およそ1,000万円。

 昨日まで、国会議員になるという目標は、輪郭のない夢だった。

 今は、あまりに高い壁が、具体的な数字とともに見えている。

 普通なら、現実を知ったことで諦めるのかもしれない。

 だが三浦は、数字が見えたことで、かえって気持ちが高揚していた。

「何か、選挙に出る感じになってきたな」

 三浦が言った。

「まだ政治団体もない」

 グリフが答える。

「金も足りない」

 上村が続ける。

「選挙区も決まっていない」

 久保が加える。

 三浦は3人を見回した。

「でも、昨日よりは近づいた」

 誰も否定しなかった。

 グリフも、自分の胸の奥が熱くなっていくのを感じていた。

 無謀であることに変わりはない。

 失敗する可能性のほうが、はるかに高い。

 それでも、政策を考え、資金を計算し、人を集める話をしているうちに、頭の中だけにあったものが、少しずつ現実へ近づいている。

 グリフはノートの新しいページを開いた。

 上部に大きく書く。

 ――新型民主制 段階的導入案。

 三浦が横からのぞき込んだ。

「その下に、“国会への道”も書いてくれ」

「それは別のノートにしろ」

「同じだろ。政策を実現するために国会へ行くんだから」

「最初は有名になるためだっただろ」

「人は成長するんだよ」

「まだ信用してないからな」

「でも、少しは信用してるだろ?」

 グリフは答えなかった。

 代わりに、第1段階と書き、その横へ線を引いた。

 4人の前で、テレビの開票速報は続いていた。

 その小さな部屋では、落選を前提にした、無謀な国政挑戦の準備が、静かに始まろうとしていた。


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