新党という夢
三浦は、ノートに書いた3つの制度を見比べた。
「アイルランドとスイスは、かなり違うな」
「そうだな」
グリフが答える。
「アイルランドは、普通の市民が少人数で集まり、難しい問題を時間をかけて考える」
「スイスは、国民全体が提案したり、止めたり、投票したりする」
「そうだ」
「アイルランドは、考える仕組み。スイスは、決める仕組みか」
グリフは少し考えた。
「かなり単純化しているが、違いをつかむには悪くない」
「倉沢は?」
「アイルランドのような町民会議と、住民投票を組み合わせている」
三浦は模造紙を見上げた。
「じゃあ、倉沢モデルを国でやるなら、スイスとアイルランドを合わせる感じか?」
「すぐ結論を出すな」
「でも、そうだろ?」
「制度として考えるなら、国民が提案する仕組み、議会の決定を国民が止める仕組み、投票する前に普通の市民が情報を聞いて話し合う仕組み。それぞれ別に検討しなければならない」
「全部入れたら、また複雑になるな」
上村が言った。
「倉沢より大変だぞ」
「だから、最初から全部は無理だ」
グリフは答えた。
「日本で導入するとしたら、何から始めるのかを考える必要がある」
「俺は、国民の拒否権がいいと思う」
三浦が言った。
「理由は?」
「分かりやすいから」
「それだけか」
「それに、政治家から全部取り上げるわけじゃない。普段は国会で決めてもらう。でも、国民が本当に納得できなければ止められる」
三浦は自分で確かめるように、ゆっくりと言った。
「政治家を信じるか、信じないかの2択じゃない。任せるけど、最後の鍵は国民が持っている」
グリフは黙った。
スイスの制度を説明するとき、自分なら「任意的レファレンダム」という言葉から入り、署名数や対象となる法律、手続きについて話す。
三浦は、それを「最後の鍵」と表現した。
正確さでは足りない。
しかし、人の頭には残る。
「今のは使えるな」
上村が言った。
「だろ?」
三浦は得意そうに笑った。
「ただし、鍵を持っているだけでは駄目だ」
グリフが言う。
「開けるべきか閉めるべきか、判断するための情報が必要になる」
「そこで市民会議か」
「市民会議だけとは限らない。公平な資料、公開討論、報道、学校教育も必要だ」
「結局、また増えるな」
「国の制度だからな」
三浦はしばらくノートを眺めていた。
やがて、新しいページを開いた。
上に大きく、
――スイスの直接民主制
と書く。
その下へ、3つの短い文章を並べた。
国民から、政治へ提案できる。
政治家が決めたことに、国民が待ったをかけられる。
国の大事なことは、最後に国民が決める。
さらに余白へ、小さく書き足した。
――ただし、よく考えてから。
「どうだ?」
三浦がノートを2人へ見せた。
「最後の一行は、アイルランドだな」
上村が言った。
「倉沢でもある」
三浦は答えた。
グリフは、しばらくその四行を見つめた。
「入口としては、いいと思う」
「また入口か」
「制度は、その先が長いんだよ」
三浦はノートを閉じた。
「でも、入口がなかったら、誰も入ってこないだろ」
グリフは答えなかった。
否定する言葉が見つからなかったからだった。
三浦はまだ、制度の細部を理解していない。
署名の確認方法も、投票運動の公平性も、少数者の権利をどう守るかも知らない。
それでも、政治から遠い人間が、どこで分からなくなり、どんな言葉なら耳を傾けるのかを知っている。
それは、グリフにはない能力だった。
「次回までの宿題だ」
グリフが言った。
「また3分で説明するのか?」
「今度は、スイスの3つの制度を、身近な例を使って説明してみろ」
「身近な例?」
「会社でも学校でも町内会でもいい。ただし、制度の意味を変えるな」
「分かった」
「それから、スイスのよいところだけじゃなく、問題点も一つ考えてこい」
「問題点なら、もういっぱい聞いたぞ」
「聞いたものを繰り返すんじゃなくて、自分で考えろ」
三浦は面倒そうな顔をした。
「政治家って、自分で考えなきゃ駄目なのか?」
「今さら何を言ってるんだ」
上村が笑った。
三浦はノートの端に宿題を書き込んだ。
その下に、今日もっとも気に入った言葉を、四角で囲んだ。
――国民の拒否権。
そして、その横へ小さく付け加えた。
――政治家に任せる。でも、任せきりにはしない。
グリフは、その文字に気づいた。
何も言わなかったが、帰り支度をしながら、もう一度だけその一文へ目を向けた。
***
三浦は、グリフから出された宿題に取りかかった。
――スイスの3つの制度を、身近な例を使って説明してみろ。
前回と同じように机の前へ座り、ノートを開いた。
最初のページには、3つの制度について、グリフの説明を自分なりに短くした文章が並んでいる。
1、国民発議。国民から政治へ提案できる。
2、任意的レファレンダム。政治家が決めたことに、国民が待ったをかけられる。
3、義務的レファレンダム。国の大事なことは、最後に国民が決める。
「身近な例か」
三浦はボールペンを握ったまま考えた。
会社では、自分のような人間には身近ではない。正社員として長く勤めた経験がなかった。
学校も、卒業してからずいぶんたつ。
町内会ならどうかと思ったが、三浦は東京にいた頃、町内会へ入っていなかった。倉沢へ移ってからも、回覧板が来れば次へ回す程度である。
しばらく考えた末、三浦はアパートの住民を例にすることにした。
自分が今住んでいるアパートに、住民会があると仮定する。
実際のアパートには、そのようなものはなかった。大家が決めたことに従い、何か問題があれば管理会社へ電話するだけである。
だが、説明の例としては分かりやすそうだった。
三浦は、ノートに書き始めた。
――アパートの住民会。
まず、国民発議。
住民の1人が、
「屋上を洗濯物を干せる場所として開放してほしい」
と考える。
その人が1人で大家へ頼んでも、断られるかもしれない。しかし、住民の一定数から署名を集めれば、住民全員で話し合い、投票するところまで持っていける。
「これが国民発議」
三浦は声に出した。
ただし、スイスの国民発議は、国レベルでは憲法を変える提案だったはずである。
屋上を使うかどうかでは、少し軽すぎる。
そこで、アパートの基本規則を変える話にした。
――このアパートでは、ペットを飼ってはいけない。だが、一定数の住民が、ペットを飼えるよう基本規則を変えてほしいと求めた。必要な署名が集まれば、住民全員の投票にかけられる。
「うん。こっちのほうが、それらしいな」
次に、任意的レファレンダム。
アパートの住民会役員が、来月から駐車場の料金を2倍にすると決めた。
住民が納得すれば、そのまま実施される。
だが、一定数の住民が、
「ちょっと待て。全員に聞いてくれ」
と署名を集めれば、値上げするかどうかを住民全員の投票で決める。
「政治家が決めたことに、住民が待ったをかける」
三浦は丸をつけた。
最後に、義務的レファレンダム。
アパートの建物を取り壊し、別の場所へ全員で移る。
あるいは、住民会そのものの基本規則を大きく変える。
そのような重要な問題は、反対署名が集まらなくても、最初から住民全員に聞かなければならない。
「国の憲法を変えるくらい大きな話なら、政治家だけでは決められない」
三浦は3つの説明を読み返した。
少し違うところもあるかもしれない。
グリフなら、
――アパートの規則と憲法を同じにするな。
と言いそうだった。
だが、仕組みの違いは伝わる。
「一応、宿題にはなってるだろ」
三浦は満足して、3つの例を別のページへ清書した。
*
もう一つの宿題は、スイスのよいところだけでなく、問題点を一つ考えることだった。
こちらは、身近な例よりも難しかった。
グリフからは、すでにいくつかの問題を聞いている。
投票が多いため、一つ一つの投票率は必ずしも高くない。
国民が感情的な宣伝に流されることがある。
多数決によって、少数者の権利が傷つけられる可能性がある。
だが、グリフは、聞いたものをそのまま繰り返すのではなく、自分で考えろと言った。
三浦は、自分がスイスに住んでいるところを想像した。
年に何度も、投票用紙と分厚い説明書が届く。
税金、年金、農業、移民、軍隊、道路、環境、医療。
そのすべてを調べ、賛成か反対かを判断しなければならない。
「面倒だな」
三浦は素直に思った。
最初のうちは張り切って読むかもしれない。
しかし、1年に何度も届けば、そのうち封筒を開けなくなる可能性がある。
難しい問題なら、詳しい人が言っていることを信じるしかない。
自分が支持している政党。
テレビでよく見る評論家。
いつも読んでいる新聞。
あるいは、SNSで人気のある人。
「結局、誰かの言うとおりに投票するんじゃないか?」
三浦はノートへ書いた。
――投票する機会が多くても、自分で考える人が増えるとは限らない。
さらに考えた。
政治に関心の薄い人は投票へ行かない。
一方で、強い利害を持つ人や、熱心な活動家は必ず投票する。
例えば、アパートの駐車料金をめぐる投票なら、車を持っている住民は真剣になる。車を持っていない住民は、どうでもよいと思って投票しないかもしれない。
その結果、関心の強い一部の人の意見が通りやすくなる。
「普通の人より、声の大きいやつが強くなるかもしれない」
三浦は書いた。
自分で書いてから、少し笑った。
「俺みたいなやつか」
三浦は、人前で話すのが得意だった。
選挙運動のように、多くの人を巻き込むことにも抵抗がない。
自分の考えに賛成する人を集め、署名を集め、舞台の上で話す。
直接民主制になれば、三浦のような人間が力を持つ可能性がある。
それ自体は、自分にとって悪くない。
だが、話すのが得意な人間の意見が、正しいとは限らない。
芸人時代にも、勢いと話術だけで、詳しくないことを知っているように話す人はいた。三浦自身も、番組で求められれば、ほとんど知らない話題について意見を言ったことがある。
自信たっぷりに話せば、視聴者には詳しく見える。
「俺だってバカじゃない」
三浦は右手を頭へ載せかけたが、1人なのでやめた。
ノートの下へ、問題点としてまとめた。
――国民が直接決めても、声の大きい人や、強い組織に引っ張られるかもしれない。
少し考え、さらに一文を加えた。
――だから、投票する前に、賛成と反対の話を同じように聞ける仕組みが必要。
「結局、アイルランド方式が出てくるのか」
スイスの直接民主制に、アイルランドの市民会議を組み合わせる。
グリフが倉沢で行ったのも、それに近い。
グリフの説明を聞いた直後には、制度を複雑にしているだけだと思った。
しかし、自分で問題点を考えると、仕組みが増えた理由が少し分かる。
投票だけでは、声の大きい人間が勝つかもしれない。
話し合いだけでは、結論が出ない。
政治家だけに任せれば、国民の考えと離れることがある。
国民だけで決めれば、専門的な問題や少数者の権利を見落とすことがある。
「どれも単独じゃ駄目なのか」
三浦は呟いた。
それなら、いくつかを組み合わせるしかない。
だが、組み合わせれば組み合わせるほど、また制度が複雑になる。
「やっぱり政治は面倒だな」
*
三浦は勉強を続けていた。
自分でも意外なほど、毎回の宿題をこなしている。
それでも、いつまでも制度の勉強だけを続けることには、少しずつ不満を感じ始めていた。
直接民主制が何かは、以前より分かるようになった。
アイルランドとスイスの違いも、大まかには説明できる。
倉沢モデルを短い言葉に置き換えることもできた。
だが、肝心の「どうすれば政治家になれるのか」については、何も進んでいない。
グリフは、その話を避けているようにも見えた。
まず勉強しろ。
制度を理解しろ。
自分の言葉で説明できるようにしろ。
言っていることは正しい。
それでも、わずかな可能性でよいから、先に夢を示してほしかった。
どこかの政党が面白がってくれるかもしれない。
次の国政選挙に間に合う可能性がある。
何年か活動を続ければ、公認候補になれるかもしれない。
そのような話が一つでもあれば、勉強する気持ちも強くなる。
「いつまで勉強すればいいんだよ」
三浦は、誰もいない部屋で言った。
政治家になる道として、最初に思いつくのは、どこかの政党へ入ることだった。
政党の公認候補になれば、選挙のやり方を教えてもらえる。ポスターや演説会の準備も手伝ってもらえるだろう。何より、政党の名前を使える。
無名に近い三浦にとっては、大きな助けになる。
それでも、政党へ入ることには抵抗があった。
政党に入れば、上の人間がいる。
新人議員は、党の重鎮や幹部に頭を下げる。自分の考えとは違っていても、党が決めた方針に従って投票する。
ニュースで国会議員たちを見ているだけの三浦にも、その程度のことは分かった。
三浦は、基本的には自由人だった。
もちろん、組織で働けないわけではない。
牛丼店では、店長の指示を素直に聞いた。
「三浦さん、先に店内の清掃をお願いします」
「はい」
「具材の補充、もう少し早めにしてください」
「すみません」
年下の店長にも、きちんと頭を下げることができた。
芸人時代のアルバイト先でも同じだった。
上司の言うことを聞き、決められた時間に出勤し、客に謝る。
それができたのは、アルバイトが自分の本業ではなかったからだ。
牛丼を盛っている自分は、仮の姿。
本当の自分は芸人であり、いつかテレビへ戻る人間である。
そう思うことで、年下の店長に注意されても耐えられた。
心の中では、
――今はお前の言うことを聞いているが、本当の俺はこんなところで終わる人間じゃない。
と思っていた。
意地の悪い見方をすれば、夢を持っている自分のほうが、夢もなく働いている相手より上だと思い込もうとしていたのかもしれない。
実際には、相手にも家族や目標があり、三浦の知らない生活がある。
それでも三浦には、そう考えなければ、自分を保てない時期があった。
もし、夢まで失えば、自分の存在価値そのものがなくなるような気がした。
だから、本業にする政治の世界でまで、人の言うことだけを聞いて動くのは嫌だった。
*
できれば、新しい政党を作りたい。
自分が党首になる。
グリフが政策を作り、上村が地元の人間をまとめる。
三浦が記者会見の中央に立つ。
右側にグリフ、左側に上村。
カメラのフラッシュが光る中、三浦が新党の結成を宣言する。
「本日、私たちは、国民の声に出口をつくるため、新しい政党を立ち上げます」
言い終えると、記者たちが一斉に手を挙げる。
グリフが三浦へ少し頭を下げ、耳元で何か助言する。
「代表、次は政策の説明を」
三浦はうなずく。
「分かりました」
もちろん、グリフに対して偉そうな態度を取るつもりはなかった。
上村にも、命令口調では話さない。
「これをやれ」
ではなく、
「これをお願いできますか」
と丁寧に頼む。
新しく仲間に入った弁護士や医師、大学教授たちにも謙虚に接する。
偉そうにするのも、偉そうにされるのも、三浦は嫌いだった。
ただし、立場は自分が上である。
最後に決めるのは党首の三浦。
頭のよい人たちが、三浦の判断を待っている。
それが理想だった。
「我ながら、性格悪いな」
三浦は苦笑した。
謙虚な態度を取りながら、序列では上にいたい。
自分でも矛盾していると思う。
だが、世の中の社長や政治家も、大なり小なり似たようなことを考えているのではないか。
*
三浦はスマートフォンを手に取り、現在の政党について調べ始めた。
与党で最も大きいのは、保守政党の《自由共和党》だった。
長く政権を担ってきた政党であり、地方組織も強い。国会議員だけでなく、都道府県議や市町村議、業界団体とのつながりも多い。
政治家になるための道筋だけを考えるなら、最も現実的な政党に見えた。
ただし、長く続いた組織だけに、上下関係も厳しそうだった。
新人が、いきなり党の方針と違う直接民主制を訴えても、相手にされないかもしれない。
自由共和党と連立を組んでいるのが、《日本市民党》である。
名前には「市民」と入っているが、政策全体としては穏健な保守政党という印象だった。
福祉や生活支援を重視し、ときどき自由共和党とは違う意見を述べる。
しかし、最終的には連立政権の中で妥協しているように見えた。
「直接民主制は、名前だけならここに合いそうだけどな」
三浦は思った。
市民という言葉は使いやすい。
ただ、長年政権に参加している政党が、国民に政治家を止める権利を与える制度へ賛成するだろうか。
野党で最も大きいのが、《社会公正党》だった。
自由、平等、人権、多様性。
党のウェブサイトには、正しい言葉が並んでいる。
グリフなら、政策ごとに見れば共感するものも多いかもしれない。
だが、三浦にはなぜか親近感が湧かなかった。
党の議員たちが話しているのを見ると、いつも自分たちだけが正しく、相手が間違っていると叱っているように感じる。
三浦自身の偏見かもしれない。
それでも、自分が入れば、言葉遣いから注意されそうだった。
社会公正党より、さらに左寄りと見られているのが《共生労働党》である。
労働者の権利や格差の是正、平和政策を強く訴えていた。
これも、書いてあることの一部は正しいと思う。
だが、政党の集会に参加している自分を想像できなかった。
壇上で拳を上げ、参加者全員で同じ掛け声を上げる。
「いや、俺はああいうの苦手だな」
芸人として客と一緒に声を出すのは平気だった。
だが、政治的な言葉を全員で唱えるとなると、急に息苦しく感じる。
この四党が、昔から国会に議席を持つ主要政党だった。
それとは別に、新興政党もあった。
物価高や社会保障など、日々の暮らしを前面に出す《生活者の党》。
既存政治の打破と行政改革を掲げる《政治を変える会》。
そのほかにも、特定の政策や地域を基盤にした小さな政党がいくつかある。
三浦は各党のウェブサイトを順番に見たが、どこも似たようなことを書いているように思えた。
国民の声を聞く。
生活を守る。
古い政治を変える。
未来に責任を持つ。
「みんな、国民の声は聞いてるんだな」
三浦は皮肉を口にした。
「聞いたあと、どうしてるかは書いてないけど」
直接民主制を受け入れそうなのは、《政治を変える会》かもしれない。
名前からして、既存の政治制度を変えようとしている。
だが、調べてみると、党の中心にいる有名な代表の発言力が非常に強かった。
「ここに入ったら、あの人の下だよな」
それも気に入らなかった。
*
政策を実現することだけを考えれば、《自由共和党》がよいのかもしれない。
国会で多数を持ち、官僚との関係も深い。
グリフは、元町長で現在の岩手県知事である村田と親しい。
村田知事から、自由共和党の国会議員を紹介してもらえないだろうか。
「グリフ、コネあるのかな」
三浦はノートの隅へ書いた。
――村田知事から政党へ紹介?
書いたあと、すぐに線を引いた。
「甘すぎるな」
元町議と知事が知り合いだからといって、無名に近い元芸人を国会議員候補として紹介してくれるはずがない。
そもそも、グリフが村田知事へ頼むとも限らない。
今の三浦には、政党を選ぶ以前に、政党から選ばれる理由がなかった。
知名度は中途半端。
政治経験はない。
資金もない。
支持団体もない。
政策は、勉強を始めたばかりの直接民主制だけ。
自分が政党の候補者を選ぶ側なら、三浦を選ぶだろうか。
「選ばないな」
自分で即答した。
それでも、現時点でどの方向を目指すのかだけは聞きたかった。
既存政党へ入るのか。
無所属で選挙へ出るのか。
政治団体を作り、何年かかけて支持者を集めるのか。
それとも、本当に新しい政党を作るのか。
実現する可能性が1%しかなくても、その1%へ向かう道が見えれば、三浦は努力できる気がした。
反対に、何の見通しも示されず、
――まず勉強しろ。
とだけ言われ続ければ、いつか気持ちが切れる。
「次は、絶対に聞こう」
三浦はノートの新しいページを開いた。
大きな文字で書く。
――俺は、どうすれば国会議員になれるのか。
その下に、4つの選択肢を並べた。
1、自由共和党などの大きな政党に入る。
2、新興政党へ入る。
3、無所属で出る。
4、自分で新党を作る。
三浦は4番目に、二重の丸をつけた。
しばらく眺めてから、その丸を一つだけ消した。
「最初から、答えを決めて聞いたら怒られるな」
しかし、完全には消さなかった。
薄く残った丸の跡を見ながら、三浦は記者会見の中央に立つ自分を、もう一度だけ想像した。




