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松川さんはその日の晩遅くなってアンソニアホテルへ帰って来た。昔の知り合いと連絡が取れたと言って、大変喜んでいた。
おいおい、紹介してくれるそうだがその日が楽しみだ。
次の日の朝、1947年(昭和22年)8月15日金曜日 午前8時という予定より早くパナマ帽を被り麻のスーツをパリッと着こなした、一目切れ者のような感じの鋭い目つきをした人物が俺と松川さんを迎えに、アンソニアホテルのロビーに現れた。
日系人である俺と松川さんを見つけると、
「おはようございます。Mrシミズですか?」
「初めまして、俺は清水健吾、こちらは松川萬圃。お迎えご苦労様です。」
「初めまして、私はカーター代表からMrシミズの送迎を命じられました、ニューヨーク自動車労連の副代表を務めるアラミス・ジェファーソンと言います。それにしても私の想定よりも余程若い方なので驚きました。今日はよろしくお願いいたします。なかなか癖の強い人物が集まっていますので、失礼なことを発言するかもしれませんが、聞き流せる部分は聞き流していただければ問題はないかと思いますが。この会議は荒れる可能性があると思いますので、多少心の準備をお願いいたします。」
Mrアラミスはこちらの表情変化を観察しながら、ゆっくり低い声で話していく。
「分かっています。現在の労働組合はまさにそれぞれが巨大な王国としてこの国に君臨している国家内国家と言うべき集団です。
企業は労働者を組合員しか雇用する事が戦時下では出来ない法がそのまま続いていて、企業より自動徴収される組合費と100%の組合員雇用の増加と個別に交渉した年金基金や健康保険基金などが唸るほどある労働組合の資金として現在黙っていても増え続けている状態が、企業の非労働組合員雇用の解禁、大統領選や政治資金としての寄付を労働組合資金から禁止することが6月に議決された「タフトハーレー法」によって決定したことによって、その王国支配にヒビが入った状態が現在の各組合現状という訳ですよね。」
俺がそう言うと、
「私は、Mrシミズが7月4日にこのアメリカに初めて上陸されているとカーター代表より聞いておりました。それがどうしてそこまで、我が国の労働組合事情まで知っているのか、戦慄を覚えます。
戦後の好景気と今後のマーシャルプランにおける製造業の飛躍による労働者の増加によって労働組合の力が一挙に手に負えなくなることを危惧した議員連中によって、組合としての動きを縛る事による弱体化を「タフトハーレー法」で実現させました。
現在の組合資金については何の問題もありません。しかし、これからの企業との交渉に応じて我々労働組合は現在のように簡単に解決できなくなると思います。けれども電気労連などは強硬な交渉方法以外に考えないと明言している団体もいます。その為Mrシミズが考えておられる労働組合自身の考え方の大きな方向転換と実行の施策を反対する団体も少なくないです。
ただ、この度はカーター代表の肝いりで顔を立てて参加したという状態ですので、その点はご了承いただきたい。」
Mrアラミスが一言一言念を押すように話したのだった。




