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停留所で降りてからメイベルは
「大将、何が食べたい?」
と聞いて来るから、
「そう言えば餃子とかしばらく食ってねぇな!」
と答えると、「了解。」と短く答えてズンズンと路地裏へ入り込んでいく。大丈夫かなと思いながらも、漢字ばかりの看板になんとなく親しみを感じる自分がいることにも気づいていた。まぁもっとも、辺りを飛び交う言葉は広東語と呼ばれる中国語であり、意味は分からない。乾物や野菜、何やら漢方薬の原料などが露店にひしめき合っている。
曲がりくねった路地の先に「南華茶室」という看板が掲げられた店まで来て
「大将!ここの餃子やシュウマイだけでなく月餅なんかもすっごく美味しいよ。」
ぷっくりした胸を反らして自信満々に言うメイベルが何となく愛らしく感じるから、心の中で「はあ~」とため息を吐き、
「何かいい匂いがするな。」
「それはきっと、あたしの匂いだ。入ろ!」
そう言ってメイベルはサッサと店の中に入っていく。やられた!やり逃げだ。突っ込みを入れる暇もなかった。残念な思いを持って「南華茶室」に入っていく俺がいた。
そこは、ちょっと変わったパン屋さんという雰囲気だった。店自体はウナギの寝床のような細長い仕様になっていて、入った場所は名物の月餅や特性チャーシューが入った肉まんや鶏肉、豚肉、卵が詰まった大きな大きな肉まん。月餅はハスの実のあんに塩漬けの卵黄が入った焼き菓子でこの店の看板商品だった。
その商品の並ぶガラスケースの横を通り過ぎると喫茶スペースに入る。
メイベルは奥の衝立で区切られている空間が開いているのを確かめて、食事はいいかと店員に確認してからズンズンと入っていく。
メイベルは一見天然に見えるところがあるが、意外に度胸がある。どんな人物を前にしても臆するところがない。
壁に書いてあるメニューを見ながら、餃子の飲茶セットと、月餅を二人前頼んでしまうと、
「今日初めてデートしているみたいな気分です。」
と言ってにっこり笑いかけて来る。
まぁしょーがねぇなぁーと思いながら、笑うしかない。
「ところで、会社の仕事の方は順調か?」
と俺の得意分野に話を持って行く。
「なかなか好調だって。社長言ってたよ。ラスカル少尉の叔父さんとっても正直で、曲がった事の嫌いな人だから、私たち日系人であっても対等な取引を真面目に実行してくれるから、社長もママもビックリしているよ。」
あっ!忘れてた。ラスカル少尉も退役していたから連絡取らなきゃと思ってたんだわ!そんな思いを顔に出さず、
「それは俺とラスカルの仲だからね。叔父さんは子供がいなくて、ラスカルの事をホントの子供みたいに可愛がっていたらしくて、ラスカルが会社に入ったら会社を継げるようにすると約束していたみたいだから、親友となってから商売で世界を一緒に駆け回ろうって約束した仲だから、叔父さんにも伝わっていたンじゃないかな。」
「だからきちんとした鑑定書をどの美術品にも付けてくれた価値的にもしっかりした裏付けがあるAOCの美術品は偽物が紛れ込む心配のない正直な相手だから、誠実に対応するのが商売の法だと言ってくれる人なの。」とメイベル。
「時間が出来たら直ぐにでも会いに行かないといけないな。」
と自分に言い聞かせてつぶやくと、
「私も紹介してね。」とちゃっかりメイベル。
さてさて、どう紹介するのか、頭が痛い!




