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 呼び出しをかけたリチャード・ゴールドバーグ君が「チョック」に飛び込んで来たのは、メイベルがデザートのドーナツを食べ終わる頃であった。

 短い距離にも拘らず額に汗が浮かんでいる様子から走って来たのだろう。

「お久しぶりです。こっちの方が随分暑く感じますね。」

と挨拶すると

「長居するのはこの店はご法度なので、河岸変えましょう。」

と言って早々に店の表に出てしまったので、飲み残しのコーヒーを素早く空けて会計を済ませて出た。ドーナツを口にくわえながら目を回す仕草をしているメイベルを見て、黒人のウェートレスが会計の途中笑っていた。

 リチャード君は俺より1、2歳年上何だが、如何にも若々しいオーラを前面に出していた。

「Mrシミズ、ニューヨークにようこそ!特にこのウォール街は心臓部です。あなたから見てこの街はどう見えますか?」

とリチャード。せっかちである。あまり早いと嫌われるぞ!と思いながら

「数は力であるという事が、まだ理解できていない事実と、『クラッシュ(大恐慌)』の記憶が消えていない世代の現存がボーナスタイムを前にして足がすくんでいる状態が今のアメリカの状態であり、ウォール街の状態だと思う。」

俺が偉そうに発言すると、感心したように

「やっぱりMrシミズの考え方は凄く大胆に物事を簡明にする。私ではとてもそこまで物事を削ぎ落すことが出来ずに、右往左往してしまう。参考になります。」

とリチャード。そう言って小奇麗な喫茶店に入っていくと、そこは未来のコインランドリーを思わせるような造りになっていて、壁面にあるガラス窓に5セント硬貨2枚10セント分のコインを入れると「ニューヨークで一番美味しいコーヒー」という評判のコーヒーが自動で出て来る自動販売機の喫茶店であった。

 昭和22年の時代にもうアメリカにあった喫茶店。思わずカメラに収めてしまった。こんな国と日本は戦争していたのだ。日本の軍人には現実を把握する能力がほとんど無かった事実を突きつけられた瞬間であった。

 ピカピカのクロームで出来た壁の中にあるガラスのケースには他にもサンドイッチやビーフホットパイのシチューなどが販売されていた。

「いやー、今の日本に住む日本人の方がもっと右往左往しているよ。共産主義の手法で経済を発展させようとしている。それがどれだけ悪手なのか全く分かってない。日本経済は大コケにこける未来しか見えてない。」

 そう俺が言うと、リチャード君は

「ありがとうございます。その話を聞けただけでも大変な価値があると思います。」

そう言いながらコーヒー販売をしているイルカの頭が突き出たユニークな注ぎ口にカップを持って10セント分のコインを入れると、コーヒーが注ぎ口から出て来る。

 この店の違和感にようやく気付いた。店の中央には紙幣から支払いの出来る小銭に両替をするウェートレスがいて、壁の向こうから小さな話し声が聞こえる。

 これ、昔あったよな!自動販売機の中に人がいて注文を聞いているコントが!

 さすがに未来の自動販売機はまだまだ道のりは遠かったのだ。


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