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「ストラヴィンスキーって何となく聞いたことのある名前だな。何やってた人だっけ?」と俺。
「大将にも苦手な分野があったのですね。『火の鳥』や『春の祭典』などを書いた作曲家です。あのホテルには、ラフマニノフやマーラー、トスカニーニなどの著名な音楽家も滞在するほど文化的に高い香りがするホテルです。」と青木社長。
「何かピアノの音が響いてきそうなホテルなのか。ところで、青木社長は随分と詳しいけれど・・・」
「はい、クラッシック音楽が大好きなものでして、いわゆる『たしなみ(オタク)』です。それとホテルは防音だと思います。あの人たちならば夜中でもピアノ弾いている可能性がありますから。」
青木社長は嬉しそうに語る。
「お父さんにこの話題を振ると何時間もおしゃべりしてしまうから、だめですよ。大将!お腹が空いてるでしょ?早くご飯食べに行きましょ!」
とメイベルが俺の手を引いてタクシーのある方向へ引っ張っていく。
「しょーがないなー。」とぼやきながらも俺も内心嬉しさが隠せないほど、ニヤついていたんだろうか、松川さんと青木社長が目配せして笑っている。
タクシーに乗るとすかさず、「ミッドタウンの『都』へ行ってくれ。」と青木社長が指示を出した。
「大将、そろそろ日本食が恋しい時分じゃないかと、スキヤキを食べに行くよ!ニューヨークで一番美味しいスキヤキだから泣いちゃだめだからね。」とメイベル。
大きい荷物があるから、普段はゆったりしたタクシーの車内が狭くて、何気にメイベルの匂い立つような体が密着してくる。
カンベンして欲しい!いくら精神が70才以上だろうが肉体は22才なンだから反射反応が不味い!心の中で怨霊退散!臨兵闘者皆人烈在前!なんのこっちゃ!と唱えながらマンハッタン・ミッドタウンにある「都」まで耐えきった。
「都」は個人の邸宅のような雰囲気で、一階はカクテルラウンジになっているらしく、外側に付けてある鉄製の階段を上がって2階の料理フロアに登っていく事になった。
青木社長がすまなさそうに、駅の手荷物預かりを利用しておけばよかったですねと言っていたが、俺もそれどころでなかったのだから、仕方のない事だから気にしてないですと返しておいた。
2階のフロントに言って予約してある個室ブースへと案内してくれるのは、日本の着物を着た日系のウェイトレスであった。
案内されたのは驚くことに、畳を敷いた座敷であった。
靴を脱ぎ、テーブル席であるが足裏から感じる畳の柔らかさが気持ち良く、席に座ると開放的な気分になるのか、日本を離れて初めてホッと一息ついたような気分になった。
コンロの付いたテーブルの上には見事なサーロインの薄切りにねぎ、玉ねぎ、豆腐、糸こんにゃく、タケノコにセロリとマッシュルームが手際よく並べられて、ウェイトレスが流れるような手順で醤油と砂糖、みりんをベースとした甘辛い割したを座卓コンロで熱せられたスキヤキ鍋に入れる。火が通った具材を見事な手さばきで次々に各人に美味しく付け分けてくれる。
なるほど、一種のショー的パフォーマンスがアメリカ人の嗜好にあって、洗練された雰囲気が白人上流階級の意向で戦時中も閉鎖されずに営業を続けていられた理由だったことを改めて認識出来たのであった。




